大企業が壊れつつある?原因は重度の組織病 活力生む「品質ダントツ世界一」経営をめざせ


時代刺激人 Vol. 297

「なぜ不正が起きるのか?」「何が起こったのだ?」「信じがたい」。誰もが異口同音に口に出すのがここ数年、相次いで起きる製造現場での品質データ改ざん、経営の粉飾決算まがいの利益ねつ造など、さまざまな大企業の不祥事だ。神戸製鋼、日産自動車、三菱自動車、東芝など、数え上げればあそこも、ここも、とおびただしい数になる。それが名だたる大企業だから事態は深刻だ。

「なぜ不正が起きるのか?」「何が起こったのだ?」「信じがたい」。誰もが異口同音に口に出すのがここ数年、相次いで起きる製造現場での品質データ改ざん、経営の粉飾決算まがいの利益ねつ造など、さまざまな大企業の不祥事だ。神戸製鋼、日産自動車、三菱自動車、東芝など、数え上げればあそこも、ここも、とおびただしい数になる。それが名だたる大企業だから事態は深刻だ。

中堅・中小企業ならば、あっという間に、世の中の厳しい批判や指弾を浴びて企業淘汰、端的には市場からの退場を余儀なくされる。しかしこれら大企業ともなると、巨大企業だけに、よほどのことがない限り、淘汰はあり得ない。とはいえ株式市場や取引先企業や金融機関、消費者などから厳しいペナルティ評価を受け企業業績の悪化は避けられないが、最大の問題は信用失墜だろう。企業という社会的な存在の信用失墜は重大問題だ。率直に言って、今や大企業が壊れつつある。最近の神戸製鋼など大企業の動きをみていると、明らかに組織の歯車がどこかで狂い始めている。重度の組織病と言っていい。

 

「ジャパンアズナンバーワン」で、
米国は日本から学ぶものあり、と評価得たが、、、

 

なぜ、こんな事態に陥ったのだろうかと思いながら、ふと何気なしに、エズラ・ヴォーゲル氏の著作「ジャパンアズナンバーワン」「ジャパンアズナンバーワン再考――日本の成功とアメリカのカムバック」(いずれもTBSブリタニカ刊)、「ジャパンアズナンバーワン――それからどうなった」(たちばな出版刊)の3冊を本棚から引っ張り出して読んだ。
ヴォーゲル氏は3冊目の著書で「日本が世界一の経済大国だと主張した覚えは一度もない。ただ、日本は数多くの分野で成功を収めており、その成果はナンバーワンであると書いただけだ」と述べ、同時に米国政府、そして企業は慢心してはならず、日本から学ぶものがある、と書いている。しかし、私が改めて興味を持ったのは次の記述だ。

「アメリカの消費者たちは、耐久性と性能の面においても、日本製品が信頼できることを発見した。消費者の頭の中で『日本製』という言葉は『高品質』を意味するようになってきた」というくだりだ。かつて米国でも高い評価を得ていた日本の「高品質」が今、品質データ改ざんなどに陥っている現実を知った場合、米国に限らず世界中の国々が日本をどう受け止めるだろうか、という点が本当に気がかりになった。

 

日本はまだ捨てたものでない、
企業リーダーが危機感持ち大組織病手術に取り組め

結論から先に申し上げよう。日本は、政治二流でも、経済が技術革新力ある企業を軸に一流、と言われた時期もあった。そんな中で、主力の企業には今回のような組織病を含めて克服すべき課題が間違いなく山積しているが、まだまだ日本の企業には潜在的なパワーや知見、優秀な人材は豊富にあり、捨てたものではない、と私は思っている。
ただ、日本の大企業が組織病に至った現実をしっかりと見極めることは極めて重要だ。その意味で、企業経営リーダーの責任は重大だ。「わが社は問題があるはずがない」などと決めつけないこと、そして過去の成功体験や古いビジネスモデルにしがみつかず、強い指導力で時代を画する大胆なイノベーションに取り組むこと、組織が肥大化して硬直的になっているとしたら何が原因かをチェックし、事業部門の分社化、あるいは横断的な風通しのいい組織に変えるなどの組織改革も課題だ。しかし、私の最大の主張ポイントは、モノつくりの製造業を中心に経営、現場双方で絶えず緊張感を持ちながら、活力を生む「品質ダントツ世界一」となる企業経営をめざせと言いたい。キーワードは高品質経営だ。

