時代刺激人 Vol. 317
牧野 義司まきの よしじ
1943年大阪府生まれ。
毎年冬に3500キロの長距離巡回診療、心のカウンセリングも
森口さんの巡回診療は、話を聞けば聞くほど、ハードな取り組みだ。日本と正反対の真冬の7-9月中に1か月間を費やして、診療バスで3500キロの長距離の旅に臨む。1つの地区から次の地区までの移動だけで12時間かかるケースもある。目的地に着くと、事前連絡で待ち受ける日本人移住者に採尿から血圧、心電図チェック、問診の健康診断を行い、そのあと、移住者が心待ちにする心のカウンセリングだ。状況によって、緊急治療が必要な場合、ドクターヘリを呼んで患者移送の指示をすることもある、という。
森口さんがうれしいのは、巡回診療プロジェクトに日本から遠路ブラジルまで応援に駆けつけてくれる仲間たちがいることだ。客員教授として集中講義する横浜市立大などで巡回診療の話をしたら、大学教授や学生が共鳴し往復旅費30万円を自費負担してでも参加したい、と申し出てくれるのだ。これまで毎年5、6人が巡回訪問をサポートしてくれた。コロナ禍で最近2年間、その応援がストップしているのが残念、という。
日本大使が「草の根支援」で新診療バス、JICAは当初反対
もう1つうれしいことが森口さんにあった。老朽化した巡回診療バスの代替で悩んでいた数年前、当時、駐ブラジル日本大使だった梅田邦夫さんが森口さんの取り組みを高く評価、新鋭診療バス支援に乗り出してくれた。ところが、日本の特命全権大使の要請にもかかわらず、援助にかかわる国際協力機構(JICA)は、ブラジルが今や発展途上国でないため援助対象にならない、との判断で、頑として応じなかった。そこで、梅田さんが一計を案じ「草の根支援」名目で予算要求したら一転、OKが出たという。何とも不思議な話だ。
森口さんは当時、大使の梅田さんが率先して動いてくれた熱意に感動したが、もっとうれしかったのは、巡回診療先の日本人移住者が、新型診療バスの胴体についた真新しい日の丸マークを見てうれしそうな顔をするのを見た時で、自身も同じ気持ちになった。その時、「自分の心は間違いなく日本人だ」と、日本人としてのアイデンティティを感じた、という。
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