信じられないほど多い宮崎口蹄疫の教訓、篠原農水副大臣が率直に指摘 超過密畜産が被害を拡大、獣医師がペット産業に傾斜し家畜医不足も深刻


時代刺激人 Vol. 98

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

一時は大問題になった宮崎県での牛や豚の口蹄疫(こうていえき)も、やっと感染の恐れがなくなった、として東国原英夫宮崎県知事が8月27日に終結宣言を出すという。そんな中で、篠原孝農林水産副大臣が最近、農政ジャーナリストの会で、この口蹄疫問題の危機管理面での教訓と畜産再建の問題に関して、率直に反省の弁を述べると同時に国としての取組み課題を語った。とても重要な課題が多いのに、メディアはなぜか、あまり取り上げていない。その危機管理の教訓がとても参考になるので、「時代刺激人」ジャーナリストの立場で、それら教訓から何を学ぶべきか、レポートしてみよう。

篠原農林水産副大臣は、口蹄疫問題が再燃し始めた6月9日に農水省官僚OBの経験が評価の対象になり急きょ、副大臣任命と同時に口蹄疫問題の現地対策本部長を命じられて現場で陣頭指揮した。私が毎日新聞経済記者時代に農政を担当した際の取材対象の1人で、長いつきあいだ。官僚現役当時から、ズバズバと問題指摘する異色の存在で、官僚社会では「変わり者」扱いされていたが、私はその問題意識の鋭さを率直に評価していた。今回も、そういった意味で、問題の所在が何かを十分にわかったうえで発言しており、今後の課題解決への取組みを期待したい。

88回コラムでは赤松農水相(当時)の危機管理意識の希薄さを問題視
 私は88回のコラムで、この問題を取り上げた際、3月31日に宮崎県都農町で口蹄疫の疑いのある水牛が見つかったのに、この程度は大丈夫との楽観が現場で先行し、危機対応が後手後手に回るという初動体制に問題を残したこと、しかし決定的なミスは、赤松広隆農林水産相(当時)という担当大臣の危機意識の希薄さにあったこと、端的には赤松農水相は4月27日に宮崎県からの緊急支援要請後も外国訪問案件を優先し4月30日から5月8日までキューバなどを訪問、口蹄疫問題が噴出する5月ゴールデンウイーク中も日程を繰り上げて帰国するわけでなく、危機管理に問題があったことなどを指摘した。
前回コラムでは、現場を踏まずに東京などでの取材だけで問題を取り上げたことをお断りしたが、今回、篠原農林水産副大臣の話を聞いてみると、宮崎県の口蹄疫問題に関して、終息宣言を出す所まで至ったとはいえ、信じられないほど数多くの問題や課題が山積していた。現場重視のジャーナリストから言えば、現場を踏まなかったことは反省しきりだ。その点で、ぜひチャンスをつくって、畜産の現場を見てみたいと思うが、現場で陣頭指揮した篠原農林水産副大臣の話は生々しさがあり、聞いてよかったと思っている。

日本は地震災害に迅速対応だが、人畜共通感染症などへの準備は心もとない
 さて、篠原農林水産副大臣は行政の責任などを踏まえて、何が問題や課題と指摘したか、さっそくご紹介しよう。まず、大きなくくりでの日本の危機管理という点について、災害対応に関しては、日本は地震被害や水害など過去の対応の学習効果で、世界に誇れるほど迅速に対応できる。ところが、それ以外は危機管理の課題が多い。たとえば安全保障がらみでは防衛関係者が敏感なのも異常ながら、それ以外の官や民はともに驚くほど鈍感。また感染症に関しては鳥インフルエンザなどに一時的に大騒ぎするが、問題が鎮静化したりするとけろっと忘れてしまう国民的な体質があり、危機ノウハウが一般的に蓄積されていない。今後の問題としては人畜共通感染症という重要な問題があり、バイオテロや細菌テロへの備えが必要になって来るのに、その備えが不十分で、心もとない。日本と違って他の国々との国境が陸続きとなっている欧州では家畜を使ったテロにはさまざまな予防・警備体制がとられており、学ぶべきものが多い。危機管理の行政課題については、首相官邸に危機管理対策本部がつくられるようになったとはいえ、霞ヶ関では依然として省庁横断的な問題に関してタテ割り組織の弊害が目立ち、機能しているとは言い難い、という。

人や車がウイルス運ぶのに「なぜオレの新車に消毒剤散布するのか」と無理解も
 この総論的な問題提起を踏まえて、篠原農林水産副大臣が次に指摘したのが本題の宮崎県での牛、豚の口蹄疫問題だ。まず感染ルートの解明に関しては、いまだに特定が出来ていない。10年前の2000年に同じ宮崎県で口蹄疫問題が発生し、当時は中国産の麦わらでないかと見られたが、決め手を欠いた。今回もアジア地域から人やモノの移動に伴ってウイルスが運ばれてきた可能性が高い。ただ、篠原農林水産副大臣は「問題が表面化してから、ウイルス感染が広がるのを抑えるため、人間の立ち入り禁止措置のほか、乗用車、トラックなどの消毒剤散布したが、『なぜ、オレの新車に散布するのだ。牛や豚の世界の話でないか、迷惑だ』といった無理解さが横行した。危機が広がり、さすがにそういった反発はなくなったが、東国原知事ら県の幹部も当初は同じ意識レベルだった。とくに県幹部らは10年前に最小限の被害にとどめたという成功体験があって、当時、うまくやれたのだから今回も大丈夫、との楽観論が先行したようだ」と述べた。

