韓国経済ビジネスモデルは正念場 ウオン高に中国追い上げで苦境?


時代刺激人 Vol. 254

ぜひ取り上げたいと以前から思っていたテーマがある。韓国経済の問題だ。折しも最近、韓国GDP(国内総生産)の20%超を占める巨額の連結売上高を持つサムスン企業グループの中核企業、サムスン電子経営に赤信号がつき、その収益悪化が韓国経済のダウンサイドリスクを増幅させかねない事態となった。

ぜひ取り上げたいと以前から思っていたテーマがある。韓国経済の問題だ。折しも最近、韓国GDP(国内総生産)の20%超を占める巨額の連結売上高を持つサムスン企業グループの中核企業、サムスン電子経営に赤信号がつき、その収益悪化が韓国経済のダウンサイドリスクを増幅させかねない事態となった。韓国経済に計り知れない影響力を持つサムスン電子の今回の収益悪化は、私の見るところ、構造的な問題をはらんでいる。そこで、この際、正念場に来た韓国経済のビジネスモデルといった視点で取り上げたい。

中国企業がスマホ低価格攻勢、
サムスン電子が中国市場シェア食われ収益悪化

具体的に申し上げよう。今回のサムスン電子の経営悪化は、ウォン高による輸出価格面での競争力低下だけでなく、急速に追い上げてきた中国企業の低価格スマホの販売攻勢に対応できず、販売シェアを奪われたことが響いた。このため最近公表になった今年7-9月期の連結営業利益は、過去最高益だった前年同期に比べ60%ダウンした。しかも前年実績を下回ったのが今回を含めて4四半期連続となった。事態は深刻なのだ。

サムスン電子経営をウオッチしている、ある専門家の話によると、収益悪化の最大の原因は、サムスン電子が中国市場で圧倒的シェアを誇っていたギャラクシーシリーズの機種に対し、中国企業が低価格帯のスマホ新機種を次々に出し、シェアを着実に奪い始めたためだ。とくに、中国聯想(レノボ)、中国小米科技(シャオミ)、さらに中国華為技術(ファーウェイ)が競い合うように低価格で、しかも品質や技術面でサムスン電子と大差がない機種で迫った、という。中国ファーウェイは9月下旬に韓国市場での新機種発売を表明し、国産志向が強い韓国で積極販売攻勢をかける、という。中国の攻勢は相当なものだ。

中国が韓国ビジネスモデルを真似て、
「サンドイッチ状態」の韓国の背後で揺さぶり

サムスン電子にとって、今回のことは構造問題をはらんでいる、と冒頭に申し上げたが、それは、中国の民間企業が相対的に割安な中国国内の労働力や設備という武器を活用するだけでなく、水平分業によって他の国の技術力も駆使して低価格スマホを生みだし、高価格機種にこだわる韓国のすぐ背後にまで迫って揺さぶりをかける事態に至ったのだ。

韓国はこれまで、行く手に常に厳しい競争を強いられるライバル日本企業がいる一方、すぐ後ろに、自分たちのビジネスモデルを真似て追い上げる中国がいて一種の挟み撃ち状態、つまり「サンドイッチ状態」に陥っていたのは事実。
ところがサムスン電子は「中国企業は恐れるに足らず」と過信したのが判断ミスとなった。スマホはサムスン電子の最大収益源だっただけに、中国とのシェア争いに敗れたりすれば悲惨な事態になりかねない。しかし日本企業が高みの見物をしている余裕はない。食うか食われるかのグローバル競争のもとで、日本も生き残る戦略を見つけることが重要だ。

韓国シンクタンク幹部が以前指摘していた
「韓国サンドイッチ状態」説に現実味

この韓国の「サンドイッチ状態」問題については以前、私がメディアコンサルティングでかかわるアジア開発銀行研究所主催のアジアシンクタンクサミットで、韓国シンクタンクの幹部が今回のサムスン電子の事態を予言するかのように話したのを憶えている。

