時代刺激人 Vol. 178
牧野 義司まきの よしじ
1943年大阪府生まれ。
「復興よりも新興を」――最近、これはいい、さすが言葉を大事にするノンフィクション作家だなと思ったキーワードだ。「メタルカラーの時代」のタイトルで鉄鋼などのモノづくりの現場の人たちの生き方を描いた山根一真さんが、新聞で被災地支援問題に関して、この言葉を使っておられたのが目に入った。
宮城県名取市の佐々木市長が東北スカイビレッジ導入に名乗り
こうした中で、迫さんらの東北スカイビレッジ構想に名乗りを上げた自治体が現れた。宮城県名取市の佐々木一十郎市長だ。私が昨年、被災地農業の取材で出かけた宮城県仙台市若林区から、そう遠くない地区に名取市がある。いずれも海岸線が長く続く地域で、若林区と同様、海岸線から内陸部までは広大な平野が広がり、小さな文字通りの小山がぽつんとある程度で、ほぼ似たような地形の地域だ。当然、地震のあとに襲ってきた大津波で壊滅的な被害を受けた。
名取市の佐々木市長は市のホームページの市長コラムで、昨年12月1日に「オンリーワンのまちづくり」と題して、この東北スカイビレッジの導入検討を打ち出している。少し引用させていただこう。
佐々木市長は海岸沿いの閖上(ゆりあげ)地区に
オンリーワンまちづくりめざす考え
「まちづくりについて、各所からいろいろな提案をいただいている。その中で、世界的に活躍する若手の建築家から、陸地に浮かぶ島というイメージの高さ20メートル、東京ドームの約2倍の広さの楕円形の人工地盤の構造物の提案をいただいた。津波にあっても流されない防浪建築だ。人工島の内部は3層構造で、駐車場や工場、倉庫、オフィス街など、何でも入れることができる。これを海岸沿いの岸壁に張り出してつくれば、1階部分を屋内の港にすることも可能で、海に面した入口を閉じれば、台風や津波からも守られる。(中略)これは魅力ある復興の一案で、今後、シミュレーションを交えて市民の皆さんと一緒に考えていきたい。(中略)他にはないオンリーワンの魅力あるまちを作り上げていきたい」という。佐々木市長は候補地としては現在、非居住区指定地区になっている海岸沿いの閖上(ゆりあげ)地区を候補地にして計画中、という。
利害調整などのために佐々木市長、それに復興庁の
リーダーシップが必要
奥山さんはNHKスペシャルの番組の中で「復興の象徴として、こんな素晴らしい、新しい街を日本がつくった、ということを世界にアピール出来るようなものにしたい」と述べると同時に、私とのEメールのやりとりで、この東北スカイビレッジ構想について「逆境の中にこそ、希望があるかもしれない。これからは新しい軸で街をつくる必要がある。ある意味で人工的につくらないと、豊かな暮らしはますます破壊されてしまいかねない。ビジョンを持って、政治に頼らずに実現していきたい」と述べている。
ただ、このプロジェクトには課題がある。迫さんによると、1つの人工島を立ち上げるのに300億円の資金が必要になる。しかも、政治や行政のバックアップなしには、プロジェクトが動かない。とくに建設用地の確定はもとよりだが、さまざまな権利の調整や住民のプロジェクト参加への同意とりつけなど、気の遠くなるほどの調整が必要だ。
冒頭に申し上げた「復興よりも新興を」というのも、過去の呪縛(じゅばく)、こだわりなどをすべて白紙にして、新たなスタートを切る地域全体の合意形成が必要だ。そのためには名取市の場合、佐々木市長のリーダーシップが必要になる。同時に、宮城県、さらには霞が関の行政の中でも復興庁のリーダーシップも同時に重要となる。ところが、誰に聞いても、この復興庁がタテ割り組織の弊害を克服できていないのだ。でも、先進モデル例をつくって新たな出発をするしかない。
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