時代刺激人 Vol. 184
牧野 義司まきの よしじ
1943年大阪府生まれ。
新聞にしろ、テレビにしろ、日々のニュースの面白さは何と言っても、誰もが知らない、文字どおりのスクープ記事だ。現場取材に携わる記者の最大の使命は、こうしたスクープニュースを独自取材でつかみ、ニュースとして報じることであるのは言うまでもない。
朝日新聞社内では特別報道部の取材方法に一時、反発あったが、
今では、、、
朝日新聞政治部の複数の友人記者に聞くと、それら政治部記者ともっと連携をとってくれれば単発のスクープ記事にできるものがあったのに、特別報道部は自分たちの企画のことだけを中心に発想する、、、と言外に、連携の悪さ、独自取材方法に不満をもらしていた。しかし、世の中の一般的な評価は「プロメテウスの罠」の調査報道スタイルの記事発信に対して、新たなジャーナリズム手法だという形で、どちらかと言えば好評価が多い。
ただ、私個人も、政治部記者が言うように、「プロメテウスの罠」の企画記事の中での処理とは別に、いわゆる単発のスクープニュースとして報じてもいいものがいくつかあった。そのあたりが、朝日新聞もタテ割り組織の弊害で、大組織病に陥りつつあり、ヨコ串を刺して機動的に展開できる取材体制になっていないのかなと思ったりもする。
特別報道部は一時、7人のうち4人が中途採用の雑草集団
面白い話がある。朝日新聞の友人の1人の編集幹部に聞くと、この特別報道部は数年前に新設された。当時、社会部主体だった調査報道を、編集局各部から出向させた遊軍的な記者でつくる特別報道部に集約し、記者クラブ制度から離れた独自取材で存在感をアピールさせる狙いだった。ところが、当時の社会部が反発して、どちらかと言えば非協力的で、それまでの調査報道グループを温存させた。
そんな中で、高知新聞から2008年に51歳だった社会部長、経済部長経験のある依光隆明さんがヘッドハントで朝日新聞に入社し、何と特別報道部長に就任して、この「プロメテウスの罠」の企画を構想し展開したら大当たり。今や社会部もエース級の記者を送り込んで全面協力、新たな「朝日新聞の顔」になりつつある、という。
朝日新聞にはまだ、面白い話がある。この依光さんは今は編集委員で別のプロジェクトにかかわっているが、何と部長在籍当時の特別報道部の7人のメンバーのうち、4人までが中途採用の記者なのだ。依光さんのように他の新聞社からの転職組もいれば、金融機関からの転職もいる。言ってみれば、朝日新聞という巨大な組織で雑草のようにタフに生きる人たちだ。だからこそ、こういった遊軍的に独自取材力をもとに、新たな調査報道に取り組めたのかもしれない。
朝日新聞は余談だが、冒頭のリクルート事件のスクープ、さらに大阪地検特捜部の検事のねつ造スキャンダル事件をモノにしたデスクや現場記者はいずれも朝日新聞生え抜き記者ではなくて、さきほどの特別報道部の4人と同様、転職組なのだ。私がいた毎日新聞の社会部のエース記者もヘッドハントされて、ライバルの朝日新聞に入社したことがある。
考えようによっては、朝日新聞は人材の流動化時代に先駆けて、プロ野球の有名選手スカウト人事と同様、補強によって人材強化を図っているとも見えるが、笑い話ながら、朝日新聞はライバル紙にニュースを抜かれ放しになると、手っ取り早くライバル紙の記者を引き抜いてしまう、といったケースもある。
記者クラブ制度に安住せずに調査報道などで存在感あるメディアに
いずれにしても、今回の「プロメテウスの罠」企画は、新しい調査報道スタイルであることは間違いない。私は、形がどうであれ、メディアの現場は、議論の多い記者クラブ制度に安住せずに、独自の座標軸をしっかり持って、発表ものになど振り回されずに、独自の調査報道などで存在感を持ってほしいと思う。毎日、どこかの新聞、あるいはテレビニュースを見ても、同じものばかり、というのは、ジャーナリズムの姿勢が問われる。それも記者クラブ制度をベースにした発表ジャーナリズムに安住する結果かもしれない。ぜひ、メディアの現場は新しい報道スタイルをどんどん開発し、切っ先鋭い、しかもしっかりとしたニュースの展開をめざしてほしい。
関連コンテンツ
カテゴリー別特集
リンク