 

神戸製鋼OBたちは深刻、
「過去に同じ問題を起こしながら失敗研究できていない」

 

この高品質経営の問題に入る前に、大企業の組織病の現実に関して、少し申し上げよう。実は、今回の品質データ改ざん問題は、経済ジャーナリストの立場で取材経験のある神戸製鋼に集中したうえ、友人も多かったので、ショックだった。さっそくOB数人といろいろ話し合った。1人のOBは「過去に別の事業部門で品質データ改ざんが見つかって企業責任が問われた時に、今回発覚した別の事業部門の幹部は『わが部門は問題ないか、すぐチェックしろ』といったアクションをとらなかったのだろうか。私ならすぐ対応する。失敗の研究が出来ておらず、再発防止策も機能していなかった。間違いなく重症だ」と。

 

また、別の神戸製鋼OBによると、かつて1980年代に旧通産省(現経産省)から天下りOBを迎え入れた際、この官僚OBが問題意識旺盛で、タテ割り組織の弊害が目に付くと営業企画部を新設し、たこつぼ化していた組織の横ぐしを刺して、いい意味での企業横断的な連携を進めた。そのOBは「そのフォローアップをしていないが、組織改革には取り組んでいただけに信じられない。結局は、タテ割り組織の力の方が強く、歴代の経営陣も指導力を発揮せずマンネリズムに陥っていたのだろうか」と危惧している。

 

「もともと高品質だったので、
納期間に合わせろ対応でデータ手直し許されるかと」

 

さらに、もう1人の神戸製鋼OBは、「声高に言える話ではないが、神戸製鋼の場合、品質基準に関しては、自助努力で、他社よりもレベルの高いものにしているケースが多い。このため、今回の事件発覚の発端となった納期に間に合わせろとか、利益出しのために検査工程などのコストカットに努めろなどのプレッシャーに負けて、『もともと品質レベルを上げていたのだからデータ手直しをしても許されるのでないか』と勝手な解釈で対応した可能性がある」と述べた。私は「それは自己都合の論理だ。それならば取引先企業との契約内容のうちの品質基準の部分を変更するべきだった」と反論した。

 

いずれにしても、神戸製鋼ともあろう企業が、こういった企業の品質経営にかかわる部分で緊張や規律のない経営を行っていたのは残念というほかない。鉄鋼の高炉と機械の2本立てという特殊構造の経営にあったとはいえ、トップリーダーを含め経営陣の経営責任が大きく問われる。私は、今回の問題で、メディアがすぐ安易に経営者の経営責任はといった形で辞任要求するやり方でなく、組織病の改革のための抜本的取り組みで指導力を発揮し、全組織に徹底が図れたと確認できた段階で、経営責任をとる形にすべきだと思う。

 

顧客に新たな満足と感動を与える品質経営が
重要と東レ元副社長の田中氏

 

さて、大企業が直面する重度の組織病に関して、モノづくり製造業を中心に「品質ダントツ世界一」となる企業経営をめざせ、キーワードは高品質経営だ、と申し上げた。実は、この「品質ダントツ世界一」は、東レ元副社長でイノベーションオフィス田中代表の尊敬する友人、田中千秋さんが「よみがえれ 日本のモノづくり産業競争力」をテーマにした講演でアピールした言葉だ。私も共感する部分が多く、今回、使わせていただいた。

 

田中さんは講演で「品質ダントツ世界一」になるための4ポイントを強調した。具体的には1)国の力はモノづくり産業の競争力に依存する、2)顧客に新たな感動と満足を与える「品質経営」がモノづくり産業の生きる道、3)製品の企画・設計段階からバリューチェーン全体での品質づくりが重要、4)(モノとネットをつなぐ)IOT活用による品質の高度化の積極的推進だ、という。

