日本企業モデルは少量・多品種経営? 「気配りミラー」コミーの中小経営にヒント


コミ―株式会社
代表取締役
小宮山栄

時代刺激人 Vol. 144

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

女子ワールドサッカー・ドイツ大会での「なでしこジャパン」優勝は本当にすばらしい。死闘とも言える厳しい闘いぶりもすごかったが、あと数分で試合終了と言うギリギリの逆境下で何と2度も同点に追いつき、最後はPK戦で跳ね返すたくましさは感動的だ。

東日本大震災や原発爆発事故で日本中を覆っていた重苦しい空気を払いのけてくれる快挙だと言っていい。日本中に元気を与えてくれた「なでしこジャパン」には思わず感謝、感謝という気持ちでいっぱいだ。今回の試合ぶりにはドラマがあったうえ、苦難を乗り越えようとする日本人選手の不屈の闘志があった。この点は、日本のみならず世界中の人たちに感動を与えたのは間違いない。日本はまだまだ、捨てたものでない。

「なでしこジャパン」と同じく「山椒は小粒でもピリリ」企業に
そこで、今回のコラムでは、この日本女子サッカーチームと同じようにハンディキャップを克服し、アイディアと技術力で「山椒は小粒でもピリリと辛い」のたとえどおり、たくましい経営によって高収益を実現する中小企業の経営にスポットを当てようと思う。

ポイントは、今後の日本のものづくりに携わる中堅・中小企業のビジネスモデルが、少量・多品種・高品質生産で高利潤をあげるべきだという点、また「秘伝のタレ」とも言える独自技術の特許をいち早くとってブラックボックス化し、それを強みにする、こうすれば大企業の系列に入って下請け生産で必死に生き残りを図るといった従来パターンから抜け出し、アクティブな企業経営が行えるのでないか、という点だ。

韓国は優れもの技術持つ日本の非上場オーナー企業に照準
この「少量・多品種・高品質生産で高利潤」というビジネスモデルの考え方は、私の友人で、愛知淑徳大学ビジネス学部教授の真田幸光さんが企業の現場体験を踏まえて日ごろから主張されている点だ。私も、まさにそこが日本のものづくり企業のポイントと思っている。時代を刺激するキーワードという形で、ぜひ活用させていただこう。

その真田教授と話していたら、面白い話を聞いた。日本を追いつき追い越せで必死だった韓国企業が最近、後発の中国企業から急速に追い上げられる立場にあり、その対策として優れもの技術を持つ日本の中堅・中小企業のうち、株式非公開かつオーナー企業で資金繰りに窮する問題企業に照準を当て、経営連携を狙っている、という。
中国企業も同様に必死だ。国際競争力確保のため、日本企業の買収や経営連携によって品質管理技術などの獲得を狙う行動に出ている。そこで、日本のものづくり企業の成長戦略とからめ、韓国や中国に対抗するビジネスモデル再構築の問題もレポートしてみよう。

コミーはアイディアと技術で世界オンリーワンの特殊ミラー企業
今回、ご紹介したいのは、埼玉県川口市に本社のあるコミ―株式会社だ。社員がわずか16人の中小企業だが、小宮山栄さんという、ぼくとつな、でも人との出会いを大事にする理系社長のアイディア力と技術力を武器に、実にユニーク経営によって、今や世界的にオンリーワンの特殊ミラー(鏡)メーカーに成長した企業、と言っていい。

実は、このコミ―は、今年元旦に放送のテレビ「NHKスペシャル」が「新たな日本ブランドを売れ」というタイトルで取り上げた企業の1つで、第116回のコラムでもちょっぴり紹介した企業だ。しかしジャーナリストの好奇心で、その後、小宮山さんに2回会い、話を聞いているうちに、日本の中小企業の新しいビジネスモデルだと感じ、中国や韓国の企業との競争とのからみで、再度、違ったアングルで取りあげてみようと思った

ローテクではなく特殊な技術を装備したハイテクのミラーが強み
コミ―のミラーはガラス素材の鏡ではなくて、特殊プラスチック、アクリルを素材にしており、ハンマーでたたきつけてもビクともせず壊れない。それ以外にも数々の特殊技術を装備し、磨きをかけている。低レベル技術のローテクではなくて、ハイテクを駆使している。ここに、中小企業といえども、コミ―の最大の強みがある。

小宮山社長は、信州大工学部卒業後に入社した大手ベアリングメーカーを脱サラし、いくつかの仕事を経て看板会社を創業する。1975年、重力摩擦方式による回転装置の発明技術を活用して、たまたまディスプレイ用に、と開発した回転式のミラーを「回転ミラックス」と名付け東京晴海で開催のビジネスショーに出展したら、万引きチェック用に有効という意外な市場評価で、スーパーマーケットやコンビニから注文が入った。

旅客機内のミラー、当初はテロ不審物チェックの注文で驚きも
そこで、コミ―は、広角度にいろいろなものを見ることが出来るようにさまざまなミラー製品をつくったら、一気に需要が増えた。こうして、コミ―はミラー専業メーカーに経営の軸足を移していく。

