国会事故調提言お蔵入りを危惧 立法府は超党派で原発対策の法制化を(Vol.191)


時代刺激人 Vol. 191

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

政権政党の民主党で離党騒ぎが続き、あおりで野田政権の政治基盤が極度に不安定になるなど、政治が混迷を極めている。日本の内外で重要政策課題がいっぱいあり、早く取り組まねばならない状況なのに、政治がこんな状況を続けていると、日本はどうなっていくのか、心配でならない。

実は私自身、その政治混迷で、とても危惧することがある。前回のコラムで取り上げた東電原発事故調査を行う国会事故調査委員会(国会事故調、黒川清委員長)の最終報告書について、報告書提出を受けた立法府の国会の対応が宙に浮きかねない恐れがあるからだ。世界中を震撼させた原発事故を、日本が二度と引き起こさないようにと、新たな対応策を求めた7つの提言だというのに、もし、国会がしっかりと受け止めきれないまま、お蔵入りにしたりすれば、それこそ日本という国そのものが問われかねない。

政府も政府事故調報告書への対応と同時に、
国会事故調提言への対応が焦点

 そればかりでない。7月23日には、国会事故調と同じように東電原発事故の真相究明調査を行っていた政府の事故調査・検証委員会(畑村洋太郎委員長)の最終報告書が発表になる。政府としても当然、この政府事故調の最終報告書を受けての対応が焦点となる。しかし同時に、政府は、立法府がバックに立つ国会事故調の最終報告書の提言も国会重視ということで尊重せざるを得ず、どう受け止めるかが焦点だ。

 問題は、この政治混迷状況で、立法府の国会のみならず、政府自身も対応しきれないまま事実上、原発事故対策そのものが棚上げにされてしまったりするリスクがあることだ。それこそ大問題だ。その意味でも、この政治混迷が政局化を誘い解散総選挙によって、あらゆる政治決定が中断し政治空白状態に陥る事態だけは避けねばならない。。

 そこで、今回のコラムでは、憲政史上初というふれ込みで立法府が政府の原発政策の検証のためにつくった国会事故調、そして7つの提言を含む最終報告書を、国会自体がどう受け止めるのか、特別委員会を組織して議員立法でどんどん法制化する積極的な取り組み姿勢があるのかどうかなどを見ていきたい。

黒川さんは調査現場を陣頭指揮、
行動力や問題提起力はすばらしい

 しかし、黒川さんは75歳という年齢を感じさせない精力的な行動力で調査現場を指導し、640ページにのぼる膨大な最終報告書のリーダーシップをとった。東大医学部卒業後、古い医局制度に反発して米国に渡り、米UCLA教授などを歴任したが、本業の医学者にとどまらず、その行動力、人脈形成力、問題提起力によってグローバルベースでも著名な日本人だ。帰国後、日本学術会議会長としても活躍したが、昨年の原発事故直後から、国会が、政府から独立して事故調査と同時に政策提言を行う民間専門家による調査組織をつくるべきだと主張したら、自身で国会事故調委員長を引き受ける羽目になった。

 実は、私自身が昨年末、黒川さんから依頼を受け、メディアコンサルタントの立場で、国会事故調にフルにかかわり、その活動ぶりをそばでずっと見ていたので、率直に言えるが、掛け値なしに、黒川さんがいなければ、今回の最終報告書のメッセージのような「事故は人災によるもの」といった大胆な結論を引き出せなかった、と思う。そこで、今回のコラムでは、この国会事故調問題を取り上げてみたい。

「福島原発事故は終わっていない」は的確、
3.11並み大地震あれば恐ろしい事態に

 黒川さんは、これまで「日本が原発事故でメルトダウンした」といった形で、ポイントをつくキーメッセージを巧みに発信できる人だ。今回の最終報告書の「はじめに」の冒頭部分でも、「福島原子力発電所事故は終わっていない」と、簡潔に、ワンセンテンスの文章を書いて、鋭く問題提起した。このメッセージは的確だ。
 福島第1原発の事故現場はいまだに惨憺たる状況だ。強濃度の放射能がある原子炉の中に入ることもできず、ロボットによる遠隔操作などでこわごわと状況を探るのが現実だ。水素爆発で無残にも壊れた建屋も、原子炉や格納容器を十分かつ完璧に覆う機能を果たせていない。建物地下の構造がどうなっているか、いまだ確認できない部分もある。

 もし昨年の3.11クラスの大地震、大津波が再度、襲ってきた場合、この無防備に近い原発施設はどうなるか、想像しただけでも恐ろしい。政府は昨年12月、原発事故の収束宣言を行ったが、まだレベル7(セブン)という最悪の事故状態の解除には至っていない。黒川さんが述べるとおり「福島原子力発電所事故は終わっていない」のは明らかだ。

