政治思惑満載のアジアインフラ投資銀 中国は開発金融でも新たな覇権狙い?


時代刺激人 Vol. 255

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

ある国が主導して、これから立ち上げようとする国際金融機関に関して、運営システムなどがまだ定まっていない時点から、世界の主要国の間で、そこに参加する国々はいったいどこなのだろうか、その最終的な参加国数はどれぐらいにのぼるのか、さらに、その金融機関が今後取り組む事業の中身がどういったものになるのかなどに関して、異常なほどに関心が高まった。

ある国が主導して、これから立ち上げようとする国際金融機関に関して、運営システムなどがまだ定まっていない時点から、世界の主要国の間で、そこに参加する国々はいったいどこなのだろうか、その最終的な参加国数はどれぐらいにのぼるのか、さらに、その金融機関が今後取り組む事業の中身がどういったものになるのかなどに関して、異常なほどに関心が高まった。過去にもあまり例のないことだった。その金融機関とは、中国が主導して2015年末に設立をめざすアジアインフラ投資銀行(AIIB)のことだ。
このAIIBは、主要国の関心事になったように、ジャーナリスト目線で申し上げても、なかなか興味深い問題をはらんでいる。私自身が、この金融機関の対極にあるアジア開発銀行(ADB)の戦略シンクタンク、アジア開発銀行研究所のメディアコンサルティングに携わっているので、コラムを読んでいただく方の中には、バランスを欠くのでないか、と思われるかもしれないが、ジャーナリストの立場で何がポイントか、出来るだけ客観的に問題を取り上げてみるので、ぜひ、ご覧いただきたい。

途上国泣き所インフラ資金の支援で、
中国がAIIB最大出資者の強み発揮に意味

結論から先に申し上げよう。海洋覇権で強大国を誇示する中国が、AIIB立ち上げによって、今度は電力、鉄道、道路、水などのインフラ整備の資金手当てに苦しむ発展途上国、とりわけASEAN(東南アジア諸国連合)のうち、ベトナム、カンボジアやラオス、ミャンマーなどの発展途上国に対し、それらの国がノドから手が出るほど泣き所のインフラ開発資金について、最大の出資者となる中国が資金力の強みを生かして支援・協力を打ち出し、開発金融分野でも新たな覇権をめざそうとしているのでないか、という点だ。

そういった取り組みは、中国単独で援助によっても行える話だが、ジャーナリスト目線で言えば、ここは、中国が参加呼びかけを行って束ねたAIIBの中で、中心的なリーダーシップをとりながら存在感を示すことに意味がある。とりわけ開発金融分野で、中国が金融覇権などと名指し批判されないように、AIIBを活用する点に重要な意味がある。

中国が戦後の国際金融秩序に挑戦の可能性も、
逆にOECD未加盟が問われる?

また、中国は、このAIIBをテコにして第2次世界大戦戦後の米国ドル基軸の通貨システム、関連する国際通貨基金(IMF)、世界銀行を軸にした国際金融秩序維持のブレトンウッズ体制、関連してその後に出来たアジア開発銀行など地域開発金融機関体制などに対して、ひょっとしたら本気で戦後レジームへの挑戦、新たな対抗軸の構築という壮大な意図を持っているのかもしれない。現に、そういったフシもある。

こうしてみると、政治的な思惑満載の中国主導のAIIBと言えそうだが、問題はうまく機能するのだろうか、という点だ。中国は今、国内外でさまざまな政治や経済、外交面で課題を抱えている。率直に言って、課題山積の中で、中国がAIIBを立ち上げて、本当に、発展途上国向け開発金融の分野で中国自身の意図どおりの実績をあげ、存在感をアピールできるのだろうか、と疑問符がつくことは間違いない。
そればかりでない。中国はGDPで世界第2位の経済大国になりつつあるが、「先進国の証明」ともいえる経済協力開発機構(OECD)にまだ未加盟なことも問題になっている。アジアで加盟する日本と韓国は、貿易金融やプロジェクト金融などに関して、「OECDルール」順守を義務付けられているが、中国は対象外ということで、主要国からひんしゅくを受けかねない貿易金融、援助などを強行し、根強い反発があるのも事実。

