「成功につながる失敗」とは?三自の精神から始まるクリエイティブな革命たち
キヤノン電子株式会社
代表取締役社長
酒巻 久
目まぐるしく変化する社会情勢。そんな時代にこそ、その先を読み、己の信念と緻密な戦略のもと、大胆な決断をくだす賢者たち。
人生のさまざまな局面で、彼らは何を考え、どんな選択をしてきたのか。
親会社のキヤノンから、再建を任されたキヤノン電子株式会社の酒巻久。独特のアイデアと手法で、次々と改革を行った、その戦略とは。
蟹瀬今、パソコンがなかったら、うまくいかないのはないですか?
酒巻いや、パソコンをなくせばというのは、パソコンがないというのは今世の中では通用しないわけですよね。だからパソコンで遊んでるのをなくせばですね。
それで、パソコンで一つの例は、例えば男性でも女性でもそうですけど、昔は暇だとお茶汲みの場所へ行って騒いで雑談してるか、女性と一緒に騒いでるかだったんですね。今はそれの代わりにパソコンで遊んでしまうんですね。
津島ええ。
蟹瀬覗くとゲームしてたりとかっていうことありますよね。
酒巻ゲームですね。大体、社員でパソコン使ってるのを平均すると、3割は遊んでるんですよね。
津島そんなにもなりますか?
酒巻ええ、それはログを調べればわかりますから。
蟹瀬テレビ局はもうちょっと多いかもしれない。
津島多いかもしれません、よく見ます(笑)。
酒巻3割の遊んでるのを減らすだけで、生産性は3割まだ上がるんですよね。
蟹瀬なるほどですね。
津島その分。
酒巻ええ。
蟹瀬で、この例えばキヤノン電子で無駄をなくしていったと、実際に数字として、どのぐらいその無駄がなくなったというのはあるんですか?
酒巻社員には短い言葉を何回も説明することが大事ですよね。で、要は分かりやすい言葉でやらなければいけないということで、無駄をなくせばというのではなくて、無駄をなくすというよりも、今現在どのぐらいの無駄の量があるかというのを数値で表せば一番いいわけですよね。
そうすると、今はインターネットがそういうときは非常に発展してますから、いろんな情報を見ると、大体利益率で高い会社、例えば利益率が20パーセントぐらいといったようなアメリカの優良企業というのは、売り上げに対して無駄が大体7パーセントから10パーセント以内だったら、1,000億ですと、大体70億から100億ぐらいの無駄しかないんですね。で、逆に計算していくと、1パーセントの会社というのはどのぐらいあるかというと、200億から300億の無駄が単純計算するとあるんですね。そうすると、その無駄をなくしていけば、毎年なくしていけば、売り上げ1,000億で20パーセントにはなるはずですよね?
蟹瀬なるほどですね。
酒巻それを掛け算が、要するに10年で割ればちょうど等分、分かりやすくなりますから、その分をやって。で、2点間を通る線って一本しかありませんので、そこに直線を引くと。で、それに向かってやりなさいと。
蟹瀬なんか工場のスタッフに対しては、時間の無駄をなくす装置までつくられた?
酒巻それは時間の無駄っていうより移動の無駄ですね。要するに、工場でもどこでもですけど移動をしているとか、移動時間というのが最も無駄では大きい無駄なんですね、仕事してないわけですから。工場に行って、車がガサンコガサンコ走ってガチャガチャ人が走っているんのがすごい活気があっていい工場だというのは間違いなんですね。それは無駄なんですね。走ってるということは、仕事してないということなんですよね。
蟹瀬具体的にはどういうことをなさったんですか?
酒巻だからとにかく今までゆっくり歩いてる人間を速く歩かせるよということですね。だから、ゆっくりゆっくり歩いてるやつを、とにかく移動時間は必要だから、だったらそれを速く歩きなないと。で、速く歩くって、「歩け」と言うと歩かないに決まってますんで、5メートルを3.5秒以内で歩かないと、ベートーベンの『運命』が鳴るようにね。
蟹瀬ダダダダーンって鳴ってしまうんですか?
酒巻そうなんですね。
蟹瀬それ鳴らないように、じゃあみんな急いで歩くと?
