今こそドル安・円高への備え急務、内需主導経済に切り替える好機 発想の転換で資源輸入インフレに円高メリットの活用も


時代刺激人 Vol. 8

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

米国の金融不安、金融システミックリスクは、まだ消えたわけでない。むしろくすぶり続け、今後は金融機関の貸し渋り、信用収縮を通じて実態経済への影響が出てくる。それにしても、こんな大きなリスクをなぜ、米財務省や米連邦準備制度理事会(FRB)はもっと早くに察知できなかったのか、楽観シナリオに終始したのはなぜなのか、「失敗の研究」が必要になる。しかし、それも重要だが、日本にとって、これから注意すべきはドル安、裏返せば円高への対応だろう。
 結論から先に申上げれば、ドル安リスクがどの程度まであるのか、市場参加者の多い為替相場だけに、なかなか読み切れないが、まずはドル安、その裏返しの円高への備えが急務だ。かつて円高が1ドル=80円を切るほど一気に上昇が進んだ時代には、円高恐怖症、円高脅威論が日本国内の輸出産業だけでなくメディアの論調にも強かった。しかし、いまは発想の転換が必要だ。
具体的には原油や穀物など資源価格の高騰が定着した状況のもとでは、むしろ輸入インフレに対応するため、円高にしておいた方がはるかにいい。それに、これまでは輸出など外需に頼り過ぎて、結果的に内需主導の経済への対応が十分でなかったが、これからは大胆な規制改革などで内需主導の改革、需要の掘り起こしを進めるチャンスだと思えばいいのだ。

ドルの弱さで円の運命が左右されるリスク
 ところで、いま、米国金融不安を映してドル下落に拍車か、、、、と思いがちだが、ドルは対円では大きく下落しているものの、意外にもユーロやアジア通貨に対しては相対的に強い。理由は、欧州経済の景気後退を映してのユーロ安が原因。それにアジア通貨安も、実は米国の金融機関や投資ファンドが自国の金融不安で急きょ、資金を戻さざるを得なくなってアジア通貨売り・ドル買いを急いだ結果だ。
 それよりも問題は、ドルと円の関係だ。ドル安・円高となっているが、円は経済のファンダメンタルズから言っても、景気が後退局面にあり、また低金利構造のもとで内外金利差から積極的に円買いが入る状況にもない。わずかに考えられるのは、低金利の円資金を新興国の高金利通貨に投資した円キャリートレードを最近になって巻き戻しせざるを得なくなり、円を買い戻しているためだろう。全体的にはドルが対円で売られ、その裏返しで相対的に円高になっている構造に変わりがない。逆に言うと、ドルの弱さで円の運命が左右されるというリスクが高まっているのだ。

友人の外資系証券の日銀OBマーケットエコノミストによると、ドル信認の裏付けとなる米国経済、金融が痛んでしまっており、当分の間、ドルは不安定な状況に追い込まれる。マーケット参加者は、通貨間の金利差などよりも、常にドルを取り巻くリスクを回避しようとする動きに出るので、読み切れない。マネー自体は今、行き場を失って右往左往している。基軸通貨となるドルの弱体化がますます進んでいくのでないか、という。

