時代刺激人 Vol. 174
牧野 義司まきの よしじ
1943年大阪府生まれ。
半導体大手のエルピーダメモリが2月27日、突然、4480億円の巨額負債を背負って経営が破たん、東京地裁に会社更生法の適用申請を行った、というニュースを聞いて、思わず耳を疑った。
半導体大手のエルピーダメモリが2月27日、突然、4480億円の巨額負債を背負って経営が破たん、東京地裁に会社更生法の適用申請を行った、というニュースを聞いて、思わず耳を疑った。なにしろ、パソコンや携帯電話などのエレクトロニクス製品に必須と言われる半導体メモリーのうち、DRAM(随時読み出しや書き込みを行える汎用性の高い半導体メモリー)では日本でただ1社のメーカーのうえ、世界第3位の企業の突然の破たんなのだから、ただただ驚きだ。
メディアの世界に何度も登場し、半導体の世界の話に及ぶと力強いメッセージ発信で人気もあった坂本幸雄社長。テレビに映った坂本社長が一転、東京証券取引所の記者会見で深々と頭を下げて、破たん理由や今後の再建取り組みに関して必死で説明する姿は、往時からみると、想像もできない姿で、何とも痛々しかった。さぞや無念だったことだろう。改めて、競争の激しい半導体メモリーの世界のすさまじさを見る思いだった。
日立など3社半導体DRAM部門を統合した技術力ある企業なのに…
とはいえ、オリンパスの時と同様、時代刺激人ジャーナリストの立場でなぜ、なぜという疑問がいろいろ湧く。なにしろ、エルピーダメモリは日立製作所、NEC、そして、あとになって三菱電機の半導体部門が加わって統合した企業だ。DRAMの半導体メモリーでは、日本でただ1つのメーカーでもあり、技術力という点でも群を抜いていたはず。
まさか大手3社の半導体部門が統合したものの、互いの大組織病の悪い部分が出たとも思えないし、半導体分野では長い経験を持つ坂本社長の経営手腕に疑問符がつくような状況でもなかったはず。それよりも、問題なのは、エルピーダメモリが2009年、リーマンショック後に半導体メモリー需要が落ち込む中で、厳しい競争を強いられていた際、経済産業省主導で、改正産業再生法を背景に公的資金の注入を受けた。その公的支援を受けた企業が、産業再生という大義名分にもかかわらず、なぜわずか3年で会社更生法の申請をせざるを得ない事態になったのかだ。やはり、なぜなのかと思ってしまう。
坂本社長「ライバル韓国に技術開発で立ち遅れ為替でも
競争力失った」
坂本社長が記者会見で、こう述べている。「半導体の日本勢のシェアがピーク時の70%から15%にまで落ち込んでしまった。最大の問題は、ライバルの韓国に勝つための日本の技術開発が遅れたこと、為替が円高に振れたため、韓国メーカーがウォン安を武器に攻勢を強め、日本側は為替面での競争力も失ったことなどが原因だ」と。坂本社長によると、この1年の円高にシフトした為替変動で競争力を失った。為替変動の大きさは、1企業の努力ではカバーしきれない、という。
今後の再建見通しに関して、坂本社長は会見で、現在進めていた米マイクロン・テクノロジーや台湾の南亜科技の2つの半導体大手企業との資本業務提携交渉次第としたうえで、「何としても再建したい。DRAMで生き残るには30%シェアの確保だ。必要な投資額は年間400億円ほど。技術開発を加速させ、韓国がつくっていないものをつくる」という。
277億円の国民負担が発生すれば追加の公的資金注入は到底無理
今回の経営破たんで公的資金のうち277億円が回収困難となり、産業再生のために政策金融で道筋をつけたはずのものが生かされなかった。そればかりか税金で損失補てんをせざるを得ない。率直に言って、今の財政状況のもとで、さすがに、追加で公的資金を、ということはまず無理だろう。エルピーダメモリとしては、何としても独自に、必死の再建努力をめざすしか、道がない。
坂本社長が最大の期待を抱いていた米半導体大手、マイクロン・テクノロジーの社長が自ら操縦する飛行機の事故で急死したため、交渉が頓挫しているのも不運といえば不運だ。ただ、米マイクロン社も、経営トップの不慮の事故とはいえ、マネージメントは動き続けねばならない。その新経営陣が、巨額の債務を背負って経営破たんしたエルピーダメモリとの資本提携に踏み切れるか、といえば、正直、非常に厳しいだろう。
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