小宮山さんによると1996年に面白いことがあった。旅客機の客室座席の上にある手荷物入れボックスの忘れものをチェックする新ミラー設置の話だ。軽量でフラットタイプのFFミラーの開発を手掛けていた時期で、小宮山さんの発想では「死角を生かす気配りミラー」がポイント。ところが航空会社側はテロの不審物チェックがらみでコミ―のミラーに関心を示し、ニーズ把握にとまどいがあったが、ボーイング、エアバス社も活用法がわかって注文を行い、今や主要な国際線旅客機にはほとんど搭載されている、という。

少量・多品種・短納期型生産なので、大量注文に対応できないのが悩み
コミ―のミラーは、人の出会い頭の衝突防止などさまざまなニーズに応え、300種類以上の商品がある。年商は5億円。従業員は16人、パートタイマーを含めても30人弱だから、従業員1人当たりの売上高や利益は相対的に高く、高収益企業の部類に入る。
問題は、需要やニーズが高まっても生産能力を大きく拡大する路線展開でなく、あくまでも少量・多品種・短納期が経営の基軸を守るのが小宮山さんの考え。このため、規模拡大の利益は期待できないのが課題だが、基本路線を変えずに今後も続けて行く、という。
小宮山さんは「コミ―の経営は、顧客満足度を追求するのでなく、むしろユーザー満足度を高めることを大事にする。役に立つ商品をたくさんつくって売ることが基本」で、2週間の無料貸出制度もつくってユーザーの納得が得られるようにしているという。

オンリーワンの強みで高利潤生産に徹すれば日本で外貨稼ぎも
真田さんが述べるとおり、「少量・多品種・高品質生産で高利潤をあげる」経営は、日本のものづくりの中堅・中小企業にとっては必須のビジネスモデルだろう。この経営を貫けば、何も人件費などコストの低さ、安さを求めて中国やベトナムなど新興アジア市場に生産拠点を移さなくても、日本国内でオンリーワン技術を駆使して少量多品種に徹すれば、海外からの引き合いにも応え日本国内で外貨もたっぷり稼ぎ出せるかもしれない。
中堅・中小企業が大企業の系列を離れて、「秘伝のタレ」のようなオンリーワン技術をうまくブラックボックス化して、このビジネスモデルで生き残りを図るというのは重要な経営の選択肢だ。その点で、コミ―の経営手法は1つのヒントになる。

日本の内需が人口減少などでパイそのものが小さくなってくれば、大量生産・大量消費の高度経済成長時代のビジネスモデルが間尺に合わなくなってくる。しかも日本の産業成長を支えていた自動車、エレクトロニクスの2つの主力産業を見ても、イノベーションという基軸の変化を促す技術革新によって、大きな変革を迫られつつある。

21世紀はイノベーションが進み20世紀スタイルは通じない
先日、あるIT(情報技術)セミナーで、ソニーからグーグル役員を経て、新たなベンチャービジネスを立ち上げた辻野晃一郎さんの話は、その変革にからむもので、興味深いものだった。要は、家電、エレクトロニクス1つをとっても、20世紀の高度成長時代に日本の家電産業は大きな強みを発揮したが、21世紀に入ってインターネットの時代になり、かつクラウドコンピューティングという時代になると、テレビはクラウドと連携して新しい展開が求められつつある。その対応が出来ているか、という点だ。

同様に自動車もガソリン車から電気自動差への時代に入り、その先を見据えると、トヨタ自動車がつくるような車とは全く異なるイメージの車が出てくる可能性がある。まさに新たなイノベーションの時代に入りつつある、というのだ。
そうなると、自動車を頂点にしたピラミッド構造のすそ野にいる数多くの自動車部品企業も、真田さんが指摘するような技術力を駆使して「少量・多品種・高品質・高利潤」の経営展開で生き残りを図る、ということが必要になるかもしれない。

「秘伝のタレ」とも言える独自技術のブラックボックス化が必要に
そんな中で、冒頭部分でちょっと申上げた韓国の企業が、日本の優れもの技術を持つ企業のうち、株式非上場のオーナー企業で、資金繰りに窮したり、人材難で苦しんでいる企業を物色している、という話に触れておこう。真田さんがいくつかのところで聞いたという話以外に、私も似たような話を耳にした事があるので、かなり水面下で進んでいる可能性が高いし、十分にあり得る話だ。

この話の背景は、韓国のサムスン電子のような企業の強み、端的にはブランドイメージを高めるマーケッティング力や新興市場での現地化戦略、とくに機能を単純化した家電製品を割安価格で、かつ現地ニーズに対応して、コーラン機能がついたテレビをイスラム社会で低価格販売するといったやり方でシェアを拡大させたが、今後、中国が同じ手法でさらに低コスト化を図れば太刀打ちできない、ということだ。

韓国企業は中国追い上げ対抗策に躍起、日本はどうする?
そこで、韓国企業は、マーケットで資金力を武器に買える有形資産の技術ではなくて、「秘伝のタレ」のようなブラックボックス化された無形資産の技術を持つ日本企業と経営連携することが重要になってくる。ただ、真田さんによると、韓国企業は、強引な買収攻勢によるハゲタカ的なやり方では反発を招くので、資金繰りに窮するオーナー企業などに対しソフト路線で資金提供をエサに経営協力を申し出るやり方をとるだろう、という。

こうしてみると、日本の大企業のみならず中堅・中小企業も新興アジアという巨大な成長市場の魅力があるにしても、どういったグローバル戦略でもって、これら韓国や中国のしたたかな企業戦略、攻勢に対抗するか、実に悩ましい。まさに踏ん張りどころだ。

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