民間に政策シンクタンクが必要だ、霞ヶ関行政機構も賞味期限切れ? 何ともひどい、国交省傘下の財団法人が「国に配慮、過大な航空需要予測」


時代刺激人 Vol. 77

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

「これでも政策シンクタンクを本気で任じているつもりか。何ともひどい」と思わせる東京新聞3月6日付の1面トップのスクープ記事で、私はつくづく霞ヶ関の行政機構も賞味期限切れだ、この際、色のつかない純然たる民間の政策シンクタンクが必要だな、と感じた。スクープのもとになった財団法人「運輸政策研究機構」(東京都港区、羽生次郎会長=元国土交通審議官)という交通運輸政策に関する政策シンクタンクは何と「運輸政策研トップが明言、国に配慮、航空需要で過大予測」「静岡、茨城空港建設は必要なかった」というものだったからだ。
 東京新聞記事を少し参考にさせていただこう。それによると、この運輸政策研究機構は、全国で空港建設が本当に必要かどうか、主として需要予測を手掛けるのが業務だが、昨年6月に開港した静岡空港や北九州空港などの需要予測では、実需の2、3倍もの予測を出しゴーサインを出した、という。羽生会長は東京新聞の取材に対して「いかなる理由があれ、予測が外れたのは恥ずかしい。予測に使うモデルは、新たに開発するのが大変なので、既存のモデルを加工する形で使っていたが、基本的には国内総生産(GDP)が増えれば、航空需要はそれを上回って伸びる仕組みだった」と述べている。

羽生会長「発注者の意図をおもんぱかる。国からの委託事業は注文建築と同じ」
 問題は、そのあとの発言だ。羽生会長は「予測の間違いは、予測モデルのせいというよりも、発注者(国)の意図をおもんばかってしまう点にある。国からの委託事業は注文建築と同じだ。こういう結果を出せとまでは言われないが、大きな事業ほど、地元業者などの期待感も大きい。それを感じつつ、これに反する結果を出すには相当に強い意志が必要だ」という。聞き捨てならない話だが、さらに「静岡空港にしろ、茨城空港にしろ、必要か聞かれればつくるべきでなかった。予算が限られる中、近年つくられた空港のうち、本当に必要なのは羽田空港の第4滑走路ぐらいだろう」「非常勤の会長として率直な考えを申し上げた。運輸政策研究機構もシンクタンクである以上、評判は重要だ」という。ただただあきれ返るばかりだ。
 霞ヶ関の行政機構の官僚組織は、志が高く鋭い問題意識で国家の将来のあり方を考える政策官僚も多いが、その一方で、問題先送り、前例踏襲、リスクをとりながらチャレンジを試みるといった発想のない官僚がいるのも事実。現に、2003年に霞ヶ関の構造改革をめざす若手キャリア官僚の人たちが強い危機意識から組織した「新しい霞ヶ関を創る若手の会」(NPO法人プロジェクトK)が著書「霞ヶ関維新」(東洋経済新報社刊)で「霞ヶ関が国家戦略を策定するにあたって3つの大きな問題をはらんでいる」と、問題提起している。

霞ヶ関官僚の現実、「事なかれ主義」「専門家不在による国際競争力不在の政策」
 それによると、1つがジェネラリスト特有の事なかれ主義、2つが専門家不在による国際的に競争力のある政策の不在、そして3つめが戦略や政策論議する時間の不足だ。このうちジェネラリスト特有の事なかれ主義は大きな問題。問題の本質に関与してしまうと、世論を二分する大問題になってしまったり、既得権益を持っている関係団体と、その支援を受けている政治かたちからの猛反発を受けたりすることとなり、物事が進まなくなる。そうならないように霞ヶ関では、既得権益をあまりいじらない方向で、省庁内部および政治家や関係者との調整に膨大な時間を使う、という。
しかし、私が民間に政策シンクタンクを、と思わず考えたくなる「専門家不在による国際的に競争力のある政策の不在」という点について、彼ら危機意識を持つ若手官僚によると、「昨今の行政は、国民のニーズの多様化に伴い、それぞれの業務がどんどん専門化しています。従来の行政と比しても、専門家不在で戦略・政策をつくることに限界が生じていることは自明です」という。

