常識破りのイノベーションで経営刷新 斜陽化のクリーニング業に成長戦略


時代刺激人 Vol. 305

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

兵庫県の衣笠さんも稲作専業農家束ねて株式会社化

このネットワーク連携は間違いなくプラス効果をもたらす。以前、このコラムで先進モデル事例として取り上げた兵庫県の農業生産法人で有限会社夢前夢工房社長の衣笠愛之さんのケースも同じだ。衣笠さんは2000年に、兵庫県内の至る所に分散する稲作専業農家25人に働きかけ株式会社「兵庫大地の会」を設立、集約した水田農地が1000ヘクタールに及び、品質を統一したブランド米のコメづくりに取り組んで成功した。

衣笠さんは「社員株主となった専業農家が互いに連携して切磋琢磨、ブランド米づくりに努力した結果、大手スーパーや外食企業向けに販路を広げることができた。株式会社化で力を結集できたからこそ、生産パワーも倍加した」と述べている。酒造メーカーからも一時、大量の酒米生産の依頼が来たほど。
内閣府の地域伝道師を兼ねる衣笠さんは最近、過疎化などに苦しむ島根県安来市の中山間地域の比田地区で新たに地域おこしの株式会社組織「え~ひだカンパニー」設立にも積極関与、農業生産などの地域ネットワークづくりを進めている。要は人と地域をつなぐコネクティビティによって新たな活力を生み出そうというわけだ。

中畠さんは成長センターのアジアでクリーニング業展開

話を中畠さんに戻そう。喜久屋の素晴らしい取り組みを知るきっかけは、明治大学経営学部の大石芳裕教授が主宰されるグローバル・マーケッティング研究会に参加した際、ゲストに中畠さんが登場、その取り組みに大いに刺激を受けてのことだ。大石教授は、クリーニングという斜陽産業、コモディティ化した業界でイノベーションにチャレンジしたこと、徹底した顧客志向、顧客満足の追求にあること、自社のみの繁栄よりも業界全体の利益追求したことだと総括したが、そのとおりだ。

だが、中畠さんの企業リーダーとしての面白さはこれにとどまらない。いま、タイのバンコクで、喜久屋の経営スタイルをベースに日本流サービスによって27店舗のクリーニング店展開を行っている。日本の大量の古着を洗い直して再生しタイで販売、その代金を3.11の東日本大震災の被災地復興支援に充てようという仕事に関与するうち、バンコクの現地クリーニング店の経営肩代わりを依頼され、持ち前の経営手法で取り組んだところ、あっという間にタイ社会で評判を得て現在に至った、という。

日本は強気、弱みを見極めて戦略の再構築を

アジアはいま、世界の成長センターとして経済が活況を帯び、中間所得層の厚みが増してライフスタイル願望が急速に上昇している。端的には食を一例にあげれば、これまでの生きるために食べる、という食スタイルから、おいしいものを食べたい、安全かつ安心なものを食べたい、品質のいいものを食べたいと文字どおり豊かな生活を享受したい社会ニーズとなりつつある。クリーニングも同じで、中畠さんの店は仕上がりがていねいで抜群にきれい、日本では当たり前の技術の「染み抜き」がミラクルとの評判を得るなど、ライフスタイル願望を満たす日本サービスとなっている。

中畠さんによると、日本のクリーニングサービス技術を学びたいというニーズが高まっており、日本のクリーニング業がアジアでビジネス展開を行うことは十分可能だという。日本は強み、弱みを見極めて戦略を再構築せよ、というメッセージだ。

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