今や世界中が中国経済頼み?中国は内需拡大期待に応えられるか 課題山積で社会不安リスク消えず、8%成長達成が重要なカギ


時代刺激人 Vol. 28

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 「社会主義中国」と「市場経済中国」の2つを巧みに使い分ける中国はここ数年、年率10、11%という2ケタ台の高成長を続けてきた。ところが米国発金融危機による主要国経済混乱の影響で、輸出不振から経済が大きく失速し、中国経済は今、正念場にある。このため、温家宝首相は3月の全国人民代表大会(全人代)で、今後2年間に4兆元(円換算約58兆円)にのぼる巨額資金投入の内需拡大策によって2009年に「8%程度」の成長を実現すると表明している。
この8%という成長率は、実は、中国経済を見る場合のキーポイントの数字だ。友人の中国人エコノミストや中国ウオッチャーなどが口をそろえて言うのは、中国にとって、もし成長率が8%割れになると、失業や失職による雇用不安が社会不安、そして政治不安に発展するリスクが一気に高まる危機ラインであるためだ、というのだ。
しかし、09年にそろってマイナス成長に陥る見通しの米国、EU(欧州共同体)、それに日本からすれば、8%成長というのは間違いなく高成長。そればかりでない。ややオーバーに言えば、世界中が中国に熱い視線を送り、世界経済を何とか下支えしてくれよ、という中国頼みの気持ちがある。果たして、中国は輸出など外需依存から内需主導の経済への切り替えによって、内外の期待に応えられるのだろうか。

ニューリッチはどこ吹く風、米国不動産買い付けや北海道豪華ツアーの現実
 その前に、最近、中国の動きを見ていて、おやっと思ったことがあるので、ちょっと紹介しよう。中国富裕層、つまりニューリッチを含めた富裕層の海外での行動だ。
まず、2月24日の中国上海の新聞が報じた話は、中国の不動産業者がインターネットで米国のロサンゼルスなど主要5都市の不動産買い付けツアー参加者を募集したら中国各地から約400人の応募が殺到、その中から100万元の個人金融資産、さらに100万ドル以上の外貨資産を持つという40人を選んだ、というものだ。このツアーは、米国金融危機のあおりで競売にかけられた30万ドルから80万ドルの物件を物色するもので、参加者が気に入れば、その場で売買の仮契約を行う、という。
もう1つの話は、読売新聞の3月9日付の経済面で黒川記者が中国人富裕層というテーマで取り上げている。興味深いので、少し引用させていただこう。要は、日本の知床など舞台にした中国の正月映画がヒットし、それをきっかけに中国で日本人気が高まり富裕層がジェット機をチャーターして北海道のロケ地を回るツアーまでがある、というのだ。
そういえば私自身、最近、中国ニューリッチが東京の築地にフグ料理などを食べに来て、その足で北海道にスキー旅行に行った、という贅沢旅行の話を聞いたので、このジェット機チャーター旅行も十分に考えられる話だ。
中国経済の図体がでかすぎて、「群盲、象を評す」という心境になることが多く、この富裕層の動きで中国を決めつけるわけにはいかないが、こうした動きを見る限り、中国そのものが以前と違って、豊かになりつつあることは間違いない。

消費者物価は下落し始めデフレ懸念も、電力消費量も大きくマイナス
 しかし中国経済の現実は、マクロ経済指標で見る限り、ニューリッチと言われる新興富裕層の動きとはかけ離れた所にあると言っていい。
まず最近発表になった09年2月の消費者物価は前年比1.6%の下落で、02年12月以来、実に6年2か月ぶりのマイナスだ。そういえば1年前の2月ごろは、中国経済の過熱が続いていて消費者物価も前年比8%台の高い伸びだった。しかもそれが半年以上続いた記憶があるので、明らかに物価のトレンドが変わってきた。それどころか中国経済の失速に合わせてデフレ懸念も出てきた、と言えるかもしれない。
もう少しマクロ数字をチェックしてみよう。中国ウオッチャーの人たちによると、中国の統計数字は、日本ほど整備されておらず、信ぴょう性に欠ける部分があるが、電力消費量の動きをみると、中国の生産活動の動きがどういった状況にあるか探るヒントになるという。そこで、電力消費量を見ると、08年10月から前年比でマイナスに転じ、とくに11月、12月がそろって前年比で8%台のマイナスだったのが09年1月は12.9%の大幅なマイナスになっている。これは経済失速を裏付ける重要なシグナルだ。

