信じがたい!中国の大気汚染緩慢対応 日本の協力提案になぜNO,尖閣が影響?


時代刺激人 Vol. 212

 中国の大気汚染は深刻の度を深め、北京など中国国内だけでなく、今や日本はじめ周辺国にも風向きによって、影響が出てきている。日本としても看過できない問題で、明らかに中国政府の責任問題だ。中国は都合のいい時だけ世界に向かって、経済大国を誇示しておきながら、誰もが求める人間の安全にかかわる問題に関して、対応が緩慢なのは、中国共産党政府の統治能力のなさを示している、と言われても抗弁できないだろう。

経済大国を誇示しながら対策放置では共産党政府の統治能力が問われる
 それに加えて、中国政府も狭量だなと思うのは、日本政府が最近、外交ルートを通じて、過去の日本の公害対策の教訓をもとに、協力を申し出ているのに、それに対して応じようとしないことだ。内政干渉されたくないと、メンツにこだわっているのか、あるいは尖閣諸島問題で日本とは緊張関係にあるので、応じられないというのだろうか。いずれにしても周辺国にまで被害を放置するのは、人道上の問題で、許されるべき問題ではない。

実は、北京オリンピックがあった2008年の1月の寒い時期に、私は先輩のジャーナリストと2人で中国に環境や省エネルギー問題の取材で出かけた際、今ほどの大気汚染のひどさでなかったものの、同じような空気の悪さを体験した。中国の環境問題には強い関心があり、今回は、当時の取材体験も含めて、最近の大気汚染問題を取り上げよう。

大気汚染の複数の汚染源を特定し、
徹底した規制強化するのが先決
結論から先に申し上げよう。中国政府は、まず、大気汚染に関する複数の汚染源を特定して、その規制策を大胆に講じるべきだ。汚染源が複合要因で、特定できないために対策が打てない、というのは逃げでしかない。環境問題を優先する結果、経済成長がダウンすることを中国政府が危惧しているとすれば、それもおかしな話で、国民の生活安全重視、そして周辺国への配慮を前面に押し出すべきだ。
それと、環境や公害問題では先に進んでいる日本の教訓に学び、東アジアの大気汚染対策で連携をとることが必要だ。それらに踏み込んで対応すれば、さすが経済大国・中国だと評価されるのに、そのことに踏み込まないというのは残念なことだ。

中国の春節(旧正月)休みで、日本に一時帰国していた中国の政策研究をしている友人の話を最近、聞いて驚いたことがある。数年前の有害粉ミルク事件の時には、生産メーカーが特定できたので、中国政府は、企業に対して生産中止など責任追及したが、今回の大気汚染の場合、汚染源がこれだ、という決め手を欠くため、北京中央の共産党政府は、積極的な行動に出られないでいる、というのだ。それは明らかにエクスキューズ、言い逃れで、責任回避でしかない。国家の責任というものをどう考えているのだろうか。

ロイター通信「環境基準強化に抵抗の国営企業2社、複雑な政治力学」と指摘
そんな矢先、私がかつて勤務したロイター通信が2月3日の北京発で、なかなかポイントをつく記事を発信した。記事のヘッドラインは「深刻化する中国の大気汚染、背景に複雑な政治力学」。これだけで、何が問題か、理解できよう。記事によると、「悪化する大気汚染の背景には、環境基準の強化に抵抗する国営企業2社、中国石油天然ガス集団(CNPC)と中国石油(シノペック)の存在が浮かび上がっている」という。

さらに、その記事は「中国の環境保護省とCNPC、シノペック2社の間では、お役所的なやりとりが行われるだけで、大気汚染の主因とされる自動車用ディーゼル燃料の環境基準強化は遅々として進んでいない。大気汚染の原因は他にもあるが、この2社が腰を上げないうえ環境基準に無関心であることが、権限のさほど強くない環境保護省が直面する試練を浮き彫りにしているとアナリストらは指摘する」という。

環境保護省の規制強化にシノペックなど2社は口約束で終わったまま
中国の大気汚染問題を読み取る上でのポイント部分なので、ロイター通信記事をもう少し引用させていただこう。
「大気汚染問題をめぐる国営企業と(行政機関の)省庁の綱引きは、何年にもわたって続いている。環境基準の強化が何度も遅れていることに業を煮やした環境保護省の張力軍次官は、2011年後半にCNPC、シノペック2社の幹部らとの会議で、これ以上、基準の強化を遅らせるつもりはない、と明言した」
ところが「2社の幹部は、これに対して2012年の旧正月以降にクリーンな燃料を供給すると、誓約したが、環境保護省が数か月後に検査したところ、2社は依然として通常のディーゼル燃料を供給していた」という。

シノペック会長の自助努力発言受けた国務院の規制強化策、
なぜ前倒しできない?
 最近の北京での別の現地報道では、シノペックの傳成玉会長がメディアに対して北京や上海などの一部大都市を除き、全国で供給しているディーゼル燃料の基準「国3」を、2014年からワンランク高い「国4」にすると表明した。要は、国営石油会社としても自助努力で対応する、というのだ。この「国3」は、専門家によると、硫黄含有量を150ppm(1ppmは100万分の1)以下にしたディーゼル燃料のことで、比較的質のよくなく、今回の汚染源の1つだ、と言われている。