その幹部によると、韓国は、「サンドイッチ状態」のうち日本に関して、サムスン電子が技術力のある日本企業をターゲットに、追いつき・追い越せ作戦で必死に取り組んだが、現実問題として、基礎技術力などで日本とは決定的な差があることを知り、技術の模倣に切り替えた。その代わりグローバル市場で現地ニーズに対応したマーケッティング力、ブランディング力を生かした販売戦略によって独自のビジネスモデルをつくりあげ、見事、テレビなど家電製品分野でグローバルシェアを確保した、という。
日本には技術力で差がついていても、水平分業で日本やそれ以外の国の技術の模倣を行うことで十分。むしろグローバル市場でのマーケッティング力など、日本の弱み部分でリードしてシェアをとる作戦が功を奏した、と述べたのが印象的だった。

韓国企業が日本の技術力ある企業を物色?
とくに非上場、財務体質悪い企業を

ところが、そのシンクタンク幹部によると、韓国は「サンドイッチ状態」のもう一方の側にいる中国企業を軽視する姿勢があるのは気になると当時、言っていた。いずれ中国が、割安の労働コストなどを武器に低価格攻勢で来ることは分かっていたが、価格競争要因以外の分野で、まだまだ勝てるという判断が韓国企業にあった。韓国は中国の巨大な消費市場に地理的にも近いメリットことに目を奪われ、市場攻略に力を注ぎ、中国企業の追い上げに関して、十分な対策を講じなかった。中国企業の追い上げを軽く見ていると、いずれ苦境に立つリスクがある、と当時、語っていた。それが今、現実化しつつあるのだ。

その時、韓国シンクタンク幹部は、ジャーナリスト感覚で言うと、極めて興味深い面白い話をしていた。ちょっと紹介しよう。韓国企業のうち、サムスン電子など資金力ある企業は優秀な技術者をヘッドハンティングしたり、研究開発投資に資金をつぎ込んだりして技術力確保に走るが、その余力が十分でない企業は、いずれ中国企業の追い上げに直面するのを意識して、対策として、技術力のある日本の中堅企業を探し出し、買収をかけずに互いに連携しようと持ちかける可能性がある。その場合、ねらい目は非上場の同族企業で、財務体質がよくなく、後継者難にあえいでいる企業だ。弱みに付け込む、というわけではないが、連携交渉するにしても攻めやすいのでないか、と言うのだ。

韓国サムスン電子のイ・ゴンヒ実力会長が
2007年に「サンドイッチ」論を展開

そんな中で、林廣茂同志社大学大学院教授が書かれた「日韓企業戦争――生き残るのは日本か韓国か」(阪急コミュニケーションズ刊)をたまたま読んでいたら、サムスン電子のイ・ゴンヒ会長が2007年1月の記者会見で「サムスン電子が大きくなったのはいいことだが、20年後が心配だ。中国が追い上げ、日本は先に行く状態で、韓国はサンドイッチ国家になりかねない」と発言した、というのだ。この点は何とも興味深い。

林教授によると、当時のサムスン電子は半導体、液晶テレビに偏った経営で、それなりの利益を出していたが、イ・ゴンヒ会長は、この偏りが不満だったようで、韓国サンドイッチ国家論を持ち出し、以前から声高に主張していた「妻と子供以外は全て変えよ」という革新経営の徹底を求め、技術優位や商品デザイン優位のイノベーションを現場に迫ったのでないか、という。ただ、現在は体調を崩して入院中のイ・ゴンヒ会長が「20年後が心配だ」と言ったことが、2007年当時から8年後に現実化し、サムスン電子そのものビジネスモデルが問われる結果になっている。

サムスン電子など韓国企業が事態放置すれば、
ビジネスモデル自体が問われる

今回のサムスン電子の経営赤信号の問題は、圧倒的シェアを誇っていた中国などのスマホ市場で、中国が激しい追い上げを見せ、とくに低コストの労働力などの活用と合わせて、他の国々のスマホ技術を巧みに使って一定の品質も維持したうえで低価格機種体系をつくりあげて、韓国の牙城である高価格のギャラクシーシリーズのスマホ分野に攻め込んで販売シェアを上げてきたことにポイントがある。サムスン電子もこのまま指をくわえて、じっとしていることはありえないだろうが、レノボ、シャオミ、さらにファーウェイといったスマホ分野で着実に力をつけるこれら中国企業が、新興アジアに対して、一定の品質を維持しながら低価格を売り物にして攻勢をかけたら、間違いなくサムスン電子のシェアが切り崩される可能性も出てくる。まさに、韓国企業のビジネスモデル自体が問われる、という事態になるかもしれない。

官民一体の輸出立国政策で来た韓国政府にあせり、
「日本病」化を恐れる?

