解散総選挙で長~い政治の季節、日本がどこへ向かうべきか考えるチャンス 政治チェックの時間もたっぶり、メディアは正念場、政策報道で争点の浮彫りを


時代刺激人 Vol. 46

麻生首相の衆院解散によって、この国は8月30日の総選挙投開票まで異例の長~い期間に及ぶ政治の季節となる。グローバルな金融および経済の危機が最悪状態を脱したとはいえ、危機はまだ続いており、危機管理が必要。それなのに、これほど長期の政治空白が続いていいのかという見方は当然ある。しかしここは発想の転換だ。日本がどこへ向かうべきなのか、政治のかじ取りを誰に託せばいいのか、じっくり考えるチャンスだと思えばいい。
与野党とも同じだ。これだけ長期間の選挙ともなると、政党名や立候補者の名前連呼だけでは政治の見識が問われるので、政策をアピールせざるを得ない。出来、不出来が一目瞭然となる。有権者がチェックする時間はたっぷりある。それに、政局報道に明け暮れたメディアも政策報道に徹さざるを得ない。この際、メディアも正念場だ。争点を浮き彫りにして、日本を変えるには何が必要で、重要なのか、有権者が判断する材料を提供すべきだろう。
 今回の総選挙で最大の関心事は、誰が見ても明白だ。政治の劣化に歯止めをかけるために、政権交代して、野党の民主党に日本の将来を委ねるべきなのか、それとも自民党に引き続き政治を委ね新たな改革を任せるべきなのか、といった点だろう。その点でヒントになるのが、直近のメディアの内閣支持率などの世論調査の動向、それに7月12日の東京都議会選での有権者の投票行動だろう。
とくに、東京都議選が参考になる。麻生首相は「地方選挙は国政選挙とは異なる。影響を受けない」と自分への火の粉を払うのに躍起となったが、メディアが投票所の出口調査の際に、有権者に聞いたコメントがポイントを突いていた。今の有権者は政治に何を求め期待しているのか、あるいは政治への不満は何なのかが見えたように思う。

東京都議選での有権者の声、「政治に変化が必要」「政権交代の一点に絞った」
 バランスをとって、朝日、毎日、読売新聞の3紙の紙面に出た主なコメントを紹介しよう。前回都議選で自民党に投じた人が今回は民主党に投じたとか、あるいは前回は棄権したが、今回は投票する気になったなど、投票行動はまちまちながら、率直な声が多い。
「商売人なら自民党と思ってきたが、今回は自民党にお仕置きだ。景気が悪くなって店をたたむ中小企業の仲間も多い。政治に変化が必要だ」(飲食店経営の63歳男性)、「米大統領選を見て、日本でも新しい時代が始まってほしいと思った。不況で大変なのに、政治家はいい加減だ」(派遣社員の28歳女性)、「今の自民党は民意が届かない遠い存在。官僚の声ばかり聞いて、国民との距離が開いている感じ」(会社員の31歳女性)、「政権交代の一点に絞って投票した。自民党政権は首相が短期で何人も代わってうんざり。民主党に一度、政権を任せてみたい」(会社員の37歳男性)  もう少し聞いてみよう。「年金や医療など老後がこんなに不安になるとは思わなかった。米国のオバマ大統領のような政治家が出てほしい」(パート従業員の64歳女性)、「常に政権が代わる可能性があった方が、政治家に緊張感が出るのではないか」(会社員の46歳男性)、「政治が経済の足を引っ張っている。政権が代わらなければ、経済も景気もよくならず、日本は取り残される」(会社員の31歳男性)。