中国の国務院は、このシノペック会長発言に連動するかのように規制強化策を発表した。タイミングがよすぎるが、それによると、2014年末までに硫黄含有量の排出基準を3倍厳しい「国4」にする、さらに2017年には欧州の排ガス規制基準「ユーロ5」に相当する「国5」を義務付ける、というのだ。中国は国家社会主義と資本主義的な市場経済化を巧みに使い分けて、急成長を遂げてきたが、こと、環境規制強化に関しては、社会主義の部分を前面に押し出して、規制実施のスタート年次を2014年、2017年をそれぞれ1年前倒しするぐらいの強い姿勢で臨むべきでないか。

「世界トップランクの法規制だが、運用面で二重基準、ザル法だ」
という専門家発言
2008年に環境問題や省エネルギー問題の取材で中国を訪問した際、中国の環境問題を研究している中国人の大学教授が声を落として「わが国は、日本の公害問題の研究を進め、その学習効果によって、大気汚染防止法などしっかりとした法律を持っている。だから外国から、法整備の問題を指摘されれば、胸を張って誇れるほどトップランクの法体系だ。ただ、問題は、その法律の運用でいろいろ問題があって、対応が遅れている」と述べたのを、今でもよく憶えている。

その大学教授によると、中国は、2008年の時点で、公害や環境悪化に積極的な取り組み姿勢を示すため、大気汚染防止法や水質汚染防止法などの環境規制に関しては、たとえば汚染物質の排出基準も厳しく決めた。問題は、外国向けにアピールするための厳しい規制のため、中央レベルは対応可能ながら、地方政府レベルで混乱が生じかねないとの判断から、ダブルスタンダードにした、というものだった。明らかにザル法と言っていい。

5年前と変わらず二重基準のまま?
工場排水汚染公害で地方政府も対応に苦慮
 最近、早大中国塾という日本と中国の人たちの民間交流の場があり、そこに来ていた中国の人に、この話をぶつけて、大気汚染防止法は5年前と現在では変わったのだろうか、と聞いた。すると、「地方政府レベルでは現在、工場排水汚濁など公害問題が噴出しているが、地方政府は、経済成長と環境対応の問題をどうバランスさせるかで、苦悩しており、中央レベルの厳しい規制基準を打ち出せないはずだ。たぶん、基本的に変わっていないと思う」という話だった。十分に、あり得る話だ。

しかし、今回の北京を中心にした中国の大気汚染の深刻度は、春節で日本に一時帰国した私の友人のみならず、中国の人たちの話を聞いても、相当なものがある。北京はもともと地形から言って盆地みたいな場所なので、大都市全体に汚染物質が空中に滞留しかねない。「北京市内を歩いていても、濃霧で視界不良になるほどだから、汚染物質を吸い込んだら、ぜんそくなどの健康被害にとどまらず、肺がんなどのリスクも大きい」と、早大中国塾に来ていた中国人の人は述べていた。

駐中国米大使館のPM2.5独自公表は面白い、
北京市当局が「内政干渉」と怒る
 今回のメディア報道で、私も初めてPM2.5という微小粒子状物質の存在を知ったが、現地の中国と東京とでは、深刻度が全く違うのは当然だ。その点で言えば、個人主義が非常に強い中国の人たちがなぜ、北京市の共産党委員会や中央の共産党委員会を突き上げるような動きに出ないのか、信じられない。共産党当局は、大気汚染防止対策の不備などで社会問題が次第に政治問題化することを恐れて、至る所で、不審な市民などの動きに目を光らせているのだろうか。もしそうならば、社会主義という体制自体が問われかねない。

失礼ながら、思わず笑ってしまったのは、北京の駐中国米大使館がPM2.5の検出値を毎日、インターネットのウエブサイトで公表し、それが北京市当局の数値と違いが出たため、北京市当局が神経質になり「内政干渉だ」と発表中止を求めた、という話だ。公表する数値によって、米大使館は「不健康」という判断が出るのに対し、北京市当局が公表する数値では判定が「良」となっため、北京市民の間で北京市当局が不安感を植え付けないようにと、数値を改ざんしたのでないか、という声も出ている、という。

半ば大気汚染放置では中国の威信が問われる、
と日本はさまざまなアドバイスを
中国当局が厳しい検出値を示して、それに見合った対策を機敏に、たとえば北京オリンピック当時と同じように、市内に乗り入れする自動車の偶数、奇数規制を行うとかの対策をとるのがスジなのに、米国大使館に「内政干渉だ」という申し入れしかできない、というのは、全く残念なことだ。
今後、北京市民から自国政府への政治不信がぐんと広がったら、どう対応するのだろうか、と思う。そういった意味でも、冒頭に述べた政府としての大胆な規制強化策を打ち出す時期に来ている、と思うが、どうだろうか。いま、中国は間違いなく、国家としての威信が問われるぞ、と言いたい。

日本は、内政干渉だ、といった批判が仮に、中国側から出ても、気にすることはない。中国に対し、今回の大気汚染での協調行動の申し入れをすればいいのだ。メディア、それもネットメディアを使って、いま、中国が大気汚染問題で孤立するようでは、中国の威信が問われますよ、経済大国に見合った責任を果たしたらいかがですか、とアピールすればいいのだ。そして、公害対策での日本の経験をしっかりと伝え、「中国よ、大人になれ」と強く言えばいい。そして、中国が経済成長か、環境か、といった二者択一にこだわっているのであれば、日本の1960年代後半から70年代前半の公害対策の一方で、省エネ対策を積極的に取り入れ、日本が安定成長に弾みをつけたことも教訓として言えばいいのだ。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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