日本はASEANを軸に外交戦略を 「アジアの世紀」と積極連携が必要


時代刺激人 Vol. 233

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

今年最後の締めくくりコラムで、ぜひ取り上げたいことがある。日本がASEAN(東南アジア諸国連合)との本格的な戦略連携に取り組め、という問題提起だ。
最近、私は、念願だった「陸のASEAN」と言われるタイ、カンボジア、ベトナム、ミャンマーのメコン経済圏諸国に加え、シンガポールを現場取材したが、その体験をもとに、日本は「アジアの世紀」に一歩も二歩も踏み込んで、中核のASEANとの連携軸をどうすればいいか、しっかりと考える時期に来たことを、この場でお伝えしたい。

率直に言って、ASEAN10か国は、「陸のASEAN」に加えて、インドネシア、フィリピンなど「海のASEAN」があるが、各国それぞれ政治の仕組み、経済システム、宗教に裏打ちされた文化、社会構造などが異なっているうえ、中でも経済面での「温度差」があるため、ひとくくりにはできない。
しかも10か国のうちシンガポールは現時点で1人あたりGDP(国内総生産)が年間5万ドルを超え、日本を追い抜いてしまったが、一方でカンボジア、ミャンマー、ラオスなどはぐんと低いレベルにとどまり、この際立った格差をどう縮められるかも重大問題だ。

ASEANは課題山積だが、
2015年に地域経済統合に踏み出し連携チャンス
ASEANは2年後の2015年12月に地域経済統合に踏み出し、各国間の関税率や通関業務などのバーを一気に引き下げ、ヒト、モノ、カネが自由に往来できるようにする。しかし各国には課題山積の現実があり、どこまで地域経済統合の効果が出るのか、いぶかる向きも多い。確かに、地域経済統合で一気にバラ色の世界がアジアに拡がるとは思えず、事実、各国間で依然として非関税障壁が残り、統合効果がすぐに出ない可能性さえある。

また、地域経済統合に伴う広大な地域経済圏の誕生によって、マネーは低きから高きに激しく移動するのと同じように地域経済に「ストロー効果」現象が起きて、特定の地域や国に富やさまざまな経済財が集中してしまい、新たな問題を生ずる可能性もありえる。
具体的にはメコン経済圏諸国内に各国をまたぐようにつくられた南北経済回廊、東西経済回廊、そして私が今回、陸路で通った南部経済回廊の3つの地域横断道路は、情報通信ケーブルや電気、水道などの物的インフラを埋設し経済効果をあげる多目的な国際道路だが、問題の「ストロー効果」は、単にクルマの通行便利だけなく物流が進む際に、ヒト、モノ、カネがこれら国際道路を経てタイに集まり、タイと周辺のカンボジア、ミャンマー、ラオスとの格差が拡大していびつな格好になってしまうリスクがあることだ。

ASEANに課題多くても、
日本はプラス思考で対応し経済成長押し上げ支援を
しかし、私はあえて言いたい。そういったマイナス面をネガティブに受け止めるか、あるいはプラス思考に切り替え、さまざまな課題は、克服すれば将来の成長への足掛かりとなると課題解決に踏み出すかどうかだ。私は後者を躊躇なく勧める。その場合、日本がASEANに積極的にコミットすること、とくに日本が過去の失敗経験を克服した事例を示し、いい意味での経済成長押し上げに向けての先導役となることだ。

ASEANを軸にした新興アジアは、いま述べたように、さまざまな問題を抱えていることは紛れもない事実だが、今や世界の新成長センターとなりつつあることも事実だ。端的には米国、欧州が行き過ぎたマネー資本主義のあおりで金融システムにほころびどころか大出血の事態となり、経済が停滞を続けている中で、ヒト、モノ、カネは欧米から新興アジアに移行しつつある。

