自主性を持ち、自ら掲げた目標に向かって育っていく人材が、最先端のプロジェクトを切り拓く

コロナ以前からリモートワークを実践
「尖った人材」を育み、活躍できる環境を構築

リコーITソリューションズ株式会社は、リコーグループのソフトウェア開発を担う企業とグループ内のSE人材を統合し、リコーの製品・サービスに先進のITを提供する企業だ。同社はリコー製の複写機・複合機をはじめ、ビデオ会議システム、全天球カメラなどの製品に組込まれたソフトウェア開発・検証・品質保証や、基幹系・情報系ソリューション開発、システム構築・運用・保守などに取り組んでいる。

「当社はピュアにソフトウェア開発をしている企業です。事業全体のうち、約30%はエンベデッドと呼ばれる、複写機・複合機、ビデオ会議システムなどの組み込み型ソフトウェアを開発しています。また約30%が社内のITサポート、約30%がクラウドサービスやパッケージソフトウェアなどリコーブランドのソフトウェア開発をしてお客様に提供しています。他10%はオリジナルのソフトウェアを開発したり、セキュリティビジネスを展開したりしています」

事業の約90%は、リコーグループからのデマンドに応じて、必要なソフトウェアすべてを開発している。このため、自社内には営業機能を持たず、本業のソフトウェア開発に専念しているという。また、コロナ以前から在宅勤務やリモートワークを実践してきたのも特徴だ。

「会社統合以前は全国に分散していたという背景があるため地方事業所が多く、北見、札幌、秋田、金沢、鳥取、鹿児島と首都圏に拠点があります。複数の事業所に跨ったリモート体制でのプロジェクトも珍しくありません。部長が地方で勤務し、所属する部員が首都圏という例もあります」

ソフトウェア開発を取り巻く業界には、いわゆるブラック企業と呼ばれる過酷な就業環境のイメージも一部につきまとってきた。

「当社もかなり以前には、こうしたイメージを持たれる部分が存在していたことを否定できません。しかし、様々な取り組みでホワイト化に全力を上げ、現在2020年健康経営ホワイト500では、申請企業約2,500社の中で上位百社の認定を受けるほど、働きやすい環境を実現しています。

同社は企業として働き方を大きく変革し、これを実践している。

「我々が進めているのは『働き方変革』であって、『働かせ方改革』ではないということです。在宅勤務で業務の効率化を目指しているのではありません。社員一人ひとりがワークライフマネジメントの中で、バランスのよい仕事や健康的なオフタイムを過ごすことで、モチベーションや働きがいも向上し、結果的によい仕事をしてほしいというのが当社の願いです」

一方的な押しつけではなく、社員が自ら発した要望に沿って、自分たちが会社を改善しているという印象づけが大切だという。

「例えば、有休休暇を1時間単位の時間年休を取得可能にしたり、コアタイムなしのフレックスタイムを導入するなどして、社員が使いやすい制度を実現しています。また、勤務時はフルカジュアルなど、社員の声をきちんと吸い上げて仕組みや制度を日々改善しています。これからの時代は、企業の本質を社員にしっかりと理解してもらい、共鳴してくれた人に一緒に働いてもらうというのが理想だと思います」

同社が求めているのは、自らの考えで新しい世界を切り拓き、成長していく「尖った人材」だという。

「必要なのは、主体性を持って自らを育てられる尖った人材です。誰かが育ててくれて、何かを与えてくれるのを待つのではなく、自分はどうなりたいのかを自分で考え、イメージしたゴールに向かって経験を積み、学ぶことを繰り返し、成長していく人を求めています」

急速に高度化が進むリコーの事業に対応し
グループの中核としてデジタルサービスを提供

ITの進化や新たな技術の誕生に伴って、同社の事業内容も大きな変革を遂げている。

「リコーのサービスや商材は、年々高度化しています。AIの活用やアジャイルに開発したり、クラウドを使うのが当たり前だったり、セキュリティが高度になったり、急激に大きく変貌しているのです」

リコーグループのなかでも、重要な位置づけとなるソフトエンジニアリング部門を担うのが同社の役割だ。

「常に先端の興味深いビジネスに参画しているのが大きな特長です。当社は、尖ったプロジェクトに徹底的に打ち込んでいます。従来のリコーはOAメーカーとして存在していましたが、デジタルサービスの企業に変わってきています。よいモノを作りさえすれば、お客様がどんどん買っていただけるという時代ではありません。お客様の困りごとにミートし、それを解決できるサービスを提供するのがリコーグループの存在意義です」

同社はリコーグループの中核企業としてデジタルサービスを提供し、ユーザーのビジネスや働き方を変革するためのサポートを続けていく方針だ。

社員一人ひとりの個性や、働き方への希望を重視し、より快適な就業環境を目指すIT企業

スマホなどの普及でITへの期待がより高まる
ネットワーク関連の事業が大きく伸張

システム開発、システムネットワークサービス、これらに付随するカスタマーサービスを主軸に事業を展開する株式会社ノバックス。放送局や新聞社など、トラディショナルメディア系の業務を多く扱っている同社は、IT技術の進化とともに事業を拡大し、大きな成長を続けている。

「ITへの期待がより一層高まっていることを感じます。他業種からIT系に転職する方も増えていますし、業界としての位置づけが向上しているように思います」

以前はブラック業界としてスポットを当てられている時期もあったが、現在ではそのイメージは払拭され、大きく変容しているという。

「その理由のひとつは、技術の進化によりスマートフォンやアプリなどが生活の一部に組み込まれるようになったことだと考えます。身近なIT機器と言えば、以前はPCやいわゆるガラケーでした。今ではスマートフォン、タブレットなどが広く普及し、何をやるにしてもIT技術を活用しなければならない状況が訪れました」

同社の事業において、近年はネットワーク関連への注目が高まっているという。

「IT業界というとシステム開発のプログラマーをイメージしがちですが、5Gやクラウドなどネットワーク関連の技術が著しく進歩し、ニーズが高まっています。当社を志望する人も、以前はプログラマーとして、ものづくりをしたいという人が多かったのですが、24時間365日ずっと動いているネットワークに対して興味を持っているという人が増えてきました」