東電原発事故の「人災」原因説は正しい
 まず、私は前回コラムでも申し上げたように、メディアコンサルタントの立場でかかわったからというわけではないが、国会事故調の報告書が指摘した「東電福島第1原発事故は、東電が主張する想定外の津波などによる自然災害ではなくて、事前に何度もシビアアクシデント(過酷事故)対策を講じる機会があったのに、それを怠ったことによる明らかな人災だ」という点は、私が取材してもポイント部分であり、正しいと思っている。

 というのも、ずっと以前のコラムで取り上げたが、東北電力の女川原発は、原発建設当時の総責任者の副社長(故人)が過去の大津波記録をもとに、社内の反対を押し切って原発の高さをかさ上げしたおかげで、3.11大津波から原発サイトを守れた。また日本原子力発電の茨城県東海村にある東海第2原発も、事前の津波対策で非常用ディーゼルエンジンが全電源喪失に至らずに済んだ。この危機回避事例を見ても、東電、それに規制機関の原子力安全・保安院が最悪のリスクシナリオを想定してシビアアクシデント対策に取り組んでいれば、世界中を震撼させた東電原発事故は防げた、と言っていいのだ。

国会が超党派でつくった国会事故調対応で
「取り組む余裕ない」では済まされない

 国会事故調報告では、この人災原因説にもとづいて、国会に原子力規制当局を監視する常設の委員会を設けるほか、今後、国会事故調と同じような、政府や原子力事業者から独立した、民間の専門家で構成される第3者機関を設け、まだ未解明部分の東電原発事故原因の継続的な究明や廃炉への安全な道筋を探る調査を行うべきであること、新規制機関もこれまでの原子力安全・保安院に決定的に欠けていた独立性、透明性、専門能力を持つ人材装備など7つの提言を行っている。示唆に富む部分が多く、ぜひ読まれたらいい。

 率直に言って、国会が憲法で国権の最高機関として規定する限りは、しかも、その国会が自ら超党派で国会事故調法を立法化して立ち上げた国会事故調自体の提言を早期に実現する責務がある、と言える。原発事故再発防止策という重い課題を十分に承知しているが、政治が惨憺たる状況なので、取り組む余裕がない、といった姿勢では済まされない。

国会は提言受け原子力専門委設置方針決めたが、
問題は具体的アクション

 国会の現状はどうだろうか。国会事故調が7月5日に衆参両院議長に対して最終報告書を提出した後、ボールは国会に投げられたが、その日の午後5時過ぎ、衆院第1議員会館の会議室で、衆参両院議員を対象に、黒川委員長ら委員全員の報告会が行われた。私も興味があったので、その会合に参加したが、80人ほどの国会議員が参加し、最終報告書の中身の報告を聞いたあと、そのうち10人ほどの議員が次々に立ち上がって、国会としても、与野党問わずしっかりと受け止める必要がある、とアピールした。

 また、翌日6日には衆院議院運営委員会の理事会が開かれ、国会内に新たな原子力専門の委員会を設置する方針を確認した。衆院議院運営委の国会事故調問題ワーキンググループのリーダーの1人、自民党の塩崎恭久衆院議員は7月18日の国会事故調問題の特集テレビ番組で、視聴者からの「国会はどう対応するのか」との質問に答える形で「最終報告書の提言に1つ1つ答えていく必要がある。とくに常設の監視委員会などに関しては真剣に議論していく」と述べていた。

民主党は国会事故調の参考人招致が
政争の具になるのを恐れ慎重姿勢

 これら国会議員の受け止め方はもちろん、重要だ。ただ、「国会事故調報告や提言を重く受け止めて、しっかり対応していきたい」ということは総論として、誰でもいえる。問題は、それを受けてどう具体的なアクションをとるかどうかだ。

 ところが、友人のある政治ジャーナリストに聞いた話で、興味深かったことがある。民主党の政治家の話として、与党民主党が野党の参考人招致の要求を受け入れて、国会事故調の黒川委員長(正確には報告書提出で任を解かれたため、肩書は前委員長に)を参院の予算委員会、あるいは環境委員会など関係する委員会に招致して質疑に入った場合、本来の原発事故の再発防止策をめぐる議論よりも、野党側から、原発事故当時の首相官邸の危機管理対応、とくに過剰な政治介入問題、さらに原発の安全基準がらみで大飯原発再稼働問題に集中し、結果として政争の具にされ、政権揺さぶりの材料にされるリスクがある。
このため、野田政権としては、火中のクリを拾いたくないので、国会事故調問題への対応に関しては慎重にならざるを得ない面がある。ましてや政府としては政府事故調への対応の方が政府という立場上、優先課題だ、という。

