G20「金融サミット」は寄り合い所帯、危機克服のエンジンになれるか心配 主導権は新興国に移り始めたが、元凶の米国テコ入れ支援がやはり近道?


時代刺激人 Vol. 32

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

「2010年までに合計5兆ドル(円換算500兆円)の財政出動によって、世界の経済成長率の4%押し上げをめざす」「金融危機再発防止のため、金融安定化理事会をつくり国際的な規制・監督の強化に努める」――4月2日、ロンドンに主要国、新興国の20カ国首脳(G20)が集まって開催した第2回金融サミット「首脳宣言」の主要な柱だ。うまく機能すれば、もちろんグローバル・リスクとなっている金融および経済の危機克服も不可能でない。ところがG20は寄り合い所帯会合という致命的欠陥がある。このため、各国の利害が錯そうし、結果的に実効を上げられないのでないか、という懸念が根強い。
 今回のG20は、昨年11月にワシントンで緊急開催した第1回金融サミットに続くもの。第1回の場合、世界のマネーセンター米国の金融システム破たんという生々しい現実を前に、各国首脳が、あらゆる手だてを講じて危機乗り切りを図ろうという点で一致することが重要なことだった。当然のことながら、「あらゆる政策総動員で対処する」ことで一致、文句なくまとまった。しかし半年たっても、世界経済回復の兆しが見えず、閉そく感が強まる。今回の第2回サミットで、もっと具体策に踏み込まないと事態打開には到底、至らない。そこで、水面下で、G20の事務当局がさまざまな議論を行った結果、最終的に冒頭のような首脳宣言となった。問題は、絵に描いた餅では世界中のマーケットが納得せず、株式や債券などの売りにつながりかねないため、サミット合意を実行に移すこと、そのリーダーシップを誰が果たすかがカギを握る。ところが、それが残念なことに今、見えていないのだ。

各国の利害が錯そうし「総論賛成」「各論反対」、実効上がるかどうか
 「ジャーナリストというのは、悲しい性(さが)で、何でも冷めた見方しかしない。そして疑い深い人種だ。政策が効果をあげるためには、どうすればいいか、提言したり、進言すればいいでないか」というお叱りを時々、受ける。しかし、ここは、冷静に現実を見定めないと、大きなリスクを背負うことになる。そこで、各国の利害が錯そうして実効を上げきれないのでないかという現実を申し上げておこう。今回の「金融サミット宣言」は素早く実行に移せば、間違いなく効果をあげるだろう。しかし、現実問題として、「総論賛成」「各論反対」となってしまっている。
 まず、金融危機に続く経済危機、デフレ経済に陥る悪循環リスクに歯止めをかけるための財政、金融政策総動員という「総論」部分では、どの首脳も一致している。ところが、いざ財政出動の具体策をめぐっては米国、日本、中国などの積極財政出動論に対し欧州共同体(EU)が冷ややかだった。とくにEUは、米国が当初主張した国内総生産(GDP)の2%という数値目標を明記することにはノーだった。このため、サミット主催国の英国の苦心の根回しによって「2010年までに、景気刺激のため総額5兆ドルの財政出動を行い、世界全体の経済成長率の4%押し上げ」を宣言に盛り込んだのだ。

米や日、中は財政出動に積極的だが、EUは赤字拡大懸念から冷ややか
 なぜEUは財政出動には冷ややかなのだろうか。理由は、EUのマーストリヒト条約の呪縛があるためだ。この条約は、EU加盟国に対して財政赤字を拡大させることがEUの存立基盤を揺るがす、との観点から厳しい財政規律を課しているからだ。
もちろん、マクロ経済政策で言えば、財政政策は金融政策と両輪。EUのうち、ドイツやフランスなどは当然、財政面でいろいろ手を打っている。しかし米国が主張したGDPの2%にあたる一段の財政出動によって、財政赤字が拡大することのリスクには警戒的で、マーストリヒト条約をタテに冷ややかな姿勢を見せたのだ。
サミット宣言で打ち出した財政出動の積極的な役回りを担うのは、米国、それに日本、中国といったところ。G20としては、これらの国を中心に残る17カ国分を含めて2年間で5兆ドルの財政出動とすることで、格好をつけたのだ。
 逆にEUがものすごく積極的だったのは、金融システム安定化や金融監督規制面での強化だった。このうち金融システム安定化に関しては、すでに存在する「金融安定化フォーラム」という組織に、今回のG20のメンバーを加え、新たに「金融安定化理事会」に格上げして、国際的な金融機関への規制や監督体制を強化することになった。
この金融システム強化に関しては、どの国も異存がない。問題は、ヘッジファンド規制だった。EUは、今回の金融危機に関して、グローバル・リスクの震源地である米国が金融監督規制でルーズな面があり、それが危機の連鎖をもたらしたという不満が強い。

