イノベーション都市深圳レポート 番外編 日本経済が今や中国、新興国から問われている


時代刺激人 Vol. 304

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

日本は学びの対象でないと見られたとすれば、数周遅れのデジタル対応もその1つ

まず課題の部分だ。日本が太平洋戦争後、敗戦国として壊滅的な打撃を受けたにもかかわらず、なぜ奇跡の経済成長を実現できたのか、と日本は多くの国々からの研究対象になった。それどころか新興国からは畏敬の念で見られたことは事実。この点に関しては、日本の先達の方々の必死の取り組みに頭が下がる思いだ。
しかし戦後70年以上がたって、振り返ってみると、日本が、欧米先進国の背中を見て追いつき追い越せの精神で、輸入技術の模倣から改良・応用を通じて次第に独自技術を開発し、先進的な地位に躍り出たことは間違いないが、その後、韓国、中国が全く同じ形で力をつけた。とくに中国の追い上げはすさまじく、今や日本や韓国を凌駕しかねない勢いだ。

そんな中、さきほどのASEAN国際会議場での「日本は老いた金メダリスト」といった話を聞くとショックだ。でも、中国、さらにはアジア成長センターの新興国リーダーと目される人たちの間で、「日本は今や学びの対象でなくなってきた」と見る向きがあるとすれば、それは、日本が過去の成功物語にこだわって時代の新たな変化に積極チャレンジしない点を見ているのかもしれない。その点で思い当たるのが日本のデジタル社会化対応の弱さだ。端的にはICT(情報通信技術)にとどまらずAI(人工知能)、センサー、ロボット工学などを活用してビジネス展開するデジタル・トランスフォーメーションへの取り組みがそれで、日本は、米国や中国のIT企業群に比べ数周遅れだ。間違いなく大きな課題だ。

中国杭州市でAI技術を活用し慢性的な交通渋滞解消、日本にとっては課題対象

そのからみで最近、友人の話をもとに調べてみて、中国のデジタル・トランスフォーメーションへの取り組みは、日本が手の及ばないところまで来ているな、と実感したことがある。中国浙江省の杭州市で、アリババ集団中核企業のアリババクラウドが杭州市当局と連携、AI技術活用による交通信号制御システム「ET都市ブレイン」を2017年に導入以降、AIが市内3600か所の交通監視カメラとすべての交通信号機を管理し、かつ自動車などの走行データをもとに交通量と信号の点滅時間などを合理的に組み合わせ、救急車などの緊急走行のための交通信号制御を行い950万人口の交通渋滞をほぼ解消した、というのだ。

デジタル化に伴うさまざまな情報のビッグデータがビジネスチャンスであると同時に、中国で現在、進行している監視社会化のツールに悪用されかねないリスクがあるのは事実。しかしデジタル社会化に背を向けてはおれない。交通渋滞解消はじめさまざまな都市インフラ対策、さらには産業や医療などの分野にも応用していくことは時代の流れだ。

日本は強み、弱みを見極めて強みに特化し成熟社会国家の先進モデル事例を

では、日本はデジタル化を含め後手、後手に回り、時代先取りのチャンスがないのだろうか。そんなことはない。ただ、新興国の追い上げで競争力を維持できない分野が増えているのは事実なので、この際、強みと弱みをしっかりと見極め、戦略的に特化すべき強み部分が何かを見つけて積極対応すればいいのだ。

その点で、1つの道筋は、世界でもフロントランナーの人口の高齢化国で、同時に人口減少国の日本が、現時点で何とかソフトランディング出来ており、人口高齢化などに伴う新たな成熟社会システムづくり、とくに医療や介護の社会保障がらみの問題にとどまらず、日本はさすが成熟社会国家と言われる先進モデル事例をつくればいい。高齢化の課題対応と経済成長への取り組みが同時に襲い「中進国のワナ」に陥り苦悩する中国や韓国、タイなどの国々にとって日本が先進事例をつくれば、学習対象として大いに評価するだろう。

成熟社会システムを支えるにはイノベーションでそれなりの経済成長が必要だ

ただし、成熟社会の新たなシステムを支えるためには、間違いなくそれなりの経済成長が必要。そのためにも、前回コラムで問題提起したように、オープンイノベーションによって経済にアクセルを踏むことが必要だ。その場合、オープン&クローズ戦略がポイントで、強み部分のコア技術、秘伝のたれの技術をしっかり固め、それを武器にさまざまな企業と大胆にオープンベースで連携し、専門知識や技術情報の交換や共有を行って新事業にチャレンジする。要は、クローズドの強み技術部分をうまく活かすことがポイントだ。

前回コラムで、このクローズド戦略に関して、コアの技術を知財管理でしっかりと固めればいい、と提案したところ、数人の方から「特許取得すると特許を公開せざるを得なくなり、手の内をさらけ出すのでマイナス」、「中国は『中国製造2025』対策の一環から国家が主導し世界中の公開特許技術をデータベース化、徹底的に技術研究を行ってコア技術に抵触しない範囲で新技術のヒントを得ている。だから、特許による知財管理は無意味」などの指摘を受けた。そしてコア技術をブラックボックス化した方がいい、という。

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