国会事故調法での「報告書は内閣に送付」規定が
意外や問題残す

 この後者の政府の政府事故調への対応をめぐる問題も、実は議論すべきポイント部分だ。政府をマネージする民主党政権としては、昨年5月に原発事故調査のため、政府事故調を立ち上げ、畑村委員長らに真相究明を依頼した。その7か月後に、国会が国会事故調を別途、立ち上げ、政府から独立して独自に原発事故原因の調査を行うと同時に、政府の原子力政策も検証するよう依頼した。

結果的に、東電原発事故調査に関する公的機関が2つ、競合する形となった。ところが問題は、そこから始まる。国会事故調法16条では、国会事故調が最終報告書を両院議長に提出後、両院議長は協議して、その報告書を内閣に送付する、となっているのだ。要は、立法府としては、両院本会議で報告を受けたあと、衆院、参院それぞれに特別委員会を設けて議員立法で法制化に取り組む、とすべきだったのに、内閣に送付して政府対応を求める、いわばゲタを預けたような形にしてしまったのだ。明らかに欠陥部分だ。

政府が冷ややか対応のうえ、国会も総選挙対応で
動かなければ大問題に

 これに対して、枝野幸男経済産業相がその後の記者会見で政府の対応を聞かれた際、「政府としては政府事故調の提言などを実行する義務がある。しかし、国会事故調の報告や提言に関しては尊重するが義務はないと考える」という趣旨の発言を行った。政府の閣僚としては当然の発言かもしれないが、国会から内閣に送付された国会事故調報告は、野球に例えれば、三遊間を抜けてボールが外野へ転々と転がっていき、最悪の場合、誰もがそのボールの処理をしない、という最悪のケースが起きかねないのだ。

 もし、そんな最悪の事態になれば、政治家へのしっぺ返しが大きくなるだろう。国民が注視している原発事故問題、とりわけ、いまだに福島県双葉郡の原発立地自治体から避難を余儀なくされ避難所生活を送っている大熊町、浪江町、双葉町などの人たちにとっては、国会事故調が政府事故調に比べて、被災者目線、国民目線での調査をしたことへの評価、それに最終報告書の中身に対する評価も高いだけに、政治への反発は強まるだろう。加えて、東日本大震災の復興への政治の対応の遅さに対する苛立ち、反発を根強いだけに、一気に政治不信に発展していく。それは総選挙で有権者の厳しい審判につながる。

今こそ国会が国権の最高機関の見識を示すべきだ、
超党派でスクラム対応を

 私は、冒頭の見出しにあるように、二度と原発事故を引き起こさないための国会事故調の7つの提言など最終報告書の問題提起をお蔵入りさせてはならない。そして、立法府が毅然とした姿勢で、超党派でスクラム組んで議員立法による事故防止対策の法制化を大胆に進めること、また政府に対しても、立法府の権限を行使して、法的対応、政策対応を促すことだ――などが必要だと言いたい。

 最後に、私の友人の毎日新聞論説委員長の倉重篤郎さんが、7月14日付の毎日新聞朝刊コラム「論説室から」で「黒川委員会を歴史に残そう」という話を書いていて、時代刺激人を公言する私が逆に、とても刺激を受けたので、ぜひ、ご紹介したい。

米議会のペコラ委員会の先例をもとに、
国会も国権の最高機関らしい対応を

 米国で1929年の大恐慌の原因究明のために、米上院に民間の弁護士ペコラ氏をトップに据えて徹底した調査を行うペコラ委員会が設置され、大きな歴史的な実績を残した先例をヒントにしたものだが、ペコラ委員会は、2年間かけて、証券市場関係者を議会喚問し、銀行が証券市場関係者を使って投機的行為、株価操作などを行ったため、それによって株価が暴落した、と結論付けた。米議会では、その調査結果をきっかけに、銀行と証券の分離を定めたグラス・スティーガル法の制定に及んだ。

 米議会主導で民間の専門家に調査を委ねる専門調査機関の設置、その調査結果をもとに法制化に踏み切った点が、日本にも大きなヒントになるというのが倉重さんのメッセージだが、米国のペコラ委員会並みに、黒川委員会の名前が歴史に残すような取り組みを国会が率先して行うべきである、という。確かに、そのとおりで、日本の国会が今こそ、国権の最高機関を自負するならば、米国の先例に学べと言いたい。

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