米国や欧州経済が復調しても、
世界の成長センターの座に戻る可能性は低い
米国経済がいま、やっと復調し始め、世界のマネーセンターのウオールストリートにマネーが回帰する動きが出ているが、米国経済に往時のような勢いが見られない。ましてやユーロ圏諸国も、ドイツは大連合政権の利害調整が大変なうえ、好調な経済もユーロ圏との財政、金融面での連携対応にエネルギーを費やさざるを得ないし、スペインやギリシャ、イタリアなど財政危機を克服しきれない国々は重い経済課題を背負いこんだままだ。

欧米諸国が、新興アジアの経済成長の潜在的な可能性の大きさを押しのけて、再び世界の成長センターの座に戻る、ということは考えにくい。となれば、日本は欧米諸国とはつかず離れずの関係を続けるが、政治、経済を含めた外交の戦略軸を新興アジア、とくにASEANに移すべき時期に来た、と言いたい。

日本は現代版三国志でASEANバックに
米国や中国と戦略ゲーム展開を
私はかねてから、このコラムで書いたことがあるので、ご記憶いただいているかもしれないが、私の持論は、日本、米国、中国の3国間での外交展開について、外交戦略ゲームにたとえて、現代版三国志で臨め、というものだ。
三国志は、ご存じのように中国の魏、呉、蜀の3つの国が互いの生き残りをかけて権謀術数を策略を展開する物語だ。これに対して、私の現代版三国志は、日本、米国、中国の3国関係に置き換え、中国に問題が起きれば、日本は米国と連携し中国に揺さぶりをかけ、行き過ぎた行動にブレーキを掛ける。いま尖閣諸島問題をきっかけにした中国の覇権外交に日米が連携を強める動きをとっているのがそれだ。

逆に、米国に問題が生じれば、今度は日本と中国が、米国の財政赤字補てんや外貨運用など多目的の意味で保有している米国債を市場で売却するぞ、と揺さぶりをかければいいのだ。そのアクションでドル暴落リスクが表面化するので、米国は仕方なく日中両国に従わざるを得なくなる。

米国との日米同盟も国益重視の外交世界で
有効か疑問、むしろ日本は独自戦略を
問題は、日本が問われる事態に陥った場合、米国と中国が連携して日本にアクションをとったらどうなるか、状況は明白だ。日本は、この2つの大国に踏みつぶされるリスクがある。日本は、米国と日米安全保障条約で同盟関係にあると言っても、それをもとにした過剰な対米依存はリスクだ。現代のような国益擁護を中心にさまざまな外交戦略展開が横行する状況のもとでは安易な期待は意味がない。むしろ現代版三国志のように、戦略ゲームの発想で行動すべきだろう。
となれば、この日本に問題が生じ、米国、中国が連携してのしかかってきた場合に備えての戦略軸が必要になる。私は、日本にとってはそれがASEANだと申し上げている。ASEANをバックに、米国や中国と相対峠(あいたいじ)することも必要になる。そこで、日本はASEANとの間で関係強化を図っておくことが極めて重要になるのだ。

だから、私が冒頭から申し上げているように、日本は、ASEANが2年後の地域経済統合に向けて、今後、ASEANNがさまざまな課題を克服して、ASEAN地域経済共同体に踏み出すまでの先導役を買って出ればいいのだ。それはそのまま、世界の新成長センターのアジアを主導する成熟国家・日本という形で、日本のプレゼンス、つまり存在感を高めることになる。そればかりでない。日本が、ASEAN地域共同体の拡大内需の果実を直悦、または間接に得ることで、デフレ脱却にも弾みがつけられる。現代版三国志で日、米、中の3国関係を位置付ける、というのは、決して突飛な発想でないと思っている。

