新日鉄の技術流出訴訟に数多くの教訓 技術者退職やリストラ解雇時点で流出覚悟も


時代刺激人 Vol. 182

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

新日鉄は問題の技術系OBと退職時に秘密保持契約結んでおり訴訟に

ところが、それら新日鉄関係者によると、非公開部分の製造技術が韓国ポスコに流出している疑いがかなり以前から出ていたが、その疑惑を払しょくできないままだった2007年に一転して、情勢変化があった。ポスコが、ポスコ自身の電磁鋼板技術を中国の鉄鋼大手宝鋼集団に流出させた国家機密漏えい容疑で、元社員を刑事起訴したのだが、何とその元社員が、新日鉄OBの技術者だったことがわかった、というのだ。

しかも、その元社員は、今回の技術流出のきっかけを作り出した人物と同じ新日鉄OBだった。新日鉄は、そのOB技術者が在職時から電磁鋼板技術の仕事に関与していたうえ、退職時に、中核技術の秘密保持契約を結んでいたため、この契約違反部分に関して、技術者OBを社員として採用していたポスコを相手取って、巨額損害賠償訴訟で決着をつけることにした、という。

韓国も「追いつき・追い越せ」日本モデルの一環でヘッドハント?

このOB技術者はかつて、50歳代で新日鉄を退職したそうだが、年齢的に、社内でも先が見えてきたので辞めたのか、あるいはサムスン・エレクトロニクスなどと同様、韓国企業の「追いつき・追い越せ」日本モデル具体化の一環で、ポスコが優秀な日本人技術人材の引き抜き作戦を行い、この新日鉄OBがそれに応じたのかどうか、現時点で定かではない。

ただ、新日鉄もエリート集団のかたまりで、技術系、事務系を問わず、いい意味での競争が働いている間は結束力となり、強みとなる。しかし、その半面で、東京電力などと同様、大組織病の弊害が出ると、たとえば競争から脱落したり、あるいは弾き飛ばされた人材が屈折し、ライバル韓国のみならず新興国の中国やインドなどからヘッドハンティングの対象になると、渡りに船とばかり、転出することも十分に考えられる。グローバル化時代に加え、人材の流動化時代でもあるので、そういった人材の転出を阻むことは無理だ。

韓国企業対象の訴訟でも日本国内での訴訟だとどこまで実効性あるか

私が毎日新聞経済記者時代に、鉄冷えで合理化を余儀なくされた新日鉄を取材した際も、技術力や人材力など誇りに、厳しい合理化を経て新興アジアの新たな鉄鋼リーダーになるのだ、といった自負を持つプライドの高さに、さすがリーディングカンパニーと思ったことがある。それだけに、こういった技術者OBの手でメシのタネの技術の流出リスクにぶつかる、というのは、くやしいものがあるのだろう。

この新日鉄OB技術者による技術流出で引き起こされた損害に関して、韓国最大手の鉄鋼企業を東京地裁という日本国内での訴訟に巻き込んで、いったいどこまで実効性のある成果を引き出せるか、何とも予測がつかない。とくに、ポスコは中国の鉄鋼大手、宝鋼集団への技術流出で、同じ新日鉄OB技術者が介在する刑事事件を抱え込んでおり、解を引き出すのは難しいかもしれない。

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