政治問題化した「かんぽの宿」売却、ここまで来たら徹底洗い出しを 評価額1万円施設の6000万円転売おかしい、旧資産の売却先例モデルを


時代刺激人 Vol. 24

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

ひょんなことから物事は、意外な進展を見せるものだ。鳩山総務相の「その入札、待った!」をきっかけに、株式会社日本郵政(以下日本郵政)の「かんぽの宿」の一括入札方式による売却が宙に浮くどころか、さまざまな問題が表面化して政治問題化したことだ。
私は当初「競争入札での売却なのだから認めざるを得ないのでないか。政治介入こそ問題だ」と思っていた。ところが過去に売却された「かんぽの宿」資産が耳を疑うような価格で転売されていた現実を知り、入札売却以前の問題が数多くあることがわかった。
ここまできたら、すべてを白紙にして、この際、民営化した旧政府系機関の資産売却の先例モデルになるように透明性をもった売却方式にすべきだ、と思う。

譲渡先企業は2年間転売禁止、現従業員の受け入れが条件
 日本郵政は、2007年10月に郵政民営化で正式に発足し、旧特殊法人「簡易保険福祉事業団」保有の「かんぽの宿」などの宿泊施設を旧日本郵政公社の簡易保険事業本部経由で引き継いだ。しかし「かんぽの宿」事業は年間50億円前後の赤字を出している。日本郵政としては、民営化に伴う法律で5年後の12年9月までに売却するか廃止するかを経営判断することになっていたため、最終的に売却に踏み切ることにした。
そこで、日本郵政は昨08年2月、外資系のメリルリンチ日本証券とアドバイザリー契約を結び、そのアドバイスにもとづいて今回の70施設、そして首都圏の従業員社宅9物件の一括売却を決めた。そのさい、競争入札で譲り受ける企業は2年間、すべての施設の転売禁止、事業運営する新会社には転籍を希望する現在の従業員を全員受け入れる、という2つのことが条件だった。

「減損会計」で当初の2400億円がわずか126億円評価に、譲渡額は109億円
 この一括入札方式の公募に応じた企業が投資ファンドや不動産会社など27社。そして昨年12月、オリックスグループ企業のオリックス不動産が競争入札を経て109億円で競り落とした。問題はそこから始まる。
日本郵政が07年10月に旧郵政公社から引き継いだ際の70施設プラス社員寮9物件の評価額は126億5300万円。この評価額に関しては、総務省の「郵政民営化承継財産評価委員会」が民営化時に容認していたのだが、これが問題を大きくする。
というのは70施設のうち、黒字化している11施設を除く立地条件の悪い所の施設の価値評価額に関しては、将来の収益があまり見込めない施設と判断し、民間企業が導入する「減損会計」処理システムに従って、あらかじめ損失を織り込んで計上することにしていた。そして委員会は、その評価額については126億円でOKとしたのだ。
ところが「かんぽの宿」70施設は、土地の取得や建設などの費用が約2400億円もつぎ込まれていたため、現在の評価額との差が大きすぎるのでないかということ、ましてや今回、一括入札での競り落とし額109億円との差もさらに大きく、専門家による委員会評価は厳しすぎる、いや、甘すぎるのでないかとの議論があとで出てくることになる。

鳩山総務相の「その入札、待った!」の背後に4つの「なぜ」
 鳩山総務相の「その入札、待った!」は、こうした背景のもとで出てきた。所管大臣である鳩山総務相は、日本郵政が08年12月26日にオリックス不動産への一括売却を決めたと公表したあと1月6日になって、急に譲渡見直しを求める、と注文をつけた。
そのさい、1)土地取得や建設に要した2400億円に比べて譲渡額109億円は安すぎるのでないか、2)なぜ今のような厳しい経済状況の時に売り急ぐのか、3)なぜ一括売却なのか。個別に売却する方向を打ち出せば地元資本も買いやすくなり地域経済活性化につながるのでないか、4)競争入札でオリックス・グループが落札したとはいえ、一括売却は納得がいかない。グループ代表の宮内義彦氏はかつて政府の総合規制改革会議の議長として郵政民営化の旗を振っていたはず。世間から出来レースでないかと疑われるーーといった4つの「なぜ」を示したのだ。

