日本のグローバル人材にぐんと厚み NW誌日本版紹介のトップランナー


時代刺激人 Vol. 196

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

硬派の月刊誌や週刊誌はどこもマンネリ企画で、あまり刺激を受けることがなく、わくわくする企画がない。そんな中で最近、何気(なにげ)なく手にした雑誌で、これは面白い、と思ったのが米ニューズウィーク(NW)誌夏季合併号(8月15・22日号)の特集企画「世界を極めた日本人」だ。

硬派の月刊誌や週刊誌はどこもマンネリ企画で、あまり刺激を受けることがなく、わくわくする企画がない。そんな中で最近、何気(なにげ)なく手にした雑誌で、これは面白い、と思ったのが米ニューズウィーク(NW)誌夏季合併号(8月15・22日号)の特集企画「世界を極めた日本人」だ。編集者が書いたキャッチフレーズは「頂点を極めた日本人、世界を魅了するトップランナーたち」と、なかなか刺激的だ。
すでに、目を通されている方もおられるかもしれないが、もし「まだ読んでいない」という方がおられたら、ぜひ、ご覧になることをお勧めする。さまざまな分野でノビノビと活躍されている異能異才の人たちがいて、日本のグローバル人材にぐんと厚みが出てきたな、というのが率直な印象だ。

内向き政治に苛立ち高まっていた時だけに、
日本もまだ捨てたものでないと実感

日本の周辺で地殻変動が起きていても、日本の政治は我、関せず、と内向きに終始し、新興アジアばかりか世界の潮流から取り残される現実に、苛立ちが高まっていた時だけに、日本もまだ捨てたものでない、と実感した。

このNW誌の企画は、日本版だけという地域限定だったのがちょっぴり残念。でも、取り上げられた人たちは、いずれもグローバルな市場をベースに仕事をして、大きな評価を得ており、仮にグローバル版に出ても、何の遜色ない人たちばかりだ。
今回コラムでは、実は一度取り上げてみたいと思っていた人がいたので、その人を中心に、世界中でタフに活躍する人たちを紹介しながら、日本人の生き方を考えてみたい。

まず取り上げたいのは伊藤さん、
米MITメディアラボ所長でスケールの大きさ抜群

取り上げたいと思っていたのは伊藤穣一さんだ。2011年4月、250人を超す候補者の中から、見事に米マサチューセッツ工科大学(MIT)の第4代メディアラボ所長に抜擢された。そればかりでない。今年6月、米ニューヨークタイムズ紙の要請で社外取締役になって、新聞メディアの生き残り戦略の経営を見る立場にある。まだ46歳の若さだが、競争が厳しい米国社会で高い評価を受けている日本人の1人だから素晴らしい。

実は、伊藤さんをよく知る私の友人から「チャンスがあったら、ぜひ会ってみたらいい。発想も行動もスケールの大きい日本人だ」と聞かされていたので、ジャーナリストの好奇心で、特別に関心を持っていた。

米友人教授の伊藤さん評価
「たぐいまれなる人材、メディアラボにぴったり」

NW誌テクノロジー担当のダニエル・ライオンズ記者は伊藤さんについてこう書いている。「いくつもの顔を持ち、ひとことでは表現できない。あるときはDJ(ディスク・ジョッキー)、あるときは起業家、ベンチャーキャピタリストでもある。最も有名なのはネット黎明期の日本でIT(情報技術)企業を次々と立ち上げたキャリアだ。伊藤がいなければ、日本のネット産業はずいぶん違った道筋をたどったことだろう」と。

そして、「メディアラボは世界随一の研究機関MITでも異彩を放つ前衛的な研究所。分子生物学からアート、オペラまで多彩なジャンルを巻き込んだ学際的な研究を通して、人間とテクノロジーの新たな関係を発信し続けている。そのトップ就任について、長年の友人でハーバード法科大学院教授のローレンス・レッシグは『天才的な人事だ。ジョーイ(穣一)はたぐいまれなる人材。ビジネスと非営利の両方の世界を熟知しており、メディアラボにはぴったりだ』という」。何ともすごい評価だ。

現場から国民が自分で判断して発信する「創発民主主義」が
伊藤さんの持論

ただ、これだけでは伊藤さんの考え方がまだつかめない。朝日新聞のインタビューで、伊藤さんが持論「創発民主主義」に関して述べている点が参考になる。「創発というのは、例えば大都市で、トップダウンの都市計画よりも住民の相互作用から生み出された街並みの方がうまくいく、といったようなものです」と。

それを踏まえて、伊藤さんは「従来の代表民主主義は、国民が代理人としての政治家を選挙し、彼らに政策決定を委ねていますが、人々が自分で判断し発信できるようになれば、政治家に何かを決めてもらう必要もなくなってくる。草の根から、現場から、直接民主主義に近い政治的な秩序が生まれてくるようになるんじゃないか。それが創発民主主義の夢です」と。米国で定着している「討論型世論調査」手法が最近、日本で原発依存度をめぐる公開ヒアリング調査ため試験的に行われているが、伊藤さんの考え方はそれに近い。

