創業111年の老舗化学メーカーの事業戦略。「持続的成長」に 必要不可欠な要素とは
DIC株式会社
代表取締役社長執行役員
猪野 薫
DIC株式会社は印刷インキ、有機顔料、PPSコンパウドで世界トップシェアを誇る化学メーカーだ。現在ではコア事業を軸に世界64カ国に展開しており、世界的有数のファインケミカルメーカーとして発展を続けている。代表取締役社長執行役員 猪野薫は「サステナビリティ(持続可能性)」を意識した企業価値向上を目指し、社会貢献活動にも余念がない。現状に満足せず、たゆまぬ挑戦を続ける猪野とDICの事業戦略に迫る。
蟹瀬 企業の価値創造っていうのは、ずっと経営者にとっては大きな課題ですよね。その価値の周囲がそういうふうに広がってきた。これ具体的にはどういう分野で、どういうことをなさってきているんですか?
猪野 私共のいわゆるブランドスローガンが「Color & Comfort」。経営ビジョンも「Color & Comfort by chemistry」とこういうことになってるんです。対外的にも対内的にもですね、「カラーの会社」っていうのが一つイメージが定着をしているところでありまして、彩りと快適を皆さんに体験していただく場として、緑豊かな千葉県の佐倉市に美術館を開設したわけです。
福井 私は今、千葉県佐倉市にあるDIC川村記念美術館に来ています。さっそく伺ってみたいと思います!
こちらの美術館は、1990年にDIC総合研究所敷地内に開館。
福井 わ!たくさんアートがありますね!
館内には17世紀のレンブラント、19世紀の西洋近代美術、そしてアメリカの現代美術など、幅広い作品を収蔵している。こちらは印象派クロード・モネが描いた「睡蓮」。その他、印象派ではルノワールなどの作品も展示している。
猪野 実は私、社長就任する前にですね、経営戦略部門の担当をしておりまして、経営戦略部門の担当ってのは美術館も含めて、広告司令塔としての広報をですね、担当させていただいた時代が何年かあったので、意外と詳しいんです。
福井 そうなんですね!
福井 わぁ!えーすごい!ここ気持ちの良いお部屋ですね。
猪野 はい、ここは特別なスペースで、非常に贅沢なスペースになっています。
アメリカ現代美術を代表する芸術家サイ・トゥオンブリーは、即興的な線や絵の具、数字やアルファベットを組み合わせた絵画や彫刻作品を数多く残している。館内の美術品もさることながら、緑豊かな、およそ3万坪の庭園は、訪れる人々の憩いの場にもなっている。
蟹瀬 企業にとって、あるいはご自身にとって、美術館の位置づけてどういう位置づけなんでしょうか?
猪野 先ほどお話しました通り「Color & Comfort」っていうのが、私どものブランドスローガンになっています。このColorを色の会社というよりも、私どもは非常にディバースィファイされたという特色を出すために「彩り」という表現を使っています。まさしくその美術館に飾ってある作品群というのは、特に印象派から現代美術までの系統になってるんですけれども、まさにその彩りを芸術作品として、体感していただく場として提供して、併設する庭も広い緑が綺麗ですし、そういった意味では、非常に皆さんから休日を楽しんでいただけるような、広い世代にですね、そういうような場として、ある意味じゃ、社会価値の結構高い事業じゃないかな、というふうに自負しております。
蟹瀬 企業の価値感そのものも、そこにあらわれてくるという側面はあるでしょうね。
猪野 あります。彩りだけではなくて、そこに快適(Comfort)を加えてるっていうのは極めて、大きな特徴じゃないかと思ってます。
2018年、60歳の時、猪野は社長に就任する。就任早々猪野は、これまでの経済的価値の追求から社会的価値も生み出す事業へとシフトすべきだと考え、2019年、「Value Transformation(事業の質的転換)」と「New Pillar Creation(新事業の創出)」という2つのコンセプトを盛り込んだ中期経営計画を策定した。
蟹瀬 これはどういうコンセプトが柱になってますか?
猪野 主に二つありまして、一つは「Value Transformation」、もう一つは「New Pillar Creation」という言葉で、ちょっと英語で何か格好をつけていますけれども。最初の方は、平たく言うともうただのインキ屋ではないよと、もっと社会価値を高めていけるような事業に、質的に転換をしていくんだということを表しています。
コア事業が今利益頭(がしら)でまだ8割近くありますので、もっとそれ以外の新しい事業を起こして、社会課題の解決に繋がるような事業をもっと加速しようじゃないかと。これが「New Pillar Creation」と呼んでいるわけです。
福井 具体的にはどのような取り組みを行っていらっしゃるんでしょうか?
猪野 今度セグメントを大きく三つにくくり直したんですけれども、バリューチェーンっていう製品プロダクツの考え方から、どういうそのジャンルに私どもの提供価値が効果を出していくのかと、こういう考え方に変えたわけです。包装材料につきましては、社会や暮らしに「安全・安心」を届ける。それから表示材料につきましては、同じようにその「彩り」を届ける。それから機能材料については「快適」を届ける。これまでの「Color & Comfort」彩りと快適に「安全・安心」を加えたという形になったわけです。当社はフィルム事業も持っていますし、接着剤も事業を持っている。そしたら、それぞれがバラバラに活動していたものを一つにまとめて、パッケージ事業はうちのストライクゾーンなんだということを、もっと外の皆さんにもご理解をいただきながら進めていくと、こういうコンセプトに変えてきたわけです。
中期経営計画の中で猪野は、新事業の方向性として、エレクトロニクス、オートモーティブ、次世代パッケージング、ヘルスケアの四つの領域を打ち出した。現在、新事業がどのように進行しているのか。新事業統括本部長に話を聞いた。
(インタビュー:執行役員 新事業統括本部長 髙野 聖史さん)
髙野 四つの事業領域を中期経営計画で定めたわけですけども、DICは川中(中間製品)の化学産業の中で、BtoBのビジネスがこれまで主体だったんですけども、より生活者とか、社会の視点を取り入れて、そこに本当に役立つような私達が得意な主に材料を供給できるようなことを考えてます。
例えば、エレクトロニクスの分野であれば、よりディスプレイが臨場感の実物感を持って見られるような、そういう材料作りであったりとか、車ですと、昨今サステナビリティとか環境っていうことが、重要なキーワードなっていますので、よりエネルギーをセーブできて軽量化できるような素材の開発であったりとか。
パッケージの分野ですと、廃棄物を減らすようなパッケージであったりとか、BtoBの理屈だけではなくって、生活者の人にもDICの材料があるからこの製品はいい材料だなと言ってもらえるような、そういうような視点を大事に新事業開発に取り組んでいます。
こちらは、猪野が社長就任後に新設した部署の一つ「サステナビリティ推進部」。どのような取り組みを行っているのか。部長に話を聞いた。
(インタビュー:サステナビリティ推進部 部長 池田 規子さん)
池田 当社サステナビリティとして、11のテーマを設けていまして、そのテーマの中にコンプライアンスみたいなものですとか、化学企業ですので安全環境、そういうところから始まって、社会課題の解決に貢献していくようなビジネスを展開していくっていうテーマがあるんですけれども。
それを実行したい部署を設けて推進していくと、そのPDCAを回す上での事務局的な役割をしています。取り組んだ内容というのを、統合報告を通じてディスクロージャーしていく、情報を開示していくっていうことによって、きちんと評価できる、されるものにして理解を高めています。また、昨今ですとESG投資なども進んでますので、そういったところでも、この情報開示した内容というのが当社の企業評価に結びついてます。
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