山形・天童で型破りの和牛肥育経営挑戦 割高輸入飼料を国産化切り替えが面白い


時代刺激人 Vol. 275

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

世の中で、何事に関しても、型破りなチャレンジがイノベーションを生み、新たなビジネスチャンスをつくりだす。そればかりか時代を変えてしまうことがある。

日本の畜産現場の飼料はほぼ全量輸入依存、
価格高騰すると廃業に追い込まれる

最大の問題は、経済安全保障がらみの問題だ。というのは、過去に、国内の畜産農家は、生産コストに占める輸入飼料などエサ代の比率が圧倒的に大きいため、たびたびボディブローを受けていた。つまり海外で大豆やトウモロコシなどの生産が天候異変によって不作になると、国際商品市況の高騰という形で影響をもろに受ける。そこに、運悪く為替のドル・円レートが仮に円安に大きく振れたりすると、輸入価格高という形で跳ね返ってしまう。それはそのまま輸入原材料高を理由にした配合飼料価格高となって、畜産農家によっては経営の採算がとれず、廃業を余儀なくされるケースが多かった。

今回取り上げる矢野さんは、その呪縛ともいえる輸入飼料を断ち切って、全量、飼料の国産化にチャレンジしたのだ。この国内畜産農家の経営のカギを握る飼料に関して、100%依存せざるを得ないと思い込んでいた輸入飼料の呪縛から解き放たれて、仮にも国産飼料ですべてまかなえるとしたら、為替変動もまったく心配する必要もないし、こんなにハッピーなことはない。

矢野さんはなぜ積極的に取り組んだか、
ポイントは日本政府の政策支援の活用

矢野さんは、なぜ、それができたのだろうか。問題はそこだ。結論から先に申し上げれば、矢野さんの場合、国内で主食用のコメのだぶつきを背景に、政府が稲作農家支援のために飼料用のコメ生産で農地を活用するように政策誘導し、補助金をつけたので、この制度的な枠組みを活用しながらビジネスモデルを描いた。そのチャレンジを今後持続できるかどうか、採算がとれるところまでこぎつけたのかどうかがポイントだ。

矢野さんは現在、53歳。山形県立村山農業高校を経て、実家が取り組んでいた和牛肥育経営を継ぐため、同じ県立の上山高校畜産専工科に入学し専門的に学んだという経歴の持ち主だ。2008年に株式会社和農産を立ち上げ、代表取締役として意欲的に畜産経営に取り組んでいる。話を聞いていて、畜産経営のマンネリズムを打破して、利益を出すだけでなく消費者から信頼をされ畜産企業の「顔」が見える経営をするのはどうすればいいかを真剣に考えている。

矢野さんが割高の輸入飼料の呪縛に
チャレンジ精神が素晴らしい

経済ジャーナリストの立場で矢野さんの取り組みに強い興味を持つのは、そのチャレンジ精神だ。まず、今回のような輸入飼料の呪縛からの脱皮には何が必要か、どうすればいいかということに取り組むと同時に、和牛肥育経営についても仔牛を市場から買ってきて肥育するだけでなく、肉質のいい仔牛の出産・育児に取り組む繁殖牛経営現場との連携、さらに畜産経営を川に例えるならば川下の食肉販売までかかわる、いわゆる6次産業化によって和牛一貫経営をめざしたいという。

矢野さんによると、飼料の完全国産化を思い立ったきっかけは、2013年に輸入穀物値上がりによるエサ代高騰で、経営的に苦しんでいたころだ、という。コメのだぶつきを背景に国内のコメ販売価格が値下がりする中で、飼料用米生産の話が出てきて、翌2014年から本格生産の動きになったため、国産飼料に代替してコストダウンするチャンス、と決断した、という。
具体的には、矢野さんは「稲作農家にとっては、辛い話ですが、2013年ごろ、日本国内で、主食用のコメが在庫増加を背景に、かなり値下がりしました。このため、国は、2014年に入って、在庫抑制策の一環として、飼料用米生産への政策転換を進めたのです。そこで、飼料用米の生産量が増えるであろうということ、国としても、その飼料用米の普及消化のためには政策的に補助金などでバックアップするだろうから、飼料代にかかっていたコスト削減のチャンスと考えました」と述べている。

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