人種差別を乗り越えパリ高級洋服店チーフ・カッターの座を得た
鈴木さんもすごい

次に紹介したいのは、パリ随一の高級洋服店の老舗「フランチェスコ・スマルト」のチーフ・カッターの座に上り詰めたとNW誌が高く評価する鈴木健次郎さんだ。
取材した井口景子記者は記事でこう書いている。なかなかうまい表現だ。「ジャケットに袖を通した瞬間、客の表情が変わる。細身のシルエットなのに、ゆとりたっぷりの着心地。空気の層が幾重にも巻き付き、身体を動かすと服がふわっと付いてくるような空気感。鈴木が作るスーツはまさに『服をまとう』という言葉を体現している」という。

でも、35歳の若さでパリの名門店のチーフ・カッターに至るまでの鈴木さんの苦労が実は大変だった。その苦労ぶりを知ると、なぜ高評価につながったかかがわかる。まず、鈴木さんは縫製職人として採用されたパリのある高級洋服店で頭角を現し、入社時に約束された念願のカッターへの異動を申し出たら、人種差別が立ちはだかった。「日本人をカッターにしたら、フランス人の客が1人も来なくなる」と社長に言われた、というのだ。

「日本人カッターは不要」との人種差別、
技術閉鎖社会を独自努力で見事克服

鈴木さんはそれでもくじけなかった。パリ中の高級洋服店に電話をかけて売り込みを図り、「フランチェスコ・スマルト」でカッターとして採用がやっと決まる。ところが、独自の技法を長年守る閉鎖社会に突然入り込んだ日本人に、今度は35人の職人が猛反発。耳の不自由なチーフ・カッターから約1年間、ウソのノウハウばかり教えられた、という。
それでも鈴木さんは必死に努力する。そして、日本人のキメの細かさなどもあってか、技術力が着実に評価され、最後はチーフ・カッターの座を手にする。

職人の世界での最高峰の勲章を手にしながら、鈴木さんは今年春、独立を果たす。自分の店を持つのだ。妻の美希子さんと2人で採寸から縫製まで手掛ける店でのスタートだが、極上の一着に注文は途切れない、という。鈴木さんはNW誌で「『美しいもの』を知りつくし、肩書や肌の色ではなく、本質を見て評価してくれるお客様がパリには大勢いる」と述べている。お客の中には「私が引退する日まで、君にすべて任せるよ」と言ってくれた得意客の期待に応えるために、鈴木はきょうも型紙を引き続ける、と記事は結んでいる。

工業デザイナーの奥山さんも自動車のデザイン力では国際的評価

このほかにも、グローバル社会でタフに、競争力を発揮してがんばっている日本人がいろいろ紹介されている。テーラーの鈴木さんのような努力型の人もいれば、天才肌の優れた能力をいかんなく発揮している人など、さまざまだが、いずれも素晴らしい。
でも、私は、それらの人に、私の友人で、以前のコラムでも少し取り上げた工業デザイナーの奥山清行さんを再度、取り上げてみたい。

私自身、あるイノベーションセミナーで知り合ったが、奥山さんが私の毎日新聞駆け出し記者時代の職場、山形県の出身であることから親近感を覚え、ジャーナリストの好奇心で接するうちに、意気投合してしまった人だ。海外、とくにイタリアで有名自動車フェラーリのデザインなどに関して、抜群のデザイン力を持っている。日本人離れしたデザインのセンスが評価の大きな対象だが、いくつものストーリー、それも国際的なストーリーを持っているところがすごい。

奥山さんは日本のモノづくりを支援し、
地場企業を地方区から一気に国際区へ

その奥山さんは今、日本のモノづくり、とくに郷里の山形を拠点に新潟、岩手などの地場企業の持つ技術力と、奥山さん自身の優れたデザイン力を融合させて、それらモノづくり企業を地方区から一気に国際区へ押し上げる取り組み支援もしている。
以前、NHKスペシャルというTV番組で取り上げられた1つに、新潟県燕市のステンレス加工の三宝産業がつくった切れ目のない優雅なワイングラスがある。奥山さんは工業デザイナーなので、自動車に限らず、あらゆるものを手掛けるが、奥山さん考案のデザインが随所に生きていて、グラスは形の優雅さだけでなく、ワインと氷が溶けにくい特殊な構造になっていて、パリのメゾン・ド・オブジェ展示会で高い国際評価を得た。

「日本の地場産業や企業のモノづくり力は素晴らしく、その技術は宝の宝庫だ。素晴らしい技術の活かし方がわかっていないのが残念だ」と述べる奥山さんはそれら地場企業を支援している。国際的なデザイナーがマーケッティング評価し、優れ者のモノづくり企業と連携すれば、日本のモノづくり企業の底力に磨きがかかる、ということだ。

ジャーナリスト先輩の小島さん指摘の「外向き」「上向き」「前向き」
にぴったり

ジャーナリスト活動の先輩で、日経新聞OBの小島明さんがいろいろな場で、面白い話をされている。いまの日本の状況を語るにぴったりなので、「ぜひ、引用させてほしい」と頼んでいる。それは「内向き」「下向き」「後ろ向き」の3向きのベクトルを「外向き」「上向き」「前向き」に変えようというものだ。

時代刺激人を公言する私からすれば、とても刺激を受けるメッセージだが、今回のNW誌で取り上げている日本人の人たちはいずれも、小島さんから見ても間違いなく合格点の人たちばかりだろう。私のみならず、多くの日本人にとって、こうしたグロバールな評価を受けるたくましい日本人の存在そのものが誇りであり、一段と磨きをかけてほしい。それが「内向き」「下向き」「後ろ向き」になっている政治家らを奮い立たせることになるのは間違いない。

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