「凡事を極め、100年企業へ」


大和ハウス工業株式会社
会長
樋口武男

SOLOMON

会社の寿命は30年と言われる。会社を取り巻く環境はますます変化が激しく、業績が急激に悪化する例も多くなった。
そんな荒波の中で、大和ハウス工業は100年企業を目指し、成長し続けようとしている。祖業の住宅事業の強化とともに新規事業に邁進する。社長、会長として20年近く会社を引っ張る樋口武男会長は創業者、石橋信夫氏の経営理念を固く守り、なすべき当たり前の「凡事」を極めた人である。長く持続する経営の要諦を聞いた。

経営の軸は今も創業者、石橋信夫氏の教え

大和ハウス工業の樋口武男会長が朝、大阪本社に出勤したらまず向かう場所がある。創業者、石橋信夫氏の執務室だった部屋である。2003年に石橋氏が亡くなった後も本社15階の執務室はいまも残されている。そこで石橋氏の遺影を前に経営についての思いを静かに伝え、石橋氏の魂と対話する。

「親子ならば親を大事にするのは当たり前のことです。会社なら創業者を大事にすることもまた当たり前のことです」

樋口氏は社長を経て、04年に会長に就任し今年で14年になる。押しも押されもせぬ実力会長だ。だが経営を語る言葉の大半はさまざまな石橋語録に基づくものである。「多くの経営者に会ってきたが、石橋オーナーを上回る人に会ったことはない」と素直に語る。

石橋氏の教えが、今も大和ハウス工業の経営の軸となり、樋口氏のバックボーンとなっている。
1955年に創業した大和ハウス工業は100周年を迎える2055年に連結売上高を10兆円にするという目標を掲げている。
この目標も石橋氏の遺言となった。石橋氏が亡くなったのは03年2月。その1年ほど前に社長だった樋口氏が石川県羽咋郡で病気療養中だった石橋氏の夢を聞いた。

「創業100周年の時には売上高10兆円の企業群を形成してくれ。それがわしの夢や」

今では4兆円に迫る企業グループだが、当時は1兆5000億円にも手が届いていなかった。とてもチャレンジングな夢だった。今年80歳となる樋口氏が100周年の2055年には117歳。「1周年のころに生きているかはわからんがなあ」と言う樋口氏だが、目標に向けた種まきには余念がない。

人口が減少する国内の既存事業だけでは10兆円という目標の達成は難しい。もちろんコア事業の既存事業を強化するが、新規事業も拡大しなければならない。
樋口氏は社長になる前から新しい事業に積極的に取り組んできた。常務で特建事業部を担当していた89年、宮崎県で老人保健施設の建設を請け負った。入居者の状況をみると、こうした老健施設は全国で不足しているはずだと直感したという。当時、厚生省(現厚生労働省)が発表した「ゴールドプラン」では、今後10年間で28万床が必要と試算されていたのに、その時点では2万8000床しかなかった。大きな需要が見込めた。

樋口氏は役員会で「シルバーエイジ研究所」の設立を提案し、石橋氏が「それ、ええやないか」と即決したという。その部門のノウハウは、高齢化が加速する今に生きている。

長寿企業、成長の種は「ア・ス・フ・カ・ケ・ツ・ノ」

分かりやすいスローガンで経営戦略を浸透

樋口氏の真骨頂は石橋氏がそうだったように、経営戦略を分かりやすいスローガンにして会社全体に浸透させることである。大和ハウスグループを100年続く長寿企業群に育て、売上高を10兆円に引き上げるためのスローガンが「ア・ス・フ・カ・ケ・ツ・ノ(明日、不可欠の)」である。
アは「安心・安全」、スは「スピード・ストック」。「フ・カ・ケ・ツ・ノ」は将来の成長分野である「福祉」「環境」「健康」「通信」「農業」の頭文字である。
東京本社には「ア・ス・フ・カ・ケ・ツ・ノ」の成果の一部が展示されている。

