トヨタの品質問題検証どころでない、日本のモノづくりにも大きな警鐘 電気自動車が好例、新興国はモジュール型組み立て技術で日本に揺さぶり?


時代刺激人 Vol. 75

 さすがグローバル展開する世界でもトップランクのトヨタ自動車(以下、略称トヨタ)だけに、リコール(不具合や故障のあるクルマの回収・無償修理)問題で日本どころか世界中のメディアが連日、大きく報道している。その報道は、トヨタの品質管理が十分だったと言えるのか、という問題に始まって危機管理に課題を残したこと、消費者対応の遅さにまで及び、いずれも手厳しい批判だ。2月24日の米議会公聴会での豊田章男トヨタ社長聴取が当面のヤマ場となり、経済ジャーナリストとしても目が離せないが、再度、トヨタの問題を取り上げよう。今回は、アングルを変えて、トヨタの品質問題を冷静に見た場合、実は日本のモノづくりへの大きな警鐘にもなっている、という点を指摘したい。
 えっ、どういうこと?と思われるだろう。結論から先に申し上げれば、今回のトヨタ問題の教訓は、海外に進出して現地生産などを通じてグローバル展開する日本のモノづくり企業、メーカーにとっても無関係でない重要な問題が浮かび上がったということだ。その1つが、カイゼンなどを通じて品質管理に厳しかったトヨタでさえ、「設計複雑化」という生産のカベにぶち当たり、日本のモノづくり企業の強みだった名工、職人的な「すり合わせ」技術を駆使した生産が限界にきた可能性があること、そして今後は中国など新興経済諸国から「モジュール化(部品組み合わせ)」技術による簡単な生産手法によって凌駕(りょうが)されるリスクが強まってくるのでないだろうか、ということだ。これは実はかなり重要な問題であり、あとで、もう少し詳しく申し上げる。
もう1つは、グローバル展開するモノづくり企業にとっては、海外の生産拠点で進出先の国との摩擦回避で現地雇用、現地部品調達など、いわゆる現地化を進める問題と関連して、精密さを要求される部品などの品質管理をどこまで徹底できるかどうかということ、とくに今回のトヨタの場合を見ても、海外生産拡大路線を強めた結果、いわゆる戦線が延び切ってしまいトヨタの生命線とも言える品質管理の徹底がルーズになったのでないかということだ。言ってみればキーワードは現地化という問題だ。

電気自動車が主流になればトヨタの精緻な「すり合わせ」技術車にとっては脅威
 まず、問題提起した2つのうち、最初の問題から始めよう。私は、今回のトヨタの問題を見ていて、二酸化炭素の排出など環境に有害なガソリン車に代わって、地球環境にやさしい電気自動車が時代の主流になってくる場合、電気自動車はモーターや電池などの組み合わせ加工でつくれるので、中国やインドなどの新興経済諸国が、さまざまな地域や国からかき集めた優れものの部品などを相対的に賃金コストの安い労働力を使って完成品にすることは十分に考えられる。それが一気に加速すれば、精緻な「すり合わせ」技術でハイブリッド車などをつくってきたトヨタにとっては、大きな脅威になるな、と思っている。
そんな問題意識で取材していたら、野村総研の北川史和さんらが書かれた「脱ガラパゴス戦略」(東洋経済新報社刊)でも取り上げていた。参考になるので引用させていただこう。「日本企業が得意とする“すり合わせ”の技術を(電気自動車は)ほとんど必要としない。ある程度の部品さえ調達すれば、誰でも簡単に組み立てることができる。長距離走行に耐えられるかどうかといった性能上の違いがあるにせよ、より安価でつくろうと思えばいくらでも可能なのだ。電気自動車が普及してくれば、世界中で新規参入組が続々と登場する可能性がある」と。

日本のエレクトロニクス衰退はモジュール化が一気に進んだことが原因との指摘も
 また、経済産業省OBで、現富士通総研取締役エグゼクティブ・フェローの根津利三郎さんも2月18日付の読売新聞コラム「談論」で同じく問題提起されている。日本のエレクトロニクス産業衰退の理由が2つある、とし、その1つが、調達した部品を組み合わせて生産する「モジュール化」が一気に進んだことで、それによって電機産業は急速に競争力を奪われた、という。
そして根津さんは「自動車業界でも同じことが起きかねない。今回のトヨタの新型プリウス問題などでブランド力がそがれ、その処理がもたつけば、北米だけでなく中国、インドなどの成長市場でも韓国などに優位を奪われる懸念がある」という。まさに、そのとおりだ。根津さんはさらに踏み込んで「自動車は幸い、すり合わせを駆使した『統合一体型』の生産方式をおおむね維持できていたが、モジュール化の芽はすでに出始めている。(モジュール化の広がりに対抗できる)高い技術力や信頼を維持しなければ電機の二の舞になる可能性もある」と指摘している。
 日本のモノづくり企業、産業の強みは依然として精緻な「すり合わせ」の技術にあることは今も変わりない。とくにトヨタは、レクサスやプリウスといった技術の粋を極めたとも言える高級車を作り出せる技術力、品質管理力などがずば抜けていた。そればかりでない。トヨタは、それらの最高レベルの高級車を大量生産できる生産力を持っていたことがすごいことで、米ゼネラルモーターズ(GM)などを追い抜いて世界トップランクに躍り出る大きな要因となった。