21か国が参加し10月にAIIB設立覚書に調印、
当初は500億ドルでスタート

さて、中国の呼びかけで、さる10月24日、AIIB設立に向けての覚書調印式が北京で行われ、参加表明していた21か国の代表が、1年後の設立に向けての覚書に調印した。参加したのはインド、タイ、ベトナム、フィリピン、マレーシア、シンガポール、それに中東からサウジアラビア、クウェートなどで、私自身がサプライズだったのはタイやサウジアラビア、インドの参加だ。あとでも申し上げるが、ぎりぎりまで参加が焦点だった韓国、オーストラリア、インドネシアは参加を見送っている。

中国国営通信新華社はじめいくつかのメディア報道を総合すると、AIIBは2015年末に設立予定で、本部を北京に置き、初代の総裁には元中国財政次官、元ADB副総裁などを歴任した国際金融のベテラン、金立群氏があたる見通し。資本金は現時点で500億ドル、このうち中国が半分を負担、残りを参加各国で応分の負担となっているが、最終的には1000億ドルの資本金規模をめざす、という。
中国国家主席の習近平氏が21か国代表を前に行ったあいさつでは、このAIIBについて、アジア地域の道路、鉄道、港湾、電力などのインフラ整備へのニーズが高まっていることを指摘したあと「(世界銀行やADBなど)既存の開発金融機構との相互補完、協力強化によって、アジア経済の繁栄を推し進めたい」と述べた。

11月北京で開催のAPEC首脳会議で
AIIBアピールのため中国が見切り発車説も

中国経済をウオッチしている中国問題専門家によると、中国としては、今回、参加に至らなかった韓国、オーストラリアなどをギリギリまで説得して取り込む意向が強かった。しかし、一方で11月7日から同じ北京で開催予定のアジア太平洋経済協力会議(APEC)に集まる米国、ロシア、日本など関係各国の首脳に向け、中国が世界の成長センターともいえるASEANなどアジア地域でのインフラ資金ニーズに対応するため、AIIBの設立に踏み切ったとアピールしたかった。このため、10月24日の設立覚書調印で見切り発車したのでないか、という。確かに、APEC首脳会議で中国の存在感をアピールするのは重要なことなので、見切り発車した可能性も否定できない。

韓国のAIIB不参加のカゲで中国が執拗な説得?
韓国の動向は大きな関心事

中国の政治的な思惑満載のAIIBと、すでに申し上げたが、実は、中国は、日本と米国が大株主として主導権を持つADBの枠組みにクサビを打ち込むには韓国をAIIBに取り込むことが必要と、執拗に韓国に参加を求めたフシがある。韓国の中央日報紙が6月28日に報じたところでは、中国の王毅外相が今年6月の韓国訪問時に、1か月後の7月3、4日に行われる習近平中国国家主席と韓国の朴クネ大統領との首脳会談でAIIBへの韓国参加を表明してもらえないかと打診した。これに対し米国政府は在韓国米国大使館を通じて「韓国のAIIB参加に深い懸念を表明する」と伝えた、という。

そんな中で、10月のAPEC財務大臣会合後の記者会見で、崔経済担当副首相兼企画財政相が「AIIBに韓国が参加できない理由はない」と、受け取りようによっては参加判断もあり得る発言を行った、というメディア報道があった。崔経済担当副首相は朴大統領の信任厚く、景気低迷下にある韓国経済の政策運営を委ねているだけに、中国の水面下での説得工作があったのかと思ったほどだ。結果的に、韓国は不参加だったが、前回コラムでも書いたように、韓国が政治、外交面で米国と中国との「サンドイッチ状態」にある中で最近、急速に中国接近を続けている現状からみれば、韓国の動向は関心事だ。

