「投資」が世の中をより良くする?会社のオーナーシップと
その本質とは
農林中金バリューインベストメンツ
常務取締役CIO
奥野 一成
「投資」は資産形成のための選択肢として真っ先に挙がるものの1つだろう。事実、我々日本人は投資を「金稼ぎ」の道具として見る傾向が強い。「金融」はお金を右から左に動かすだけの仕事といわれることもあるが、果たしてそうなのだろうか。農林中金バリューインベストメンツ 常務取締役CIO 奥野一成は「長期投資」を通じて投資の本質がどういうものかを熱く語る。
坪井 この投資は成功する!っていう、見極めるポイントというか、そういったところはどういうところですか?
奥野 僕たちは、「構造的に強靭な企業」というふうに勝手に呼んでいます。
構造的に強靭な企業 農林中金バリューインベストメンツでは、構造的に強靭な企業の条件として、次の3つを挙げている。
奥野 1つは「付加価値」。要は産業にそもそも付加価値があるかないか、それって人の生活にとって必要?っていうこと。2つ目、「競争優位」ですね。僕が言ってる競争優位っていうのは、参入障壁まで高められているか。簡単に言うと、ディズニーランドの向こうを張って、これからテーマパーク作ろう。もう1回何かキャラクターを作ろう。そうそう簡単ではないですよね?
蟹瀬 そうですね、壁は高いですね。
奥野 この参入障壁っていうのが、実は一番重要なんですけど、これが2つ目。それで3つ目っていうのが「長期潮流」。僕が言ってる長期潮流っていうのは、電気自動車だとか、その自動運転ではないんですよ。何を言ってるかというと、たとえば「人口動態」。日本だと1億2,800万人がこれから急速に減っていきます。世界では今70億人いるけれども、90億人になっていきます。ある意味、不可逆的になっちゃうよね。
蟹瀬 戻らないということですね。
奥野 というような話を僕らの中では「長期潮流」というふうに言っています。この3つが全て◯のビジネスというのを見つけに行くんです。
構造的に強靭な企業の条件は、付加価値の高い産業、圧倒的な競争優位性、長期的な潮流。それでは、この3つを兼ね備えた企業とは、一体どのような企業なのか?
奥野 例えば、コンビニストアってありますよね?コーヒーを置いたり、お金払ったりとか、いろんなことができる。もうインフラになっています。もう本当にそういう意味でいうと、大きな付加価値になっているわけです。
その中で、セブン&アイホールディングス。彼らがやっていることっていうのは、単純な物売りだけではなくて、物を売るっていうかちょっと川上に行くんですね。それは「セブンプレミアム」のような、プライベートブランドになってくるわけです。
消費者により価値を届けるというために、自分たちで開発していくわけですね。もっと面白いのは、そこからレタスまで作っちゃおうっていうね、もう究極の川上まで行く。セブンが面白いとすれば、それはやっぱりそのアメリカで、ちゃんとビジネスを持っているということなんですね。
個人消費のマーケットは日本の3倍4倍ありますから、そこの中で、まだまだそのポテンシャルがあるというふうに感じれば、それは長期的な潮流になりますよね。実際に僕たちはダラスまで行って、そこで専用工場が作られている様を見てくるわけですよ。そういうことが長期投資をすると、良い会社を見つけて日本人の投資をしたい方に紹介すると、いうのが僕らのスタンスですね。
坪井 投資というと、どうしてもこう数字で判断してしまうイメージがあるんですけれども、そういった数字や競争力以外で、奥野さんが注目されているポイントっていうのはどういったところですか?
