ドル安不安消えず為替介入は限界 むしろ超円高対応の経済構造に


時代刺激人 Vol. 148

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

欧米の財政・金融不安がなかなか収まらない。それどころか深い闇に突っ込んでいると言った方がいい。最強の経済大国と言われた米国は、巨額財政赤字という構造問題にメドがつかず、外国為替市場では先行き不安からドル売りに弾みがついている。米国株式市場も乱高下を繰り返す不安定な状況だ。しかも、金融市場の不安心理は同じく国家財政に不安を抱える欧州共同体(EU)にも連鎖し、共通通貨のユーロ安などに及んでいる。

ドル売り・ユーロ売りで日本円がなぜか「安全資産」と逃避先に
あおりで、なぜか日本円が「安全資産と言えそうなので、一時的な逃避先に」という市場の思惑でもって買い進まれ、今や主要通貨の中で独歩高となった。8月16日現在、1ドル=76円台の史上最高値のレベルに張り付く異常な事態だ。しかし、われわれからすれば、日本経済は未だにデフレ脱却ができないまま、経済がゼロ成長を続ける状況なのに、なぜ日本円が買われるのか、おかしいじゃないか、という気持ちが強い。輸出企業にとっては、この円高によって、為替面での輸出競争力を失い、収益が悪化するばかりだ

まさに現状は、ドル安の裏返しの円高だが、財務省と日銀は8月4日、東京外為市場で4兆5000億円という過去最高規模のドル買い・円売りの為替介入を行い必死に円高に歯止めをかけようとした。この為替介入は、日銀の追加的な金融緩和策とリンクする形で行われたため、外為市場関係者の間では政府・日銀は行き過ぎた円高阻止には本気でいる、と受け止められて円売りを誘発し、一時、2円ほど円安方向に動いた。

日本政府の円高阻止の為替介入も米国債格下げで効果切れ
ところが、その後、強烈なドル売りが再び進む事態が起きたため、円はそれに引っ張られる形で円高方向に戻ってしまったのは、ご存じのとおりだ。そのドル売りの引き金は、日本の為替介入2日後の8月6日、米国の格付け機関スタンダード&プアーズ(S&P)が、世界で最も安全資産と言われていた米国債の格付けを引き下げたためだ。勝手格付けのようなものだから、無視してもいいようなものだが、金融市場では米国経済の先行き不安が再燃し、ドルや株式などが売り浴びせられてしまった。

何のことはない。4兆5000億円もの巨額介入は、わずか数日の効果しかなかった。世界の金融市場は、容赦なく冷酷に、かつ身勝手に行動するとはいえ、日本政府の必死の抵抗も、わずか数日の効果しかもたらさず、円は巨大な外為市場に呑み込まれた形だ。

そこで、今回は、円高の問題を取り上げよう。過去のコラムでも取り上げたことがあるが、今の円高はドル安の裏返しであり、そのドル安に歯止めをかける手立てが米国政府で大胆に講じられない限り、ズルズルと円高の深みにはまっていく。どうすればいいか。

ベスト対策は円の国際化だが、日本政府が半ば政策放棄
ベストの対策は、日本が円の国際化に踏み切ることだ。海外との貿易取引や金融取引に円を決済通貨にするだけの決断を日本が行えば、今のような為替変動リスクに振り回される「呪縛」から解き放たれる。円の国際化は、私が毎日新聞経済記者時代に、声高に叫ばれたテーマだ。ところが企業も輸出取引で円建て進めたが、輸入取引ではリスク回避でドル建てというチグハグな形をとったため、なかなか国際通貨になり得なかった。

しかも肝心の日本政府が、面従腹背と同じで、口では円の国際化を言いながら、現実は有価証券の決済システムの整備に二の足を踏んだり、外国人投資家などに不利な税制を残したりしたので、国際経済社会で信認を得られなかった。その後、日本経済がバブル崩壊のあと、長いデフレに陥り、経済自体が半身不随状況のため、国際通貨として名乗り上げる勇気もなくなったか、日本政府が半ば放棄してしまっている。

米国は「強いドル」にこだわらず、むしろドル安容認も
そうすると、あとの選択肢は現状の為替変動リスクにさらされた状況を甘受するか、あるいは超円高にも耐え得る経済構造にシフトする手立てをとるかどうかの2つしかない。結論から先に申上げれば、私は、ここまでの厳しい事態に来たら、超円高にもひるまない、びくともしない経済構造に切り換えることを真剣に考える時期にある、という考えだ。

本題に入る前に、現状の為替変動リスクにさらされる状況を甘受、という事態がいかに日本経済にとって不安定な状況をもたらすかについて述べておこう。率直に言って、米国経済は今や財政悪化の重圧に身動きがとれにくくなり、かつてのように厳然と「強いドル」にこだわることもなく、逆に半ばドル安を容認せざるを得ない状況になりつつある。このため、円の世界から見れば、際限なくドル安・円高のリスクの可能性が高い。

大胆な金融緩和効かず、日本と同じ失われた10年に陥るリスク
最近の欧米経済、とくに米国の経済状況を見ていると、日本がバブル崩壊後、失われた10年どころか20年に入った状況に陥ろうとしているように見える。まさに日本化現象だ。日銀がゼロ金利政策、そして非伝統的な金融政策と言われる量的緩和政策まで持ち出して大胆な金融緩和を行っても、さっぱり経済のデフレ脱却が進まなかった。米国も今、それと同じ状況にある。