酒巻そうですね。それを全工場でやるってことですね。
酒巻会社でこういうスピードで仕事をしてほしい、
酒巻そういうのを体験してもらうコーナーですね。
この装置は目標とする生産性を達成するため、5メートルを3.6秒の速さで歩くことを体で覚えさせるために、社員のアイデアで制作。これによって実際に生産性が上がったという。
酒巻それは、一見効率良くしてるようですけど、要するにそれの全工場で速さっていうのを一定にしといてくれないと工場っていうのは回っていかないんです。
蟹瀬確かにシステムとしてはですね。
酒巻そう、動かないんですね。だから人間が同じペースで動いてくれれば、完全に効率よくなるんですね。
蟹瀬それはちょっとなんか怖い感じがしますけども。
津島驚きました(笑)。
酒巻いや、これは遊びですからね(笑)。
キヤノン時代に歴代の経営者からさまざまなことを学んだという酒巻。
最近ではベンチャー起業の経営コンサルティングも行っている。
蟹瀬さて、酒巻さんはもちろんご自身が経営者、それからたくさんの経営者の方をご覧になってきてますよね? 特にまず最初、キヤノンの歴代のトップを見てきて、これはやっぱりすごいなと、なんか感じられたことというのはどのあたりなんですか?
酒巻とにかく一番経営者でありふれた言葉で言うと、その洞察力ですね、洞察力というのは非常に難しいことではなくて、易しいとこを何個か見て、それを組み合わせたらばこんなふうになるっていう、そういうコロンブスの卵風な感じでものが見れる人が、やっぱり経営者では最も大切な能力ですね。で、キヤノンの歴代見てると、そういう意味での洞察力っていうのが、やはり非常に優れてる人が多いですね。
蟹瀬その他の要素としてどうですか? 社外のかたがたもご覧になって。
酒巻一番大切なのは、その次だと人間性でいきますと自己に厳しい人ですね。自分に甘い人っていうのが大体、自分に甘くて部下に厳しいっていうのは会社を悪くしますよね。
蟹瀬そういう人のほうが多いかもしれないですよね、実際のところですね。
酒巻だから自分が厳しい。ですから、私どももそうですけど、キヤノン本体も一番早く来てるのは御手洗会長ですからね。8時半始まりで御手洗会長だと7時にはもう来てると思いますよ、会社に。われわれもキヤノンにいるときは8時半というと、大体7時前に会社に行って、それで部下が来る前に鍵を開けて全部部下が来るの待って、雑談してから社長報告に行くっていう、そういったパターンですね。
蟹瀬なるほどですね。そうすると全体も引き締まってくるし、『まず隗(かい)より始めよ』というようなイメージになるわけですよね。
酒巻そうですね。ですから、今、キヤノン電子でも8時半始まりですけど、私どもも、それでも私も大体7時ちょっと前には会社へ行ってますね。
蟹瀬それと、今は特に若いベンチャーの人たちはIPOなんかすると、一気に大きなお金が入ってきて、それが自分のお金と会社のお金の区別がつかないというようなケースも多いですけども、ああいうことに関してはどうなんですか?
酒巻ベンチャーで、日本のベンチャーとアメリカのベンチャーと区別は別問題として、日本のベンチャーでいくと、今おっしゃったように、自分の金、要するに他人の金を預かって、それをちゃんと大きくして返さなければならないっていう、そういう意識を持った人が100人に1人ぐらいしかいないんですよね。私もいろんな付き合いがありますね。
そうすると、何がっていうと、そういう意識を持った人は、大体成功するんですね。だから非常にベンチャーはお金をいろんな集めて、で、それを家族で使う、自分で使ってしまう、周りと使ってしまうと、要するに遊びに使ってしまうんですね。要するに、本当に社員に投資して、会社に、次のところに投資するという、おっしゃたように公私の区別がつかなくなっている人が大概ほとんどだと思いますね。
蟹瀬これはやっぱり重要なポイントですよね。それと、今ずっとお話伺ってくると、幹部の意識改革というのは一つありますよね? もう一つ、やっぱり社員全体の意識改革というのはあると思うんですけども、このへんは具体的にはどういうことをするといい、あるいはなさってきたんですか?
