米中は思惑含みの「G2戦略経済対話」で急接近、日本は取り残されるリスク 米は中国の大国意識くすぐるが、本音は米国債継続購入などでの中国頼み


時代刺激人 Vol. 48

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

米オバマ政権の前身、ブッシュ政権が2006年12月にスタートさせた中国との「米中戦略経済対話」が、今や経済全般のみならず政治や安全保障分野にまで及ぶ、文字どおり「戦略的な課題」を対話しあう関係領域に入りつつある
米国内では、この関係を捉えて「G2」、つまり米国と中国という2つの有力大国で世界の重要課題、秩序を決める枠組みが出来つつある、といった持ち上げ方まで出てきている。かつて、米国は旧ソ連や中国とはイデオロギー面で対立し、相互不信に陥っていた間柄だけに、様変わりというほかない。
しかし率直に言って、私は米国内で急に台頭してきた「G2」には、くみしない。というのも、米国発の金融危機や経済危機を引き起こして経済的なパワーを失った米国にはあせりに似た対中国接近の思惑があるためだ。米国自身、政治や軍事の面で、まだ影響力を残しており、その力を誇示しながら、日本を追い抜き世界第2位のGDP(国内総生産)国になろうとする経済新興大国の中国をうまく活用するのが得策。とくに米国にとって巨額の財政赤字の面倒を見てくれるのは「日米経済同盟」を結んでいる日本よりも、経済的に荒削りながら勢いのある中国だ。そこで、この際、「G2」という枠組みを演出し、中国の大国意識を巧みにくすぐりながら米国債の継続購入など米国経済バックアップを求めよう、という思惑だ。いわば「G2」は見せかけのものでしかない。

中国もドル暴落による保有米国債の損失リスクこわく、米の政策けん制を優先
 ところが、興味深いのは、中国の側にも実は似たような形で米国接近しておく必要があるのだ。中国は2兆ドルに及ぶドル建て外貨準備を持つが、海外での資源買い漁りは別にして、大半のドル資金の運用に関しては、際立った運用先が見当たらず、米国債投資でやらざるを得ない現実がある。このため、米国経済に問題が生じて、仮にドル暴落リスクに巻き込まれたりすると、保有する米国債などドル建て資産の損失を一挙に抱え込む。それはそのまま中国自身の凋落(ちょうらく)につながる。そこで、米国と「戦略経済対話」を続けることによって米国の経済政策をけん制した方が得策という思惑があるのだ。
こうしてみると、米国も、そして中国も互いに利用し合うと同時に、相手側の政策の行き過ぎをけん制したり、場合によっては注文をつけ合う必要性がある。そこで、「米中戦略経済対話」という形で、双方が毎年、交互に相手国を訪問し、経済閣僚を中心に、濃密な議論交流や人的交流を続けておけば、何か突発事態が起きた場合にも、その「経済戦略対話」の場が活用できる、という思惑に至ったということだろう。

2006年「戦略対話」スタート当初は米国主導、人民元切り上げ圧力の場に
 2006年12月の「戦略経済対話」スタート当時から、私自身、 経済ジャーナリストの立場で興味があったので、ずっとウオッチしてきたが、当初、米国経済は今のような金融危機問題などを抱えておらず、力強い米国そのものだった。その米国が「戦略経済対話」という形で中国と経済政策面で話し合いの場、政策対話の場を常設しようとした理由は何なのか、お気づきだろう。
米国にとっては当時、中国との経済関係は貿易収支の面でケタ外れの赤字、輸入超過になっていた。いわば貿易摩擦があった。その原因が、中国の為替操作、つまりは人民元を意図的に対ドルで安く据え置き、為替面での輸出競争力をつけることによって米国向け輸出を増やしているのでないか、との判断が米国にあった。
そこで、人民元の切り上げを求めるには米中2国間での話し合いの場をつくるしかない。急速に国際経済の舞台に台頭してきた中国は、為替政策面のみならず、知的財産保護や外資政策など、経済問題でさまざまな問題を抱えている。当時、世界の経済リーダーを自負していた米国からすれば、経済面で、お行儀の悪い中国を変えるのは自分たちだ、という判断があったのは間違いない。そして、米国主導で中国を話し合いの場に引っ張り出すには、対等の立場を演出する必要があり、「米中戦略経済対話」とした、と言っていい。

原型は1989年の日米構造協議、米国は半ば内政干渉で対日貿易赤字に対処
 これと似たような話がどこかにあったな、と思われるだろう。そのとおり。1989年から90年にかけて、日米間で、日米の貿易不均衡問題を協議した日米構造協議がそれだ。当時、米国は、対日貿易赤字に歯止めをかけるためには、円安ドル高を為替調整で是正するしかないとし、英国やドイツ、フランスを巻き込んだ主要5カ国による「G5」財務相会合を85年に米国で開催、プラザ合意という形で円高に持ち込んだ。
ところが日本は財政、金融政策面で円高対策をとり、同時に日本企業の危機に対応した自助努力もあって、結果として、日米間の貿易不均衡が改善しなかった。このため、苛立ちを強めた米国は、2国間での日米構造協議に切り替え、輸出、とりわけ対米輸出に向いた日本経済のほこ先を国内に向けさせるべく、外交的な圧力をかけて、日本政府に対し10年間で総額430兆円の公共投資を行う基本計画をつくらせたり、土地税制の見直しなど、言ってみれば強引に日本の国内政策に手を突っ込んで構造改革を迫った
米国としては当時、日米安全保障条約をベースにした同盟関係にある日本に対しては、注文をつけるのは当然、という意識があったのだろう。しかし「米中戦略経済対話」では、中国とは同盟関係にあるわけでないため、対等の立場で、政策対話を通じて注文をつけあう、という形にしたのは間違いない。

