新農業モデルは10次産業化 観光農業で消費者引き込む


時代刺激人 Vol. 193

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

かねてから、私はこの「時代刺激人」コラムで、高齢化や後継者難など、さまざまな課題を抱える日本の農業に関して、ネガティブに考える必要はなく、取り組み方次第で成長産業の一角を担えるので、がんばれと申し上げている。

マイカー客を見越して観光農園化、
半日自然を楽しんでもらうビジネスモデル

私が以前、取材で行った際も、乗り合わせたタクシーの運転手さんが「これからコッコファームへ仕事でお客を乗せて行くと運転手仲間に言うと、『代金はあとで払うので、たまごをまとめ買いで買ってきてくれ』と頼まれる。あそこのたまごは新鮮で、味がいいという評価は定着している」という。行き先を告げただけで、そんな話が投げ返されてくるのだから、松岡さんへのインタビュー取材がわくわくするな、と思ったほどだ。

今回の10次化農業のからみで言えば、コッコファームは広大な敷地に鶏舎を置き、そこで産み落とされた新鮮なたまごを加工する第2次産業の部分に加え、「たまご庵」という大きなコミュニティホール、レストラン、加工品や物産品などの買い物コーナーが入る建物、さらに広大な散策路、こどもたちが飛び回れる遊びの施設、そして農業体験ができる耕作地などが広がる。観光農園として、遠くから集まってくれた観光バス、マイカーのお客に、半日間はゆっくりと自然を楽しんでもらえるようにさまざまな工夫をこらすビジネスプランだ。

10次化モデル活用で得た「もうかる農業」利益を
農業発ベンチャー育成に

松岡さんは、さらにこだわりがあって敷地の一角に「マルチメディアセンター」を立ち上げ、都市と農村との交流、地域の未来、農業の未来、そして自然環境の未来という4つのテーマに沿ったイベント展開も行っている。地域発、農業発のベンチャービジネスが立ち上げられるようにインキュベーションオフィスも準備している。
10次産業化で「もうかる農業」の実をあげると同時に、中山間農業地域という自然がいっぱいの地域からインターネットで情報発信して、ビジネスチャンスをつくりだす場所の提供も怠りないところが松岡さんのすごいところだ。

広島県の平田観光農園も果樹園をベースに
休日をのんびり楽しめる設計

次に、取り上げたいのは、同じく中山間地域、それも広島県の山あいで実にユニークな観光農業を展開して成功をおさめている平田観光農園だ。この観光農園のビジネスモデルは素晴らしいと以前、このコラムで紹介したが、今回の切り口は10次産業化農業の実践事例としては、ぴったりで、とても参考になるので、再度、紹介しよう。
果樹園だけならば、全国いたるところにあるが、平田観光農園の場合、時代のニーズを鋭くつかんだビジネスモデルで、端的にはインターネットを巧みに駆使して、若い人たちがネット上のホームページを見て、思わず週末に行ってみようと思わせるのだ。

創業者で会長の平田克明さんは、本業以外にも東京で霞が関農政にアドバイザリー的なかかわりを持つと同時に、地元広島県では頼まれて教育行政にも関与するタフな人だ。観光農園の経営は息子さんに委ねているが、すでに70歳を超えた今も、新たな農業のビジネスモデルづくりには余念がない。

ネットのホームページ活用が巧み、
若い人たちが思わず行きたくなる工夫も

私が週末に取材に行った際、タクシーでかなりの山あいに入ったので、本当にこんな地域に観光バス客やマイカー客が来ているのだろうか、と失礼ながら思ったが、いざ、現場に着いてみると、広大な観光農園の駐車場には午後になって続々と他県ナンバーの若い人たちのマイカー客が来るのを目の当たりにして、驚いたのを憶えている。

平田さんの設計ポイントは明確だった。週末の休日の過ごし方が定着していない人たちに自然をじっくり満喫してもらいながら、四季折々のもぎたてのリンゴやブドウなど、旬の果物をふんだんに食べてもらう。同時に、食に結びつくさまざまなイベントを展開し、また来ようというリピート客づくりをめざす点だ。その際、インターネットのホームページ上で「きょう、平田観光農園のリンゴの白い花が咲きました。かわいいですよ」と、写真添付でメッセージ発信する。思わず行ってみたくなる写真だが、ネットで不特定多数の人たちと交流しながら、大自然満喫の魅力をアピールするのだ、という。

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