大手通信キャリアやIT関連メーカー、データセンターを構築したい企業など需要も高まり、現在は同社でも開発部門よりネットワーク部門の人員が多くなっている。

年1回、社員一人ひとりと時間をかけて面談
『人』にフォーカスした独自の経営方針を貫く

事業を成功に導いているのは、確かな先見性を持って拡大を図ってきたことばかりでなく、企業として社員を思いやる姿勢が大きい。

「当社はIT技術者が創業したのではなく、人事系の経験を持つ創業者が立ち上げた経緯もあり、『人』にフォーカスした経営方針を貫いてきました。そのため、社員に対するフォローやコミュニケーションを重視しています」

すべての社員に対し、社長と採用教育センター長が1年に1回、必ず面談を行っている。そのスタイルは一般的な面談とは一線を画す。

「多くの企業が採り入れている面談とは異なり、カフェでお茶を飲みながら、長い人で8時間くらい会話をします。直接的な仕事の話ばかりでなく、人生をどう過ごしていくか、どんな希望を持っているか、雑談も交えてじっくり話すのです」

その上で、例えばライフスタイルや趣味を大切にしたいという社員には、その考えに合致した働き方を一緒に考えていく。同社は、社員一人ひとりが自分らしく働ける会社を目指しているのだ。

「気持ちよく働ける場を提供するのは企業の使命です。当社は自社内ではなく、お客様の企業で働いている社員が多く、対面して本人の考えを知る機会がどうしても限られます。互いにリラックスして話せる時間を設けることで、『会社は何を考えているのだ』という社員の気持ちが変化していきました。社内が透明化され、就業環境の改善にも大きく役立っています」

社員のそれぞれに、夢ややりたいことを聞き、自分らしい人生とは何かを話し合っていくうちに将来像が浮かび上がり、その実現のために退職を選ぶ社員も過去にはいたという。

「自分にふさわしい仕事として当社で働いてほしいと願っています。仕事ですから、当社で働くこと自体が楽しいことではないかもしれません。しかし、人生の多くの時間を仕事に費やすと考えた場合、人生の負担にならないよう、働き方を整備したいと考えています。企業として社員をサポートする仕組みをよりよいものにできるよう、常に改善しています」

社員の多くは、IT業界未経験の中途採用と新卒者が占めている。IT業界経験者を中心にした採用は、コスト面からも大手でなければ難しいという。

「かなり前には、未経験者も即OJTで働きながら知識を身に付けていくことも確かにありました。お客様から一定以上の業務スキルを求められることも増えて、社員研修には特に力を入れています」

新卒はもちろん中途採用者もしっかりと、1カ月から半年程度の社内研修期間を設けている。

「外部から講師を招いた研修も行い、社内で対応できない高度なスキルの習得や資格については、外部のスクールで学んでもらうこともあります」

社会人だからといって、仕事がすべてでは人生がつまらない。そこに希望があるからこそ、やりたくない仕事もこなしていけるのだと語る。社員一人ひとりを思いやり、心を込めて支え続ける同社の姿勢が、今後の企業の成長を築いていく。

「ハイポネックス」の高い知名度と、新製品開発を追求し続けるナショナルブランドの強み

信頼と安心のブランド「ハイポネックス」
PB商品の訴求力の向上にも活きる

園芸用肥料のトップブランドとして高い知名度を持つ「ハイポネックス」。

「主力商品の『微粉ハイポネックス』をはじめ、『ハイポネックス原液』『マグァンプ』など当社の製品は、いずれもロングセラーを続けており、現在も家庭園芸のマーケットにおいてシェア・ナンバー1の地位にあります」

家庭用を中心とした園芸市場において、信頼の厚いナショナルブランドとしての地位は確固たるものがある。

「小売企業が自らのブランドを前面に出したいとする戦略から、プライベートブランド化が一段と進んできたように思います。当社の製品をお取り扱いいただいているホームセンターなど流通業界では、プライベートブランド商品の販売を強化する企業が伸びています。こうした流れに対応し、主力商品についてはナショナルブランドの位置づけをしっかりと堅持しながら、それ以外の製品は、ホームセンターのご要望に応じてプライベートブランドとしても商品供給しています」

ホームセンターなどが扱うプライベートブランド商品にも同社の高いブランド力が生きているという。

「当社のブランドである『ハイポネックス』と、販売するホームセンターの名称の両方を表示した『ダブルチョップ』製品が人気です。パッケージに両社のブランドを併記することで、オリジナル性をアピールでき、商品訴求力が強まると高く評価されています」

大手ホームセンターのM&Aなどによって、プライベートブランドへのシフトがさらに進んでいく動きも見られる。

「家庭園芸分野は、コモディティ(日用品)ではなく、趣味やこだわりが強く反映される世界です。当社のブランドを評価されるお客様は、そこに信頼や安心感を見いだし、少々高価であってもご購入されています。趣味・嗜好の分野では、今後もナショナルブランドが根強く支持されると信じています」

ナショナルブランドメーカーの強みを生かし、多大な開発コストをかけて新製品を次々に市場に投入している。

「有力なホームセンターは大企業ですから、自社で製品開発する力がありますが、そこにはリスクも伴います。商材によってはナショナルブランドメーカーの供給を受けた方がリスクは小さく、メリットが大きいはずです。そこで当社は常に新しい製品を投入し続けることを基本戦略に掲げて、研究開発力を磨いてきました。すべてがヒットするわけではありませんが、1年間に4〜5アイテムの新製品を出し続け、市場に新しい刺激を与えつつニーズを探っています」

コロナの影響で在宅時間が増え、同社の経営環境にも変化をもたらした。

「ご家族で野菜づくりを楽しむ人が増えています。現在はプランターや土・苗の売上が大きく伸び、当社が手がける肥料の販売はまだそこまでの勢いはありませんが、これからの伸長が期待できます。また在宅時間が長くなった結果、インドアグリーンへの関心も高まっています」