奥野 一番重要な競争力であることは事実です。その競争力って言ったときにそれをちゃんと現地まで行って、工場まで行って、それで競合企業に行って、その川上の企業に行って、川下に行って、そういうこと1つ1つそこまでやるかどうかですよね。
何も見たことがなければ、それはゼロ。どこまで行ったってゼロなんですよね。ちょっとでも見ると、全然変わります。これは食品企業の工場と、半導体企業の工場は違いますけれども、ただ工場というところで従業員の方々がどういうふうな顔をして働いてるとか、そういうことっていうのが、実はすごく重要だと思っています。
こちらは兵庫県神戸市に本社を置くシスメックス株式会社。医療機器メーカーであるシスメックスは、ヘマトロジー、血液凝固、尿沈渣検査など検体検査分野で、世界トップクラスのシェアを誇っている。農林中金バリューインベストメンツでは、シスメックスに対し、2009年より長期厳選投資を開始。この日は、競合企業に関する情報の分析結果、見解のディスカッションが行われた。こうした取り組みについて、投資をされる企業の立場からお話を聞いた。
(インタビュー:代表取締役会長兼社長 CEO 家次 恒さん)
家次 我々もIR活動っていうんですかね、投資家に対して正しく我々を理解してもらうっていう話だとか、今後の我々についてお話をさせていただくと。投資家の皆さん方のある意味で情報になるわけですよね。長くうちに投資をしていただいてるというか、そういう意味で非常にありがたい。もう10年だと思いますよ。奥野さんとお付き合いさせていただいて。そういうときに、いろんな情報いただけるということですね。
奥野をはじめとする農林中金バリューインベストメンツのスタッフは、定期的に会社を訪れ、こうした企業面談を行っている。また、投資家を同行した企業面談も適宜開催され、投資家のための企業の可視化の一助にもなっているという。
坪井 投資家に対しては、どのような説明をされているんでしょうか。
奥野 具体的にやらしてもらってることっていうのは、アメリカに2ヶ月に1回行ってますけれども、そこで訪問してきた企業になぜ投資しているのかとか、どういうことがあったのかというのを、月次の報告書でえらい詳しく説明しています。
たぶん個別の企業について、あんまりこう書いている会社って少ないと思うんですけど、そういうことをやったりとか、年次で総会というのをこないだ京都でやったんですけど、そこに投資家の方々をお呼びして、僕らの投資のスタイルとかっていうのをやってたりしています。
長期投資になればなるほど、僕はそういうことって重要なんじゃないかなと思えます。自分の会社がどうなっているのか、自分のレストランがどうなってるのかって、絶対知りたいと思う。株券の投資とオーナーとしての投資の圧倒的な違い、事実をちゃんとその現場に行って見てくるっていうこと。それが普通は個人の投資家さんじゃ無理じゃないですか。それをやる。
そういう意味で従来思われている投資とは若干違って、僕らの会社っていうのは、モノ作りをやってるんだっていうのが、うちの中でずっと言ってる話ですね。
蟹瀬 それはなかなか面白い発想ですよね。
奥野 あ、そうですか。
蟹瀬 モノ作りっていう考え方はね。それによって我々その個人投資家の方も、より何ていうかな、正しい投資判断といいますかね、そういう意味ではリスクをきちんと考えた上での投資判断ができるということになりますよね。
こちらは、兵庫県神戸市で酒粕の加工・販売をしている。株式会社小林春吉商店。3代目の社長である小林大祐さんは、かつて銀行において奥野と同僚であったが、家業である小林春吉商店を継ぐために退職。現在は、奥野が助言を行っているファンドに積み立て投資を行っている。
坪井 どうしてこの投資信託に興味を持たれたんですか?
小林 この投資に興味を持ったのは、だんだん日本株式のマーケットがちょっと雲行きが怪しくなってきたので米国株に興味を持ったと。ただ、銘柄選択どうするかということで、悩んでいたんですけども。その中でいくつか調べてる中で、この投信を見つけて、この投信は投資している銘柄がなかなかユニークなんで。それが最初のきっかけです。ちょっと川上の方の企業が含まれていた。それと、ペットの薬かな。そういったちょっと毛色の変わった銘柄が取り上げられていたんで、面白いと。興味を持ちました。
農林中金バリューインベストメンツが毎月発行している運用レポートには、ファンドマネージャーが興味を持って調査をしている会社について細かく書かれており、投資を継続する理由の一つになっているという。
坪井 なかなか知らない会社に出会う機会ってないですもんねぇ。
小林 おっしゃるとおり。日本で暮らしている人間からすると、ちょっとこれって本当に参入障壁があって、着実にお金を稼げている企業なのかなと思いがちな業態っていうのもやっぱりあるんで、そういった意味では非常になかなかユニークだなと思ってます。
農林中金バリューインベストメンツでは、長期厳選投資を推奨しているが、そもそも日本では、投資家自体が育っていないという。
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