私はこれに「高品質経営」を加えたい。田中さんの言葉を借りれば、「単なるスペック表の数字を守るだけの古い品質管理経営ではダメだ。顧客が感動して企業への信頼を強めるレベルの品質まで仕上げることで、日本のモノづくりの確固たる基盤が出来上がる。品質経営にこだわる日本はそこまで行くべきだ」ということに尽きる。企業経営トップは高品質経営を目指せば、日本企業の持つ潜在力も加わり世界をリードする企業になるだろう。

 

「ダントツ経営」主張のコマツ坂根さんの経営ロジック、
決断力が企業リーダーに必要

 

ここで、少しアングルを変えて、企業経営などを取材してきた経済ジャーナリストの立場で、企業の組織病をもう少し考えてみたい。何と言っても、企業のかじ取りをするリーダーによって企業の命運は決まる。その点で、いろいろな企業リーダーを見てきて、私が一押しするリーダーは「ダントツ経営」を主張し、大胆に経営危機乗り切りを図って世界で勝てる日本の製造業を実現したコマツ元社長・会長の坂根正弘さんだ。今回の大企業の組織病という重病を直すにはぴったりの企業経営者だ。

 

坂根さんのすごさは、2001年にコマツの経営がどん底にあった時期に経営にかかわり、「多少コストが高くても売上高が伸びて企業成長すればコスト高は簡単に吸収できる」という高度成長経済時代の経営と決別、厳格なコスト管理を行って「大手術は1回限り」と事業の整理統合など大リストラに踏み切った。そして持ち前の生産技術の強さを武器に世界1位、2位企業をめざすと公言し、ライバル企業が追い付けないダントツ商品の開発を進め、見事にトップランクの企業にコマツを押し上げた。何度も話を聞いていても、ロジックがしっかりしていて決断力も早い。まさに危機の時代の企業リーダーだと思う。

 

ソニー役員OB辻野さん
「利益ねん出のためモノづくりのルール守らないのも問題」

 

今回の大企業の組織病の問題で、ぜひご紹介したいのが、長年おつきあいして意気投合しているソニー役員OBで、グーグルジャパン元社長、現アレックス社長の友人、辻野晃一郎さんだ。辻野さんは「ソニー時代、製品を市場に出すためには常に事業責任者と品質責任者が職を賭した攻防を重ねた。ただ、同じころ、別の部署では品質管理が甘くなってきつつあることも聞いていた。魚は頭から腐る、とよく言われるが、企業リーダーが問題で、品質経営に厳しくこだわるかどうかがポイントだ」という。
「魚は頭から腐る」はご存知の方が多いと思うが、組織の腐敗はトップを含めた上層部のダメ経営から始まり、次第に魚の胴体から尻尾へとまん延していく、という意味だ。

 

また辻野さんは、その点に関連して「インターネットやデジタルトランスフォーメーションの進展によって、経済価値の所在がモノからサービスやクラウドに移行し、それに伴いモノづくりの最優先課題がコストダウンになってしまった。しかも、利益ねん出のためにモノづくりのルールを守らなくなった」ことを問題視する。さらに、辻野さんは「もっと根深い問題は、日本の社会構造の根底にある、個人よりも組織が優先、国民よりも国家が優先といった戦前から続く全体主義的、国家主義的な価値観にも問題がある。企業組織を守る、ということが一種の言い訳になって、そのための不正や手抜きを正当化したり、あるいは組織の不正を隠蔽したりする体質が強まっていることも問題だ」という。なかなか鋭い指摘だ。

 

日本は企業主導で経済動く企業社会国家だけに、
組織

今回の問題は、実に重いテーマだが、企業社会国家とも言えるほど、企業が主導で日本経済が成り立っている、と言っていい。そんな状況下で、大企業の組織病がまん延したりすれば、企業の信用失墜にとどまらず、日本の経済社会の組織病にまで広がりかねない。それほど企業の影響力は大きいだけに、何としても根っこから直す根治作業が必要だ。企業リーダーの責任は大きいが、時代の先を見据えて、新しい時代に対応する組織づくり、人づくりなども重要になる。その意味で、企業の経営者教育というのも重要になるかもしれない。いかがだろうか。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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