花卉で培ったノウハウを家庭菜園に
バイオスティミュラントの大きな可能性

アフターコロナを迎えたときこそ、企業としての真価が問われる。同社には2つの中長期的戦略があるという。

「1つは家庭菜園です。若い人を中心に花よりも野菜への志向が高まっています。当社は主に花卉の分野で成長を続けてきましたが、そのノウハウを野菜にも生かし、他企業とのコラボレーションも進めながら市場での存在感を高めていきます。もう1つは、バイオスティミュラント資材の展開です。農薬などに頼らず、植物由来のもので生育を促しつつ、作物や土壌への負荷を抑えます。植物が本来持っている力を引き出す、新しい農法の資材です。環境問題と有機栽培の先進地ヨーロッパを中心に広がっており、当社はスペインの企業との提携で販売を始めました」

同社を率いる村上 恭豊社長は2020年秋、「黄綬褒章」を受章された。これは、永年家庭園芸産業に従事し、事業の発展と都市緑化の推進に尽力するとともに、公益社団法人「日本家庭園芸普及協会」の役員として業界の発展に寄与した功績が認められたものだ。

「受章はなによりも両親からの贈り物だと考えています。父は協会団体の創設や『微粉ハイポネックス』などの製品普及に尽力し、母はこれを支え続けました。受章の連絡をうけて、私は真っ先に墓前に報告しました。そして、私が個人として受章したのではなく、両親や社員、諸先輩方の努力の積み重ねが、実を結んだものだと心に刻んでいます」

どのような肥料を使えば、未来の安心・安全につながるかを即座に判断するのは難しい。しかし、同社が「ハイポネックス」で培ってきた信頼と積み重ねてきた実績は、1つの確かな裏付けとなるだろう。子どもたちが担う未来に向けて、同社の歩みは続く。

高い遮熱、断熱性能に加え、防臭、防音など優れた特性を持つ塗料の応用分野が拡大

建設・建築業界からスポーツなど多分野に波及
新工場、新社屋など企業規模の拡大を続ける

塗布するだけで遮熱、断熱に+αの効果をもたらし、快適な空間を実現する「ガイナ」。独自のメカニズムで一般的な遮熱・断熱材とは一線を画す革新的な塗料は、今もさらなる進化を続けているという。

「ガイナはこれまで建設・建築業界を中心に利用されてきましたが、他の分野からも注目を集めています。スポーツがその一例に挙げられます。底地にガイナを塗布した運動靴は、地面から発せられる熱の約60%をカットする効果がありヒットしています。2020年春には野球のスパイクも販売され、2021年には帽子にガイナを使った商品も発売予定です」

スポーツ界では、冬は外気を遮熱して、暖かさを保てるという機能も注目されているという。

「布地にガイナを定着させる技術が開発されたことにより、衣類への波及が期待されています。防寒ジャンパー、フリース、寝具、キャンプ用品などにも可能性が広がっています」

同社の事業も順調に拡大を続けている。

「2017年に大阪工場を新設し、2019年にはガイナ第2ビルを開所するなど規模を拡大しています。島根工場も拡大する準備をしているところです」

日本特有の意識に落胆し
海外マーケットへの積極的な進出を図る

現在、案じているのは、日本人や日本企業の意識の変化だ。

「日本に多いのは『ペンキはガイナの半値で買える。ガイナの値段はどうして半値にならないのか』という問い合わせです。ガイナはとても付加価値の高い商品です。しかし、その付加価値よりも安い目先の商品に手を出したいという考えが毎年強くなっているように思います」

数年前から、この傾向が顕著になり、日本国内の先行きには困惑しているという。

「『安いものがほしい』『手離れのよいものがほしい』『説明が必要な商品は面倒」という意識が日本の企業に広がっています。これとは逆に、海外からの問い合わせは2010年頃から毎年約500件を数えます。なかでもガイナの事業をしたい、購入したい、コラボレーションしたいという要望が多く、地球の未来を考えた話が多いのです」

やがて視線は、日本国内から海外へと向けられつつある。

「ガイナを携えて海外で大暴れしようと考えています。コロナで出鼻をくじかれた状況ですが、今まさにエジプト政府から承認が下りたとか、シンガポールの建材メーカーがガイナの展開を進めていくというという連絡を受けたところです。ガイナは世界中から求められる技術だと思っています」

その明るい未来を想像すると、ワクワクして眠れないこともあるという。

「耐火性能にも優れており、米国の安全認証機関ULでも高く評価されています。15mmの杉板に1000℃の熱を加えたときに、10分から15分で炎が突き抜けます。ところがガイナを塗ると30分以上耐えられるのです。つまり、ガイナを使えば木材だけで20階建てのビルを建てるのも夢ではありません。これは森林産業の復興にも役立つ技術だと考えています」

これだけ優れた性能がありながら、普及のスピードを抑えているのは弊害の存在だという。

「例えば断熱は厚みに比例するという古くからの考えがあります。一方、ガイナの場合は熱を遠赤外線に変えるという技術です。しかし、根付いた意識の転換を図っていただくのは難しいことなのです。また、『石橋を叩いて壊す』というのが日本の大企業の風潮です。私が世に出た頃は、がむしゃらにチャレンジしてみることが求められました。今は、やらないための理由付けを一生懸命に考えているのです。日本はもう萎縮してしまっているのです。その結果として、メイドインジャパンをありがたがる国は、どんどん減っていることに気づかなければなりません」

「ガイナで快適な環境を世界中に広げていきたい」という熱い思い。そこには、子や孫によい地球環境を遺したいという、心からの願いが込められている。未来向けて今、何かをしなければいけない。その可能性を秘めているのがガイナなのだという。

