東電原発事故「人災」説は鋭い 「原子力ムラ」の枠組み改革を


時代刺激人 Vol. 190

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

世界中を震撼させた東京電力福島第1原発の事故は、東電が主張する想定外の津波などによる自然災害ではなくて、事前に何度もシビアアクシデント(過酷事故)対策を講じる機会があったのに、それを怠った「人災」だ――と総括した黒川清さんは今や話題の人であり、ご存じのことだろう。メディアで報じられているとおり、東電原発事故の調査を行った国会事故調の委員長だ。黒川さんは7月5日に衆参両院議長に対して最終報告書を提出し、役割を終えたので、任務を解かれる形となっており、正確には前委員長だ。

国会事故調は政府事故調に比べ数々のハンディキャップ背負っての
調査活動

 この国会事故調は、国会議員の専門調査能力に限界があるということで、国会が超党派で民間の大学教授や弁護士、コンサルタントはじめ原子力の専門家などに委ねて、政府から独立しての独自調査を委嘱した文字どおり、憲政史上初めての専門調査組織だ。

 調査の後ろ盾となる議員立法の国会事故調法では、国政調査権という「伝家の宝刀」が与えられたが、対極にある政府の事故検証委員会である政府事故調が昨年5月以降、1年2か月間の調査を行って7月23日に報告書提出予定なのに対し、国会事故調は法案づくりに手間取って、スタートが昨年12月だったうえ、6か月をめどに報告書提出という制限を加えられたため、かなりのハンディキャップを背負いながらの調査だった。

黒川さんは調査現場を陣頭指揮、行動力や問題提起力はすばらしい
 しかし、黒川さんは75歳という年齢を感じさせない精力的な行動力で調査現場を指導し、640ページにのぼる膨大な最終報告書のリーダーシップをとった。東大医学部卒業後、古い医局制度に反発して米国に渡り、米UCLA教授などを歴任したが、本業の医学者にとどまらず、その行動力、人脈形成力、問題提起力によってグローバルベースでも著名な日本人だ。帰国後、日本学術会議会長としても活躍したが、昨年の原発事故直後から、国会が、政府から独立して事故調査と同時に政策提言を行う民間専門家による調査組織をつくるべきだと主張したら、自身で国会事故調委員長を引き受ける羽目になった。

 実は、私自身が昨年末、黒川さんから依頼を受け、メディアコンサルタントの立場で、国会事故調にフルにかかわり、その活動ぶりをそばでずっと見ていたので、率直に言えるが、掛け値なしに、黒川さんがいなければ、今回の最終報告書のメッセージのような「事故は人災によるもの」といった大胆な結論を引き出せなかった、と思う。そこで、今回のコラムでは、この国会事故調問題を取り上げてみたい。

「福島原発事故は終わっていない」は的確、
3.11並み大地震あれば恐ろしい事態に

 黒川さんは、これまで「日本が原発事故でメルトダウンした」といった形で、ポイントをつくキーメッセージを巧みに発信できる人だ。今回の最終報告書の「はじめに」の冒頭部分でも、「福島原子力発電所事故は終わっていない」と、簡潔に、ワンセンテンスの文章を書いて、鋭く問題提起した。このメッセージは的確だ。
 福島第1原発の事故現場はいまだに惨憺たる状況だ。強濃度の放射能がある原子炉の中に入ることもできず、ロボットによる遠隔操作などでこわごわと状況を探るのが現実だ。水素爆発で無残にも壊れた建屋も、原子炉や格納容器を十分かつ完璧に覆う機能を果たせていない。建物地下の構造がどうなっているか、いまだ確認できない部分もある。

 もし昨年の3.11クラスの大地震、大津波が再度、襲ってきた場合、この無防備に近い原発施設はどうなるか、想像しただけでも恐ろしい。政府は昨年12月、原発事故の収束宣言を行ったが、まだレベル7(セブン)という最悪の事故状態の解除には至っていない。黒川さんが述べるとおり「福島原子力発電所事故は終わっていない」のは明らかだ。

「事故当時の政府、規制当局、
東電はシビアアクシデントへの対応怠り人災だ」

 黒川さんの「はじめに」でのポイント部分をもう少し引用させていただこう。
「『想定外』、『確認していない』などというばかりで、危機管理能力が問われ、日本のみならず、世界に大きな影響を与えるような被害の拡大を招いた。この事故が『人災』であることは明らかで、歴代および(事故)当時の政府、規制当局、そして事業者である東京電力による、人々の命と社会を守るという責任感の欠如があった」と。

 さらに「日本は今後どう対応し、どう変わっていくのか。世界は厳しく注視している。この経験を、私たちは無駄にしてはならない。国民の生活を守れなかった政府はじめ原子力関係諸機関は社会構造や日本人の『思い込み(マインドセット)』を抜本的に改革し、この国の信頼を立て直す機会は今しかない」とも述べている。まったく、そのとおりだ。

東電が主張する「想定外の津波」説にはくみし得ない、
大津波予測にも対応せず

 ここで本題だが、私が国会事故調の公開での参考人聴取、端的には東京電力の勝俣恒久前会長、清水正孝元社長ら首脳OB、原子力安全・保安院の深野弘行院長、寺坂信昭元院長、さらに広瀬研吉元院長ら官僚の現職およびOB、そして菅直人前首相、枝野幸男経済産業相ら事故当時の首相官邸にいた政治家の聴取、さらに非公開で調査に携わった人たちの話などを聞いたことを踏まえて、巨大な原発事故を二度と引き起こさないための教訓は何かを考えた場合、結論的には、国会事故調の最終報告書のメッセージとほぼ同じだ。

