原発の水素爆発も想定外って本当? 政府の事故調査委聴取で東電証言


時代刺激人 Vol. 149

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

多重の防護壁があるので絶対に安全、と東京電力が終始述べていた福島第1原子力発電所(原発)で、なぜ水素爆発事故が起き、放射能汚染が深刻化したのか。原発事故で苦しむ被災者のみならず、世界中の人たち、それに原発現場の人たちが最も知りたい点だ。

そんな矢先、政府の「事故調査・検証委員会」(畑村洋太郎委員長)が東電の吉田昌郎福島第1原発所長ら現場幹部はじめ作業関係者から行っている聴取内容の一部を、毎日新聞が8月17日付朝刊で報じた。これが何ともショッキングな内容なのだ。世界中を震撼させた重大事故なので、全容解明されるまでは訳知りのような、勝手な判断は許されないし、むしろ専門家の客観かつ冷静な分析判断を聞かせてほしいのは言うまでもない。だが、聴取内容は一部とはいえ、率直に言って「えっ、本当か」と思わず言いたくなるものなのだ。

毎日新聞が報道、「ベントの手順書なく手間取った」との証言も
毎日新聞が報じた記事によると、東電の現場は、3月12日午後3時36分の原発1号機での水素爆発事故当時、爆発を事前に予測できていなかったと証言していること、また長時間の全電源喪失という異常事態のもとで、原子炉の格納容器を守るために行うベント(排気)作業に必要なマニュアル(手順書)がなかったため、ベント作業に意外に手間取ったこと――などがポイント部分だ。

事故調査委員会の性格から言って、調査には慎重さを期すため、途中経過などをなかなか口にしないはずなので、こういった取材は難航を極める。毎日新聞は、よくポイント部分の聴取内容をスクープ出来たなと思う。他の新聞各紙が追っかけをしないのは、関係者が途中過程だとして事実の確認を拒むためなのか、定かでない。しかし毎日新聞記事では事故調査委員会のヒアリング経過メモが詳しく出ており、まず、間違いないと信じる。

米国は原発事故起きること前提に対応策、
日本は危機管理見直し必要
今回のコラムで、この問題をぜひ取り上げたいと思ったのには、実は理由がある。日米間で原発事故に対する危機管理に大きな差があり、私は、その点に関して、米国方式の方がいいのでないだろうかと、日ごろから問題意識を持っていたが、この事故調査委員会の聴取内容を見て、それを確信した。

結論を先に申上げよう。日本は、原発事故を絶対に起こしてはならない、という立場で、法規制を厳しくしている。それとは対照的なのが米国で、原発事故ゼロは絶対にあり得ない。むしろ事故は起きるものだという前提で、事故対策のマニュアル(手順書)づくりはじめ、さまざまな対策を講じておく考え方なのだ。私は躊躇なくこの米国方式をとる。
事故を起こしてはならないのは当たり前だが、完璧な事故ゼロはあり得ない。その意味で、事故調査委員会の厳しい検証を待ちたいが、今回の毎日新聞報道を見る限りでは今後の原発危機管理の見直しが必要なことは明白だ。米国に学ぶべき先例があるなら、日本は再発防止のためにも、米国方式から必要なものを学びとるべきだと考える。

多重防護で爆発「予測せず」か、「予想外に早く起きたのか」不明
日米の原発事故対応の危機管理の違いから何を学ぶべきか、を述べる前に、事故調査委員会の聴取内容のポイント部分を、もう少し詳しく引用させていただこう。
まず、東電福島第1原発の現場では水素爆発事故を予測していなかった、という点。報道によると、「東電側は、原子炉や格納容器の状態に気をとられ、水素が原子炉建屋内に充満して爆発する危険性があったということを考えなかった、との趣旨の発言を行い、『爆発前に、予測できた人はいなかった』などと説明している」という。

これだけでは、どういった点で「予測できなかった」のか判断が難しい。原発には強固な格納容器など多重防護壁があるので、水素爆発はあり得ないという意味で、全く予測できなかったということなのか、あるいは最悪のシナリオを考えていたものの、こんなに早く事態悪化が進むとは予測できなかった、という意味なのか、この点は定かでない。

ベントをめぐってもヒアリングメモでは現場の混乱が浮き彫りに
ガス抜きの形で放射能を大気中に放出せざるを得ないベントに関しても、意外な問題が明らかになった。報道によると、「3月12日未明にかけ、炉心損傷を認識した吉田福島第1原発所長がベント準備を指示した。(ところが)マニュアルがなく、現場で設計図などを参照しながら措置を検討し、弁操作に必要なバッテリー調達などから始めた。ストックを把握していなかったため、構内を探したり本店に調達要請、と手間取った」という。

何とも危なっかしい話だ。最悪の事態を想定して、事前にベントのための手順書を準備しておくのが常識なのだろうが、その基本が出来ていなかったため、現場が混乱したことが読み取れる。ヒアリング経過メモには、さらにこんなくだりがある。
「最終的にベントが成功したかどうかは確認できていない」、「ベントや注水に必要な資材が福島第2原発などに誤搬送され、第1原発から取りに行く人員を割かれるなど、本店のサポート体制は不十分」、「海江田万里経済産業相のベント実施命令には違和感が強い。意図的に(現場が)グズグズしていると思われたら心外」といった生々しい証言だ。