「世の中に役立ちたい」創業者の教えと重なり、即決で出資

超高齢社会で必要な福祉・健康分野で活躍しそうなのがロボットである。医療・介護用ロボットスーツを開発している筑波大学発のロボットベンチャー、サイバーダイン(本社・茨城県つくば市)のロボットが展示されている。ロボット開発者でサイバーダインのCEO(最高経営責任者)の山海嘉之氏に樋口氏が会ったのは06年。樋口氏は一回目の面談で同社への10億円の出資を即決した。「何のためにこの事業に取り組んでいるのですか」と山海氏に尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「世の中の役に立ちたいのです」

山海氏のこの言葉が決め手だった。創業者、石橋氏の「世の中の多くの人の役に立ち、喜んでもらう」という教えと重なっていた。
サイバーダインの動作支援ロボットは障害者や高齢者の動作支援や医療・介護従事者の作業支援ロボットとして市場拡大が見込まれている。

世界初の全自動衣類折り畳み機「ランドロイド」を開発したセブンドリーマーズ(本社・東京都)にも出資し、事業化を進めている。人手が足りない医療・介護施設事業での活用も視野に入れた新しい取り組みだ。
樋口氏は「農業はまだ少し先の事業だ」と言うが、すでに植物栽培ユニット「アグリキューブ」を販売し、農業の工業化にも取り組み始めた。農業の工業化の市場は国内市場だけを見ているのではない。

樋口氏は「人口が急増して食料が不足する可能性がある海外での事業展開が最大の課題だ」と言う。
海外での既存事業の展開はもちろんだが、新しい事業でも海外を目指す戦略だ。
創業100年で10兆円という大目標を実現するためには海外事業の強化がなくてはならない。国内の人口減少は歯止めが利かず、市場は縮小していく。「日本だけでは10兆円は難しい。国内で4兆円、海外で6兆円を目指さなければならない」と樋口氏。

海外への展開「150か国への進出が必要」

大和ハウス工業は13年1月に準大手ゼネコンのフジタを約500億円で買収した。なぜ建設会社を買収したのか。フジタは戦前から海外進出を始め、海外事業での経験が豊富だった。フジタを買収したのは、そのノウハウを活かし大和ハウス工業の海外事業の強化という狙いがあった。

大和ハウス工業は現在17カ国30カ所で事業を展開しているが、樋口氏は「150か国ぐらいに進出しなければ目標は達成できない」と見ている。そのためにも既存事業ばかりではなく、環境・エネルギーや医療・介護、農業の工業化といった新規の事業メニューを多く持ち、いろいろな形で海外展開できる経営資源を手に入れようとしているのだ。

こうした新規事業や多角化事業を進めるために積極的なM&Aを進めている大和ハウス工業だが、樋口氏が重視しているのは「共存共栄。ハゲタカのような力ずくの買収や合併はしない。相手をお金で抑え込んでは、相手も喜んではくれません」という点である。
「人の道を外すようなことはするな」という石橋氏の教えを忠実に今でも守っているからだ。

お金の力で抑え込んだM&Aでも、短期的な利益なら確保することはできるだろう。しかし、それでは被買収企業に働く社員は徐々に離反する。100年企業を目指すなら相手企業との関係を良好に保ち、持続的な共存共栄の関係を維持しなければならないのは当然の理である。

石橋氏に経営を学んだ樋口氏のスローガンの一つに「凡事(当たり前のこと)徹底」がある。世の中の人に喜んでもらえる事業に取り組めば、利益は後からついてくるという真っ当な考え方を言わんとした言葉である。そんな愚直な手法で100年企業と10兆円企業群の達成を目指している。

出演者情報

  • 樋口武男
  • 1938年
  • 兵庫県
  • 関西学院大学

企業情報

  • 大和ハウス工業株式会社
  • 公開日 2018.01.20
  • 業種:
  • 建設、設備関連
  • 本社:
  • 大阪府
  • 所在地住所:
  • 大阪府大阪市北区梅田3丁目3番5号
  • 資本金:
  • 1,616億9,920万1,496円
  • 従業員:
  • 15,725名

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