10年前に同じ宮崎で最小限被害にとどめた「成功体験」が判断ミスの遠因
 まさに地元の県当局サイドに「成功のワナ」という問題があったのは間違いない。ご記憶だろうか。前回コラムで、宮崎県のある獣医師のテレビインタビューでの発言を紹介したが、「宮崎県で10年前に口蹄疫の問題が発生した際、危機意識が強かったのか、先手先手の対応がとられ、家畜感染は今と比べものにならないほど、わずかで済んだ。感染力の強い豚の殺処分を素早く行って牛に感染波及するのを抑えたのが成功したのだが、今回、豚への感染が見つかってからも当局の対応にもたつきが見られ、その楽観対応で、豚の感染が膨れ上がり、連鎖する形で牛の感染が広域に広がった」と述べていた。何が原因か特定できていないが、今のように外国人観光客やモノの往来が活発になるグローバルな広がりではリスクは増大している、ということを理解しなかったのでないかと篠原農林水産副大臣は言いたげだった。

超過密畜産で殺処分牛の埋却地確保難など課題、欧州のように広域放し飼いも
 それよりも篠原農林水産副大臣が指摘した危機管理の教訓の中で、極めて印象的だったのは、今回の宮崎県の場合、鹿児島県などと並んで畜産業が盛んな県であり、その超過密畜産という事態がさまざまな問題を引き起こしてしまった、という点だ。それだけ感染リスクは増大するのは当然で、今後に課題を残している。それに日本の家畜伝染病予防法では、もし牛や豚がウイルス感染した場合に殺処分する必要が出るが、その埋却地の確保はそれぞれの畜産農家の義務となっている。
しかし借金苦でギリギリの状況で経営する畜産農家には土地拡大の余裕がない上、今回の場合、埋却地の確保が大幅に遅れたりして感染リスクを高めてしまった。篠原農林水産副大臣は行政の課題としては、北海道や欧州のように、広大なスペースで放し飼いして隣接する畜産農家への感染リスクをなくすことが必要になる。欧州の場合、1ヘクタールあたりわずか2頭の成牛、豚は10頭が飼育の限度、しかも糞尿公害など環境対応も必要になっており、日本はこの機会に抜本対策が重要になる、という。

ペットブームで伴侶動物獣医師が増えるが、公務員、産業動物獣医師は増えず
 ところで、これまた重要な教訓だと思ったのは、獣医師、それも家畜衛生などにかかわる公務員獣医師、それに牛や豚などの診断・治療にあたる産業動物獣医師が決定的に不足していることだ。今回、問題が大きく広がった際、口蹄疫症状チェックのために、政府はこれら公務員獣医師、産業動物獣医師に宮崎県への応援を求めたが、なかなか集まらなかった。酪農学園大学獣医学部長の林正信さんが7月8日付の毎日新聞コラム「これが言いたい」で述べているのを参考にさせていただくと、現在、登録している獣医師は全国で3万5000人。このうちイヌやネコのペットを扱う伴侶動物獣医師が全体の約37%、公務員獣医師が約26%、また産業動物獣医師が約13%、そのほか民間の大学などの獣医師が約12%、あとはその他という分類だ。率直に言って、ペットブームの時代の流れに乗って、女性が伴侶動物獣医師となるケースが急速に増えており、今回のような場合には対応しにくい。何とも悩ましい問題だ。

広域に感染リスク及ぶ事態あっても改正家畜伝染予防法が対応できず
 また、篠原農林水産副大臣によると、今回のような宮崎県にとどまらず広範に被害が広がった場合に備えて、広域予防策を講じるのは国であり、国がすべての責任を負うようにすべきだ。ところが、改正された家畜伝染病予防法では、カッコ書きがあって、「知事など自治体の長が予防区域を指定すれば、国は口出しをしない」という項目があり、これがネックになって、今回も山田正彦農水大臣と東国原宮崎県知事との対策をめぐる対立が事態の対応を遅らせたという。篠原農林水産副大臣は「広域におよぶリスクを考えれば国がすべての対策の責任を負うべきだ。しかし地域主権の問題が大きな政治課題になったため、政府は法改正の際に地方自治体に配慮してカッコ書きを加えたのだ。地方重視の姿勢は大事だが、ケース・バイ・ケースだ。これが今回、事態の機敏対応を遅らせた」という。地域主権は大きな時代の流れながら、こういった問題対応には、むしろ地域や地方自治体のエゴなどが前面に出て、あとでとりかえしのつかない問題を引き起こす。今回の宮崎県のケースで言えば種牛の殺処分を例外扱いにするかどうかの問題がそれだった。

宮崎県の事例をもとに「失敗の研究」を行い今後の対策につなげるべきだ
 篠原農林水産副大臣は、このほかにかなり多くの課題を率直に挙げたが、いずれも解決には難題が多い。しかし地元宮崎県の東国原知事の「終息宣言」をしても、これからが課題解決の始まりであり、政府は抜本的に取り組むべきだと思う。とくに、再発防止のために、今回の宮崎県口蹄疫問題を1つの失敗の研究事例にして、詳細分析レポートを公表することも必要だ。
だが、現実問題として、民主党政権は、足元の民主党代表選で政治空白、行政空白をつくりかねない状況で、マクロ政策も動きようがない状況にある。この口蹄疫問題がもたらした危機管理がどう生かされるのか、心もとない状況だ。

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