 要は、東電が主張する「想定外の津波」説にはくみし得ないこと、津波1つとっても過去に大きな津波予測の数字が出ていたのに、それらの予測が現実化した場合を想定してシビアアクシデント対策を講じていなかったこと、原発は多重防護壁で守られており事故が起きるはずがない、という原発安全神話にこだわり過ぎたこと――などによって事故が引き起こされた、と言わざるを得ない。
 現に、国会事故調もヒアリング調査などによって過去、現原子力安全・保安院、原子力委員会などの規制機関、さらに東電がリスクをうかがわせる予測数値があったのに、いますぐ対応する必然性、現実性がない、と問題先送りしたことが油断を生んだ、と見ている。

国会事故調は「東電が稼働率低下や株主代表訴訟で不利になることを懸念」と指摘
 最終報告書は、この点に踏み込んで鋭く指摘している。「歴代の規制当局および東電経営者が、それぞれ意図的な先送り、不作為、あるいは自己の組織に都合のよい判断を行うことによって、安全対策がとられないまま3.11を迎えたことで事故発生した」と。

 さらに「委員会調査によれば、東電は、新たな知見にもとづく規制が導入されると、既設炉の稼働率に深刻な影響が生じるほか、安全性に関する過去の主張を維持できず、訴訟などで不利になるといった恐れを抱いており、それを回避したいという動機から、安全対策の規制化に強く反対し、(業界団体の)電気事業連合会(電事連)を介して、規制当局に働きかけた」とも述べている。

最終報告書で指摘の「規制の虜」説を見て、
私は思わず「なるほど」と腑に落ちた

 特に、最終報告書が指摘した「規制の虜(とりこ)」論は、私自身、思わず「なるほど、腑に落ちる、と思った。この考え方は、ノーベル経済学賞を受賞した米シカゴ大のジョージ・スティグラー教授の理論をベースにしたものだ。

 最終報告書では「本来、原子力規制の対象となるべきであった東電が、市場原理が働かない(地域独占事業体構造の)中で、(原発技術などの専門技術)情報の優位性を武器に、電事連などを通じて歴代の規制当局に規制の先送り、あるいは基準の軟化などに向け強く圧力をかけてきた」、「歴代の規制当局と東電の関係は、規制する立場とされる立場の『逆転関係』が起き、規制当局は電気事業者の『虜』となっていた。その結果、原子力安全についての監視・監督規制機能が崩壊していたとみることが出来る」という。

大学時代の序列がそのまま東電、大学、原発プラントメーカー、
官僚の順に投影

 私がこの「規制の虜」の話で、「腑に落ちる」と思ったのは、以前のコラムで紹介した話、またエネルギー関係の取材をしていて東電の人材力、組織力などのすごさなどと奇妙に一致するからだ。このうち、前者の話は、電力や官僚の複数の関係者に以前、聞いた話だが、東大の原子力工学の卒業生の成績トップランクの学生は東電へ、二番手は大学に残って教授をめざす、三番目が三菱重工など原子力プラントメーカー、東電以外の他電力、そのあとのランクの人は官庁へ就職するという形で、官庁が常に低いランク付けにあった。このため、自然に原子力ムラのヒエラルキーが民間優位で出来上がっており、東電の原子力・立地本部の技術者はいい意味でも悪い意味でも力を誇示している、というのだ。「規制の虜」の枠組みの素地がわかっていただけよう。

原子力ムラの枠組みにくさび、
互いに緊張関係をつくってなれあいを避ける?

 原子力ムラと呼ばれる特殊な枠組みには、主力の東電を軸に、規制官庁の原子力安全・保安院関係者、原子力関係のアカデミアの学者、研究者、さらに族議員的な政治家、そしてメディアも加わり、相互依存関係ができていたばかりか、一種のなれあい状況もあったのだろう。そこに、国会事故調が指摘する「規制する立場とされる立場の『逆転関係』が起き、規制当局は電気事業者の『虜』となった」という枠組みが深く組み込まれた。そのあおりで原発のシビアアクシデント対策もおろそかになったのだろう。

 率直に言って、国会事故調の最終報告書を踏まえれば、この原子力ムラの枠組み改革に踏み出さない限り、悲惨な原発事故がまた起きる可能性がある。要は、東電と規制機関、さらに政治家、学者などの間に、常に緊張関係を持つような枠組みをどう作り出すかだ。

国会事故調の7つの提言、中でも独立の民間中心の第3者専門機関を
 国会事故調の最終報告書では、二度と事故を引き起こさないために、7つの提言を行っている。いずれもポイントをついているので、紹介させていただこう。
 1つは、国民の健康と安全を守るために、原子力規制当局に対する国会の監視機能を強化するために常設の監視委員会を国会内に置くこと、2つは緊急時の政府や自治体、事業者の役割や責任を明確にするため、政府の危機管理体制を見直すこと、3つが原発事故で避難を余儀なくされた人たちの健康や安全、生活基盤を回復するため、政府の責任で対策を講じること。
 4つは、政府と東電など事業者との間に緊張関係をつくるため、接触などに関するルールづくり、相互監視体制をつくること、5つが、すでに具体化が進んでいる新規制機関に関するもので、高い独立性、透明性などを確保すべきだということ、6つが原子力法規制を大胆に見直しすること、そして最後が、国会内に、原子力事業者や行政機関から独立した、今回の黒海事故調のような民間の専門家からなる、たとえば「原子力臨時調査委員会」(仮称)のような機関をつくることを挙げている。
 今回の国会事故調の最終報告書が生かされるかどうかは、こうした提言のフォローアップにかかっている。とくに、7つめの委員会組織はコトあるたびに創設する必要がある。

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