サービス産業の生産性向上を目指し、「価値共創」の考え方を幅広く啓発

科学的見地からサービス産業の生産性向上をめざす
産学官のプラットフォームとして唯一の団体

サービス産業のイノベーションと生産性向上を目指し、2007年、日本生産性本部に産学官のプラットフォームとして設立されたのがサービス産業生産性協議会(SPRING)だ。次世代経営者が実際に他の優良企業で働く実地体験型の研修制度「大人の武者修行」事業や、購買行動に共通する要素をモデル化し、満足を構造的に把握できる「JCSI(日本版顧客満足度指数)」などさまざまなプロジェクトを行ってきた。

「製造業においては、一般的に、科学的に生産性向上を図る手法が確立されていますが、サービス産業の場合は、生産性向上に科学的にアプローチしようとすると、拠り所になるようなセオリーやテクノロジーが見当たりませんでした。そこで、従来はカンや経験をもとに行っていたサービス産業の生産性向上に、科学的にアプローチしようとするのが当協議会の理念です」

当協議会は、2017年に創立10周年を迎え、「サービス価値共創宣言」を発表しました。

「次の10年を見据えて、さらに運動の促進を目指したものです。米国と比較すると、日本の製造業の生産性水準は約7割ですが、サービス産業は約5割です。これを改善しなければならないという問題意識と、サービス産業が日本経済を牽引してほしいという願いも込めた宣言です」

サービス産業の生産性は米国の約1/2と低い状況にあり、これは改善による「伸びしろが大きい」と捉えることもできる。

「サービス産業生産性協議会10周年の集いで発表した10周年宣言は次の5項目です。1.サービスの送り手と受け手で新たな『価値の共創』を 2.科学的アプローチによる仕組みで『イノベーション』を 3.サービス産業に『未来への投資』を 4.『人材』こそサービス産業の価値の源泉 5.『地方創生』を支え『グローバルに展開』するサービス産業へ。この宣言では、サービスの本質である『価値共創』の考え方を中心に据えています。その上で、サービスイノベーションへの科学的アプローチに向けて、人材への投資をはじめとする未来への投資の重要性を提案しているのが大きな特長です」

GDPに占めるサービス産業の比率は、1955年に47%だったが、2018年には72%になっている。GDPの7割を超えるサービス産業には、イノベーションと生産性の向上が求められるという。

「2018年には、10周年宣言をより具体化するため『労働力喪失時代における持続可能な社会経済システム「スマートエコノミー」の実現を目指して』という提言を発表しました。経済規模の拡大を目指す「成長戦略」から、労働者一人当たりの付加価値の抜本的拡大を目指す「生産性向上戦略」に国をあげて転換し、その成果でサービスイノベーションの全面展開を行い、それを購買力の向上につなげ、産業の新陳代謝を高めることによって、さらに付加価値の拡大へと連鎖させる社会を『スマートエコノミー』として提案したものです」

日本サービス大賞を通じて、
サービスの本質「価値共創」を社会にも啓発

当協議会では、2015年から、革新的で優れたサービスを内閣総理大臣賞等として表彰する「日本サービス大賞」を隔年開催している。

「第3回には、全国から762件の応募がありました。審査の途中段階からは、新型コロナ危機の影響によりオンラインも活用して審査を進め、2020年10月に30の価値共創に優れた企業・団体を選定し、表彰しました」

「これらの受賞企業・団体の革新的で優れたサービスは、生産性向上を目指すサービス産業だけでなく、サービス化に取り組む製造業や農林水産業も含め幅広く学んでいただくため、事例集、書籍、シンポジウムなどを通じて紹介していきます。新型コロナ下でもありますので、SPRINGフォーラムをオンラインで開催し、月2事例程度を紹介する取り組みも始めています」

「今後は事例の紹介にとどまらず、サービスの本質である『価値共創』の考え方や『価値共創の仕組みの創り込み』の方法について、サービス産業以外の方々も含めて、わかりやすく広めていきたいと考えています」

新型コロナウイルスの影響により、社会全体が大きな変化を強いられている。

「サービス産業への影響は特に大きく、各企業とも感染防止や新しい生活様式に合わせたサービスへの転換に取り組んでいます。第3回『日本サービス大賞』の受賞企業・団体のサービスには、顧客の変化に合わせて、非接触、遠隔、超臨場といった3密回避型サービスを展開する企業が多数ありました。新型コロナ危機下でも、この様な価値共創の重要性は変わりません。日本サービス大賞を通して、これらの『価値共創の達人たち』の知識・スキルを日本中に学んでもらいたいと思っています」

同協議会は、サービス産業の生産性向上を目指す唯一の産学官のプラットフォームとして、サービスイノベーションの模範事例や『価値共創』を拠り所とする経営革新の方法を産業界に広く普及していくことで、サービスイノベーションの全面展開に貢献していく方針だ。

サービス産業生産性協議会(SPRING)
https://service-js.jp

「SPRING10周年 サービス価値共創宣言」(2017.7.26)
https://www.service-js.jp/modules/contents/?ACTION=content&content_id=1275

提言「労働力喪失時代における持続可能な社会経済
システム『スマートエコノミー』の実現を目指して」(2018.11.30)
https://www.jpc-net.jp/research/detail/002749.html

日本サービス大賞
https://service-award.jp

業界他社にさきがけて、いち早くAI技術を業務に採り入れ、ベンダーと協業しサービス化へ

AI開発ソリューションチームを社内に新設
業務の効率化を図りシステムとして外販も

コールセンター、電話代行、テレマーケティングのパイオニアとして、契約実績22,000社以上を誇る株式会社ベルウェール渋谷。最先端技術のいち早い導入は、コールセンター業務を新たなステージへと招き入れた。

「AI開発ソリューションチームを社内に新設し、さまざまな形でAIを採り入れています。例えば、過去のデータを分析して、回答を予測していく機能が挙げられます。AIを利用して音声をテキストに変換することで、活用できる可能性が大きく広がります」

同社では2016年頃からAIを利用した取り組みをスタート。2020年を迎えて業界内にも採り入れられつつあるのが現状だ。

「AIを効率化に結びつけるためには、膨大なデータが必要です。すぐにすべての分野に生かせるわけではありませんが、条件の整った特定の用途には大きな成果を発揮しています。今後、データが蓄積するに従って、さらに精度も高まっていくと期待しています」