2008年原発シンポジウムで米国危機管理に学習対象ありと認識
さて、ここで本題だ。日米の原発危機管理に大きな差があるうえ、9.11の同時多発テロリスクを含め、さまざまな事例をもとにした危機管理先輩国の米国には学習の対象にすべき点があり、日本は米国からノウハウを学ぶべきだ、という点について述べたい。
実は、2007年7月に起きた中越沖地震による東電柏崎原発事故の問題で、日本と米国、フランスの原発関係技術者ら専門家を交えた国際シンポジウムが現地の柏崎市で翌2008年2月に開かれた際、私は興味があったので現地に出向いて参加したが、今回の原発危機管理にからむ問題ですごく勉強になったことがあったのだ。
当時のシンポジウムでの議論、さらに終了後に補則取材した中で、米国の専門家が日米の原発危機管理策の差に言及して発言した点がとても参考になる。取材メモをもとに、私なりに整理してポイント部分を申上げれば、次のとおりだ。

米国は原発事故が起きると想定、
日本は起こしてはならぬと厳しい法規制
米国は長年、テロリスクやハリケーン、さらには移民社会に潜在化する危機などを抱えており、危機管理に関しては、日本よりもはるかに過敏に対応してきている。原発危機管理もその1つだが、日本とは考え方が異なる。米国の場合、1979年のスリーマイル島の原発事故の教訓で、法規制だけでは十分でないことを強く感じとった、それ以降、原発では事故が起きるものだという前提に立って、さまざまな予防的な対策を講じてきた。このため、危機対応が素早く、いわゆる即応体制が出来ている、という。

このあとがポイントだ。米国と対照的なのが日本で、原発事故を起こしてはならない、という1点に問題を限定させ過ぎる。法規制も監督規制も厳しく行って一種のがんじがらめの状態のように見える。法規制はもちろん重要だが、事故を起こしてはならないことに比重がかかり過ぎているため、いざ原発事故が現実化した際の対応が十分出来ていないように見える、といった趣旨の発言だった。

米国の危機管理に試行錯誤あるが、危機対応は敏感で素早い
シンポジウム参加の別の米国専門家は、「米国の原発関係者にとって危機管理のきっかけはスリーマイル島の問題だが、2005年8月のハリケーン・カトリーナも危機対応モデルの再構築に役立った」と述べた。中越沖地震のように突発で起きる自然災害のケースと違って、ハリケーン・カトリーナが米国沿岸に押し寄せるまでに時間的な余裕もあり、沿岸の原発危機管理や非常用ディーゼルなど予備電力対策の手を打てた、というのだ。

危機管理と言っても、米国の対応がベストかと言えば、もちろん、そうとは言えない。2001年の9.11同時多発テロの際も、米国の専門家の間では、テロ対応の早期警報システムが脆弱で、1993年の貿易センタービルへのテロ攻撃の教訓が生かされなかった、という反省意見が多かった。その結果、米国当局は空港での警備体制強化など、法規制をぐんと厳しくしたことも事実。米国の危機管理に試行錯誤もあり、すべて学習の対象とは言い切れないが、危機対応に敏感で、即応態勢がすごいことは間違いない。

「想定外のリスク」対応は必須、
やはり東北電力の元副社長判断はすごい
ただ、今回の東電福島第1原発事故を見た場合、米国の危機管理に学ぶべき点が間違いなくある。原発事故は起きるものだ、という前提で危機管理策を講じる点だ。地震大国の日本に、しかも今回のような大津波で被害が常に想定される沿岸地域に、原発を立地することのリスクを考え合わせれば、法規制も重要だが、まずは電力会社が、原発事故が起きることを前提に、事故への即応体制策を平時から準備する、国も民間の事前対応をバックアップする、という米国式の危機管理策を取り入れることが重要だ、と考える。

143回コラムで原発再稼働問題にからめて、私は、電力会社経営の危機管理策にからめて、「想定外のリスク」にも対応出来る原発の安全確保策を電力経営に義務付けることが重要だ、と問題指摘した。その時に事例紹介したが、東北電力の女川原発が大津波で奇跡的に大惨事を免れたのは、実は故人の副社長が役員会で孤立しながらも過去の大津波災害を教訓に原発の高さを14.8メートルにまでかさ上げすることを強硬に主張して譲らなかったからだ。巨額の設備投資額が経営に過重な負担となる、予測不能のリスクに経営は対処できないとの反対論に対し、元副社長は押し切ったのだから、すごい経営判断だ。
東電の清水正孝前社長が記者会見で「想定外の大津波による事故」と、不可抗力の大津波だった、とエクスキューズしたのは、この東北電経営の事例を見ても許されない。

「原発は多重防護で安全と言った手前、
危機対応訓練が十分出来ず」
ある電力関係者が今回の東電原発事故後、私に述べた言葉は、今後の電力会社の原発危機管理対応という意味でも重要だ。
「われわれは多重防護策を講じて、原発は絶対に安全ですから信じてください、と言ってきた。原発立地の段階から自治体や住民のみなさんにも、そういった説明をした手前、原発サイトで事故を想定した大訓練をひんぱんに行うわけにもいかなくなった」「むしろ情報開示を積極的に行うことで、透明性を示しているのと同じで、突発の危機への対応という形で、住民を交えてひんぱんに訓練を行えばよかった、という反省がある」と。

重ねて言おう。原発事故は絶対に起こしてはならないが、起きることもあるという前提での危機管理などの対応が改めて重要になったということでないだろうか。それと、米国に限らず危機管理策に関しては、各国で情報を共有し、グローバルに事故を引き起こさないことが大事だ。

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