政局騒ぎに明け暮れる日本の政治劣化ひどすぎる、国民や経済界にうんざり感 中東や新興アジアでの地殻変動に対応余裕なし、日本は取り残されるリスク


時代刺激人 Vol. 123

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

日本の政治がまたまた、危機的な状況に陥っている。北アフリカや中東で、深刻な若者の失業問題や食料価格高騰を背景にした「民衆革命」が次々と連鎖して起きる一方、新興アジアでは経済に一段と弾みがつき、今や停滞する欧米経済からの経済パワーシフトが確実、といった世界の地殻変動に対して、日本の政治は機敏に対応する余裕もない。日本は国際政治や経済の大きな変動についていけず、取り残されるリスクさえ感じる。

ここ1週間だけの動きを見ても、国民や経済界などはうんざりするような状況だ。端的には2011年度予算案、その関連法案といった経済活動、国民の生活に重要な影響を及ぼす巨額の予算案をめぐる審議が政争の具、党利党略に使われ、挙句の果てに、政権政党の民主党内部で小沢一郎元代表に近い衆院議員16人が民主党執行部の政権運営の仕方に反発して会派離脱という行動に出た。

首相早期退陣論、追い打ちかける内閣支持率低下で、政権の求心力は低下
 このため菅直人首相早期退陣論までが飛び出した。追い打ちをかけるようにメディアの世論調査では菅内閣の支持率がさらに低下、そこで、危機感を強めた菅首相周辺では解散・総選挙をちらつかせ揺さぶりをかけている。日本経済をどうするといった政策論議は吹っ飛び、政局化してしまうほどだ。政権の求心力は急速に弱まってしまったと言っていい。

これは民主党政権だけの問題ではない。旧自民党政権時代にもあったことだ。日本の政治は振り返ってみると、ずっと同じことばかり繰り返している。与野党の政治家の責任意識はどこへ行ったのか、プロ意識はないのかと、思わず言いたくなる。日本の外での地殻変動に、政治が相変わらず政争に明け暮れてしまっているのは、尋常なことではない。

民主党を支援した日本航空の稲盛会長は「政治の体たらくには落胆した」と発言
 最近、日本航空の経営再建に取り組む稲盛和夫会長の講演をプレスセンターで聞くチャンスがあり、経営再建の先行きに関心もあって出席した。講演後の質疑の中で、稲盛会長は現在の民主党政権の動向について、「いまの体たらくには本当に落胆している。これも民主主義 の結果なのだろうかと言いたくなる」と述べたのが印象的だった。

稲盛会長は経済界でも早い時期から民主党の政権交代を支持してきた人だけに落胆ぶりがありありだった。その際、「私は、真の民主主義が日本に必要で、そのためには2大政党政治がカギになると考え、民主党が政権交代につなげる力をつけてくれればという思いが10数年間あった。今後は静観してみているだけだ」と述べたが、表情を見ていると、がっかりだ、政治に託するものはない、という感じがうかがえるほどだった。

米倉経団連会長は「給料泥棒」と批判、「何もしてくれない方がいい」との声も
 政治の劣化は間違いなく経済をダメにしていくリスクにつながる。経済界の危機感は相当なもので、現に、日本経団連の米倉弘昌会長も同じ思いなのか、2月21日の記者会見で、辛辣(しんらつ)だった。
米倉会長は予算や税制関連法案の審議が難航していることについて「国民が税金を払っているのに、国民のために、政治は何もしていない。(国会議員は)給料泥棒のようなものだ」と批判すると同時に、「税財政と社会保障一体改革やTPP(環太平洋経済連携協定)という一連の改革を取り組まねばならない流れの中で、(早期解散論など)選挙でどうのこうのという状況でない」と手厳しく批判した。
親しくつきあっている大手企業のある幹部はもっと辛辣で、「今の政治に期待するものは何もない。むしろ、何もしてくれない方がいい。政治がやたらと混乱をまき散らし、結果として、経済を停滞に追い込んでしまう方が、われわれにとっては迷惑だ」と述べている。確かに、このあたりは、経済界の本音だろうが、政治が動かないと予算案や予算の執行のための関連法案が宙ぶらりんになって、経済活動そのものが大きく停滞するのもリスクだ。やはり、政治を厳しく追い込んで、まずは政策実行に持ち込まざるを得ない。

椎名日本IBM元会長は逆に人や組織動かすこと重視、菅首相に大総理チャンス
 経済界や国民の間で、日本の政治に対する不満、いら立ちが高まる中で、ご紹介したい話がある。今年1月に、日本IBM元社長・会長の椎名武雄さんに話を聞く機会があったが、さすが経営者の発想には広がりがある、と思ったことがある。それは、日本の政治を悲観しても仕方がない、危機的な状況をチャンスに変えるには強い信念に裏打ちされた政治指導者の決断力が必要で、アクションを起こさせることだ、という問題意識だ。組織を動かし、人を動かすには、やたら批判ばかりしていても仕方がない、というわけだ。

椎名さんの発言ポイントはこうだ。「政権交代によって、民主党の鳩山由紀夫前首相は、自民党と全く違うことを、政策的にやってみたが、すべてダメだとわかって身動きがとれずに退いた。後を引き継いだ菅直人首相は、こう考えた。ダメモデルの自民党を真似してもダメだが、長期政権になった自民党にはどこか学習できる所があるはずと考え、(日米同盟の基軸再評価など)いくつかを踏襲することにした。1つの考え方だ」という。

「菅首相は決死の覚悟でTPP参加と税・財政と社会保障一体改革に取り組め」
 そして、椎名さんは「菅首相がもし本気で手をつけてやり通せば大総理になるチャンスがある。6月までにやると公約している2点だ。新しい国の形を作り出すチャレンジが必要」と。その2つは、TPP参加に結論を下し徹底した自由化に踏み出すこと、そして税・財政と社会保障制度の一体改革のために消費税率引き上げを決めることだ、という。

