東京五輪決定は日本変えるチャンス 原発処理と合わせてソフトパワー発揮を


時代刺激人 Vol. 226

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

2020年に東京でオリンピック開催決定、というニュース速報が日本時間9月8日早朝にテレビやインターネットで流れた時はビッグサプライズだった。と同時に、率直に言って、56年ぶりの東京での再開催はうれしかった。

というのも、東京電力福島第1原発での事故処理過程で放射能汚染水の海洋への流出リスクが高まり、外国メディアは東京発の報道で、日本自体の事故処理能力や統治能力を問われる事態になったと報じた。しかも開催地を決める国際オリンピック委員会(IOC)の委員の間でも異論が出ている、との報道が追い打ちをかけるように出たため、東京、というよりも日本でのオリンピック開催に対して厳しい国際世論の高まりが出て、オリンピック開催そのものは無理かな、と思っていたからだ。

安倍首相の原発汚染水処理の国際公約が五輪実現への
「最後のひと押し」?
その後の報道によると、日本代表団の東京招致に関する最終プレゼンテーションにアピール度があったことも大きいが、安倍晋三首相がモスクワでのG20サミット(主要20か国首脳会議)から長躯、アルゼンチンのベノスアイレスに飛び「日本政府が責任を持って放射能汚染水リスクに対応する」と国際公約したことが決め手になった、という。

もし、原発の汚染水処理に日本の政治が責任対応する、という安倍首相の言動がIOCに対する「最後のひと押し」になり、事態がプラスに働いたとするならば、日本の政治が存在感を示すことになったと言える。放射能汚染水対策が、これによって日本の国際公約になったので、日本政府は重大な政治課題を背負ったわけで、最優先で取り組んでほしい。

安倍首相は過去に「消えた年金」でのパフォーマンス政治があったが、
今回は実行を
ただ、気になることがある。それは、安倍首相が過去にパフォーマンス政治先行によって、政治公約を果たせなかった問題があることだ。
ご記憶だろうか。安倍首相は、かつて2007年当時の第1次政権時代に「消えた年金」問題に関して、旧社会保険庁改革を含めて、消失年金を必ず復元させて一挙解決して見せる、と踏み込んで発言した。当時、「安倍首相はなかなかやるではないか。国民の不安を解消してくれそうだ」と期待感が高まったが、結果的に後手後手に回り、それがその後の参院選での大敗北につながり、安倍首相は退陣を決断せざるを得なくなった。

その意味で、今回の汚染水処理は「消えた年金」と同様、技術的にも大変に厄介な問題だけに、安倍首相が指導力を発揮して、何としても国際公約を果たしてほしい。

東京五輪再開催は素直に喜ばしいが、
国威発揚よりも先進モデル事例めざせ
 そこで、本題だ。1964年の東京オリンピック以来、56年ぶりに、同じ東京で開催できるチャンスを得たことは、素直に喜ぶべきだろう。オリンピック憲章のスポーツ精神にのっとり、世界中の人たちがスポーツを通じて平和を高め、平和に貢献することは極めて重要だ。
しかし私は、日本が、この東京オリンピックについて、国威発揚につなげるようなプロジェクトにしたり、あるいは金メダルなどの数値目標を掲げてスポーツ団体を鼓舞するようなことにつなげるべきでない、と思っている。

時代刺激人ジャーナリストの立ち位置で申し上げれば、むしろ、日本を変えるチャンスと捉え、成熟社会国の新しい社会システムを作り出している先進モデル事例の国だといった評価を世界中から受けるようなオリンピックにすべきだ、と思っている。

韓国サムスングループの大胆マーケティング力には負けるが、
日本には強みが多い
 日本は、韓国のサムスングループのような存在を誇示する大胆なマーケッティング力などはないが、半面で、日本人特有のまじめさ、完璧に仕上げようとする誠実さ、そして企画力などで、間違いなく高い評価を受けるオリンピック運営、ゲーム運営を行うだろう。その点に関しては自信を持って言える。
問題は、こんな素晴らしいオリンピック運営の力を示す日本、また成熟国家らしい、至る所に高齢者だけでなくハンディキャップを持った人たちへの心遣い、気遣いが目立つ日本、おもてなしのサービスの素晴らしさが伝わる日本、それに何よりもどこを歩いていても安全で安心できる、テロリスクなどが微塵も見られない日本というのは、どんな国なのか、と好奇心や関心度が高まり、これらはどういったことで生み出されるのか、と多くの外国人の来訪者に思わせることが重要だ。

高齢社会対応の社会システムや、
食文化に代表される高品質社会がアピール材料
 そこからが、本当の勝負どころだ。日本という国は、今後、どの国にも襲来する高齢社会化、あるいは高齢化の「化」がとれた高齢社会に対応する医療や年金などの社会インフラのシステムの構築が出来上がっている、道路、鉄道など物的なインフラに関しても、バリアフリーを含めて高齢社会対応がキメ細かく行われているという点で評価を得ることだ。
また、日本食の食文化の素晴らしさ、端的には味のよさであるおいしさにとどまらず、安全・安心であること、品質のよさが抜群で、素材をここまで活かせる日本の食文化に限らず、モノづくりについても素晴らしいものがある、といった高品質社会を強く印象付けることも大事だ。
そして、東京オリンピックをきっかけに日本を訪れた多くの外国人たちが、自分たちの国の今後を考えた場合、この日本の社会システムなどが、先進モデル事例と言えるかもしれない、日本とさらにつきあって、学んでみようというふうにさせることが必要だ。

