ASEAN10カ国に連携で勢い、2015年共同体設立も決して夢でない 中国経済独り勝ちへの警戒も背景、内向き日本は取り残されるリスク


時代刺激人 Vol. 113

 日本は、国内政治がますます内向きになってしまっていて、大丈夫なのだろうか。というのも、日本の外のアジアでの地殻変動に目を配る余裕がないと、アジア新興国の勢いのある動きに対応できず、取り残されるリスクが高まってくるからだ。私がメディアコンサルティングでかかわるアジア開発銀行研究所での年次総会を兼ねた政策シンポジウムで、東南アジア諸国連合(ASEAN)の大学やシンクタンク、政策立案に関与する人たちの議論がとても熱っぽく、加盟10カ国間に地域差、経済力の差があるASEANながら、目標に掲げる2015年の共同体設立も決して夢でないかもしれないと思えたのだ。

ASEANは、ご存じのように東南アジアのタイ、ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマーのメコン川流域5カ国を軸にインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、ブルネイを含めた10カ国からなる。国家の政治体制はそれぞれ異なるし、経済の発展段階もタイ、シンガポール、マレーシアに比べてミャンマー、カンボジア、ラオスの国内総生産(GDP)、1人あたりの国民所得レベルが低い。そのASEAN10カ国が2年前の2008年12月につくった憲章で2015年までに「安全保障」「経済」「社会・文化」の3つの共同体の柱からなる「ASEAN共同体」を実現すると宣言している。

先行加盟6カ国がリード役、ベトナム除きミャンマーなど3カ国が続くか
 このうち、大きな焦点になっているのがASEAN経済統合だ。この統合の前提となるAFTAというASEAN自由貿易地域(FTA)がシンガポール、ブルネイ、タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピンの先行6カ国でつくられ、2010年までに域内の貿易に関する関税を撤廃して経済面での国境をなくす計画だ。この6カ国は2010年1月20日に中国との間で、貿易取引される品目の90%について関税ゼロにするASEAN・中国FTAという自由貿易協定を始動させており、中国に触発される形で6カ国の広域自由貿易経済圏が出来た。この6カ国がある意味で後発4カ国を引っ張るリード役だ。

ASEAN加盟では後発の残るカンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムの4カ国が足並みをそろえれば、ASEAN経済統合が実現する。率直に言って、ベトナムはここ数年、着実に経済力をつけており問題ないが、残る3カ国が国内に課題を多く抱えているため、絵に描いたモチになるのでないか、というのが大方の見方だ。

それでもASEANでは2015年の「ASEAN共同体」目標に向けて、これら4カ国も2012年までに同じく関税撤廃に踏み切り、先行6カ国に足並みをそろえること、そして最終2015年度までに関税以外の分野でのさまざまな非関税障壁といわれる制度などを外して、文字どおり単一の地域経済市場、経済共同体に持ち込む、という計画を変えていない。あと5年で、政治制度が異なり、経済面での地域差も大きい10カ国が足並みをそろえることが可能なのだろうか、という懸念が残る。

ASEANにとってラッキーなのは中国やインドとの相乗効果で経済に勢い
 しかし、ASEANにとってラッキーなことは、経済のデフレリスクを抱える欧米諸国と違って、経済全体に勢いがあること、とくに中国やインドの経済成長とリンクする形でASEAN地域でも生産や消費の伸びが活発化し一種の相乗効果が生まれていること、ASEAN域内でも貯蓄率も上がっており、今後の経済成長に弾みをつける道路、港湾などさまざまなインフラビジネスへの投資につながっていくことが期待できることだ。

とくに、中国やインド、それに韓国、日本の企業がASEANの相対的に割安な労働力の活用と中流所得階層の消費購買力期待から洗濯機、冷蔵庫、テレビなどの家庭電気製品や小型・軽乗用車、それ以外の生活関連の消費財の現地生産に踏み切ったことが生産と消費のスパイラル的な拡大につながっている。

だから、ASEAN各国としては、域内でスクラムを組んで経済地域としての競争力を強化し、それによって同じ地域内の経済格差を縮小につなげる努力を図るべきだ、というコンセンサスが出来上がりつつある。これは間違いなく経済成長のプラス効果だ。面白いもので、経済に勢いや弾みがつくと、それぞれの国々に貧困や格差など解決を迫られる課題を多く抱えていても、ASEAN全体で連携し広域経済圏をつくり、それぞれが助け合う制度的な枠組みも整えれば、問題解消につながるだろう、という自信を生みだしている。これが同時に、ASEAN経済統合を促進に向かわせるインセンティブ(誘因)になっている。

アジア金融危機がASEAN結束強化、自由貿易協定づくりを促したとの声
 今回のアジア開発銀行研究所でのシンポジウムでは、1997年から98年にかけてアジアを襲った金融危機がASEANの結束力を強め、結果として危機がプラスに働いたことを強調する声が多かった。事実、外貨を互いに融通し合うチェンマイ・イニシアチブ制度やアジア域内で産業資金を調達しあうアジア債券市場づくりなどが出来上がった。そればかりか関税撤廃という、下手をすると国内産業にダメージを与えかねないリスクを呑み込んでもASEANの域内各国間の経済国境を取り外す自由貿易協定の締結に踏み込んだ。