酒巻結局、いい会社というか、いい会社か悪い会社かって、会社、企業で話しすれば、悪い会社というのは、大体丸投げ方式の会社なんですね。要するに、上が言われると、言ってもやらない、言われたからしょうがないからやるかというので、自分で前向きに動かない会社が大体1パーセントぐらいの会社なんですよね。
それで、いい会社というのは、言われると、自分で言われる前から自分がこうしたらいいんじゃないか、こうしたらいいんじゃないかっていう、そういうふうに考えてる会社が大体利益率で20パーセントぐらいの会社なんですね。ですから目標として私がやったのは、その自分で考えるくせですね。
蟹瀬自分で考えるくせですね。
酒巻ええ、要するに目標に向かって、例えば先ほどのやつで、私が出した方針は、1999年に出したのは、世界のトップレベルの高収益企業になろうって言ったわけですね。で、高収益というのは、利益率、経常利益ですね、税引前で20パーセントですよって言ったんですね。
それで、そのために何をすればいいかっていったらば、なんでもいいから今の効率を倍にしてくださいっていうことなんですね。で、じゃあ倍にするのをどうしたらいいんでしょうか?こうしたらいいんでしょうか?って質問が来るような会社ではだめなんですね。
蟹瀬自分でじゃあこうしよう、ああしようと、考えていくというですね。
酒巻そうです、自分で考え、例えば効率倍にすれば現場でネジを4本締めてるのに4秒かかってる人が、どうしたらそれを半分になりますか?という質問ではなくて、現場の人が、じゃあ4本を今4秒かかってるけど、どういうふうにやったら2秒になるかっていうのを自分で考える……。
蟹瀬提案していくような?
酒巻そうです、そういう形に変えれば、企業って儲かるのではないかっていうことなんですね。
蟹瀬酒巻さん、最近はベンチャー企業なんかのコンサルティングというのでしょうか、これもなさってるということですけれども、経営を見ていく上で重要なこと、あるいは場合によっては再建をしなければいけないというようなケースもあるでしょうね。
蟹瀬どのあたりがポイントになってくるんですかね?
酒巻ベンチャーは、いろんな知り合いの関係で頼まれるんですが、いい会社は大体来ないですからね。
蟹瀬今、何社ぐらいやってらっしゃいますか?
酒巻今、ベンチャーだと6社ぐらいですかね。お金はもらいませんけど、一切、手弁当ですので。なぜお金をもらわないかというと、お金をもらうと相手がお客さんになるわけですね。そうすると言いにくいことが言えなくてお世辞を言わなければいけないですね。
蟹瀬確かに。
酒巻ただでやってる分には「ふざけるな」って、「俺はただで来てんだぞ」って単刀直入に言えますね。で、ベンチャーで成功するかしないかって、これ私のいろんな感覚でたくさんの会社見てて言えるのは、やっぱり人間が素直な人ですね、成功する会社っていうのは。
それは、この人が言ってることは、本当だろうかって、要するに本当だなっていうのが直感的にわかったら、その人の言うことを確実に聞いてって、俺は違うよ、その意見は言うときは言うっていう、そういうこと。
でも成功しない人っていうのは、多少意固地の人間で、素直ではなくて、言われたら聞くけど、俺は違うよ、俺は違うよって、要するに過去にたくさん失敗の経験を持って、それを援助してくれる人間の言葉を聞き流すっていうタイプの人が多いんですよね、ベンチャーの人は。で、そういう方は大体失敗しますね。
やっぱり人間性ですね。偶然お金集めたやつを、それをどう生かすかっていうのは、要するに預かったお金を大事にして、それは必ず倍にして、あるいはなんらかを付けて返さなければならないという、そういう意識を持ってる人かどうかですね。
蟹瀬きちんとし使命感と義務感ということになるんでしょうかね。
酒巻そうですね。
蟹瀬さて、時間のほうもだいぶなくなってきたんですけども、酒巻さんご自身、今後の夢というか展開というか、どういうことをお考えになっているんですか。
酒巻私も今、ハードウェアの会社ですけど、で、徐々にソフトウェアの会社というかIT関係のほうに入ってまして、これは若いときの私の夢なもので、そちらのほうにもうちょっと展開をしていって、で、バランスの取れたというんですか、要するに好不況にあまり影響を受けないような、そういう会社にしていきたいなっていうのが夢ですね。
蟹瀬どこまでも会社と社員、それを思ってやってらっしゃると。
酒巻そうですね。その社員にいかに高い給料をあげられるかっていうのが、私の最高の希望です、夢です(笑)。
蟹瀬いい社長ですね(笑)。
津島本当ですね。
蟹瀬今日はどうもありがとうございました。
津島ありがとうございました。以上、今週のゲストは酒巻久さんでした。
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