EUはヘッジファンドなどへの金融監督規制を主張、米は海外マネー途絶を懸念
 そこで、EUは、今回のサミットで、ヘッジファンドを金融監督規制の対象にすることを主張し、とくに投資行動などの情報開示、そしてヘッジファンドの税金逃れのモトになっているタックスヘイブン(租税回避地)の規制強化を求めた。
これに対して、米国は、世界中からマネーを集め経済活性化させる金融立国がビジネスモデルとなっているため、ヘッジファンドなどへの過度の規制によって、投資資金を含めたマネー流入の道を断ち切るわけにいかない、という気持ちが強い。この点は、米国と同じ金融立国モデルの英国も同じ。さらに、ロシアも、身から出たさびだが、グルジア進攻で外国資本の総スカンを食い、外資マネーが流出し金融資本市場リスクに苦しんでおり、本音ベースではヘッジファンド規制にはネガティブだ。
しかし、米国としては、金融危機を招いた責任もあり、ヘッジファンド規制反対を強く主張できない。このため、行為規制、たとえば株式投資などでのおかしな取引に対する規制には厳しく対処というところは賛成したようだ。

今やグローバル経済課題決めるのは欧米でなくG20、英首相も会見で認める
 それよりも、今回のG20金融サミットの重要なメッセージは、米国が引き金を引いたグローバルリスクの問題をきっかけに、世界の経済政策を議論し決めるのは欧米を中心にしたG5、G7、G8ではなく、今や中国やインドなど新興国を束ねたG20である、という認識が出来上がったことだ。これはある面で画期的なことだ。
現に、今回の金融サミット主催国の英国のブラウン首相は終了後の記者会見で「グローバルな問題にはグローバルな(国々の政策参加による)解決が必要」と発言している。
 かつてワシントンコンセンサスという言葉が国際政治や経済の世界で幅をきかせた。言うまでもないことだが、政治面、軍事面、経済面で突出した力を持っていた米国が国際的な課題に積極関与するといったことにとどまらず、むしろ米国がすべて主導的に決める、という意味合いを含んでいる。国際通貨基金(IMF)などの国際金融機関についても実質的に米国の政策意図を反映させるため、ワシントンコンセンサスはこれだ、といった使い方をするほどだった。
そういった意味で言えば、今回の米国発の金融危機が招いたグローバルリスクをきっかけに米国主導のG5やG7に代わって、G20が国際政治や経済の全面に出てきたことは間違いなく「世代交代」に似た現象と言える。

中国など新興国がどこまでG20を通じ言動に見合う責任を果たせるかがカギ
 しかし、問題は中国やインドなどの新興国が加わる、あるいは主導権を持つG20になった場合、すんなりと世の中の仕切りができるかどうかだろう。今回の金融サミットで国際通貨基金(IMF)の資金基盤を7500億ドルまで拡大するに際して、中国やインドが拠出額の増大に見合った発言権を求める動きになってきた。米国にすれば、以前ならばノーだろうが、今は米国内の景気刺激のための財政出動に資金が必要で、IMFへの資金拠出を資金力のある新興国が肩代わりしてくれることを容認せざるを得なくなっている。しかしデフォルトリスクに苦しむ東欧などの国々への資金支援が大きくなり、仮に中国の資金負担が強まった場合、継続的に責任を果たし得るのかどうか、といった問題がある。
そればかりでない。今回のサミットに際して、ロシアや中国が米国のドル基軸体制に代わる新しい国際通貨体制づくりが必要との問題提起をして波紋を投げたが、どこまで、その発言に見合う責任を果たせるかどうか、といった問題もある。
 ここは議論の分かれるところだが、新興国にはまだ、それだけの力量が伴わない場合には、今回のグローバルリスクの元凶である米国を、一定の条件付きでテコ入れ支援し、重要な決定にコミットさせる、というのも選択肢だろう。今回の金融サミットでもオバマ米大統領は、常に言葉を選びながら、米国が世界経済に果たす役割が多いこと、貢献もしていくことをアピールしていたのが印象的だった。米国は、さまざまな問題を引き起こしたが、やはり「腐っても鯛」で、今後の世界経済乗り切りのためには、活用していくしかない、という判断を米国を除くG19が持つかどうかだ。

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