メコン諸国現場レポート7 したたか中国のアジア南下戦略 日本はASEAN連携でスクラムを


時代刺激人 Vol. 242

 締めくくり時期のメコン経済圏諸国報告で何としても触れざるを得ないのが、中国のASEAN(東南アジア諸国連合)南下戦略の問題だ。今回はこの問題を取り上げよう。

世界地図を広げてみて、すぐおわかりになると思うが、巨大な中国が、南部地域で国境を接するラオス、ミャンマー、ベトナムはじめ陸のASEANと言われるメコン経済圏諸国に対して、ぐっと迫る姿が目に入る。地図だけ見ても何とも凄味があるが、いざ現実の世界、とくに中国の南下戦略といった形で南進が進めば、もっとすさまじいだろうなということは容易に想像が出来る。

ASEANにとっては中国の存在は強烈な存在、
自己都合の戦略で圧迫される脅威
 この同じ地図を逆にメコン経済圏諸国側から見た場合、それは強烈な圧迫感となる。もっと言えば重くのしかかってきて踏みつぶされるこわさ、脅威を感じざるを得ない、といった方が正確だ。この構図は厳然たる事実で、それがそのまま双方の力関係の差にもなっているが、大事なことは、メコン経済圏諸国のみならずASEAN10か国全体の問題を考える時に、この構図を必ず頭の片隅に置いておかねばならない、ということだ。

その中国は今、メコン諸国に対してさまざまな形での南下・南進戦略を展開している。戦略、という言葉に関して、本当はもっと意味が深いものなのに、私は安易に使っているな、と思われる方もおられるかもしれないが、中国のASEAN南下戦略を見ていると、ある面で極めて自己都合の戦略と言っていいのでないかと思うほどだ。
端的には、中国は巨大な経済力を背景に半ば過剰設備投資で過剰生産した中国製品のはけ口を足元のASEAN諸国に求め、その輸出先市場拡大のために安値攻勢をかけて必死でシェアをとろうとする。

中国は未加盟OECD金利規制を逆的にとり有利な金利条件で受注案件を手中に
同時に、中国は先進国クラブのOECD(経済協力開発機構)に未加盟なの立場を逆手に取り、OECDが決めた金融秩序維持のための金利規制ルールを日本などの加盟国が懸命に守るのとは対照的に、受注競争で確実に有利展開できる都合のいい金利を設定して資源開発プロジェクトのみならずインフラプロジェクトをどんどん手中に収めてしまう。逆に、OECDルールを忠実に守る結果、日本企業はさまざまなプロジェクトの現場で、中国に煮え湯を飲まされることが多々あるのは当然の帰結となっている。

とくに、中国は人民元高を回避するための人民元売り・米国ドル買いの為替介入政策を過去、頻繁に行った結果、2014年1月現在、3兆8600億ドル(円換算386兆円)というケタ外れのドル建て外貨準備となっている。この巨額の為替介入で中国国内に出回る人民元の過剰流動性はすさまじいものになり、金融当局の頭痛のタネだが、一方で、このドル資金が海外での資源買いあさり資金やASEANやアフリカへの戦略的な援助資金に回り、皮肉なことに中国の存在感を高める結果になっているのは言うまでもない。

ただ、中国の半ば強引で自己都合の戦略がすべて功を奏す、というわけではない。というのも、中国には失礼ながら、過去に道路などのインフラプロジェクトで技術的な欠陥などが見つかり補修に不必要なエネルギーをつぎ込まざるを得なかった事例もある。そこで、プロジェクト発注する側の国々は、仮に中国側から破格に有利な金利条件の融資案件が提示されても、技術的欠陥の有無をチェック、総合評価で日本や他の先進国企業に委ねるケースがある、とプロジェクトにかかわった日本企業関係者から聞いたことがある。

タイの高速鉄道建設支援で、
中国は建設代金をコメの現物支払いでOK?と提案
ただ、今回のメコン経済圏諸国の旅の際、タイのバンコクで聞いたホットな話に「えっ、本当に?」と聞き返しながら、思わず笑ってしまったのが中国の対タイ高速鉄道建設プロジェクト支援提案だ。タイ政府が進める大型インフラプロジェクト案件のうち、高速鉄道建設案件に関して、中国政府としては、もし建設受注が認められたら、タイ政府の巨額事業のうち、建設を担う中国側への建設資金の支払いの一部をタイ米という現物で手当てすることもOKと提案したのだ。にわかに信じがたい話だと思われようが、事実なのだ。

要は、タイ政府が農民対策の一環としてタイ米を担保に融資を行い、結果的にコメ買い上げを行う、というプロジェクトに関して、政策の詰めの甘さで財政負担が大きくなってしまい、タイ政府は苦境に立たされている。そこで、中国政府は、タイ政府の台所事情の 弱み部分を鋭く見抜き、もし受注が出来るならば、在庫の山になっているコメで返済してもらってもOKと提案したのだ。

タイ憲法裁が資金確保めどつかない大型プロジェクトに「待った」かけたので不透明に
そこがまさに中国のしたたか戦略の部分で、仮に受注後、中国国境まで路線を引っ張り中国側の高速鉄道とリンクさせれば、ASEANへの鉄道アクセスが容易になる。タイに巧みに恩を売りながら、中国自身もASEANへのアクセスの中枢部分の高速鉄道をフル利用しようというわけなのだ。

結果的に、この高速鉄道建設プロジェクトを含めて、現在のタイのインラック政権が打ち出している大型インフラプロジェクトは、総額2兆バーツ(円換算約6兆円)の巨額資金に及ぶため、タイ憲法裁判所が、コメ政策の失敗による財政困窮状況のもとで政策実行するのは適切でないと「待った」をかけた。このため、中国が戦略的にコミットした高速鉄道プロジェクトの行方は不透明だが、中国にとっては、それに代わるASEAN戦略展開の材料は数多くあり、とくに動揺をきたすような筋合いのものでない。

中国がラオスなどの水力発電プロジェクトで強引さ目立ち、
現地政府から反発招く
それでも中国の南下戦略に自己都合の強引さが目立ち、現地政府の反発を招いた事例もある。すでに別の報告で述べたので、ご記憶かもしれないが、巨額の援助資金をもとに進めたラオスやミャンマーでの水力発電プロジェクトでは、中国のやり方が手前勝手で、地元経済への還元がなく雇用創出にもつながらず、えげつないと批判を浴びたケースだ。

とくに、中国プラントメーカーが「ひも付き援助」の形でプラント輸出し、しかも雇用労働力も中国国内対策を優先して現地雇用しなかったことがあつれきを生んだ。しかし決定的だったのは、発電所完成後の電力送電の檀家になって、中国側が、援助許与国という強みを武器に、発電した電力のかなりの割合を地元還元せずに電力需給ひっ迫の中国に送電線を使って送電したことだ。ラオスもミャンマーも電力不足が深刻な状況だっただけに、 中国のやり方はえげつない、と現地政府の反発を招いてしまった。
日本の発想ではプロジェクトを請け負った限りは、現地政府のニーズに最大対応するのが当たり前で、中国のようなやり方は到底、考えられないことだが、中国は大国意識が強すぎるのか、そこが決定的に異なる。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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