ある経済学者は「自由貿易協定はASEANの域内生産ネットワークの拡大、市場アクセスを拡げる効果をもたらしたが、ASEANと中国、インド、日本などとの協定にとどまらず域内各国が個別に域外の国との二国間での協定も結んだため、俗にいわれるスパゲッティのように絡み合った複雑な協定になってしまっている。この際、自由貿易協定をどう整理統合を含めて管理するかが課題だ」と述べていた。

ASEANを広域連携や成長のプラットフォームにすべきだとの指摘は頼もしい
 しかし、その一方で、米国が主導で新たに登場した環太平洋経済連携協定(TPP)にはマレーシアン、ベトナムも名乗りをあげている。これについては、別の経済学者は「ASEANの自由貿易協定とTPPは対立しあうものでない。補完し合えばいい」と柔軟に受け止める意見も出ていていたのも興味深い点だった。

それよりもASEANも大きく変わりつつあるな、経済の勢いがもたらしたプラス効果だなと印象付けたのは、ASEANという広域の地域経済の枠組みを新たな成長のプラットフォームにしていくべきだという意見、さらには10カ国の政治体制を含めた主権と地域の経済統合をどうするか真剣に考える時期に来ているという指摘があったことだ。いずれも2015年の「ASEAN共同体」を意識した意見だ。
中には、世界貿易機関(WTO)や国際エネルギー機関(IEA)、国際通貨基金(IMF)のアジア版をつくって、アジアが地域レベルで先行して連携の枠組みをつくるのも一案だ、といった声も出ていた。

これだけ申し上げると、ASEANの2015年共同体、経済統合に向けて、少し楽観的過ぎるのでないか、というご指摘もあるかもしれない。正直なところ、私自身はASEAN10カ国の内部での地域差、経済力格差を克服できるか、さらには政治体制が異なる主権国家の経済先行の地域統合がどこまで可能か、今後5年間で一気に、それらの課題を克服できるか、という懸念を持っていることは事実。

アジア開発銀行研究所がアジアの政策担当者に議論交流の場提供は重要
 ただ、このシンポジウムにはASEANの大学教授、シンクタンク関係者らだけでなく中国、日本、豪州、さらにはカナダ、米国のアジア系学者の人たちも加わってのものだったが、公的な地域開発金融機関のアジア開発銀行の戦略シンクタンク、アジア開発銀行研究所が将来の地域経済統合などに向けて、さまざまな課題を克服するためのセミナー、シンポジウム、ワークショップなどの場を提供し議論交流している。

各国の政策担当者が時には同じようにセミナーなどでそれぞれの国の利害を離れて、政策ツールを勉強し、磨き合うこともある。今回のシンポジウムも、そういった意味でASEANの2015年共同体実現への課題に向けての議論交流にはプラスだった、と思う。アジア開発銀行という地域が共通に頼る地域開発金融機関だからこそできる政策調整、議論交流の場の提供かもしれないが、私に言わせれば、日本がいい意味でのリーダーシップをとって、アジア、あるいは地域をしぼってASEANの地域統合に向けた枠組みづくりの手助け、バックアップをすればいいのだ。そうすれば、新興アジアからは頼もしい日本という評価を得る。

ASEANは中国の南下戦略に恐れ、日本に対しバランサ―の役割を期待
 実は、最近、ジェトロ(日本貿易振興機構)のアジア地域事務所の所長クラスからアジア経済の現状を聞く機会があった。私はその場で「いま中国の経済独り勝ちの様相が出てきている。ベトナムがあえてTPPへの参加したのは、ある面で中国の南下戦略、それも経済の高成長を背景にした大国主義的な経済行動へのけん制的な意味合いがあるのでないか。その意味で他のASEAN諸国の中国に対する見方は警戒姿勢なのだろか」と質問したところ、次のような答えだった。

「中国のASEANへの南下戦略、とくに中国企業のさまざまな形での進出を脅威と見る国々が目立つ。日本のプレゼンス(存在)の低下と対照的に中国のASEAN全域での存在はある意味で脅威になっていることは事実だ。タイは中国とインドとのバランスをとりながら対応している面があるが、インドの力があまり及ばないASEANでは日本にバランサー、拮抗力の役割を期待している。しかし最近の日本の動きに関しては期待が裏切られるといった厳しい評価もある」と。

ASEAN諸国にとっては、中国の巨大な市場は、ある面で相互貿易交流の場として重要であり、現にプラスになっているが、その半面で、中国が高成長を背景に経済覇権攻勢をASEAN全域にかけてきて、市場を席巻していくのでないかという警戒心が強いことも事実だ。日本が内向きになってはいないでASEANに連携の手を強くさしのべてほしい、中国の行きすぎた動きにブレーキをかける役割を果たしてほしい、という気持ちがあることは間違いない。みなさんは、この点、どう思われるだろうか。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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