コールセンター業務では以前から効率化が課題になっていたという。トレンドになっているAIを活用することは、現場レベルからの求めという背景もあった。さらにビジネスは大きく広がる。

「AIを開発しているベンダーとコラボレーションして新たなシステムを開発し、サービス化を図ろうという取り組みも進めています。これはRPA(Robotic Process Automation)を活用し、従来は人がやっていたことをロボットに代行させ、作業を自動化させるものです。例えば、クライアントへのメール返信をプログラム化して、自動的に行うことができます。これにより空いた時間を使って、オペレーターは他の電話の対応や、業務の品質を高めるために費やすことができます」

さらに新たなチャネルとして定着しつつあるチャットにも活用される。

「チャットでAIを活用することで、的確な回答事例を瞬時に探し出し、即時解決を図ることも可能です。また、話題のAIを採り入れるという名目で、業務をまな板の上に置いて、業務整理のきっかけにできるという企業側のメリットもあります。今後はこれをどのようにクライアント様やエンドユーザー様に提供できるか、サービス品質を高めていけるかが肝要なところだと感じています」

クライアントとエンドユーザーを結ぶ
コールセンターはライフラインのひとつ

同社は創業から46年という長い社歴のなかで実績を積み重ねながら、大きな信頼を築いてきた。

「当社はISO9001(品質マネジメントシステム)、ISO27001(ISMS/情報セキュリティーマネジメントシステム)、JISQ15001(プライバシーマーク制度)を取得し、それぞれ更新を続けています。また、契約実績22,000社以上という数字には、多くの信頼と期待が寄せられているものと実感しています」

これから新しい生活スタイルが浸透していくことにより、コールセンターには何が求められていくのだろうか。

「クライアント様がお客様との接点をとりにくくなっているのが現状だと判断しています。コールセンターには、より高い品質や、フレンドリーな対応など、多様化した要望が求められると考えます。注文を受けるだけでなく、記憶に残るひと言を付け加えてほしい、などという取り組みも求められています」

クライアントのニーズにも変化が表れると予測する。

「新しいニーズをつかむためにコールセンターを活用することが、クライアント様のビジネス拡大につながります。コールセンターは第一線でお客様と対応します。そこには商品への要望など貴重な生の声が含まれているのです。これを正確に汲み取って、クライアント様に提供することで、次の戦略としての活用も可能になります」

同社は社内業務の変革にも積極的に取り組んでいるという。

「これまでも全社的にKPIを管理するシステムがあったのですが、従業員全員できちんと短・中・長と目標を立てて取り組むことをスタートしました。さらにKGI、KPIの管理、OKRで短期目標を回していくことにしました。これを一気通貫に管理していく仕組みを採り入れ、2020年9月から運用を始めたところです。目標を決める際には、当社に根付いたWHYの精神やHOWの精神が必要になります。最近では、目標に向かって取り組んでいくことが楽しみになっているという声も聞かれます」

これが社員のモチベーションアップに直結し、離職率の低下にもつながっているという。同社はコールセンター業務をライフラインのひとつと位置づける。大切な生命を守るためには、緊急時であっても決して止めることはできない。今後もその使命を大きな誇りに事業を続けていく方針だ。

取引先別から品番別に管理スタイルを進化させるなど、ものづくりを追求するさまざまな取り組み

管理スタイルの進化に全力を注いで
品番単位での見える化と取引先の安心を

エンジニアリングとしてのものづくりをベースに、プレス、線ばね、切削、カシメ、溶接、組立など、幅広い固有技術をベースにアッセンブル品の一貫生産体制を構築して、多種多様なメーカーに供給しているのが山陽株式会社だ。

「よりお客様のご要望に応えられる企業を目指して、常に努力と改善を進めています。なかでも企業改革の大きな柱として、管理スタイルを進化させました。従来は取引先別に管理していたのですが、これをすべて品番ごとに改めたのです」

1万アイテムを超えるという多品目を扱う同社にとって、その作業は容易ではなかった。

「改善のために必要な客観的な情報が正確に得られていない状況でした。そこで、品番単位で工程ごとに工数や品質ロスを一元管理できる体制を作り上げました。加工した数、誰がどの工程にどれくらいの時間が掛かったかなどを都度入力し、データベース化したのです。この仕掛けをつくるために5〜6年は費やしました。このデータベースを活用して改善ターゲットを客観的に抽出できるようになり、効率的、効果的に改善ができるようになりました」

品番管理システムの構築は大きなメリットがあったという。

「集合体としての情報収集よりも、子部品単位での善し悪しが数字で見えるようになったことが大きいのです。現場でも常に正確な数値を把握することができ、ボリュームの大きな製品ほど大きな成果が表れます。当社の自己解決能力や品質レベルの向上を高めるだけでなく、ロングレンジで考えるとお客様の管理コストを抑え、より安心してお取引をいただくことにもつながってくると信じています」

部品によっては提供期間の長いものもあるという。

「エンジンなどは最終製品が変わっても、同じ品番の部品が使い続けられることがあります。共通部品として、20年以上も採用されるものも少なくありません。少しでも安心感が増すことで、長くお取引いただけるサプライヤーであり続けられると考えています」

一方で、大量生産される部品を中心に、ものづくりの現場が海外へとシフトし、国内生産に求められる要望は厳しくなっているという。

「中長期目線で考えたとき、受け皿としての日本国内のサプライチェーンの課題が顕在化されつつあるように感じています。当社では、本社工場のリニューアルや新工場開設を1年早めるなどの対応を行いました。お客様からのご要望にお応えするために、将来を見据えて生産スペースの確保を実施しました」

これからの日本のものづくりに求められるのは、どのようなことだろうか。

「一般的には数量があればあるほど、安く作ることはできます。しかし、日本国内の生産量は減少しており、コストでは海外に勝つことはできません。そこで必要なのは、機動力のある現場と自分たちが汗を流し、手を汚し、客観的なデータを活かしたものづくりを続けていく姿勢が大切だと考えています」

