本格始動した「クールジャパン」は大丈夫? アジアで見聞の「クールコリア」はしたたか


時代刺激人 Vol. 232

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

いま日本の食文化が海外で評価を受け、存在感を見せているのは、とてもうれしいことだ。実は、私が最近、タイ、カンボジア、ベトナム、ミャンマーのメコン経済圏諸国、それにシンガポールに調査旅行で歩き回った際、いくつか立ち寄った日本食レストランで、興味深い光景に出会った。

アジアで日本食レストランが現地の人たちに大好評、
存在感をアピール
 どの店も、現地の人たちが数多く食事に来ていて、しかもおいしそうに談笑しながら食べていた。むしろ日本人駐在員や旅行客の姿を見つけ出すのに苦労するほどだった。すっかり現地の人たちの間で定着していると言っていい。これはかつてなかった現象だ。

「日本食はおいしいから来ている」だけでなく、安全・安心、清潔、品質のよさ、それに「いらっしゃいませ」といった元気のいい声が店内に響き渡るなどサービスのよさに対する評価だ、という現地の人の声も聞いた。日本食文化は単なるブームではなく、定着してきたな、存在感を見せているな、と率直に感じた。

お寿司、日本ラーメンなど専門店が目立つ、
味だけでなく安全・安心、清潔が評価
 もちろん、ブームにあやかって日本食レストランの看板を出しているな、という店も数多くあった。メニューを見るまでもなかったが、話のタネに、いざチャレンジしてみると、案の定、日本食が持つ繊細さ、味へのこだわりなどにはほど遠く、見よう見まねの日本食だった。これが日本食だとみられると、イメージダウンだなと思ってしまう。かつてカナダ―のバンクーバーや米国西海岸のロサンゼルスなどでも、同じような店に出くわした。

しかし、今回のアジアの訪問国のうち、タイ、ベトナム、シンガポールでちょっと驚いたのは、日本食ならば何でもありのごちゃまぜメニューの日本食レストランではなくて、専門食メニュー、端的には「寿司」「天ぷら」「日本ラーメン」「そば・うどん」「焼き鳥」などを前面に押し出していた点だ。言ってみれば、現地の人たちには日本食への選好度がいろいろ高まっているわけで、それに見合った出店形態なのだ。間違いなく日本食の存在感が出てきた、と言っても、決して言い過ぎでないほどだった。

官民連携の「クールジャパン機構」は巨額資金つぎこみ何をやるのか興味津々
さて、前置きが長くなってしまったが、実は、今回のコラムで、ぜひ取り上げたいと思ったのは、この日本食文化のような形で、日本の存在感をアピールするにはどうすればいいか、という問題だ。11月25日に発足した官民連携の株式会社「クールジャパン機構」(正式には「海外需要開拓支援機構」)というユニークな組織が、このアピールの仕掛け人になる、というので、その新組織の問題にからめて、日本を力強くアピールするには何が課題かなどを取り上げてみようと思っている。

この新組織は、クールジャパン、つまり日本のアニメや漫画にとどまらず日本食文化や伝統工芸、ファッションなど「かっこいい」「かわいい」にあたる英語の「クール」という言葉を使って、現代日本の強みの部分を世界中にアピールしようというものだが、この新組織が最終的に20年間で700億円から1000億円ほどの巨額の資金を使って、さまざまなプロジェクトに投資、あるいは事業支援する、という話なので、いったいどんなことをするのか、本当に効果的なことをやれるのかな、と思っている。

新組織は官民375億円で共同出資、
茂木経産相「投資通じ産業競争力強化を」
クールジャパン機構は、経済産業省が中心になって法的バックアップを行ってつくったもので、財政投融資特別会計の投資勘定から出資、また電通や博報堂DYグループ、ANAホールディングス、LIXILグループ、パソナグループなど民間企業15社も加わって官民あげての総額375億円(当初資金)の出資でスタートした。

11月25日のオープニングセレモニーには行けなかったが、メディア報道によると、茂木敏充経済産業相はあいさつで、こう述べている。
「日本には世界に誇れるものがたくさんある。しかし残念ながら、直接、事業に結びついていないものも多い。新会社には、投資を通じて、海外に売り込みたい商品やサービスの市場開拓をサポートしてもらい、国全体の産業競争力強化につなげていきたい」と。

デザイナー出身の太田社長「日本のよさを世界に売り込みたい」
新会社社長の太田伸之氏は、もともとはファッションデザイナーだが、マネージメント力を買われての就任で、発足式のあいさつでは「情報プラットフォームを整えて、日本のよさを世界に売り込みたい。地方で眠っているよいものなどをアピールし世界市場につなげていきたい」「新会社は、事業会社のモノやサービスのうち、ビジョンがしっかりしていて他とは違う何かを持っていることが、投資の条件だ。短期的なリターンを追い求めるのではなく、日本企業がグローバル市場で戦っていく土壌を整えていきたい」と述べた。

これらの発言でおわかりのとおり、新会社のスキームは、日本が海外に「これこそ日本」と誇れるような民間企業などのプロジェクト、商品、サービスを投資対象として選び、世界に売り込むための事業支援を行い、冒頭の日本食文化がアジアの至る所で定着して好評価を受けたように仕向けることが狙いだ。

