問われる官邸の危機管理能力 原発対応の議事概要もお粗末


時代刺激人 Vol. 176

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 東日本を突然、襲った昨年3月の大震災、それに続く大津波、東京電力福島第1原発事故から1年。日本のみならず世界中を震撼させたが、いまだに、この重い現実が続く。さまざまな現場で、苦労を強いられている人たちのことを考えると、どういった形で貢献ができるか思い悩む。

民間事故調委員長は意外にも菅首相の東電「全面撤退打診」却下を
評価

しかし民間事故調の北澤委員長は、この菅首相のとった行動のうち、現場への直接介入を問題視しながらも、東電の全面撤退打診を却下して事故対応を厳しく求めたことで水素爆発事故による大きな被害波及も抑えられたと評価している。
ただ、3月14日の国会事故調での参考人聴取では武藤氏は「2号機に厳しい事態も想定されたので、危機対応する50人ほどを現場に残し、当時、現場にいた650人ほどを一時的に福島第2原発へ避難させたいという打診をしたが、全面撤退などあり得ない。首相の発言には違和感を覚えた」と述べている。このあたりは、菅首相、海江田経済産業相(当時)が思い込んだのかもしれないが、いずれにしても米国のように、独立の規制監督機関が事故対応の全責任を負って、被害やリスクの最小限化を図るのが「普通の国」の対応で、トップリーダーがすべてに関与するのは、やはりおかしいと思う。

首相官邸には官僚らスタッフ多いのに、テープレコーダーも記録もないなんて

ここで、もう1つの危機管理能力が問われる問題について、申し上げておこう。原発事故対応時に、何と司令塔ともいえる原子力災害緊急対策本部で会議での議論、政策決定の流れを示す議事録が全くなく、世論の批判であわてて出席全閣僚の走り書きメモなどをかき集めてつくった議事概要の問題だ。

3月11日から1週間の最も大震災、原発事故対応などがシビアに求められた時に、首相官邸など日本の政治の中枢ではどういった危機管理をめぐる議論が行われていたか、という点が最大のポイントだ。
結論から言えば、議事概要を見る限り、とくに最大の焦点の3月11日、翌12日などの1週間内の記録というか、会議の議論の中身が極めて薄いのだ。すでに新聞報道などでもご覧になっているだろうが、対策本部会議10回分の議事概要はA4判のペーパーにしてわずか28ページだ。しかも菅首相、当時、政権のスポークスマン役だった枝野内閣官房長官の発言メモがあるが、内閣府関係者によると、いわゆる事務当局が会議の冒頭での首相発言メモとして用意したものだ。

「政治家の言動が稚拙すぎてボツ」という話はなかったが、
やはりお粗末

だから、全体としては、原子炉のメルトダウンへの対応、放射能汚染を回避するための原発周辺住民の避難状況、避難区域の拡大の議論など、挙げれば数多くある政策テーマに関して、どの閣僚がどう発言したか、どんな議論があったかどうかが限りなく不明なのだ。

私の友人の1人が「政治家の発言内容があまりにも稚拙で、怒声ばかりだったので、気恥ずかしくなって公開を抑えたのでないか」という指摘があって、それもあり得ると思ったが、調べたところ、さすがにその話はなかった。ただ、これだけ重要時の会議であり、しかも首相官邸でスタッフもそろっている場所で、どうしてテープレコーダーはじめ記録、メモが少なかったのか、いまだに不透明だ。28ページのペーパーだけが、日本の歴史を変える1週間、10日間の記録だった、というのは間違いなく危機管理能力が問われる証拠、と言えまいか。

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