英BBCが民主党政策に関心、「次の内閣」財務相発言報じたら米でドル売り 「政権握ったらドル建て米国債買わぬ」が大波紋、政権担うには言動に注意を


時代刺激人 Vol. 38

民主党新代表に鳩山由紀夫氏が決まる4日前の5月12日、米ニューヨーク外為市場で意外なことが起きた。民主党「次の内閣」財務相、中川正春氏の米国債がらみの発言を報じた英BBCニュースが突然、大きな反響を呼び、一時ドル急落となったのだ。民主党がまだ政権をとったわけでもないのに、と笑ってはおれない。海外メディアは政権交代も視野に入れて、民主党の政策に強い関心を持っていることは事実。この際、民主党は内外メディア向けの情報発信や言動に注意すると同時に、しっかりとした政策づくりが必要だ。
 なぜ、民主党「次の内閣」の財務相発言報道でドル売りとなったのだろうか。この話は時事通信のニューヨーク発記事で知った。BBCのネット上のウエブサイトで記事チェックをしたが、検索できなかったので、時事通信報道で何があったのか見てみよう。 報道では「英BBCは、民主党『次の内閣』財務相を務める中川正春衆院議員が『民主党が政権を握ったら、ドル建て米国債は購入しない』と発言したと報じ、ニューヨーク外為市場でドルが対円で売られる要因となった。次期総選挙後に政権を担う可能性がある民主党の幹部が、ドルの安全性に懸念表明したことで、ドル不安が強まったとみられる」「BBCによると、中川氏はドルの将来の価値を懸念していると指摘。米政府に対して円建て国債(サムライ債)の発行を求める意向を示した」としている。
民主党の「次の内閣」財務相が本当に「民主党が政権を握ったら、ドル建て米国債は購入しない」と発言したのならば、確かにニュースだ。なにしろ、今や世界最大の米国債購入先である中国に続くNO2の買い手が日本。その日本の次期政権を担うかもしれない民主党の財務相候補の発言だけに、米国にとっては気になる。米国の財政赤字を支える有力な担い手である日本が市場から消えたりすれば大変。そこで、ニューヨークの外為市場はいち早く危機感、不安感を先取りしてドル売りに走ったのだろう。

中川氏は発言否定、ドル安リスク回避で「米に円建て国債発行求めよ」が真意
 中川氏はこの事態をどう受け止めているのだろうか。議員事務所は「発言は事実ではありません。ホームページの5月15日付の『ひとこと』欄で、代議士がコメントしましたので、ぜひご覧ください」という。チェックしたところ、以下のようなことだった。
「BBCの取材は1か月ほど前のことで、(私は)『日本の外為特別会計には1兆ドルほどの外貨が積み上がっている現状から、(日本が)アメリカに協力するにしても、ドル建てでなく円建ての米国債を発行するように、日本から提起することも重要だ』と述べたのです。これを、今回のタイミングで、『ドル建ての米国債を買うことはないと言った』と報じられたことは、マーケットに影響を及ぼす目的で、私の発言が利用されたのでないかと思っています」「過去に、(円建て米国債を発行するように、日本から米国政府に提案を、という)議論を衆院の予算委員会や財務金融委員会で繰り返してきたにもかかわらず、日本のマスコミで報じられることがなく、アメリカで騒がれて日本に逆輸入される、いつものパターンはウンザリです」と。

BBCが発言していないことを故意に報じる可能性も低い、真相はやぶの中
 中川氏は、国際的に大きな波紋を呼んだため、メディアの報道ぶりには強い不満だ。しかし問題は中川氏がBBC取材に対し、どこまで踏み込んだ発言をしたのかどうかだ。中川氏が言う「アメリカにはドル建てでなく円建ての米国債を発行するように、日本から提起することも重要」という点は正論で、問題ない。というのも、ドル安が果てしなく進めば、日本が保有するドル建て国債の目減りリスクが大きくなり、問題となる。もし米オバマ政権が円建ての米国債、俗に言う「サムライ債」を発行してくれるならば、為替リスクも少ないうえ、日本としても有力パートナーの米国の財政赤字のファイナンス(資金調達)をサポートできる。だから、円建て米国債なら日本は購入する、という発言は政治家の主張として、おかしくない。
ただ、BBCの取材に立ち会ったわけでないので、何ともいえないが、ジャーナリストの立場で言えば、BBCは歴史のある英国の報道機関で、マーケットお騒がせジャーナリズムに陥ったり、また故意に、発言していないことを報じることなど考えにくい。
となると、中川氏が軽い気持ちで、たとえば「ドル安リスクが続く中で、米国政府が米国債の発行政策に関して、購入する側の為替リスクに配慮して柔軟な国債発行政策をとったらどうか。もし、そうしないならば、民主党が政権を握った場合、ドル建て米国債を購入しないぞ」といった形で踏み込んでしまい、BBCに「これは面白い」と思わせた可能性を否定しきれない。いずれにしても真相はやぶの中だ。