「すり合わせ」技術は日本企業の戦略的な強み、モジュール化との融合も
 だから、トヨタはもとよりだが、日本のモノづくり企業、産業も、この戦略的な強みに磨きをかけ、競争力の優位さを保つ努力を続けることは必要だ。間違いなく重要だ。だが、その一方で、いま述べてきたように、「すり合わせ」技術の対極にある「モジュール化」というさまざまな部品を組み立てる技術の台頭に対して、その技術をどう取り込むか、また日本のモノづくり企業が得意な「すり合わせ」技術との融合をどう進めるか、あるいはその部品の部分に付加価値をつけたり、他の国々が真似のできないすごい技術特化をはかれるかどうか――などがポイントなのかもしれない。
この分野では専門家で、私自身、とても尊敬する東大教授、東大ものづくり経営研究センター長の藤本隆宏さんが今回のトヨタ問題では2月12日付の朝日新聞、18日付の読売新聞に引っ張りだこでコメントされている。藤本教授は「(トヨタは)設計複雑化という魔物に力負けした。すり合わせ型で、設計要素群が複雑にからむ自動車は、機能も不具合も非線形的に発現し、問題の与件が難しい。今回も制御ソフトという本命、他はアクセルペダルという伏兵だった」と。

藤本東大教授「『現地現物』の徹底、『問題発見・解決』の風土などトヨタらしさを」
 しかし、藤本教授は「今後の自動車産業はエコカー、高級車など先進国向けの『複雑系』と、新興市場向けの低価格な『単純系』の車の両面戦略が必要になる。それに勝つには内向きにならず、『現地現物』の徹底や『問題発見・問題解決』の風土など、トヨタらしさをよりオープンな形で取り戻すことが大切だ」という。
とはいえ、「モジュール化」が進めば、アッセンブリー(組み立て)企業が幅をきかせ、人件費を含めてコストの安さを武器にするところが勝つばかりか、競争力を強め、「すり合わせ」などで技術力を駆使していたモノづくりのメーカーは、ことコスト競争力の面では太刀打ちができなくなるジレンマに陥る。これはトヨタに限らず日本のモノづくり企業、産業に共通する大きな課題だ。
 さて、もう1つは現地化にからむ経営戦略の問題だ。今回の問題で、トヨタ幹部だけでなく、トヨタOB、さらにトヨタと取引がある大手商社の人たちなどに、いろいろ話を聞いたが、それらの中でいくつか興味深かったのは、トヨタがかつて、米国で摩擦回避だけでなく経営拡大路線のために生産工場を増やしトヨタの部品調達の合理的効率化システムのカイゼンや品質管理などのトヨタ方式を現地の米国人に教え込み徹底する人材の供給が追い付かなくなった、明らかに戦線が延び切るリスクが増大した、ということがある。

トヨタの経営拡大路線で「トヨタ方式」の徹底など現地化が追い付かず?
 またまた引用して恐縮だが、米国人ジャーナリストのウィリアム・ホルスタインさんが著書「GMの言い分――何が巨大組織を追い詰めたか」(PHP研究所刊)で、GMの問題に関連して米国でのトヨタの失敗に言及している。「トヨタが『成長痛』を感じているという最初の兆候は2004年秋のことだ。伝統的に内政重視の企業が突如、26カ国に26万人の社員を抱えることになった。トヨタはどうやってその成長を管理するのか、そしてどうやって日本の本部と外国地域との間の決定権のバランスをとるのに悪戦苦闘していた。米国市場の大きさのせいで、日本と米国の間のバランスはとくに不安定だった」という
トヨタは、グローバル展開するにあたって、これまでトヨタの経営理念やカイゼンなどのトヨタ方式を世界中の現地工場で、それぞれの現地の人たちに教育、研修を含め周知することに関して、ある面で現地化のモデル企業のようなところがあったはず。たとえばタイにあるトヨタ・モーター・エイシア・パシフィック(TMAP)という研修センターは有名で、世界各地の現地法人や生産工場から中堅幹部を含めて人材を集め、さまざまなトヨタ方式のトレーニングをしている。
グローバル展開する企業にとっては、当然のことかもしれないが、今回のトヨタのリコール問題では米国での現地部品調達面で、日本の系列部品メーカーのデンソーの部品とは質的に落ちる米国企業の部品が問題を引き起こした。タイの研修センターにとどまらず、それぞれの国々でトヨタ技術の移転に関しても、しっかりやっていたはずなのに、問題が起きたというのは、経営拡大路線のとがめだったのか、ちょっとした現場の品質管理の徹底に緩みが出ていたのか、現時点では定かではない。しかし、現地化に課題を残したことは事実だ。それは、ひとりトヨタの問題ではなく、日本のモノづくり企業、産業にも共通する課題とも言える。いかがだろうか。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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