キーワードはソフトパワーの発揮だ、
日本の強み・弱みを見極め強みに特化を
 その場合のキーワードは、ソフトパワーの発揮だ。日本は成熟社会国家という位置づけを背景に、ソフトパワーを大いに、日本の強みにすればいいのだ。軍事力などを背景にしたハードパワーに力を注ぐ必要は全くない。
この機会に、日本は、自身のアイデンティティがどこにあるのかを見極めるために、 日本の強みと弱みをチェックし、何を捨てて、何を伸ばすか、あるいは何を強みにして存在感を高めるか、真剣に考えるべきいいチャンスだ。それを経て、日本を変えるとすれば、どんな点なのか、といったことも考えればいい。まさに、東京オリンピックが日本自身を見直すいいチャンスだ、と思えばいいのだ。

重ねて、私の問題意識で言えば、日本は、ソフトパワーを最大の強みにする国であるべきだ、と言いたい。端的には日本自身の強みである技術革新力に磨きをかけると同時に、いまだに制度的にも大きな課題で、見直しが必要な医療や年金などの社会インフラのシステムの再構築、さらに日本の食文化に代表される味のよさにとどまらず、安全・安心であること、品質のよさが抜群であること、おもてなしサービスが飛びぬけていることなど高品質社会を深化させること、さらにアニメなどがつくりだすクール(かっこいい)ジャパンなどの新しい文化を伝統文化に加えてアピールすることだ。これらすべてが、ソフトパワーの強み部分だ。

NHKTV衛星放送番組「かっこいいニッポン再発見」での外国人の目線がヒント
最近読んだ堤和彦氏著の「COOL JAPAN――かっこいいニッポン再発見」(NHK出版刊)にヒントがある。堤氏は、NHK衛星放送の同じタイトルの番組の担当プロデューサーで、8年間に及ぶ番組の中で、外国人の目線から見た日本に焦点を当て、その中から日本の再発見に取り組んだのだ。
ぜひ読まれたらいいと思うが、堤氏の再発見のポイント部分を本でこう書かれている。少し引用させていただくと、NHKとしては当初、取り上げるテーマとして、アニメ、漫画などポップカルチャー、2つめが茶道、華道、日本庭園など伝統文化、そして新幹線やロボットなどのハイテク技術の3つと考えていた。ところが番組で外国人にインタビューしたりしていると、彼らが「クール」というものはその3つにとどまらず、日本の家電や生活用品の品質の良さ、日本式のサービスの細やかさ、モノを大切にすることや暮らし方の合理性に高い評価を持ち、おいしい食べものがあって安全で安心して暮らせる日本を世界一暮らしやすい国と言っていい、という意識を持っていることを知ったと。8年間、番組を続けて、それらの軸がまったく変わらないというのだから、少しうれしくなる話だ。

大事なことは、これらを東京オリンピック時に開花させ、日本が成熟社会国家の先進モデル事例になるさまざまな取り組みをしていると思ってもらい、評価を受けるように、大いにがんばればいい。そのためにも、新社会システムづくりに向けて、制度設計も大いに見直すべきだ。東京オリンピックは格好の機会ともいえる、というのが、私の考えだ。

東京五輪までに東日本大震災で新地域モデルを、
原発事故処理も急げ
 同時に、忘れてならないのは、日本は、2011年3月11日の東日本大震災、それに続く東京電力原発事故という大きな試練を受け、とくに原発事故は世界中を震撼させ、いまだに教訓は何かに関して、日本に強い関心がある。その点でも、日本が9年後の2020年に見事に再生を果たし、とくに大地震や大津波で壊滅的な打撃をこうむった東日本の地域で、新たなモデル事例ともなる地域づくりに取り組んでいる、ということをアピールできるようにすべきことだろう。

このうち原発事故処理に関しては、廃炉に向けた作業が2020年時点で、どのレベルにまで進んでいるのか、現時点で見通せないが、少なくとも、今回の東京オリンピック決定までの段階で大きな懸念材料となった原発事故現場の放射能汚染水の処理、とくに海洋流出に万全の歯止めをかけたということを世界中に見せる必要がある。

日本変える機会とらえメディアも発信を、
五輪決定時に新聞休刊なのは残念
 私が、このコラムで最もアピールしたいのは、東京オリンピックをきっかけに、日本が戦後一貫して得意にしてきた計画目標をたてること、とくにその目標は日本を変えるという点だ。
その点で、やや横道にそれるが、私がかつてかかわった毎日新聞を含めた全国紙、そして地方紙は、運悪く東京オリンピック開催が決まった9月9日付けの朝刊に関しては、一斉に、新聞休刊日ということで、朝刊が休刊になり、一部の新聞社が号外を流すにとどめた。私はかつてと違って、新聞現場の記者ではなく、フリーランスの経済ジャーナリストの立場で、むしろ新聞を読む読者の立場だが、私が疑問に思ったのは、日本にとってビッグニュースとばかり、なぜ新聞休刊日の協定を破棄して自由競争にしなかったのか、という点だ。
日本を変えようという時に、論陣を張る新聞社が、狭い協定枠のレベルにとどまり、国民や読者のニーズに応えて、独自に新聞を発行できなかったのか、もっと読者、国民本位の態勢をとれなかったのかが残念だ。メディアも論陣を張る割合には、足元での対応が出来ていないとなれば、批判を受けるだけだ。発想の転換を期待したい。

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