出稼ぎ農民工は1100万人が旧正月後も失業中、社会不安の要因に
 それと冒頭に述べた社会不安につながりかねない失業、とりわけ出稼ぎ農民と言われる農民工の失業状況が気になるので、見てみよう。担当の中国人事社会保障相が3月10日の記者会見で明らかにしたところでは、農民工のうち約1100万人が1月下旬の旧正月後に地方から再び出稼ぎで都市部に戻ったものの、仕事を見つけられず失業状態が続いている、という。
中国政府は、中国の人たちが旧正月で故郷に帰省する人口移動の問題に関連して、リストラなどで失職して故郷に帰る農民工が2000万人と、2月時点で公表していたのが記憶にある。人事社会保障相の記者会見の話とをからませると、少なくとも差し引き1000万人の農民工のひとたちは、旧正月明けとともに都市部に戻っても仕事にありつけない、と判断して地方に残ったと考えられる。
雇用不安の問題は、この農民工だけに限ったことではない。米国向け輸出の落ち込みで沿岸部の輸出企業にしわ寄せがきて、都市部の労働者にも失職の波が来ていることは言うまでもない。さらに、中国政府にとって大きな悩みは、大学などを卒業して企業に就職する予定の新卒者のうち、未だに行き先が定まらない人たちの雇用確保をどうするか、という問題がある。中国社会科学院の調査では今年の大学卒の新卒学生600万人のうち150万人が待機中という。これらは間違いなく潜在的な社会不安の要因と言っていい。

内需拡大策は消費刺激と公共投資に比重、むしろ雇用創出策が重要
 こうした不安要因を抱えながら、中国政府は、温家宝首相の方針どおり巨額の資金を投じて内需拡大に取り組み始めた。問題は、2年間に4兆元(円換算約58兆円)と言われる財政出動を、どういった形で、どの分野に集中的に行うのか、間違いなく内需主導の経済に変わるようなものになっていくかどうかだ。
温家宝首相が3月5日の全人代で行った政府活動報告では5000億元の企業、個人の所得減税、すでに実施している自動車購入に対する補助金を新車だけでなく中古車に、さらにはリース市場にも拡大といった形で消費刺激することに加え、住宅や学校建設、高速鉄道網などのインフラ整備に9080億元、四川大地震などの災害復旧に1300億元、農業や農村基盤整備に7160億元などとなっている。
これで弾みがつけば、中国は国内の社会不安、さらには政治不安に至る事態を未然に防げると同時に、マイナス成長で今後、中国頼みが強くなる主要国にとっても中国向け輸出でひと息つけるのかもしれない。
しかし、中国人の友人のエコノミストは「災害復旧対策は別にして、高速鉄道網や道路など公共投資の比重が依然として多い。しかし、今は農民工などの雇用不安を早く解消するようなさまざまな雇用創出策にもっと比重をかけねばいけない。日本でいうハコもの投資がまだ多いのが気になる」と述べている。この指摘は案外、ポイント部分だ。

北京中央政府が地方の無秩序な動きをマクロ・コントロールできるか
 それと、私が中国を旅行して、かついろいろな人と話をして強く感じるのは、沿岸部の成長地域に比べて成長が立ち遅れている内陸部の地域での成長志向の強さだ。それがバランスよく機能する場合には問題ないが、むしろ心配なのは、広大な中国の至る所の地方政府が、今回の北京の中央政府の巨額内需主導投資に合わせて、無秩序な財政出動を行ってマクロ・コントロールがきかなくなるリスクだ。言ってみれば、制御不能に陥るリスクが消えていないのだ。
これまでは数年前の景気過熱状況でマクロ・コントロールがきかなくなるリスクがあった。しかし、今回も景気浮揚が大きな支えになって、内陸部の地方政府を中心に、それこそ無秩序な財政出動が進めば、あとあとに禍根を残す結果にもなりかねない。北京の中央政府がどこまで秩序だって政策誘導を行えるかどうかだ。

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