ターゲット国TV番組枠「ジャパンチャネル」を買い人気TV番組など放映しアピール
 このプロジェクトの仕掛け人の経済産業省によると、投資対象のプロジェクトのイメージとしては、つぎのようなものだ。1つが、あらかじめターゲットになる国々のテレビなどに「ジャパン・チャネル」として放映枠を買い、そこに日本を浮き彫りに伝統芸能や文化、さらにアイドル系ドキュメンタリー映画、人気テレビドラマなどを流す、という。

2つめが、同じく「ジャパン・モール」あるいは「ジャパン・ストリート」という形で海外の集客力のある都市の中心部に、日本をアピールする施設などを随時、設営して、現代日本をアピールする。
3つめが、江戸切子といったガラス細工、中国で大人気の南部鉄瓶、さらには海外の有名人も愛用する、という熊野美容筆など日本国内の地域資源をさらに掘り起こして世界にアピールし、日本に旅行してそれら商品を買おうという動機づけにする、といった形だ。

「クールジャパン」構想は数年前から出ていた、
実体伴わずやっと晴れの舞台に
この「クールジャパン」という言葉は今に始まったものでない。私の記憶では2010年ごろ、経済産業省を中心に、「日本の強み部分のアニメや伝統文化、ポップカルチャー、(大衆文化)、技術優れものの製品などを世界に売り込んで日本そのもののアピールを」という産業政策とからめた政策にしていこう、とキャンペーン先行だった。

このため、ムード先行で、なかなか政策の裏付けが十分に伴なわず、考え方としては、面白いのに、実体が見えず、現在に至った。それがやっと最近になって、日本の存在感を世界中でアピールする必要がある、との意識が高まり、安倍政権のもとで、政策アピールの目玉商品の1つとして、経済成長戦略に組み込まれた、という感じだ。

「クールジャパン機構」の投資判断、評価基準、
そして責任の負い方がポイント
経済ジャーナリスト的な問題意識としては、問題意識としては悪くなく、冒頭からの話のように、日本自体の存在感を世界にアピールすると同時に、日本の持つ戦略的な「強み」を見極め、日本のイメージアップにつなげることは極めて重要と思う。ただ、問題は、この新会社が投資決定をどう行うのか、とくに、その判断基準がどうなのか、また投資後の評価システムをどうするのか、さらに中途半端に終わってイメージアップにつながらないどころか逆効果だった場合の投資判断の責任はだれが、どう負うのかーーなど、気になる点はかなりある。

公的な資金をかなり大量に使うのだから、それらの透明性がポイントになると言いたい。冒頭の見出しにも書いたとおり、大丈夫なのか、ということだ。とくに、今後、20年間という長い期間にわたって、総額1000億円もの巨額マネーを、このプロジェクトにつぎ込むというが、大手の広告会社の食い物のならないように、第3者機関にチェックを求めるようにすることも重要だ。

「クールコリア」はベトナムのホーチーミン市で大胆な市場攻勢
ところで、最後になってしまったが、冒頭の見出しの2つめのところに書いた「アジアで見聞した『クールコリア』のしたたかさ」が、この日本プロジェクト展開の参考になると思うので、ぜひ申し上げたい。というのも、私のアジアの旅の現場で見聞した韓国の強烈な「クールコリア」の事例を見ると、相当の覚悟や気構えで取り組まないとインパクトを与えられないぞ、ということになる。そのためにも、現地事情をしっかりと把握し、何が効果的なメッセージ発信になるか戦略展開の準備が必要であることを申し上げたい。

私が今回のアジアの旅の現場で見聞したことを申し上げよう。日本の「クールジャパン」に張り合うような形で、韓国は先行して「クールコリア」をアジアで展開していた。とくにベトナムのホーチーミン(旧サイゴン)で事業展開している複数の日本人、それにベトナム人から異口同音に聞いた話だが、韓国政府は韓流ドラマやKPOPをベトナムのローカルテレビで放送枠を買い、頻度多く流している。

日本は日越友好40周年事業で「おしん」のリメークテレビドラマ放映、
時代感覚で差
 とくに、ベトナムの若い女性の間では、KPOPのスタイルのいい若い女性たちのかっこのよさに魅かれて、KPOPがすごい人気のうえ、サムソンエレクトロニクスがベトナム工場で生産するスマートフォンをそれら女性に持たせた広告でアピールすると、それがそのままサムスン・スマホの衝動買いにつながり、韓国の存在感につながっていく、という。

話は、実はそれにとどまらない。私がホーチーミン市にいた際、市内では日本とベトナムの交流40周年プロジェクトが展開されていたが、知り合いの日本人企業関係者の話では、東南アジアでかつて人気を呼んだNHKのテレビドラマ「おしん」のリメーク版、つまり現代にアレンジしたものが放映された。その知り合いは「韓国がKPOPでベトナムの若い女性たちに揺さぶりをかけ、引き付けている時に、日本が現代からほど遠い古い時代の『おしん』をアピールしても反応が鈍い。日越友好40年プロジェクトとはいえ、『おしん』では韓国の市場攻勢には勝てないよ」と述べていた。そのとおりだ。

大事なことは、現地のニーズを探り、何がいま受けるか、何が「さすが日本だ」と強いインパクトを与えるかのマーケットリサーチと情勢判断、そして何をインパクトある攻勢材料にするかだろう。韓国は徹底した現場リサーチを強みにしているというから、「クールジャパン機構」も徹底した世界各国の現地分析が重要と言いたい。

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