民主党の参院選敗因、消費税よりも10カ月間の政権評価でイエローカード 出口調査では消費税増税賛成が多い、自民党リベラルとの連携にチャレンジも


時代刺激人 Vol. 92

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

参院選での民主党の大敗は、選挙前のメディア世論調査での予測を超えるもので、ここまで有権者の厳しい審判が下されたかと驚きだ。菅直人首相は選挙直後の7月12日未明の記者会見で、消費税の説明不足だったことを理由にした。確かに、消費税増税に関して、菅首相が民主党内手続きを踏まず唐突に持ち出したうえ、遊説中での発言にブレがあって政治不信を誘ったことは事実。しかし選挙当日のメディアの出口調査では消費税増税そのものについては、有権者は絶対ノ―どころか賛成が意外に多かった。それに同じく消費税率10%引上げを選挙公約に打ち出した自民党は、民主党とは対照的に大勝している。これをどう見るかだ。

有権者は「期待半分・不安半分」の不安部分が増幅する政権の動きを問題視
 結論から先に申し上げよう。私に言わせれば、今回の参院選は、政権交代した民主党の10カ月間の政権評価がむしろポイントだった。そして有権者は、期待半分・不安半分でスタートした民主党政権の政策にちぐはぐさがあり、時には不安を増幅させる政治も目立ったと判断、そこで、ずばりイエローカードを突きつけ、このまま同じ政治姿勢を続けるようであれば、今度の衆院選総選挙ではレッドカードを出すぞ、というメッセージだった、と思っている。そう考えると、消費税増税問題そのものに対する有権者の意識が「今後の税率引上げはやむを得ない」「賛成だ」といった受け止め方にもかかわらず、民主党が大敗したのもうなずける、と考えられないだろうか。

過去の41回目コラム「新型インフルの感染防止の危機管理で失敗の研究を」で、私は「失敗の研究」を勧めている。過去のさまざまな事故事例を検証し、なぜその事故が起きたのか、現場のヒューマンエラーだったのか、それともエラーを引き起こす組織上の問題があったのかどうかなど、再発を防ぐため事例研究を行うものだ。私自身、NPO「失敗学会」メンバーとして、いろいろな分野の人たちと研究をしており、そこから得た手法だ。

「失敗の研究」で言えばヒューマンエラーよりも民主党の組織行動エラー
 今回の民主党大敗の事例研究に、その手法を当てはめた場合、どうなるだろうか。確かに、鳩山由紀夫前首相、小沢一郎前民主党幹事長の辞任を評価した世論調査で内閣支持率が一気にV字型回復したにもかかわらず、今回の大敗に至ったことを考え合わせれば、菅首相の唐突な消費税率引上げ、それも「自民党案を参考に」といった形で何の議論もなしに税率10%引上げを持ち出した点にヒューマンエラーがあったことは事実。しかし、そのエラーを招いた民主党の組織の体質、組織行動に、もっと問題があり、それらの問題解明と対策に素早く手が打たれなければ、再発する恐れがある、と私は考えている。
端的には鳩山前首相の沖縄普天間基地の移設問題での稚拙な政治手法によって、県外移転を信じてしまった沖縄県民を裏切る結果になったばかりか、小沢前幹事長らの政治とカネの問題の疑惑解明に及び腰だったこと、脱官僚政治や公務員制度改革を大きく掲げながら官僚の天下り禁止問題への対応の後退など言行不一致があったこと、さらには農業の戸別所得補償、子ども手当など家計支援の経済政策もわからないわけでないが、財源確保のめどがないまま政策実行する危うさ、結果として国債増発で財政赤字拡大を引き起こしかねなかったことーーなどが組織行動エラーの部分だ。

朝日新聞・星さんは「民主党の『規律なき体質』が露呈した10カ月だった」と指摘
 私の友人の朝日新聞政治担当編集委員、星浩さんが7月13日付の朝日新聞朝刊「民主党の挫折の先」という企画で、「甘えの政治に決別を」という見出しでポイントをつく指摘をされている。少し引用させていただこう。
「今年度予算の92兆円のうち44兆円が借金だった。膨れる国債残高を減らすメドはたっていない。7兆円規模の無駄を『簡単に割れる』と豪語していたのに、実際は遠く及ばなかった。民主党の現状を見れば、子ども手当をもらっても、国民が『不安になる』のは無理ない」と。この不安とは、もらっている人がいずれ将来、自分たちに財政赤字のツケ回しになって帰ってくると見ているからだ、というわけだ。
さらに星さんは「鳩山由紀夫、小沢一郎両氏の資金疑惑も『辞任で不問』だ。かつては自民党のスキャンダルを執ように追及していたのに、今は身内に甘い。民主党の『規律なき体質』が次々と露呈した10カ月だった。そうした中で菅直人首相が突然持ち出した消費税増税。税金が規律なき政治につぎ込まれることを国民が容認するはずがなかった」と。

