これこそベンチャー!「決めたらリスクをとって一歩を踏み出す」迫力
イー・アクセス株式会社
代表取締役会長兼CEO
千本 倖生
ADSLで日本をブロードバンド大国に押し上げた男は、さらにモバイルのブロードバンド化を目指していた。正統派のベンチャー企業とは何か、起業家とは何かを身をもって示そうとしている男の、ビジネスへのスタンスとは?
千本僕は京都の商工会議所に頼まれて講演に行って、当時の会頭が塚本さんて、今のワコールの社長のお父さんが会頭をやっておられて、それで「その人がハイテクのことで講演しろ」とおっしゃるんで講演に行ったら、その聴衆の中に稲盛さんがいた。で、終わった後で、なんかすごい面白いねと、なんか新しい事業できないかということあって、そのとき言ったのは、やっぱり電電公社という国営独占事業は、アメリカを見てもヨーロッパを見ても間もなく終わると……。
蟹瀬やっぱり競争が入ってくると?
千本競争が来る、民営化されると。それで必ずそのときに競争のアグレッシブな若いピチピチした会社ができれば、すばらしい産業としては発展すると。そのときにやっぱり経営哲学とか経営思想というものがものすごく大事で、日本に必要なのは電気通信の技術よりは、
千本経営をどのようにインプットしていくかと、そういう会社を作りませんかということで意気投合してDDI、今のKDDI、その第一歩を作ったんです。
蟹瀬だけどそういう話を伺って、オファーですよね?言ってみれば。すぐに決断できたんですか? あるいはしばらくお迷いになった?
千本いや、むしろ僕がオファーをしたわけです。
蟹瀬ああ!そうか。
千本「作りませんか?」というのは、やっぱりそのときのお金でも300億とか500億とか要りますから。
蟹瀬大変な金額ですよね?
千本大変な金額。当時はベンチャーキャピタルという概念がないから、京セラにベンチャーキャピタルになってもらいたいということだったんですね。
蟹瀬稲盛さんの返事というのはいつ頃来たんですか?
千本稲盛さんは、やっぱりあの人も非常にリスクテイクをされるけども、よく考える人ですから。しかも彼らの取締役が全員反対だったですからね。
蟹瀬それはそうでしょう、それだけのリスクはあるわけだから。
千本その中でリスクがあって、やっぱり何百億、1,000億のリスクとって……。
蟹瀬下手すれば会社倒れるという形になりますからね。
千本そうですよ、当時京セラの売り上げが2,000億ぐらいでしたから。しかもNTTという、当時何兆円の企業に、独占企業に刃向かうわけだから、それは稲盛さんにとってもそれは大変な決断だった、それをやっぱりバックアップしてくださったのが、亡くなられたけどソニーの盛田昭夫さんとか、今活躍してらっしゃるウシオ電機の牛尾さんとか、それからセコムの飯田さん、そういう人がやっぱり稲盛さんの後を後押ししてもらって、どちらかというと戦後派のアントレプレナーたちですよ、伝統的な三井三菱ではなくて、そういう人たちが稲盛さんをバックアップしてもらって、その会社ができたということですよね。
蟹瀬だけど電電公社を辞める、それに関しては敵に塩を送るような形になるわけですけども、そのとき真藤さん、総裁に直接お話しになったそうですね?
千本そうです。これはやっぱりトップが決める話ですよね、そういうのはね。だから電電公社あのときには何人ぐらいいたのかな、30万人ぐらいいたと思うんですね。で、僕らなんか部長とはいえ軍隊でいうと大尉ぐらいのものですよ。
蟹瀬(笑)。
千本ね。で、それが元帥(げんすい)になんか普通会えないわけ。
蟹瀬会えないでしょう、それは。
千本会えないですよ。だから……。
蟹瀬どうしたんですか?
千本僕は関西の部長をやっていたんですけど、で、ある日突然真藤総裁が関西で講演をするというので、たまたまその総裁の秘書役を知っていた、サダさんというなかなか立派な人だったんです。その秘書役に、講演終わったら東京に帰られるでしょう?
蟹瀬ええ。
千本帰るときのスーパーシートの隣に秘書役座るの分かっていたから、秘書役に直接コンタクトして、その東京に帰る45分間くれと。
蟹瀬隣に座らせてくれと、飛行機の中で。なるほど。
千本で、それで座って「真藤さん、こういうことを、大それたことを考えてるんですけど、でも日本のために電電公社を民営化するだけでは真藤さん、駄目ですよ」「絶対激しい競争相手いないと全産業がよくならない」と。「そういう会社を実は作ろうと思ってんだけどいいか?」と言ったら、にたっと笑って「そんなものおまえ、俺が推奨できるわけないだろう」と。
蟹瀬(笑)それはわざわざライバルつくることになるわけですからね。
千本だから他の副総裁以下全部大反対ですから。だけど真藤さん一人はにたっと笑って「だけど俺は黙認してやるよ」と、あれは器が大きかったですよね、「黙認してやるよ」と。
蟹瀬なかなか、そういうお話を伺うとですね。
千本それで「誰とやんだ?」と言うから、当時稲盛さん、まだ50代ですよね、僕より若かった。だから稲盛さんとか牛尾さんとか……。
蟹瀬盛田さんとか。
千本盛田さんとかとやると。で、これは絶対日本のためになると。
蟹瀬先ほど、資金のお話ありました。それはいろんな方のサポートがあったんでしょうね。それから人集め……。
千本そう、人がいない。
蟹瀬さらに法律の規制という、こうありますよね?
千本そうですね、おっしゃる通り。二つめの難しいのは。
千本通信技術者というのは電電公社が全部握ってた、独占だから、いいやつはそこしかいないわけです。だからそこからもらわなければいけない。だから「カレーライスおごってやるから、おい、話しようよ」とか言って。
蟹瀬(笑)。
千本それで一人ずつ口説いていったわけです。例えばイー・アクセスの今社長をやっている種野(たねの)、元KDDIの副社長やってたんだけれど、彼なんかは1番目に「やりましょう!」と駆けつけて、今はKDDIの社長をやっている小野寺さん、彼はその後で「私もやります」とか言って、一人ずつカレーライスで釣って巻き込んでいって。
蟹瀬カレーライスって割と安上がりだなと思いますけどね(笑)。
千本いや、お金ないんですから。
蟹瀬そうか(笑)。
千本お金ないから。
蟹瀬その間って全然そういえば収入ゼロなわけですよね?
千本ゼロではないけど、まあそんなに……。
蟹瀬企業体としてはね。
千本そう、ないですからね。だからやっぱりベンチャーの人によく言うけれど、株主さんのお金、僕らなんか今1,000億のお金を集めているんだから、やっぱりこれを自分のお金と思うところに大きな誤りがあって、これは株主さんのお金を預かっているんですからね。これをいかに効率良く株主さんのために使うかというのが原点ですよね。
蟹瀬それから千本さんの時代は、やはり法律的に通信というのは国家の大切なものだということで、規制が多かったですよね?
千本独占事業、そうです。
蟹瀬これが法律がやっぱりそこで規制緩和されてきたと?
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