運輸政策研究機構は政策シンクタンク任じているが、単に都合のいい政策下請け
 こうしてみると、冒頭の運輸政策研究機構という官僚の天下り財団法人も、政策シンクタンクには程遠い存在だ。専門家不在で戦略・政策をつくることに限界、という官僚組織の現実の中で、国土交通省の航空政策に携わる官僚にとっては、このシンクタンクは政策下請けしてくれる貴重な存在となっているだけ。
そればかりでない。運輸政策研究機構は、実体と遊離した航空需要の数字を出して官僚のご機嫌うかがいをする。そうすると、国土交通省官僚も、族議員や地元政治家の政治的ニーズに巧みに応えながら、その一方で、官僚としての政策実績を残したいがために、運輸政策研究機構の過大な航空需要予測の数字を十分に検証もせず、専門の政策シンクタンクという都合のいい存在を巧みに活用して、最後は巨額の国家予算を空港建設につぎ込んでしまう。
仮に、あとで需要予測と違った現実が出てきても気にしない。もっともらしい理屈をつけてエクスキューズし、決して自らの政策ミスをおくびにも出さない。運輸政策研究機構も元官僚の天下り組織だから、そのあたりの「傾向と対策」はしっかりと出来上がっている。そして、国土交通省官僚と同様、「米国発のリーマンショック、原油などの資源価格の高騰といった想定しきれない経済の急変に遭遇し、航空需要が大きく落ち込んでしまった」というのだ。

民主党も力不足で霞ヶ関の巨大シンクタンクを使いこなせず
 私は、このコラム49回で、「霞ヶ関巨大シンクタンクの政策立案能力は活用次第、民主党の官僚敵視はリスク」といったことを書いた。民主党政権が政策立案に際して脱官僚、政治主導を全面に押し出し首相直属の「国家戦略局」を設け国家ビジョンや予算の骨格策定を集中的に行うこと、政策テーマごとに関係大臣で政策調整する「閣僚委員会」、天下り法人や霞が関行政機構のムダや不正をチェックし改革につなげる「行政刷新会議」を新設することなどを評価したが、現実は、試行錯誤で、まだまだ道半ば、それどころか鳩山由紀夫首相の主導力不足が目立ち始める一方、閣僚や「政務3役」の中にも足並みの乱れが見えて先行き不透明さを感じるほどだ。霞ヶ関巨大シンクタンクの政策立案能力は活用次第という前に、民主党の力不足で、使いこなすどころの状況でなくなってきている。
 そこで、私は、かねてからの持論でもあるが、霞が関の官僚政策シンクタンクに相対峙(あいたいじ)する形で、しっかりした民間の政策シンクタンクをつくるべきだ、という考え方でいる。49回コラムの最後の部分で、「その場合、霞が関の行政組織に対しては、情報を独占することなく、むしろ情報開示を求める」と同時に、「制度設計を含めて、民間の政策シンクタンクと政策面で競い合う関係をつくればいいと思っている」と述べた。

今こそ日本で独立系のしっかりとした政策シンクタンクを、財政基盤がポイント
 いま、民間では野村総研や日本総研、みずほ総研、富士通総研といったシンクタンクがあるが、富士通総研といった一部のメーカー系を除いて、大半が銀行、証券系のシンクタンクばかり。かつてバブルのころ、ある銀行系シンクタンクの幹部が言っていた「われわれは、政策提言を含めてシンクタンクとして自立しようという考えがあるが、現実は親企業の銀行からの受託業務でコストをまかなっている部分が多い。下手をすると、銀行の営業部門から審査業務の肩代わりの役割を求められ、不良債権を抱える問題融資先に関して、『融資に問題なし』という黄色信号を青信号に変えるお墨付きを与えることもある」と語っていたのが印象的だ。
 そういった意味で、民間に新たな政策シンクタンクをつくる場合、利害のからまない日本のあるべき政策、制度設計などを真剣に議論し、そして立案して、政治の要路にしっかりと実現、実行を促す、もっと言えば「なるほど、これは素晴らしい」と言わせて積極導入するような政策立案能力を持たねばならない。また、あらゆる権力などから独立して状況に流されないで済むように、財政基盤もしっかりしたものにしなくてはならない。いわゆる大相撲の世界でいう力士のひいき筋、後援会の谷町筋、「タニマチ」が必要だ。ただし、資金は出すが、いっさい口出し、注文をつけない志の高い人たちの浄財が何としても必要だ。

米国では政策シンクタンクは民主党系、共和党系という、言ってみれば政党系のシンクタンクがあることは、ご存じの方も多いはず。米国の政治土壌で生まれたシンクタンクはそれなりの存在感を持って、政策立案をしているが、日本では政党系のシンクタンクはなかなかなじまない。現に、自民党、民主党それぞれつくったが、中途半端な形に終わっている。その意味でも、つくる場合、独立系にして、しっかりとした財政基盤づくりに知恵を働かせ、優秀な人材を集め、まさに英知の結集をはかれば面白い存在になるように思う。

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