その言葉のなかには、同社が目指すものづくりへの情熱がうかがえる。

製造業に課せられたコロナ対策の難しさ
どんな時代を迎えても続く「ものづくり」

コロナ禍においては製造業ならではの難しさがあるなかで、万全の対策を模索した。

「出社してラインを動かさなければ製造現場は機能しませんし、お客さまへの供給責任を果たすことができません。営業担当者であっても、現場の業務に直結しなければならないため、出社を控えることはできないのです。そこで、社内を大きく2班に分けて、いずれかで感染者が発生しても現場を止めなくて済むようにしました。もちろん、毎日の体温測定を徹底し、休憩時間をずらしたり、社内会議を2部屋に分けて行うなど、できる限りの対策を講じました」

現場をはじめ、社員の意識にも変化が表れたという。

「仕事量のばらつきが表れるなかで、部署の垣根を越えた応援態勢を構築しました。従来は所属部署の業務量に余裕があっても多部署の業務に就くことはありませんでした。現在は柔軟性を高め、社員の力を有効に使おうという取り組みを進め、各部署に適正な人員を配置しています。こうした努力もあり、2020年後期以降はコロナで一時沈んだ業績も向上してきました」

今後の成長のカギを握るのは、やはり人材だという。

「当社に限らず、製造業では人材不足の解消と人材育成が大きなミッションです。まずは『ここで働いてみたい』と思ってもらえるよう、新工場建設の際に社内のデザインを見直したり、社員食堂のメニューを選択制にしました。また、一般的にヒュームや高温で厳しい職場環境となりがちな溶接職場では、溶接ロボットをブースで覆って、工場内に溶接ヒュームが排出されないように職場環境の改善を図っています。さらにTPM活動を通して、人材育成に取り組んでいます。外部からも講師を招いて、自己解決能力の高い優れたものづくり人材を育てていく考えです」

今後、時代がどう変化しても、ものづくりを辞める考えはない、と力強く語る。そこには全力を挙げて取引先の要望に応える同社の真摯な姿勢が感じられる。

全国の信用金庫を窓口に保険販売、潜在ニーズを掘り起こして、地域の顧客に万が一の備えを

マイナス金利で主力商品を見直し
貯蓄性商品から医療保険、定期保険へとシフト

全国の信用金庫を中心に代理店チャネルによる保険販売事業を展開しているフコクしんらい生命保険。一時払型の個人年金保険をメインに契約高を伸ばしていた同社に大きな転機が訪れた。

「当社に限らず、金融機関の経営に重くのしかかったのはマイナス金利政策です。2016年から政策導入されて以来、これまでにほぼ金利はなくなっている状況です。当社の場合、信用金庫を通じて販売していた主力商品が一時払型の個人年金保険でした。いわば、銀行預金の延長線上にある商品で、金融機関の窓口で比較的販売しやすいという特長がありました」

信用金庫の顧客に一定のニーズがあり、信用金庫と同社の双方にとって魅力的な保険商品だったという。

「マイナス金利政策によって一時払型の個人年金保険は販売を休止せざるを得ず、契約数や契約高は激減し、苦しい状況が続きました。そこで個人年金保険など貯蓄性の高い保険商品から、保障性商品へと軸足をシフトする方針を打ち出したのです」

もともと信用金庫の顧客は、地元の中小企業に勤める人が多くを占める。

「地域に根差した中小企業の多くは大企業のように、団体保険やグループ保険といった福利厚生制度が十分に行き渡っていません。こうした方を対象に、廉価で分かりやすく、気軽にご加入いただける保険をご提供するのが当社の役割だと考えました」

しかし、これまでとはまったく方向性の違う保険商品を信用金庫の窓口で販売することは困難を極めた。

「預金したい、車を買いたい、おいしいものが食べたいというのは、お客さまが必要性を自覚している顕在ニーズです。しかし、そもそも自ら進んで保険に入ろうと考える方はあまりいません。『万が一に備えて保険に入っていますか?』『これでは十分ではないかもしれませんね』などと、コンサルティングが必要なのが、保険商品をはじめとした潜在ニーズ商品です。特に保障性商品の販売では、入院時や万一のときの備えに必要な金額を示しながらニーズを喚起し、潜在ニーズを顕在化する工程が必要です。保険はいくら良い保険商品を開発しても、販売前に必ずこのニーズ喚起が必要なのです」

潜在ニーズを顕在化するのは簡単ではないが、同社は保険会社としてそのノウハウを持っていた。これを信用金庫と共有する方策を探った。

「時間をかけて必要性を説いて、やっと『1本くらい保険に入っていなければ心配かな』などと思っていただけます。本業として保険商品を販売している保険会社の社員でも難しいことなのです。実際に信用金庫の窓口ではさらに厳しい状況でした。当社から研修に出向いて、信用金庫の担当者にロールプレイングや同行指導を行うなど、スキルアップのためのサポートをしました」

その結果、平準払の保障性商品として、現状の医療に対応した『解約返戻金抑制型医療保険』、一定期間大きな保障が得られる『定期保険』が新たな主力商品になった。現在は、認知症や要介護状態までをカバーする『介護保障定期保険特約』や『軽度介護保障特約』をこれら主力商品とセットで販売し、幅広い保障の提供を推進している。また低金利環境でも一定の商品性を維持できる保険商品として、万一のときの保障が一生涯続き貯蓄性も高めた『利率更改型一時払終身保険』も開発・販売している。

「長年保険を販売していても、お客さまが自分から積極的に入っていただけるケースは少なく、何度も詳しくご説明して、万が一のためにとご納得いただき、ようやくご加入いただけることが多いものです。お客さまに万が一のことが起こったときに初めて、『あのときに勧めてくれてありがとう』と感謝のお言葉をいただける、それが保険なのです」