6月GM破産申請時、訪中優先のガイトナー米財務長官の行動が象徴的?
 ところで、米国が当初、中国の人民元切り上げを含めた通貨改革を強く求めたりする政策協議の場で位置付けていたにもかかわらず、昨年08年秋のリーマンショックに端を発した米国金融危機以降、冒頭に申し上げたとおり、米国はむしろ、中国経済頼みの姿勢に大きく変わりつつある。
そのことを裏付ける象徴的な出来事があった。それは今年6月1、2日という米政府にとって政治的にも経済政策的にも重要な時期を選んでガイトナー米財務長官が訪中したことだ。米自動車最大手のゼネラル・モーターズ(GM)が経営破たんに伴って米連邦破産法11条を正式申請したため、本来ならばオバマ大統領と並んで財務長官が今後の政府対応に関するメッセージ発信、さらには米国債格下げリスクへの対応などで財務長官が陣頭指揮をする必要があった。にもかかわらず中国に足を伸ばす理由は何なのかということが当時、大きな話題になったが、今にして思えば、米政府の最重要課題が中国への対応だった、ということなのだろう。
今回、ワシントンで7月27、28日の両日開催された「米中戦略経済対話」では、中国側は、米国が金融システムや経済の危機対策で財政支出行動に出たのに伴う財政赤字のGDP比率の悪化をどう引き下げる努力をするのか、と厳しい追及があったが、ガイトナー財務長官は「4年後の2013年までに財政赤字を持続可能な水準まで引き下げる措置をとることを約束している」と述べたという。多分、6月の訪中時にも同じようなやりとりがあったのだろう。

オバマ大統領は中国に消費拡大で世界経済への貢献期待表明
 オバマ大統領は7月27日の「米中戦略経済対話」の冒頭、両国関係について「米中間の関係は21世紀を形づくる。世界中のどの2国間関係よりも重要だ」と述べたが、本音は「米国が貯蓄率を高め、中国が消費を拡大することが持続的な経済成長につながる」と述べた部分だろう。つまり、米国がいま、中国に期待しているのは財政刺激で中国の内需拡大を図ること、とくに個人消費が増加すること、それによって中国の消費者が海外からの輸入財の増加に貢献してくれるならば、結果として世界経済の下支えになる。米国もこれに合わせて、貯蓄率を上昇させることで海外へのマネー依存をなくすと同時に、過剰消費体質を改めていく、というメッセージなのだろう。果たして、米国の経済体質を本当に変えることができるのかどうか、中国頼みでいくよりも、まずは米国経済の建て直し策をもっと強調すべきなのだろう。
 ところで、経済ジャーナリストの関心でいけば、中国の方が今後、どこまで米国に攻勢をかけることができるのかどうかという点だ。端的には、中国は最近、通貨政策面でドル基軸通貨制度にゆさぶりをかける言動をすると同時に、その一環で国際通貨基金(IMF)発行債券の購入に踏み切ったり、またロシアとの間でルーブル・人民元通貨スワップなどの話を持ち出したりしている。

中国にとっても人民元高回避の為介入続ける限りドル抱え込みのジレンマ
 現実問題として、ドルが米国経済にリンクして弱さを露呈してくるにしても、ドルに代わるユーロなどの基軸通貨が出てこない限り、ドル基軸体制を維持せざるを得ない。まさに、そこが当の米国のみならず、中国、日本、さらにはロシア、欧州、中東産油国すべてにとってのジレンマなのだ。
そうした中で、中国が本気で国際通貨制度改革に踏み出せるのかどうか。現に自国の人民元通貨についても、中国以外ではアジアの一部で決済通貨として機能しつつあるが、国際的にはまだ信認を得る状況でない。下手をすると、中国は、人民元切り上げ回避のために現在続けるドル買い・人民元売りの為替介入をどこかで歯止めをかける決断をしない限り、ドル買いによってドル建ての外貨準備高は果てしなく膨らみ続ける、そして米国債などドル資産以外の資産運用に本気で手を伸ばさない限り、もっと厳しいドル暴落リスクにさらされるジレンマに陥る。このあたりは、米国と同様、中国も苦悩を続けるしかない。

日本は内向きでいる限り地殻変動に対応しきれず、「現代版三国志」を
 さて、こうした中で、日本は、政治がすっかり内向きになっていて米中双方の地殻変動を感じさせるさまざまな動きに対応し切れていないのが、何とも気がかりだ。私は、以前もこのコラムで申し上げたが、日本、米国、そして中国の3カ国間で「現代版三国志」のような緊張関係をつくることが大事だと思っている。つまり、あるときは日本と米国が連携して中国の行き過ぎに対処、逆に、もし米国に問題があれば日本と中国が連携し、場合によっては保有する米国債を売るぞ、というプレッシャーをかけて自制を求めたり、あるいは世界に先駆けての積極行動を米国にとらせるための引き金を日中で引いて見る、といったことが考えられる。最大の問題は、日本に問題が生じた場合、米国と中国が連携すれば、日本が踏み潰されるリスクがある。だから、日本はそれに備えて座標軸をしっかり持つこと、端的には中国を除くアジアをバックに行動すること、そのためにも、過剰な対米依存を止めアジアにもっと力を注ぐことだ。
こういった問題意識を持たないまま、のんびりしているうちに、ハッと気が付いたら、日本は米中双方から取り残されていた、そしてアジアからも頼りない国として無視されていた、ということが現実のものになりかねないリスクがある。

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