これは、私が「日本企業も今やフルモデルチェンジが求められていますが、日本の政治も同様にモデルチェンジの時と考えます。経済人の立場で、どうみておられますか」と聞いた際の答えなのだ。椎名さんにすれば、問題先送りばかりでは事態の打開にはならない。政権交代した民主党に、すぐ大きな成果を求めるのは厳しいかもしれないが、政争に明け暮れるよりも、混迷する政治状況、日本の状況にクサビを打ち込んで光明をさす役割を政治指導者に果してもらう必要がある。考えようによっては、今こそがチャンスだ、という主張なのだ。

菅首相が政治的な抵抗でボロボロになってもやり通せば、拍手大喝采
 菅首相が、政治的な抵抗でボロボロになっても、それを振り切ってやり通せば、確かに歴史に名前を残す日本の首相になるかもしれない。私自身も、その時は拍手大喝采だ。経済ジャーナリストの立場で言えば、この2つの政治課題は避けて通れない問題だと思っている。日本が新興アジアで存在感を示すにはTPP参加に踏み出すことを早く表明し、同時に、椎名さんが言うように「日本の新しい国の形」を作り出す必要がある。過去の成功モデルにこだわるよりも、経済構造のさまざまな改革に取り組んで新生日本を打ち出すことが大事だ。税・財政と社会保障制度の一体改革のために消費税率引き上げを決めることも避けて通れない。その際、税の直接税と間接税の直間比率の見直しも必要だ。

私は115回のコラムで、日本のフルモデルチェンジのキーワードは「課題克服先進国」「課題先進国」だ、と申し上げた。私の友人で社会システムデザイナーの横山禎徳さん、それに東京大の元総長で現三菱総研理事長の小宮山宏さんが使われている言葉を拝借したものだが、ポイントは、成熟国家ながら古くなった年金や医療はじめ、さまざまな制度や枠組みを根本的に見直し、新たな制度設計、社会システムづくりを大胆に行い、課題を克服すれば、後発の国々にとっては先進モデル例となり、日本は胸を張って文字どおり「先進国」を自負できる、という点だ。

ここで政権が解散・総選挙に打って出たら政治混乱、政治空白のリスクだけ
 いま、日本で政治抗争の結果、菅政権が局面打開のために窮余の一策として、仮に解散・総選挙に打って出ても、結果は見えている。現状からみて、民主党は衆院で大きく議席を失うばかりか、自民党も野に下ってからの力の低下ぶりからして過半数をとれず、結果は連立政権づくりをめぐる駆け引きばかりが表面化し、政治空白は避けられない。

そればかりか参院のねじれ現象もそのまま続いており、日本の政治は何1つ大胆な政策決定を行えず、さらに悲惨な状況に陥るリスクが高まるだけだ。政治が専門でない私のような経済ジャーナリストだって、それぐらいは読める。その点でも、民主党政権には当初想定できなかった問題が噴出し、期待倒れであることは間違いないが、この際、逆に、日本IBM元会長の椎名さんが言うように、菅首相は開き直って、日本を変える政策の必要性をアピールしその実現に向けて政治信念を貫くことだ。

経産省幹部「内閣交代頻度高まれば対外政策に軸ぶれリスク、大いに気になる」
 経済産業省の幹部官僚の人が、政治混乱にからめて、とても興味深い本音の話をしてくれた。「政治主導や『政と官』の役割分担といった大問題に加え、内閣交代の頻度が極めて高くなると、そのたびごとに、日本の対外政策の軸ぶれの可能性が高まってくる。官僚が頑張ることで、日本の国際的な地位を維持向上させることも難しくなってくるという現実は、重いのでないかと受け止めている」と。
さらに「経済産業省はじめ政府部内の多くの人間が、渾身の力を振り絞って取り組んでいるTPPの問題にしても、仮に、近い将来に何らかの政局が動いた時に、いったいどういう扱いにされてしまうのか、大いに気になる」と。
現場で、政策本位をベースに、今後の日本にとってこれが必要との官僚の心意気で必死に取り組んだものが、政権が短命に終わったことで、政策が白紙に戻されるリスクがある。この経済産業省の幹部官僚も、日本の周辺で起きている新興アジアの地殻変動に対応すべく取り組み、いい意味での日本の存在感をアピールしたいのに、肝心の政権が、政治が党利党略や政争で身動きとれず、挙句の果てに政策がご破算となった場合のことを恐れているのだ。政治は、そういった不幸な事態に陥らないように政治責任を果たすべきだろう。

日本がアジア、米、オセアニア3交差点融合で成長力確保を、アタリ氏提言は参考に
 フランス人で、欧州復興開発銀行初代総裁を務め、その後、現サルコジ政権からフランス変革の委員会の委員長を委嘱され政策提言しているジャック・アタリ氏が自著「21世紀の歴史――未来の人類から見た世界」(作品社刊)の冒頭の日本語版序文で「21世紀。はたして日本は生き残れるか?」というメッセージを書いている。なかなか興味深く参考になるヒントがあるが、一部だけ、引用させていただこう。
「現在、多くの危機が日本を脅かしている。たとえば人口の高齢化現象に直面しながらその解決策を見出していない。(中略)韓国や中国などの近隣諸国が日本に対して抱く敵意に対しても有効な解決策を出していない。(中略)日本はアジアとの交差点、米国との交差点、オセアニア地域との交差点といった地理的に重要な拠点に位置しており、この3つの円が交わった部分をうまく組織できれば、また3つの円をすべて融合できれば、日本は多大な潜在的な成長力を持ちうるだろう」と。

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