中国との技術摩擦も今後は課題 外国技術いい所どりで独自誇示


時代刺激人 Vol. 183

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 食うか、食われるかの激しい競争が続くグローバル世界で、追いつき追い越せをスローガンにする中国など新興国が、日本の強みである先端技術をさまざまな手段で入手し、それが高じて、いわゆる技術摩擦、技術流出トラブルに発展するケースがいま、急速に増え、日本としてもますます、見過ごすことができなくなっている。

ITソフトを活用して技術を盗み出し別の工場でいち早く生産し
第3国へ輸出

具体的には、スパイたちは、東京の六本木ヒルズの高層ビルに拠点を置く総合商社「東洋商事」の日本支社長という肩書で、企業再生の場を探す企業経営者らに働きかけて中国市場での事業展開を勧める。中国進出話、とくに技術流出に警戒感を捨てない日本企業経営者に対して、さまざまな手口を使って説得する。

とくに中国では空いている工業団地があり、そこは一種の経済特区ではないが、企業優遇措置が講じられるうえ、同じような再生をめざす被災企業が進出意欲を持っており、日本の仲間企業と連携もとれるので、不安が払しょくされること、中国市場自体は成長市場で、ビジネスチャンスが多いことなどを巧みに語り、資金支援などのバックアップを講じて、進出させるのだ。

小説では最後にどんでん返しがあるが、妙に真実味があるので
興味深い

結論から先に申せば、小説なので、最後は、濱さんの実家?の警視庁公安などでつくる特別合同捜査本部が、ターゲットになった企業の技術系経営者とタッグマッチを組んで、中国側が先端技術を盗むためにこっそりつくった工場の技術ソフトにウイルスを忍び込ませ、中国側の技術ソフトを破壊してしまうと同時に、帰化した中国人スパイ・ネットワークを一網打尽にする。
その小説では、面白いことに、声をかけられた被災地企業の技術系企業経営者が当初から、中国への先端技術の流出には警戒的で、秘かに、進出先の中国工場で使う技術に、自身で中国の専門家も気付かない流出防止装置を施していた。だから、中国側が、技術ソフトを盗んで独自技術化し、それをもとに大量生産して第3国経由で輸出を図っても、不具合が出て輸出先でトラブルが生じたのだ。

大震災で被災した企業は格好の中国などのターゲット、
いずれは原発技術者も

この小説の話ばかりしていられないが、1つだけ、警視庁OBの作家らしい興味深い問題意識だけを紹介しておこう。それは中国が東日本で被災した中堅・中小企業のうち、先端技術を持つ特殊企業ばかりをターゲットにしたこと、とくに自動車やエレクトロニクスのみならず中国にとって、今後の産業競争力強化につながる戦略的な産業技術、サプライチェーンの担い手企業の技術をターゲットにした、という問題意識だ。問題設定が鋭い。

私は、そのことに、さらに付け加えたいのは、中国が原子力発電技術の専門家、とくに補修技術のスペシャリストの確保のため、今後、日本の原発の現場で電力会社の協力企業の2次、3次の下請け企業などにアプローチしてくる可能性は非常に高い、と思う。なにしろ、東京電力の福島第1原発事故をきっかけに、原発の安全神話が大きく崩れ、今や既存の原発は定期検査入りと同時に、ストレステストを含めた厳しい安全基準をクリアしない限り再稼働は許されない状況になっている。

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