当初、競争入札で手続き的に問題なく鳩山総務相の政治介入を問題視
 当初は、郵政民営化問題に冷ややかな鳩山総務相がいやがらせの意味合いで横車を押しているのかなという感じがあった。私は冒頭にも述べたとおり、不透明な随意契約ならいざしらず、競争入札なのでオリックス・グループに一括譲渡になっても手続き的には問題なく、やむを得ないのでないかと思っていた。ただ、日本郵政は現時点で3年先の12年のタイムリミットまで時間があるのに、なぜ今のような景気失速の時期に売り急ぐのか、という疑問があった程度。基本は、政治家のおかしな政治介入でないかと思っていた。
複数の関係者が異口同音に、総務省内部で郵政民営化に批判的だった旧郵政官僚が「かんぽの宿」の一括売却について、日本郵政から12月22日に事前報告があったのに、発表当日まで大臣にわざと報告せず、その当日報告の際も異常な安値譲渡であること、宮内氏のいるオリックス・グループへの一括売却であることを耳打ちしたらしい、という。ただ、これは確認できず、真偽のほどが定かでないが、「なるほど、そういう政治的な思惑もあり得るな。大臣は場合によってそれに乗ったのかもしれない」と思った。

実体不明の不動産会社が一括譲り受けと答辞に転売し巨額利益
 しかし、そんなことよりも、メディアの独自取材や国会での与野党論戦の中で、民営化以前の07年3月に旧日本郵政公社が今回と同様に一括資産売却した「かんぽの宿」の施設の中に、信じられない安値評価で売却されたあと、売却から半年後に破格の高値で転売されている事例がいくつかあることが判明したのだ。
その1つが鳥取県岩美町の「かんぽの宿」(面積延べ4219平方メートル)。06年度に4200万円の赤字計上を理由に、資産評価がわずか1万円とはじき出した。一括売却の1つのため、当時の旧日本郵政公社側は、赤字施設を早く処分して、経営的に身軽になりたい、という気持ちがあったのだろう。地元の方々には失礼ながら、多分、「金額評価はいくらでもいいから、早く話をまとめてくれ」ということだったのでないだろうか。
東京新聞「こちら特報部」の取材チームが調査報道の形で調べたら、この施設の購入者は社会福祉法人で、当時、土地代4000万円に建物2000万円の評価を下し、自分たちから購入価格を申し出て買ったのだ、という。そして、あとでそれが半年前には1万円の評価だったと聞かされ、愕然とした、という。
ところが、これら施設を一括譲渡で購入した東京銀座にある不動産会社、レッドスロープは、東京新聞報道によると、この不動産会社は宅建業者の免許を07年に取得したばかり。資本金300万円の会社だが、取材チームが電話しても通じず、住所のビルに行っても不在のまま。文字どおり、この「かんぽの宿」プロジェクトのために急きょ立ち上げた会社なのだろう。私が調べて電話しても通じずで、同じだった。

一括売却でなく個別に公開競争入札でやること、旧郵政官僚の責任も問う必要
 そこで、結論を申し上げよう。まずは、今回の話は白紙に戻し、バルクセールという形で一括売却することは止めるべきだ。いまは、売却時期としてはいいとはいえないので、しばらく様子見にするしかないだろうが、鳥取県のケースように、地元で購入して再利用したい、ということもあり得るのだ。そして、個別ケースでの公開競争入札にしていけばいい。問題は、従業員をどうするかだが、これはケースバイケースで、場合によっては日本郵政が何らかの再就職あっせんをするしかないだろう。
それよりも、今回の問題で明らかになったことは、われわれの財産ともいうべき簡易保険料を使って立地条件の悪い場所に不必要なハコモノをつくり、何ら責任を負わないまま当初の土地取得費や建設費をすべて無駄にしてしまっている現実だ。これに関しては、プランを練った旧郵政官僚、旧特殊法人「簡易保険福祉事業団」関係者の責任を追及することが重要だ。そうでないと、本当の民営化にならないし、民営化した会社がリスクを負わされるだけになる。そうして、旧資産をどう再生するか、どう売却するかの先例モデルにしていけばいいのだ。
日本郵政の西川社長が1月29日の記者会見で、旧郵政省や旧特殊法人「簡易保険福祉事業団」が立地条件の悪い場所に施設を建てた事について「そもそも今あるかんぽの宿の立地を間違えたということもあるでしょう。あるいはまた、お金をかけすぎたということもあるでしょう」「取得原価を見ると、どういう考え方で、そういう大きな投資が行われたのか、よく理解できないところがあります」と述べている。なかなか示唆的だ。

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