ASEANの現場は日本の技術力、品質管理力に
高い評価、自信をもって対応を
私がメディアコンサルティングでかかわっていたアジア開発銀行で以前、日本とアジアの経済関係のあり方などを議論していた際、アジアの人たちから「日本はデフレの長いトンネルの中にいるうちに、すっかり経済に力強さがなくなり、われわれアジアの兄貴分という期待がなくなった」と言われ、くやしい思いをした。
しかし今回、メコン経済圏諸国を歩いてみて、日本への期待度が着実に高まっていることを感じた。カンボジアで聞いた話が1つ。中国は、カンボジアのプノンペンとラオス国境につながる国道を援助でつくったが、道路舗装が不十分で、さまざまな障害が起きて、極めて不評なのだ。他方で、日本が同じく援助でつくったベトナムに向かうメコン川までの国道部分が日本の土木技術のよさもあって快適なため、現地で知り合ったカンボジア人は「同じ援助でもあとで補修が必要な援助などありがた迷惑だ。中国のカンボジア接近はすごいが、今後の経済成長のことを考えれば、日本からの指導を仰ぎたい」と。

もう1つは、ミャンマーで聞いた話だ。ミャンマー、とくにヤンゴン市内では日本製の中古自動車が数多く走っているが、一方で、韓国の現代自動車などの攻勢が強く、バスや自家用車に韓国マークが目立つ。ミャンマーで知り合った日本語を話せるチャーター・タクシーのミャンマー人の運転手が「右ハンドルの日本車は、右側通行のミャンマーでは運転しづらい難点があるが、韓国車に比べて、人気が根強いのは、乗りやすいのに加え、古くても品質のよさは抜群、それに中古車といえども部品の補充や修理サービスの態勢が出来ているからだ。韓国車は中古車の値段が安いのは魅力だが、それらを克服できておらず、故障が多い。日本の技術、品質管理力は最高だ」と述べていた。

ASEANは中国に反発しながらも援助期待で
全方位外交、日本はしたたかさを
いずれも日本の技術力、品質のよさなどが評価の対象だったが、中国の南下を通じた市場攻勢のみならず、政治、外交面での潜在的なプレッシャーに対しても日本が歯止め、抑えの役割をはたして欲しい、という期待もあった。
ただ、ミャンマーでは国境を接する中国への対応評価が読みにくい。ヤンゴンで日本人の企業関係者から聞いた話では「中国は、ミャンマー北部の水力発電所の建設工事を援助で対応したが、カネも出す、ヒトも中国人を出すという形で現地雇用創出に至らず、しかも発電した電力を中国に送電する強引さにミャンマー側が反発し、工事中止を求めた。しかも現政権の民主化方針が欧米の評価を受けて経済制裁も順次、解除になっており、ミャンマーが中国から日本を含めた欧米傾斜かと思えば、そうではない」というのだ。
要は、ミャンマーは、日本円換算でわずか3000億円の国家財政規模で、さまざまな開発プロジェクトを手掛けざるを得ないため、無償の援助には飛びつく体質がある。とくに中国に対しては、水力発電所問題などでの反発があっても、その援助攻勢には全方位外交となってしまうのだ、という。

日本は中国や韓国にない強み部分を
武器にASEANと本格連携を
この全方位外交姿勢は、ミャンマーに限ったことではない。ベトナムでもカンボジアでも同じだった。その点で、冒頭から申し上げるように、日本としては、ASEANを外交の戦略軸に置き、現代版三国志のような外交戦略ゲームの展開をすべきだと思っているが、日本がASEANの現状分析をしっかりと行い、したたかに対応しないと、足をすくわれる可能性が大きい。ただ、今回、メコン経済圏諸国を歩いてみて、各国とも国内にさまざまな課題を抱えるが、着実に中間所得階層が増えてきて、経済に勢いがある。ここを日本が見逃すことはない、日本は、中国や韓国にない強み部分、端的には技術力、品質管理力、さらには医療や年金など社会保障分野での取り組みなどで、日本が圧倒的な強みを発揮できる部分がある。日本は自信をもってASEANと連携すればいいのだ。

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