時代刺激人 Vol. 175
牧野 義司まきの よしじ
1943年大阪府生まれ。
かなりの中小企業の人たちが今、独立系投資顧問会社の許せない行動で、一気に苦しい状況に追い込まれている。そればかりか、それら企業加入の厚生年金基金の破たんリスクが表面化する可能性もあって、年金が受け取れるかどうかも危うい。
年金専門誌がアンケート結果踏まえAIJをトップ評価、ミスリード?
これに対して、産経新聞は3月2日付朝刊で、「アンケート評価で1位だったという記事を掲載することで、記事による『お墨付き』が結果的にAIJの資産受託額を増大させた形だ」と、いわゆるミスリードを問題視した。「年金情報」の編集長、永森秀和さんが「記事がAIJへの委託に影響を与えたとすれば遺憾」としながらも「民法の注意義務などの責任規定にもとづき運用の中身を確認する各年金基金の責任だ」とコメントしている。
ただ、「年金情報」の現場記者、深沢道弘さんは日経新聞の3月1日付けの検証記事に寄稿し、「編集部がAIJの情報を集めると、不自然な点が目立った。運用資産の増加に見合う収益が財務諸表に計上されず、海外の私募投信を通じて資金が流出しているように見えた」と野辺地同時に、翌年2009年2月の「年金情報」誌で、AIJの名前を伏せながら問題提起した、という。
なぜ金融庁や厚生労働省は法的かつ行政権限を行使して見抜けなかったか
年金運用の専門誌の悲しさか、深く突っ込めなかったのだろう。しかし、専門誌でさえ、おかしいなと感じていたのに、監督当局の金融庁、それに年金基金の運用先をチェックする立場の厚生労働省はなぜ、今回まで、他の投資顧問会社と比べて異様に突出した運用実績のAIJにおかしいなと感じなかったのか、ということだ。
早い話が、メディアと違って監督機関の強みは法律権限、行政権限などを行使して情報を収集したり、報告を求めてチェックすることが可能だったはず、なぜ、2004年設立時から10年近くも虚偽行為を続けてきた、と告白している浅川社長の経営姿勢を見抜けなかったのか、という疑問が残る。
検査は1年に15社が限度、金融機関全体では17年に1回の割合??
ところがメディア報道によると、金融庁などの検査能力は年間15社程度しか行えず、今回のAIJのような投資顧問会社246社を含め、銀行などさまざまな金融機関を検査する場合、単純計算で17年に1回の割合でしかない、という。
よほど悪質行為のタレこみ情報や内部告発があれば、果敢に強制調査に入ったりするが、情報隠ぺいが巧みに行われれば、なかなか見抜けない弱みもある、というのだ。しかし、今回、興味があって、いろいろ調べたが、行政も相変わらずタテ割り行政の弊害で、情報を共有して機敏に動くという体制になっていないことだけは間違いない。
ババ抜きのババを弱い立場の中小企業が引くなんておかしい
そこで冒頭の話に戻るが、今回の事件で、旧社保庁のOBコンサルタント、さらには年金基金に天下った後輩の旧社保庁OBらの緊張感がない行為によって、大きな被害に巻き込まれた厚生年金基金は今後、大変な試練を迎える。
とくに、中小企業が加入する「総合設立型」の年金基金はとても心配だ。ババ抜きのババを引いたのは、一番力が弱い中小企業だった、というのは何とも悲しいことだ。AIJは厳しいペナルティを受けると同時に、金融庁はほかにも似たような問題の投資顧問会社がないか厳しくチェックすべきだろう。
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