中国は巨額外貨準備の運用先にAIIB活用の可能性大、
信頼得る仕組みづくり重要

率直に言って、中国のAIIBには政治的な思惑だけでなく、経済的な思惑も強くある。さきほどの中国経済ウオッチの専門家とも意見一致したが、中国は、人民元高を押さえるためのドル買い・人民元売りの為替介入によって得たドル建て外貨準備が今や4兆ドルに及び、そのドル建て資産の運用先として、このAIIBが登場したことは明白だ。
しかもOECD未加盟のまま、AIIBという国際開発金融機関のフィルターを通して中国主導で仮にルーズなインフラプロジェクト金融が行われると、国際金融秩序を乱しかねない。これに対して、どういった歯止めをかけるかが今後の大きなポイントだ。

インフラ資金がノドから手が出るほどほしい発展途上国側にすれば世界銀行、ADB、あるいはAIIB、さらには日本など個別の国の援助資金でも、資金さえあればいいので、注文をつけることはないが、ADBなどは融資にあたって、どういった資金活用なのか、その効果はどこまで出たか、あるいは返済にあたっての資金確保の態勢はどうなっているかなど、健全性を求める。その点、AIIBは今後、21か国間での話し合いで、どういった資金の運用基準にするのかなど、多くの国々から「これならば安心。あとは任せる」と評価を受けるシステムをつくり得るかどうかが重要になる。

日本は、ADBへの積極的コミットを続ければいい、
AIIBとの二股は考えられない

そこで、日本の立ち位置がポイントになる。私は、日本が経済大国として、戦後のアジアの地域開発金融を担うため、米国と並んで15%の出資比率で大株主としてADBにかかわっている以上、AIIBと二股をかける必要はなく、日本自身の無償や有償の援助、技術協力などを織り込んだODA(政府開発援助)と並んで、ADBの開発金融などにも積極的にコミットしていく現在のポジションを維持していけばいいと思う。

麻生財務相はAIIBに関して、10月24日の記者会見で「AIIBのインフラ支援の考え方自体、悪いことではない。ただ、ADBや世界銀行との役割(分担)をどうすみ分けるのか、運営の仕組みが明らかでない。その保証がないと、大丈夫かなという話になるのでないか」と述べていたが、日本の財政責任者としてはそれ以上踏み込めないだろう。

AIIBに加え、BRICS5か国による新開発銀行誕生、今後は開発金融摩擦も

ただ、現実問題として、今回のAIIBと先行して、今年7月に中国、ロシア、ブラジル、インドなど5か国によるBRICS新開発銀行が動き出している。この開発金融にかかわる新銀行もAIIBと同様、具体的に、どんな運営、事業形態になるのか、はっきりしない。
しかし中国が他のインドやブラジルなどと一緒に、仮に、世界銀行やアジア開発銀行などによる戦後の地域開発金融機関体制などに対する戦後レジームへの挑戦、新たな対抗軸の構築を全面に押し出して、アクションを起こした場合、政治的な思惑が強い実効性の弱い金融機関だと突き放してもいられない。それどころか、既存の世界銀行やADBなど地域開発金融機関との間で開発金融の手法をめぐって、深刻な摩擦が起きる可能性さえある。

貸し込み競争で開発金融基盤が損なわれる事態回避のため、
日本が先進事例を

私自身は、日本の外交戦略軸としては、以前から、2015年12月のASEAN地域経済市場統合をきっかけに、ASEANとの連携軸を強めるべきだという考えでいるが、その面で今後、ASEAN向けプロジェクトをめぐって、今回の中国主導のAIIBなどと開発金融の現場で摩擦もあり得るかもしれない。ただ、その場合、AIIBがインフラ融資の、いわゆる貸し込み競争に陥って、開発金融の基盤を損なうようにしてしまいかねないことだ。そのためにも、日本はADBで培った開発金融ノウハウをベースに、途上国向けのインフラ融資などが健全に運営され、それぞれの国で発展の軸足になるようなモデル事例をつくり、AIIBなどに事例説明していくリーダーシップが必要だ。いかがだろうか。

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