民主党の責任は極めて重い、政権交代で衰退過程にある日本を変えられるか
 これらの声から想定できる総選挙の結果は、今後、よほどの大きな変化が起きない限り、民主党の地滑り的な勝利になる可能性が高い。有権者は、政権交代によって、日本の政治を変えるきっかけをつくってほしい、ということだろう。ハッキリ言って、有権者は、族議員政治の体質が抜けきれない自民党政治には、この国を変革することを求めるのは難しいと判断し、一度、民主党に政権交代のチャンスを与えて、何がやれるのか、あるいはやってくれるのか、試してみようということが、これらのコメントから感じとれる。
そういった意味では、民主党の責任は本当に重い。民主党は、野党の立場で政権批判ばかりを繰り返してきた体質をここで一気に変え切れるのか、これまでマニフェスト(政権公約)の形で訴えてきた政策の中には、新機軸のものもあったが、一方で現実味に欠ける政策もなきにしもあらずだった。
今回のマニフェストで有権者にワクワク感を与える政策をどれだけ準備したのだろうか。単なる受け狙いであって、財源の裏付けが不安になる、といったものはないだろうか、政党支持基盤はさまざまな組織が関与しており、組織のしがらみを抜きにして、しっかりとした方向付けや意思決定ができるのだろうかーーという不安が有権者の間にある。言ってみれば、民主党は果たして、衰退過程にある日本を変えることができるかどうか、期待半分、不安半分といったところが有権者の気持ちでないだろうか。

農業政策で個別農家所得補償政策に異論、バラマキよりも農業の成長策はある
 現に、私自身も、経済ジャーナリストの立場で言えば、民主党が掲げる政策のうち農業政策に関しては、1兆円の戸別農家所得補償に若干、異論がある。これは、米の減反(生産調整)政策に従った生産農家が、仮に生産費が販売価格を上回ってコストを償えない場合、その差額分に面積を掛け合わせた金額を所得補償する、という仕組みだ。もともと民主党は、自民党が行う農協などを通じた補助金農政よりも、農家への直接支払い方式の方が食料の自給率向上にもつながる、という発想だが、私は、下手をすると単なるバラマキに終わり、農業の生産性向上にはつながらない、と思っている。むしろ今の耕作放棄地の増大や農家の後継者難で荒廃していく農業を成長産業にしていくための対策に財政資金を活用すべきで、その手立てはもっといろいろある、と思っている。
 メディアは、これまで解散はいつなのか、といったことや、地方選での自民党敗退を受けて「麻生首相では総選挙は戦えない」といった自民党内の麻生首相降ろしの動きを面白おかしく取り上げたりといった政局報道に終始していた。しかし、これからは、それでは済まされない。むしろ、与野党、端的には自民党と民主党の政策をめぐる争点を浮き彫りにして、有権者に、この国の将来をどの政党に、どの政治家に託すか、という判断材料をしっかりと提供すべきだ。同時に、討論会はじめ、さまざまな政策討議の場を設定すべきだろう。政治にかかわるメディアは、ジャーナリズムにふさわしく政局報道よりも政策報道で競争すべきだ。

民主党は総選挙勝利後も、来年夏の参院選勝利までは現実路線で対応
 民主党は、都議選での勝利を受けて、一気呵成(かせい)に総選挙へ、という感じがあるが、政策にかかわる中枢の所ではどういった動きがあるのだろうか。結論から先に言えば、民主党は急速に現実路線に舵(かじ)を切り替えつつある。
鳩山民主党代表側近の衆院議員は「民主党の政策に関しては、まずは総選挙に向けたマニフェスト(政権公約)をみていただきたい。ただ、政権交代に関しては、今回の衆院総選挙と来年7月の参院選をセットにして、それを実現する、という考えで取り組むのが現実的だ」と述べている。
その民主党衆院議員によると、自民党政権から政権奪取した細川政権が予想外の短命に終わったことの教訓をしっかりと受け止めるべきだ。今回、民主党としては、仮に衆院選で大きな勝利を挙げても、公約している官僚の天下り問題や特殊法人改革を通じて、歳出のムダをなくすことについては、しっかり取り組むが、コトを急がず、まずは改革に取り組む体制をつくること、有権者の人たちに民主党は頼れる存在だという信頼感を得てから、来年の参院選で民主党が安定多数を確保することが重要。衆参両院での安定した政治の力をもとに、本格的な改革に着手する、という。
確かに、この発言を聞いている限り、民主党執行部は、細川政権の「学習効果」を踏まえて現実路線で取り組み、有権者の信頼を確保することを最優先課題にしようとしていることがうかがえる。日本を大きく変えるには、まだ時間がかかりそうな感じがするが、みなさんは、どう受け止められるだろうか。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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