グローバル化の先が見えない韓国 格差拡大の一方で、農村は高齢化


時代刺激人 Vol. 154

前回コラムで、貿易依存度の高い韓国が生き残りのため、自由貿易協定(FTA)を戦略的に活用し、エレクトロニクスや自動車産業が輸出に特化すると同時にグローバル展開を進めていること、他方で、海外からの輸入攻勢で被害が避けられない農業に関しては、財政面で国内対策を講じるほか、競争力のある農業分野には、輸出団地化で支援といった、したたかな戦略対応をしており、日本も学ぶ点がある、という話を書いた。

そこで、今回は、韓国の首都ソウルでの急速な都市化の状況を見聞するのみならず、農村の現場に入り込んでの約1週間の取材の旅だったので、ジャーナリストの目線で見た韓国の抱える問題や課題について、レポートしてみよう。

グローバル社会化のメリットと同時に、デメリットが拡がる
結論から先に申上げれば、韓国は自らの生き残りのためにFTA戦略を基軸にグローバル対応を進め、社会システムもそれに合わせて大きく変えていこうとしているが、現実は、グローバル化の先に、どんな国家像や社会システムがあるのか、よく見えない。

それどころか、所得格差が都市と農村との間を含め、さまざまな分野で拡がってきて、アンケート調査でも所得の安定という項目がトップに躍り出るほど、国民の間では所得格差の是正が大きな社会問題になりつつある。また、若者を中心に、ソウルへの人口集中が進み、その反動で農村部は日本と同様、高齢者ばかりが結果的に増えて急速な高齢化のひずみが出てきている。要は、グローバル化が韓国経済にメリットを与えている半面、経済社会にはさまざまなデメリットももたらしている、ということだ。

まず、今回の韓国旅行中に聞いた話で、とても興味深かったものの1つに、「名誉退職」というキーワードがある。わかりやすく言えば、企業における早期退職のことで、日本でも定年制度とは別に、半ば一般化しつつある制度だ。ところが、韓国の場合、グローバル化に伴う競争社会化が進み、日本とはケタ外れのテンポで、制度化と同時に、早期退職年齢のバ―がぐんと引き下げられているのだ。

競争社会化が進み55歳定年前に名誉退職、40歳台後半も
複数の韓国企業関係者らに聞いた話では、韓国政府は、高齢社会化に対応するため、出来るだけ長く企業で働けるようにと、60歳定年制の定着を目指しているが、現実は、55歳定年が平均的で、大半の企業がほぼ、この年齢を定年年齢としている。

ところが、ある韓国人の話では、韓国企業のホワイトカラーが経験する体感的な定年退職年齢というのは、もっと繰り下がって、何と48歳ぐらいでないか、という。そればかりでない。「45停」と「56盗」の2つのキーワードもある、というのだ。ちょっと横道にそれるが、韓国の場合、日本で言う定年は、「停年」と呼ぶそうだ。定年という場合、日本語的な語感からすれば、定年の延長に含みを持たせる面があるが、韓国の停年という言葉から受けるイメージは、そこでストップの感じがあるように思える。

「45停」や「56盗」で締め出し?
高齢社会の制度設計中の日本とは大違い
それよりも、興味深いのは、この「45停」という言葉だ。要は、やや若くて45歳を、韓国社会では定年と意識し始める年齢であるため、皮肉っぽく使われるのだそうだ。そして「56盗」は、想像がつかれることだろうが、55歳定年が平均の韓国で、仮に56歳まで企業で働いた場合、給料泥棒視されるばかりか、後進に道を譲らずにポストにしがみついたり、若者のポストを半ば盗ってしまうと受け取られ、やや冗談半分に、そういうのだそうだ。何とも味気ないどころか、殺伐とした社会だ、と日本人には映るかもしれない。

日本のように、高齢化社会の「化」が次第に抜け落ちて、高齢社会になりつつある国では、体力、知力の面で余力のある高齢層の再雇用化や企業内における雇用延長化、さらには新たなキャリア開発化などが、高齢人口社会に対応した制度設計課題になっている。

韓国はグローバル社会での熾烈な競争勝ち抜きが企業課題
それと対照的なのが韓国社会の今の現実だ。つまり企業がグローバル化に対応するには、企業の現場で常に競争力を確保する必要があるため、若手中心に、かつ低い給与でも企業の現場で対応してくれる若手社員を主戦力にする必要から、名誉退職という形で、本来の退職金以外に割増退職金などのインセンティブをつけて、世代交代を急がせる。考えようによっては、競争社会の冷酷なルールで、グローバル社会化が進む韓国のカゲの部分とも受け取られかねない。

しかし、韓国の場合、それによって熾烈なグローバルレベルでの競争に勝ち抜くことが企業課題なのだ。現に、サムスンエレクトロニクスは10月1日、不振が続く液晶パネル部門のトップを事実上、更迭し、同時に組織再編も行った。今年1-3月期に8四半期ぶりの赤字を出し4-6月期も同じ赤字見通しが明らかになったため、オーナーで最高実力者のイ・ゴンヒ会長の経営判断で、任期途中の部門トップの更迭人事に踏み切った、という。実力本位、業績など経営結果がすべてで、グローバル競争に勝ち抜くにはこの大胆さが組織に緊張感と活力をもたらす、という考えなのだろう。虎視眈々と後がまを狙っていた他の役員にチャンスを与えたのかもしれないが、何ともすさまじい国だ。