この財閥系企業グループ、サムスン電子の経営赤信号は、韓国経済全体の浮沈にかかわる。韓国政府は、狭い国内市場に頼っていては先行き展望がない、と輸出立国政策を前面に押し出し、時に市場介入による通貨ウォン安誘導を行ってサムスン電子などの輸出戦略に同調するなど、官民一体の成長政策で経済運営してきた。ところがここで主力輸出企業の落ち込みが目立つと経済にはボディブローとなってくるのだ。

そればかりでない。悲惨なセウォル号沈没事件で、犠牲者への哀悼の気持ちが多くの国民の贅沢消費自粛をもたらし、内需全体を押し下げる事態になってしまった。そこへ、サムスン電子など輸出企業の経営悪化によるマクロ経済への影響は深刻視せざるを得ない。いま、韓国政府当局者が恐れているのは、日本がバブル崩壊後に長期経済停滞に陥ってデフレ脱却に苦しんだ「日本病」に、韓国も次第に巻き込まれるリスクだ。
現に、朴韓国大統領の強い要請で今年七月、緊急経済対策を託され就任した崔経済担当副首相兼企画財政相は、総額四〇兆ウオン(円換算四兆円)の財政資金でテコ入れに踏み出した。その際、崔副首相は「韓国経済の現状は、低物価や低成長という日本の『失われた二〇年』の初期のころに似ている」と述べたのだ。それだけに、今回のサムスン電子収益悪化は経済にダウンサイドリスクをもたらしかねず、韓国政府当局としては、苛立っているのは間違いない。

サムスン電子役員経験した吉川氏
「日本のものづくりは市場ニーズ対応が重要」

さて、日本企業の今後の対応は、どうすればいいのか、しっかりと考える必要がある。なにしろ、「サンドイッチ状態」にあった韓国企業が中国企業の追い上げによって、グローバル市場でのシェアを仮に大きく落とした場合、これまでのビジネスモデルをどう再構築するのかが問われてくるが、日本にとっても、その問題は他人事ではないからだ。

日立製作所などでの勤務体験がサムスン電子から評価を受け、ヘッドハンティングによってサムスン電子の経営にかかわったあと、東京大ものづくり経営研究センター特任研究員で日本の製造業の在り方を研究しておられる吉川良三氏は最近の著書「ものづくり維新」(日経BP社刊)の中で、興味深い指摘をされているので、少し引用させていただこう。
「日本のものづくりは、技術力を売りにしてきただけあって『秘伝のタレ』のような技術を持っている企業が多数あります。それを上手に活用して、利益を生み出すことが出来なかったのは、市場のニーズを見て、利用したがっている人たちに届けるための戦略がなかったからだ」という。

経営の意志決定を速めよなど
「世界で勝ち抜く10か条」提案が参考になる

そして、吉川氏は「世界で勝ち抜くための10か条」として次の点を挙げている。1)「どう造るか」よりも「何を造るか」を重視すべし、2)(経営の)意志決定を速めよ、3)品質は松竹梅を造り分けよ、4)市場となる地域を根本から理解せよ、5)特殊部品へのこだわりを捨て、汎用品で製品を売れ、6)リバース・エンジニアリングはクリエイティブである、7)検査は「不良コスト」と考えよ、8)QCDの考えは造り手の都合にすぎないことを自覚せよ、9)海外に技術を積極的に出して仲間を増やせ、10)「個」の強い人財を育てよーーという。
なかなか参考になることが多いが、日本のものづくりがたくましい競争力をつけて、世界で羽ばたくことには誰も異存がない。問題は、韓国や中国にない独自の強みを生かして、どうタフなものづくり企業を生み出すかだろう。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

Share this article

URL

Follow us on

Twitter FaceBook

関連コンテンツ

運営会社

株式会社矢動丸プロジェクト
https://yadoumaru.co.jp

東京本社
〒104-0061 東京都中央区銀座6-2-1
Daiwa銀座ビル8F
TEL:03-6215-8088
FAX:03-6215-8089
google map

大阪本社
〒530-0001 大阪市北区梅田1-1-3
大阪駅前第3ビル23F
TEL:06-6346-5501
FAX:06-6346-5502
google map

JASRAC許諾番号
9011771002Y45040