政治のねじれ現象はもうたくさん、3年前の党利党略による政治空白は最悪
 この参院選の結果、再び3年前の衆院、参院のねじれ現象が起きることになった。しかし政治のねじれ現象はもうたくさんだ。3年前を思い起こしてほしい。党利党略の政治行動で、日本の政治空白が続き、国会の空転が続いた。しかし日本の周辺地域のアジアで地殻変動が起きている時に、日本の政治が一段と内向きになってしまったら、いったいどうなるのか、日本という国は国内政争に明け暮れてダメな国と烙印を押されかねない。政治家の責任はぐんと重くなってきた。
現実問題として、民主党は負けすぎたために、参院での過半数勢力確保のためには野党との連立の再構築が必要になる。7月13日付の読売新聞が報じたところでは、「菅首相は、与党が過半数割れしたことを受けて、公明党とみんなの党に対し、国会運営での連携を求めていく方針を固めた。首相が12日、周辺に伝えた」という。しかし参院に19議席を持つ公明党は自民党と選挙協力し合った間柄で、にわかに政権党にすり寄る節操のなさを見せるかどうか、またみんなの党も今回の選挙で無党派層の支持をとりつけ11議席を確保したとはいえ、消費税増税に関しては全く反対の立場にあり、政策の部分提携を含めて連携があり得るかどうかだ。

自民党リベラルも党勢弱まっていれば政策連携に耳を傾けたが、現状は厳しい?
 それよりも、こういった異常な政治状況になり、政治そのものが閉そく状況に陥った事態の打開策として、異例中の異例だが、民主党は自民党のリベラル派勢力、端的には加藤紘一元自民党幹事長らに働きかけて、政策連携を通じて、政界再編成につなげるアクションをとるのも一案かな、と私も考えるようになった。とくに、今回の消費税増税問題では菅首相、仙谷由人官房長官、玄葉光一郎内閣府特命担当相らは将来の社会保障財源確保、財政健全化などのために必要との立場で、自民党のリベラル派、マクロ政策重視派の加藤氏らとは同調できる立場にある。
ただ、加藤元幹事長につながる自民党リベラルの中には谷垣禎一現自民党総裁もいるが、谷垣氏自身は今回、自民党大勝で総裁ポスト留任となったので、その職席上、民主党との政策連携に踏み出せるかどうか、極めて難しい。ましてや安倍晋三元首相ら保守派とは民主党現政権は相容れない。同時に、民主党内部でも小沢氏は参院選期間中に「鳩山政権時代に、衆院任期満了までの4年間は消費税率引上げはやらない、と政治公約に掲げたのに、それをホゴにするのは有権者への裏切りだ」と手厳しく批判しており、自民党の一部と消費税増税で政策連携には応じない、といった難しい問題もあるのは確かだ。
ある民主党幹部は「今回の参院選で、民主党がそこそこの勝利をおさめ、逆に自民党が低迷状態だったら、民主党側から、共通の政策部分で連携はどうか、といった働きかけもあり得たが、ここまで大敗してしまうと、自民党を含めた野党側からすれば、解散総選挙に追い込んで一気に政権奪還という行動に移すのが現実的だ」と述べている。

出口調査で消費税増税に過半数が賛成だが、デフレ脱却やムダ歳出削減が先
ところで、今回の参院選で過去にないことが起きたのは、言うまでもなく選挙期間中の増税提案、とくに消費税率引上げは政治的にタブーだったのが、今回、タブー視されなくなったことだ。とくに自民党が選挙公約で10%の消費税率引上げを大胆に掲げ、民主党も菅首相が「自民党案を参考に」と消費税増税に踏み込んだことだ。
それに冒頭に述べたとおり、メディアの出口調査では有権者の過半数が今後の消費税率引き上げについて「賛成」もしくは「やむを得ない」としていることは興味深い。具体的には読売新聞の出口調査で「近い将来、消費税率引上げが必要だ」と答えた有権者が全国で61%にのぼった、という。また朝日新聞の出口調査では必要派が49%、必要ないと答えた不要派が42%ときっ抗したが、東京都内という大都市地域に限定すると消費税増税必要は53%だった。また毎日新聞の出口調査では約60%が消費税率引上げに賛成だった、という。もちろん、私自身、この増税に関してはタイミングが重要で、引上げ前にデフレ脱却が最重要と考えるし、みんなの党が主張するように世論の納得を得るには増税前にしっかりとしたムダな歳出の削減が最重要だ、と思う。

関連コンテンツ

運営会社

株式会社矢動丸プロジェクト
https://yadoumaru.co.jp

東京本社
〒104-0061 東京都中央区銀座6-2-1
Daiwa銀座ビル8F
TEL:03-6215-8088
FAX:03-6215-8089
google map

大阪本社
〒530-0001 大阪市北区梅田1-11-4
大阪駅前第4ビル23F
TEL:06-6346-5501
FAX:06-6346-5502
google map

JASRAC許諾番号
9011771002Y45040