和牛肉を日本食文化輸出の担い手に 新興アジアは潜在需要高くチャンス


時代刺激人 Vol. 185

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 中国やASEAN(タイ、ベトナムなど東南アジア諸国連合10か国)といった新興アジアで最近、日本の食文化がブームから、さらに一歩先に進み、日本の食材が「おいしい」「安全で安心できる」「品質がいい」、そして「おもてなしの素晴らしさ」というサービスのよさへの評価も加わって、日本の食文化そのものが今や定着しつつある、という話を日本の外食関係者からたびたび聞く。

マーケットリサーチをベースにした
「日本食フェア」で食のシステム輸出も必要

冒頭部分で申し上げたように、新興アジアでは日本の食文化がブームから一歩進んでそれぞれの地域に定着しつつある現実をしっかりと見据えることだ。早い話が、新興アジアの主要都市の有名ホテルやスーパーなど集客の多い場所で、「日本食フェア」を工夫しながら、数多く、場合によってはテーマを変えて切れ目なく開催するのも一案だ。

その際、事前に、新興アジアの人たちの味に対する嗜好や好み、あるいは思わず飛びつきそうな食品を徹底してマーケットリサーチし、それに見合った日本の食材を準備するとか、今回の澤井さんが持ちこんで好評だったしゃぶしゃぶの食べ方のトータルのシステム売っていく。そうすれば、日本の農産物のみならずさまざまな加工食品も売れていくのでないか、と思う。

韓国サムスンの新興アジアでの現地化戦略に
学びの対象がある?

韓国のサムスン・エレクトロニクスが新興アジアで成功したビジネスモデルは、以前、取り上げたことがあるので、ご記憶だろうが、徹底した現地化戦略で、それぞれの地域のマーケットニーズを調査して分析し、所得水準に見合う機能シンプルで、低価格の商品を開発して売り込んでいく。その場合、同時に、サムスンは独特のブランド戦略、マーケッティングなどを駆使して、それぞれの現地に食い込んでいく点は見事というほかない。

日本の農業者や食品企業は、このサムスンの現地化戦略をヒントに、マーケットリサーチした結果のデータをもとに、たとえば、富裕層、あるいは中間所得階層の上のクラスあたりをターゲットに、「おいしい」「安全・安心」「品質の良さ」などを巧みに組み合わせて日本の食文化のシステムを売ることなどを真剣に考えたらいい。工業製品と同様、今や単体の技術やモノを売るのではなく、いろいろなものとからませたシステムで売っていくことがプラスに作用し、付加価値もついていくと思う。

和牛肉の輸出先市場は2年前の口蹄疫問題が
尾を引き収縮気味

さて、今回のコラムのテーマは、和牛肉の輸出の問題なので、レポートしよう。率直に言えば、日本の食文化が新興アジアを中心に、欧米でも定着している中で、その代表的な食品の和牛肉の輸出先が、2年前の宮崎県での口蹄疫の余波が続き、大口輸出先の米国が依然として日本からの和牛肉の輸入ストップを継続している。中国、台湾、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、フィリピンなども同じで、宮崎県では口蹄疫問題が解決しているのに、なぜかこれらの国への和牛肉の輸出に「待った」がかかった状態だ。

現在、輸出が可能になっている国は、タイ、シンガポール、マカオ、香港、アラブ首長国連邦(UAE)、それに今年4月に口蹄疫問題をクリアしたカナダが日本からの和牛肉の輸出にゴーサインを出した。わずかに6か国だけというのが、何ともさびしい。特に、円換算で年間10億円前後の輸出が見込めた米国向けがストップしたまま、というのが畜産農業者、企業にとっては、痛いところだ。

農林水産省が守りの農業にこだわり、
あおりで輸出戦略不在が最大の問題

これははっきり言って、農林水産省や厚生労働省などの行政機関が米国や中国、ベトナムなどに外交ルートで働きかけ、すでに口蹄疫問題が日本国内では解決済みで、輸出再開を認めてほしい、というアピールをすべきだと思う。

特に、農林水産省は農林水産物および食品の輸出額を1兆円にする、という計画を、政策実現に向けての自助努力の足りなさが響き、計画をどんどん後にずらし、直近だと、2017年の計画目標年次を3年後の2020年にまで延ばしている。直近で計画変更は、昨年の東日本大震災、それに連想した東電の原発事故に伴う放射能汚染で、新興アジアを中心に、汚染懸念のある農産物の輸入ストップをかけられたことが響いている。

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