橋本首相がかつて「米国債売却の誘惑に駆られる」発言、ドル急落の苦い思い出
 実は政治家の米国債がらみの発言を取り上げたのには理由がある。かつて1997年6月23日に、訪米中の橋本龍太郎首相(当時、故人)がニューヨークのコロンビア大学での講演後の質疑の中で、首相としては軽い気持ちで発言したことが米国為替、債券などの金融市場に強烈なインパクトを与え、大問題になったことがあるからだ。
当時、私は毎日新聞からロイター通信に転職し現場で取材していたので、この時のことをよく憶えている。橋本首相は講演会場からの「日本の政府や投資家にとって米国債を保有し続けることで損失を被ることになる心配を持っていないか」との質問に対し「ここには連邦準備制度理事会(FRB)やニューヨーク連銀の関係者はいないでしょうね」と冗談まじりにクギをさしたあと、不用意にも重大な発言をしたのだ。
その発言内容を報じた当時の朝日新聞記事があるので、引用させていただこう。橋本首相は「実は、何回か米国の財務省証券(米国債)を大幅に売りたいという誘惑に駆られたことがある。確かに資金(運用)の面では得な選択ではないので、むしろ、財務省証券を売却し金(ゴールド)で外貨準備する選択肢もあった。(中略)財務省証券で外貨準備高を運用している国がいくつかある。それらの国々は、相対的にドルが下落しても保有し続けており、米国経済は(それに)支えられている部分があった。われわれが財務省証券を売って金に切り替える誘惑に負けないように、アメリカも為替の安定を保つための協力をしていただきたい」と述べたのだ。
 橋本首相としては、日米安全保障条約にもとづく日米同盟は事実上の「日米経済同盟」でもあり、日本は米国の財政赤字のファイナンスを継続的な米国債購入でサポートするので、その代わりドル安定策はしっかりやってくれよ、という激励メッセージのつもりだったのだろう
ところが、当時の米国為替、債券などの金融市場は「日本が米国債売り意向、橋本首相がドル安リスクに対応し『大幅に売りたい誘惑に駆られる』と発言」というニュースに過剰反応してドル売り、債券売りに走ったのだ。金融市場は大混乱に陥り、橋本首相が発言訂正や弁明など事態の収拾に奔走したのは言うまでもない。

日本のみならず中国もドル安リスクには強い不安、SDR新通貨提案もその一環?
 今回の米国発の金融危機に伴うデフレリスクに対応するため、米政府は巨額の財政刺激に乗り出し、その財源確保策として国債の大量増発に踏み切っている。世界中の機関投資家らにとっては、米国債に代わる運用手段がないため、やむなく米国債に投資するが、ドル安リスクが消えず、下手をするとドル下落によって保有国債の目減りが最大の気がかり。中国や日本、中東産油国などもそれと同じジレンマにある。
そうした中で、中国が最近、ドル基軸体制に懸念を表明し、ドルに代わる貿易決済、金融取引のための新たな決済通貨を考えたらどうか、とし、IMF(国際通貨基金)のSDR(特別引き出し権)を活用した新通貨発行も検討課題といった趣旨のメッセージを発信し世界を驚かせた。中国の本音は、過度に保有する巨額の米国債の為替リスク対応に苦しみ、ドル以外の通貨建てでの資金や資産の運用がないかと模索しているのだ。
 中川氏が提案する円建て米国債も、日本にとっての事態打開策の1つ。ただ、米政府が自国通貨のドル建てによる国債の発行を抑え、あえて日本のために円建てでの米国債を発行する度量があるかどうかだ。むしろ、プライドが許さない可能性の方が高い。
米国はデフレ対策や金融機関向け公的資金注入で巨額の財政資金を確保しなければならず、やむなく米国債発行に頼らざるを得ない。問題は、中国や日本など海外勢が購入を手控え、売れ残るリスクが出た場合、米国債急落、米長期金利上昇というリスクがあるため、米FRBが米国債買い入れを表明していることだ。米FRBは自らのバランスシートが悪化しても、長期金利上昇に歯止めをかけるため、買い入れを続ける覚悟でいるのだ。

民主党にとって今回は教訓?政権交代めざす限りはしっかりした政策提案が重要
 こうした米国債を取り巻く難しい情勢の中で、民主党「次の内閣」財務相発言が金融市場でも関心を呼んでしまった。民主党や中川氏自身も、今回のBBC報道をきっかけにしたドル急落騒動には驚いただろう。
ある金融機関のマーケットエコノミストは「中川氏の衆院予算委員会などでの議事録を取り寄せて、質疑を読んでみたが、率直に言って『次の内閣』の財務相として、もっと鋭い問題意識が必要だ、と感じた。BBCなど海外メディアが政権交代後の経済政策に強い関心を持っていることに、もっと注意を払うべきだ」と述べている。
重要なことは、民主党も今後、政権交代めざすならば、それに見合ってしっかりとした政策提案を行うことだろう。そして、メッセージ発信に関しても、さすがと思わせる発信が重要になってくるだろう。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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