地域に根ざした信用金庫との関係性を高め
顧客や地域社会に大きく貢献する保険会社に

都市銀行や地方銀行など、さまざまな金融機関のなかで、信用金庫ならではの特長を生かした取り組みを行っている。

「信用金庫は地域に根ざした金融機関ですから、その地域周辺のご事情をよく知っています。例えば、長寿化が進む中で認知症になられる方やそのご家族、ご近所の方もいらっしゃいます。そうしたお客さまを対象に、信用金庫や業務提携先である株式会社公文教育研究会とともに『認知症予防セミナー』を開催したり、認知症になった場合に給付金が受け取れる保険をご案内するなど、地域密着のメリットを生かし、さまざまな工夫をしてご紹介しています」

信用金庫との連携は今後も揺らぐことなく、さらに良好な関係を目指していくという。

「信用金庫をビジネスパートナーとして展開していく方針は今後も一切変わりありません。密接な関係を維持しながら、信用金庫やそのお客さまの一翼を担うことで、より大きな社会貢献を果たしていきたいと考えています」

信用金庫は地域にとって、身近で頼れる大きな存在だ。その顧客には、新型コロナウイルスの影響で苦渋を強いられた飲食店関係者も多く含まれる。渉外の場では、迅速な緊急融資など「今こそお客さまのために汗を流すときだ」と金融機関のビジネスを超えて奔走している姿もあったという。その信用金庫とともに、地域の顧客に資する保険会社として、今後も使命を果たしていく方針だ。

コロナの最前線をPCR装置やワクチン開発ソリューションで強力に支援するグローバル企業

より健康で、より清潔、より安全な世界を目指し
総合的ソリューションで科学・医療の発展に貢献

さまざまな臨床診断用製品やラボ用製品をはじめ、生命科学ソリューション、分析機器、製薬サービスなどを手がけるサーモフィッシャーサイエンティフィック。米国に本社を構えるグローバル企業として世界に80,000人、日本では1,200人の従業員が科学研究や医療の現場をサポートしている。その事業領域は幅広く、さらに拡張を続けている。

「時代や社会の変化とともに、当社の事業は常に大きく変革しています。私たちが暮らす世界を『より健康で、より清潔、より安全な場所』にするためにお客様をご支援する、という私たちのミッションに沿った事業ポートフォリオの拡張や、これを補完する事業の統合を継続して行っています」

現状やこれまでに築いた実績に満足することなく、先端技術を取り込んで、さらに事業拡大のスピードを上げる。

「サーモフィッシャーは2016年に世界トップレベルの電子顕微鏡メーカーであるFEI社を買収しました。近年、電子顕微鏡の技術は著しく進化しており、例えば生命科学分野では、ウイルスや蛋白の構造解析といった技術が進化し、この技術は創薬などに利用されています。また、材料科学分野では、自動車、化学・素材業界において試料の表面観察や分析、半導体業界では、メモリーやプロセッサなどの半導体デバイスおよびウエハーなどの材料の開発、品質管理などにも活用されています」

同社ではM&Aを含めポートフォリオを拡張することで、多様なニーズに対応しているという。

「製薬・バイオテクノロジー分野では、医薬品受託製造開発(CDMO)のリーディングカンパニーであるパセオン社を2017年に買収しました。従来、当社は製薬業界に対して装置や試薬といった製品をご提供してきました。パセオンの買収により、製薬会社に代わって医薬品を製造するといったサービスの提供が可能になりました。この事業分野は近年、脚光を浴びており、2ケタ成長を遂げています」

同社の顧客セグメントにおいて、製薬やバイオテクノロジーは従来から大きな存在だった。この領域でさらに事業の拡大を図っていく方針だ。創薬におけるトランスレーショナルメディシン、トランスレーショナルリサーチと呼ばれる分野でも大きく成長している。

「トランスレーショナルメディシンとは、簡単に言うと研究用で使っていた技術を医療用に応用する概念です。なかでも、このところ大きく飛躍しているのは、DNAシークエンサーを使った技術です。これを応用したマルチプレックスコンパニオン診断システム(Companion Diagnostics)を他社に先駆けて2017年に米国でリリースしました」

製薬・バイオテクノロジー、大学・研究機関、政府を対象にした事業にとどまらず、直接的に病院や患者をターゲットにした事業領域も広げている。

時代の先端を行く技術と使命感をもって
今そして未来の科学を一歩先へ

Amplitude COVID-19検査ソリューション

サーモフィッシャーは、新型コロナウイルスのPCR検査機器・試薬、ワクチン開発のためのウイルスの構造解析を行う電子顕微鏡、ワクチン開発製造プロセスソリューション、ワクチン・治療薬の受託製造など、多様なソリューションを擁するグローバル企業として、世界中のパンデミックと闘う政府関係者、病院、医師を支援している。日本でも新型コロナウイルスの検査体制のさらなる強化が求められている中、2020年11月には、24時間に最大8,000検体の新型コロナウイルス検査が可能な、自動PCR検査プラットフォーム「Amplitude COVID-19検査ソリューション」を日本市場で発売した。大規模検査に迅速に対応しながら、運用に必要な人員を最小限に抑えることができるという。大手検査会社による採用も進んでいる。

「社会的ニーズにお応えする体制を強化しました。検査能力の向上は、コロナ禍の中でニューノーマルを形成し、ビジネスの再始動を加速していくために不可欠な要素です。当社はその社会的課題解決の一助になりたいと願っています」

活発なCSR活動を展開するのも、日本を含むグローバルな方針の一貫だという。

「未来を担う子どもたちに向けて、世界中でSTEM(理数系)教育に力を入れています。日本では当社のラボに子どもを招待して、DNAの抽出やiPS細胞の観察などを行う科学実験教室を開催し、2020年にはオンラインで科学実験教室の開催や実験コンテンツの発信を行いました」

同社は幅広い製品とサービスを通じ、お客様へのソリューションを提供することで研究・開発や製造まで一貫したかたちでサポートしていく方針だ。

「当社の事業内容や、先進性、規模など、残念ながらまだまだ一般の方に認知されていない部分が多い状況です。しかし、私たちが活動していることは、今、この瞬間にも世界中の皆様にとても役に立ち、新型コロナウイルスが流行する特殊な状況においては、かつてないほどの意味を持っています」