端的には米連邦準備制度理事会(FRB)は8月9日に開いた金融政策決定会合にあたる米連邦公開市場委員会(FOMC)後に、「現在の異例の低金利(政策金利を0~0.25%に据え置く)を少なくとも2013年半ばまで継続する可能性が高い」と声明を出した。これはサプライズだった。FRBのバーナンキ議長らはかつて、日本の金融緩和政策が生ぬるいと批判していたが、いつの間にか、同じワナに陥ってしまっているのだ。

クーさん指摘のバランスシート不況と酷似、ドル復権は望めず
これはまさにバランスシート不況だ。私の長年の友人で、現在、野村総研主席エコノミストのリチャード・ク―さんが名付けた経済現象だが、要は企業セクター、それに家計部門の至る所が、ジャブジャブの金融緩和に対してバランスシート調整を先行させ、借金の返済、債務の縮小化に向かうため、資金需要、投資需要が生まれない。金融機関は貸し付けようにも需要が出てこず、国債などに運用するので、経済は再生しない。その結果、何が起きるか。米国経済は、かつての日本と同じように失われた10年の世界に陥る可能性が高くなる。となればドルの復権はますます望めそうにない。

逆に、ジャブジャブの金融緩和で市場に出回ったマネーは米国内での行き場を失いゴールド(金)はじめさまざまな商品や資源の先物買い、さらに新興アジアにも向かう。今やインド、ブラジル、それに中国へ投資もしくは投機マネーが押し寄せて、これらの経済が過熱しインフレになってきている。

特に、中国は自国に来る投資マネーが人民元買いを通じて自国通貨高になるのを回避のため、ドル買い・人民元売り介入を行う。ドル建ての外貨準備は今年3月末現在、3兆447億ドルという巨額のものとなり、うち2兆ドル近くを米国債、米政府機関債などに投資運用しているが、今回の急激なドル安で、保有ドルの目減りは馬鹿にならない。

榊原さん「効果期待できない為替介入は無意味」、いっそ復興資金に活用を
ドル安が半ば定着する中で、日本政府が行き過ぎた円高の阻止のために為替介入を行っても、今回の8月4日の介入のように、あっという間に効果が打ち消されてしまう。ある為替ディーラーは「自分から言うのもおかしな話だが、巨額のマネーが動きまわる今の外為市場で、日本が単独介入しても、為替の大海に介入液を一滴ポトリと落とす程度でしかない。本気で立ち向かったら、財政は破たんの危機に陥りかねない」と述べる。

現に、財務省の財務官時代に「ミスター円」というニックネームがついた同じく友人の榊原英資青山学院大学教授は最近、「私が現役のころは立場上、かなり大胆に為替介入操作をしたが、最近の為替動向を見ていると、為替介入しても効果が出ないように見える。効果が出ない介入は意味がない」と述べている。

これほどの巨額介入資金があっという間に効果なしとなるならば、最初からムダな使い方をせず、東日本大震災の復興資金に回すべきでないだろうかと言いたくなる。

超円高対応で決め手はないが、コマツは海外売上比率上げて対応
さて、問題は超円高にもびくともしない対策をどうとるかだ。待てば海路の日和あり、という言葉をご存じだろう。じっと待っていれば海は静かになって航海に適した日がやってくると言う意味で、あせらずじっくり待っていればいい、というもだが、このマーケットの時代、スピードの時代、グローバルの時代に、そんな悠長な対応姿勢ではいられない。今後さらに円高が進んでも、モノともしない日本経済に変えていくしかない。

そこで、私が以前のコラムで取り上げた建設機械のコマツは1つのビジネスモデルになる。コマツの坂根正弘会長がセミナーで講演されたり、著書「ダントツ経営――コマツがめざす『日本国籍グローバル企業』(日本経済出版社刊)での問題意識、経営面での取り組みは参考になる。坂根さんによると、海外にも、国内にも強い、つまりは経済危機がどちらで起きてもリスクヘッジ出来るような経営にすることが大事で、コマツは売上高も利益も、海外、国内で、相応に稼ぎだす経営体質にしている、という。現に、今回の円高局面でも、コマツが極度に影響を受けないのは、円高で輸出競争力が落ちたと見ると、海外生産の比重を上げ、コスト競争力を維持するのも1つだという。

円高活用のM&Aや「少量・多品種・高利潤」を武器にする戦略も
さらには、グローバルな過当競争状況を防ぐために、今のような円高の時には海外の企業の合併や買収(M&A)も選択肢となる。コマツは過去の円高局面では米国のナンバー2の企業と一緒に海外の有力大手建設機械の買収を行ったというが、最近、武田薬品工業もスイスの製薬大手を何と1兆1000億円の巨額資金で買収するなど、日本企業の間で円高を逆に活用してのM&A戦略に広がりが出ている。

とはいえ、円高対応で海外に生産拠点を移す、といったことが簡単に出来ない中堅・中小企業にはコマツのようなやり方は難しい。しかし、以前のコラムで紹介した愛知淑徳大学ビジネス学部教授の真田幸光さんが指摘される「少量・多品種・高品質生産で高利潤」というビジネスモデルを生かし、日本のものづくり中堅・中小企業が単独、もしくは経営連携して、日本に居ながらにして外貨を稼ぎだす、というやり方もある。

同じコラムで述べた「秘伝のタレ」とも言える独自技術の特許化で、いち早くブラックボックス化し、それを強みにするというのも、ぜひ主張したいポイントだ。有形資産は市場でカネにまかせて買われてしまうが、無形資産であれば、大きな強みを持つ。それが世界でのオンリーワン技術につながるものであれば、強みに磨きがかかる。超円高になっても、海外から注文がやってくるのでないだろうか。ピンチをチャンスに、の発想が必要だ。

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