ドル不安の時限爆弾抱える産油国も交え国際通貨対策が必要
 となれば、この際、主要7カ国(G7)の財務当局、中央銀行だけでなくロシア、中国、インドなど新興国、さらには不安定なドル資金を、まるで時限爆弾を抱え込むようにする中東産油国などの国々で、国際通貨体制の在り方を議論する場を設ける必要がある。
しかし、今年7月洞爺湖サミット(首脳会議)での地球温暖化対策をめぐっての各国の利害錯そうぶり、それに同じ7月末のジュネーブ国連貿易機関(WTO)でのドーハ・ラウンド(多角的貿易交渉)決裂も、米国とインドや中国の新興国との間での農産物緊急輸入制限をめぐっての譲らぬ対立が原因だった。
それらをみれば、通貨は、それぞれの通貨主権や国益がからむだけに、交渉は容易でない。ましてや米国は、ドル信認を崩した金融システミックリスクへの対応、マクロ経済運営の責任が厳しく問われるだろうが、ドルの力を貶(おとし)める方向付けには強く抵抗するだろう。同時にユーロや円、あるいは人民元がドルに続く基軸通貨の役割を果たす決意、心構えがあるのか、と言えば、その負担の重さに及び腰になるのは間違いない。世界の成長センターのアジアで円や人民元などの通貨バスケットで地域通貨をつくりドルに依存しない体制をめざせるのかと言えば、これも時期尚早だ。
各国が基軸通貨ドルをサポートするに際して、米国に対して、さまざまな政策運営に注文をつけるのが事態打開の落とし所かもしれないが、果たしてうまくおさまるかどうかだ。
 それらも重要だが、ここは、円高への対応、心構えが重要だ。実は、小生も経済ジャーナリストして、国の経済力としての国力は、強い通貨価値で裏づけられるので円高が望ましいと思いながらも、急激な円高がもたらすリスク、端的には日本の外貨を稼ぎだした輸出産業の競争力をそぐような急激な円高には歯止めが必要、場合によっては円売り・ドル買いの為替介入が必要だし、円高の裏返しであるドル安を招いた米国の財政赤字、貿易赤字を含めた経常赤字の減少策を求めるべきだなどと、かつては主張していた。

価格変動の多い海外資源価格は新興国需要増で高値定着
 しかし、冒頭に申し上げたように、いまは発想の転換が必要だ、と思う。通貨に表と裏があるのと同じで、円高にはメリットとデメリットがあるが、プラス思考でいくしかない。
たとえば原油や穀物など資源価格の高騰が、中国やインドといった新興経済国の資源需要圧力の強さをバックに定着していくことは確実となっている。国際商品市況は価格変動が激しかったが、高値構造が定着するのは間違いない。となれば、日本は多額の外貨支払いを強いられる。海外に日本の所得が移転してしまう。その場合、日本の戦略的な弱みであるエネルギー、食料、その他のさまざまな資源の少なさ、海外依存構造が宿命であるだけに、日本としても資源国と長期契約を結ぶとか、あるいは資源消費を抑えたり、かつての省エネを強化するか、あるいは輸入インフレに対応するために円高にして、外貨支払いを相対的に少なくする戦略に切り替えるかだ。小生は、さまざまな対応の組み合わせが必要と考えるが、円高メリットを活用するのは最も有力な方法と考える。
 円高をどこまで容認するのか、これは重要な問題だ。輸出産業を中心に貿易立国できた日本の産業構造に大きな変革を迫る可能性があるだけに、なかなか結論が出ない。しかし発想の転換という点でいえば、外需への依存度を相対的に減らし、内需主導の経済に切り替えるため、これからは大胆な規制改革などで内需主導の改革、需要の掘り起こしを進めるチャンスだと思えばいいのだ。

内需創出の規制改革と同時に家計所得の引き上げも
 それに、輸出産業のうち日本の自動車産業もいまや収益構造をみると、グローバル経済時代に対応して、米国あるいはユーラシア、さらには世界の成長センターのアジア、そして中国などでの生産拠点の多角展開をしている。企業は時代の先を読んで、日本を拠点にした海外輸出戦略といった発想からとっくの昔に戦略転換している。円高に一喜一憂する悲壮的な行動パターンではなくなってきているのだ。
それからもう1つ。内需の掘り起こしには新たな需要創出のための規制改革が重要だが、同時に個人消費が増えるように家計所得を増やす手立てを考えること、それは収益力のある企業を中心に給与の引き上げを行うと同時に、金融資産が増えるように、金融機関が魅力的な金融商品の開発に取り組むこと、さらに金利生活者の人たちのために、いますぐではないにしてもいずれは金利正常化の形で預貯金金利の引き上げにつながる措置を講じることだ。いかがだろうか。

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