同社は大きな期待を背に受けながら、多様な先進技術と「今、私たちがお客様を支援しなければ、誰がいつできるのだ」という使命感をもって、顧客の成功を支えている。

高精度な結晶加工技術で世界トップを誇る宇宙開発からも頼られる唯一無二なスペシャリスト

半導体関連の受注増によりキャパオーバー
世界から問い合わせが殺到するオンリーワン技術

1977年に研究機関の試作加工業として創業し、1978年株式会社光学技研を設立。結晶加工という特殊な技術を生かし、大学の研究者や大手メーカーや宇宙・天文関係の研究機関など、世界規模で顧客を持つ。また、これまで数多くの賞を受賞し、その技術の高さを評価されている。

量産を目指すのではなく、特定のものの精度を徹底的に上げ、高度化し、ナノレベルの精度を手作業で実現する同社の技術力が世界的に高い評価を得ている一方で、受注増により生産が追いつかないという。

「半導体関連や宇宙・天文など、研究開発用の試作加工も当初から変わらず今でも続けています。数年前までは各展示会などでも出展し、営業も行ってきましたが、ここ数年は半導体関連の受注が増加し、キャパをオーバーしているような状況です。実際に宇宙開発、天文台などに我々の技術が採用されていますし、ここ数年で海外からの問い合わせも増えました。現在、厚木市長谷にある弊社事業所に設備投資し、人材も増やし生産体制を再構築しているところです。受注増の理由はおそらく『5G』の本格化や『IoT』による生活様式の変化など、自動化やDXが起こり、様々なデジタル製品の検査機器に対するニーズが高まっていることによるものと思われます。ただ、弊社は創業以来、我々の技術を必要としてくれる多くの研究者や長年のお客様との関係もあり、むしろそちらを積極的に取り組んでいきたいのですが、やむを得ず、納品まで半年から8ヶ月程度お待ちいただいている状況です」

半導体の高精度な検査装置は希少で、同社の加工技術がなければ完成しない。価格も一台数億から、高いもので30億ほどになるという。手作業の加工技術を要し、納品した装置のメンテナンスとして結晶の交換が必要となり、またその分の生産が増加するのだという。

「半導体の検査装置で高精度なものの多くが弊社の結晶加工技術が使われていると言って良いと思います。半導体デバイスを構成する電子回路が微細化され、現在、最も短い光源の波長が193nmですが、今後は13.57nmのEUVリソグラフィが用いられ、検査装置の紫外線はどんどん短くなっているので、我々の技術が生かせるわけです。プラスチックやガラスでは紫外線を全く通さないので、結晶を使うことになります。その結晶の中でもCLBO素子は大阪大学佐々木孝友教授、森勇介教授等が開発した紫外光発生に適した波長変換素子ですが、我々は25年以上お付き合いがあり、結晶開発当時から加工を行ってきました。CLBO素子は湿度に対する耐性が弱いため、低湿度環境における加工を行う必要があるのですが、その加工技術は非常に難しく、製品レベルに加工できる技術は世界で弊社だけです。産業用では世界で100%我々のものを使っていると思います」

他にも世界的にも同社しかやっていないような偏光プリズム、位相板などの技術もまた世界的に評価され、今は海外も含めて受注しており、今年も増加傾向にあり、医療業界でも同社の技術が採用され始めている状況だ。

「4~5年前からは医療分野にも広げていこうと考え、弊社の技術が医療機器に採用されました。研究開発に2~3年かかり、2020年4月頃にようやく製品化されて発表するに至りました。その後、非常に反響が大きく、増産の要望があったのですが、こちらも増産体制がなかなかとれず、現状では弊社ができる生産数でしか対応できない状況です」

うれしい悲鳴と確固たる信念
「ものづくり」企業としてのやりがいを

コロナの影響は今のところ、幸いごく軽微で、受注は増えており、海外からの問い合わせも止まないという。

「弊社では会議がウェブ上で行うようになった程度で、受注にはそれほど影響していません。今でもヨーロッパのメーカーなどは我々のHPを見て問い合わせてきます。海外のメーカーが自分たちの望む高精度な『グラントムソンプリズム』や『位相板』などを調べようとすれば我々が検索にヒットするのだと思います。要するに我々の技術を必要とする人に見つけていただいているような状況です。実際はそのぐらいの規模がちょうどいい。なぜなら、現実問題としてそれ以上の受注に対応できないのです。」

仮に、一抹の不安があるとすれば、今後このまま納期に時間がかかるようならば、メーカー側で仕様が変わるかもしれないという。それを防ぐために、高精度のものを提供しつつも、納期も早くお客様の要望に応えられるように示していくことだという。

「ドイツの大きな光学メーカーからも、非常に難しい波長板の製造の依頼を受けています。そうなると、もっと高精度にしていき、もっと加工スピードを上げなければなりません。まずはそこをしっかりとやり、この先、医療にも向けていければいいと考えています。ただ、むやみに規模を大きくしたいとは考えていません。売上だけを目指していきたいわけではなく、我々の技術が生かせるところに積極的に展開していきたいと考えています」

世間ではデフレ不況とも言われるが、「5G」や「デジタル化」が加速する社会において、これまで培ってきた精度の高い技術を必要とする同社への期待は高まるばかりだ。「ものづくりの楽しさ、やりがいを感じられる仕事です。古くから連綿と続くベーシックな研磨技術を駆使し、最新のテクノロジーで評価し、高精度なものを作り上げていきます。職人的なセンスを要するので、その人の向き不向きはあります。同じ物を量産する単純作業ではないため、精緻に取り組める人でないとできません。我々の装置は量産には向いていませんが、その道を頑なに進んでいこうと取り組んでいます」と岡田社長。このように、高度な技術を身につけ、必要としてくれる人のところへ届けたいという思いと使命感に駆られ、利益至上主義に走らず、高品質を保ちながら社会貢献ができる環境が素晴らしい。結晶加工業に就職・転職を考えている方や世界最高水準の技術を身につけたいと思う方はぜひお問い合わせいただきたいと思う。