時代刺激人 Vol. 183
牧野 義司まきの よしじ
1943年大阪府生まれ。
食うか、食われるかの激しい競争が続くグローバル世界で、追いつき追い越せをスローガンにする中国など新興国が、日本の強みである先端技術をさまざまな手段で入手し、それが高じて、いわゆる技術摩擦、技術流出トラブルに発展するケースがいま、急速に増え、日本としてもますます、見過ごすことができなくなっている。
原発傾斜の中国にとっては日本の原発の現状下で熱い視線も
原発技術の専門家がノドから手が出るほどほしい中国にとっては、日本は今やそれら人材の買い手市場のように見えるかもしれない。ご存じのように、中国は、巨大な13億人の人口が生み出すエネルギー需要を満たすには石炭や石油などによる火力発電、あるいは水力発電では賄えず、いきおい原子力発電傾斜となり、それに見合った原子力の専門家、補修技術の専門家育成に躍起だ。
その点で、冒頭の話のように、企業リストラ合理化で退職を余儀なくされ、行き場を失った技術者に、中国など新興国が、ヘッドハンティングの形で狙い撃ちしてくる現実に、新たなターゲットとして、日本の原発現場の専門技術者のみならず、電力傘下の協力企業の技術者が加わるのは目に見えている。
中国は社会主義と市場経済化を巧みに使い分け、技術導入には貪欲
今回のコラムの問題は、中国のように政治と経済の巧みな使い分け、端的には共産党政権を軸に社会主義を掲げ、他方で、経済的には改革開放路線をベースに資本主義的な市場経済化の道を突き進み、経済成長によって社会正義を実現する、というユニークな国家が、いま、先端技術の取得に関して、海外から導入後、巧みに、いろいろな国の技術を模倣しながら、やや独自に開発した技術も加えて、すべてが中国独自技術だと称するやり方が国際的に反発を買っている。
ご記憶だろうが、2011年7月の中国の高速鉄道事故は、その中国独自の技術戦略が裏目に出た。中国版の新幹線に関しては、中国は日本の川崎重工車両カンパニーのみならず、ドイツのシーメンス、さらに同じくドイツのボンパルティア・トランスポーテーション、そしてフランスのアルストムといった車両メーカーから技術導入し、ライセンス生産している。
中国高速鉄道事故は国威発揚で、海外からの新幹線技術の
導入失敗事例
ところが、問題の高速鉄道の事故に使われた車両は、川崎重工の車両がベースにあったものの、中国側が国威発揚もあってか、高速性能を高めるために、モーター車を追加させ、中国独自開発の国産技術による高速鉄道車両と大々的にアピールした。当初、川崎重工は当然がら、猛反発したが、中国側は、模倣という部分もあっても、さまざまな国々の技術を参考に独自の技術も加えた車両自体、国産の独自開発車両と位置付けても問われることはない、という姿勢を貫き、国際市場では波紋を呼んだ。
中国の技術政策をウオッチしている友人の専門家の話では、追いつき追い越せの国家のマクロ政策目標に沿って、技術導入に関しても、さまざまな国から、中国向け輸出、ライセンス生産などのメリットを与えて輸入するが、今回の中国版新幹線技術に診られるように、高速の専門車両に関する技術的な裏付けがないばかりか、今回の事故の遠因ともなった信号の連動システム化の技術、さらには高速鉄道網のインフラ整備にも未熟さがあるため、国威発揚で背伸びすると、今回のようなとんでもない事故を招いてしまう、という。まったくそのとおりだ。
外国技術の模倣は日本も同じだが、中国は国際社会でルールを
守る必要
日本も、かつては欧米、とりわけ米国の背中を見て、輸入した技術の模倣から始まって、そこに品質管理技術を加え、大量生産・大量消費のブームに乗って、一気に自前の技術化した。それだけに、中国はじめ韓国などへの技術流出に伴うトラブルをすべて批判できる立場にはないかもしれないが、問題は、特許技術の保護など知的財産制度の枠組みをどう共通ルール化し、互いに尊重しあうかなど、国際的なルールの制度化、定着化をどう認め合うかの問題だ。
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