名誉退職者は年金支給の65歳まで割増退職金で必死に不動産投資
今回の農政ジャーナリストの韓国農業取材の旅で通訳を務めてくれた韓国の中年女性の話が興味深かった。その女性によると、韓国の場合、公的年金の支給開始年齢が65歳なので、早めの名誉退職をしたりすると、その人は年金を受け取るまでの期間、仮に他の仕事に再就職することが難しい場合、生活のやりくりが極めて厳しくなる。

そこで、多くの人たちが共通してとる行動が退職金から生活資金を除いた部分を不動産投資に充てる、という。当然ながら、転売した場合の値上がり益を見込んでのものだが、いい投資物件を買うために銀行借り入れを増やして、背伸びするケースも出て来るが、新たなローン負担が発生し、生活苦に陥るケースもなきにしもあらず、という。

さきほどの名誉退職のことで話を聞いた韓国企業関係者によると、韓国は、日本と違って、不動産バブルが崩壊して不動産価格が大幅に下落といった経験が過去に皆無のため、表現がよくないかもしれないが、かつての日本のような、狭い国土のもとで、需給関係に狂いが生じて値下がりすることはなく、常に値上がり傾向が続くという不動産神話があるため、国民の大半が特に、人口集中する大都市のソウル、さらに周辺地域で不動産投資に熱を上げる、というのだ。

都市と農村の所得格差も拡大、世論調査では所得安定がトップ
もう1つ、ぜひレポートしたいのは、今回の取材の旅で、随所で聞いた話の1つに所得格差の拡大があった。政府系の農業関係研究機関の幹部の話では、農業者と都市生活者、それに専門家の3つの人たちを対象に行った今、最大の関心事は何か、という世論調査で、極めて現在を映し出す結果となったという。具体的には、農業者の関心事は、所得の安定が第1、続いて後継者の育成だった。ところが都市生活者も第1が所得の安定で、第2が生活環境の改善だった。それに対して専門家は後継者育成をあげた。その研究者によれば、今、農村社会のみならず大都市部でも所得格差の拡大に対するいら立ちが強まり、異口同音に所得の安定を口にする、という。

その幹部によると、1970年代から90年代までは都市と農村の間では所得の均衡が続いていたが、アジア通貨危機が起きた1997年の2年前の95年ごろから所得格差が拡大し始め、農家所得は都市勤労者の所得の67%まで落ち込んでいる。さらに2007年ごろから、農家所得は低迷どころか減少に転じて、都市生活者や勤労者との格差が一段と広がり、政治問題化するリスクが高まっている、という。

若者の大都市への人口流出で農村の高齢化が重大危機に
問題は、この所得格差だけにとどまらない。韓国社会、とりわけ農村社会の高齢化も大きな政治課題だ、という。NPO組織の韓日農業農村文化研究所の玄義松代表理事は「農村での高齢化のスピードがすさまじく早く、農業の担い手となる後継の労働力が都市に流出し、あおりで農村の集落基盤が崩壊の危機にある」と述べている。

玄代表理事は笑うに笑えない話をしてくれた。それによると、韓国の人立ちにとって、キムチの主たる原料のハクサイと並んで重要なトウガラシに大問題が起きた、という。農業現場の高齢化で作付けが極度に落ちたうえに、運悪く大量の雨が降り続いたことで生産量が激減し、市場価格の高騰につながった。降雨量は気候変動によるが、高齢化の問題は構造問題のため、生産の不安定は長期化するリスクが高まっている。

別の農業関係者は「中国には、今や韓国の農業関係者がハクサイのタネごと持って行き、生産したものを開発輸入の形で韓国に、そっくりそのまま持ち込んでいるが、今後はトウガラシも中国での生産ということになる。ただ、韓国人は中国からの農産物は農薬などが大丈夫かと神経質になる。キムチは韓国の生命線みたいなものだから、大変だ」という。

ソウルなどがグローバル化に対応する社会システムづくりで課題残す
私にとって、韓国の旅は初めてのことで、いろいろ見聞することが驚きのことも多かったが、その1つにソウルに異常なほどの人口集中があることも驚きだった。韓国の4800万人口の何と4分の1の1200万人がソウル市に定住し、しかもその周辺都市の人口も合わせれば、特定の地域に以上に集中することのリスクが大きいのでないか、というのが実感だった。

都市化に伴うインフラ建設が進んでいるが、半面、年金や教育、医療などの社会インフラの制度がどうなっているのか、また物価高もかなりのものだった。とくに、ウオン安に伴う輸出競争力というプラスの半面で、輸入物価が割高になり、その分、国内物価を押し上げている。

また、自動車の保有台数がソウルでは異常に多く、朝夕のラッシュ時の交通渋滞は日本の東京などの比ではなく、慢性的な事態だ。これも巨大都市化したソウルのまさに都市問題だと言っていい。

ローバル化に伴い韓国経済にプラスの面も多いが、半面で、社会システムがグロバル化に対応し切れずに、さまざまな問題や課題を残している、というのが偽らざる印象だった。このあたりは、日本の今後のグローバル対応にも課題となりそうだ。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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