100年企業を目指す 「継承の美学」
株式会社ジャパネットたかた
創業者
高田明
テレビの画面から消えて1年半。こんどは地元、長崎の苦境に陥ったサッカーチームを任された。創業した通販会社を長男に継承し、自らは不振企業を受け継いだ。会社を存続させるための「継承の美学」を聞いた。
ファンの夢をつなぎたい
「ジャパネットたかた」の創業者、髙田明氏はこの春、サッカーJ2「V・ファーレン長崎」の再生に向けて、陣頭指揮を執り始めた。68歳での新たな挑戦である。通販業とは異なる事業の再生を請け負うことに迷いはなかったのだろうか。
「引き受けさせていただいたのは巡りあわせただと思います。望んだわけではありません。県民の地元サッカークラブに存続してほしいという切なる願いや夢をつないでいきたいと思ったのです。佐世保が本拠地のジャパネットたかたは長崎県や県民の方に大変お世話になっています。巡り合わせとは言いましたが、サッカークラブへの支援は必然でもありました」
髙田氏は2015年1月に長男の旭人氏に社長を譲り、ジャパネットの経営からは身を引いていた。サッカークラブの再建のため、ジャパネットのチームに対する持ち株比率を19%から100%に引き上げ、全面的に責任を持つ。ジャパネットにとっても大きな決断だった。
「支援については旭人社長と話し合いながら決めました。持ち株比率が100%になることでサッカークラブの再建が難しくなっては、ジャパネットにも大きな影響が及ぶ。ジャパネットからいい人材をクラブに出したいが、本体の経営もおろそかにするわけにはいかない。社長が『誰にやってもらおうか』と言うので、私がやるしかないと考えたのです」
しっかりクラブを再建しなければ、長男に任せたジャパネットの経営は揺らぐ。自分でできることなら一肌脱ごうと考えるのは髙田氏が言うように「必然」だったろう。
「ジャパネットの拠点は長崎県北部ですが、クラブは県央の諫早にある。さらに県南も含めて長崎全体で盛り上げていきたいと考えています」
30年近くカリスマ経営者として通販会社を引っ張ってきた経験はサッカークラブの経営に生かせるのだろうか。髙田氏は野球のほかテニスやサッカー、フィギュアスケートなどスポーツ観戦は好きだが、これまでスポーツに深くかかわってきたわけではない。
「スポーツは通販事業と異なる業界ですが、私が30年間働いたビジネスの世界とミッションは共通しているのです。スポーツはただ単に強くなるためだけにやっているのではありません。強くなり、ファンに感動してもらい、喜んでもらうのがミッションです。ジャパネットが30年間求めてきたのも、商品の先にある感動をお伝えし、商品を手にしたお客さまに幸せをお届けすることでした。利益はその結果にすぎません。スポーツもビジネスも目指すものは同じなのです」
2016年度に過去最大の赤字に陥ったサッカークラブをどう再生させようとしているのか。
「前のチームにも強くなりたいという夢はあったと思います。確かに夢は必要ですが、目の前の課題を解決するということができていなかったのではないでしょうか。ジャパネットでは年間、一歩、一歩ずつ、その日にしなければならないことをやり続けてきました。残すものは残すし、断捨離もする。決断する時はスピード感をもってやる。チームの再建も同じことだと思います」
引退後も続く挑戦「明はまだ生きている」
サッカーチームのミッションとビジネスのミッションは同じだとしても、サッカーチームの経営は髙田氏にとって未知の世界だ。他のクラブチームの視察や観戦に全国を回る日々だ。取材の翌日は、湘南べルマーレとのアウエー戦の観戦に神奈川県平塚市に向かった。今では月の半分以上が出張となった。
勉強に次ぐ勉強です。そもそもテレビ出演をやめた2016年1月以降、私の生活は大きく変わりました。それまでは番組の収録のために90%はスタジオのある佐世保で働き、佐世保の外に出ることはあまりありませんでした。テレビ出演をやめてからは講演などを引き受け、全国いろんな地方にお邪魔することが多くなりました。その先々で学んでいます」
髙田氏はジャパネットの社長を退いた2015年1月、「A and Live」という会社をつくった。
「Aは髙田明のA。「明はまだ生きている」という意味だと髙田氏は冗談を言う。妻には「あなたが講演?やめた方がいいのでは」と言われながらも、新会社を拠点に全国を講演で回るようになったのだ。
「岡山の井原市に初めて行って、地元産業のデニムに触れて、これはいいと感動しました。日本中にまだ広く知られていない商品を発掘して紹介する『おさんぽジャパネット』で井原のデニムは売れないかと考えたりするようになりました。講演で初めて訪れた土地も数多いです。今では日本地図を見なかが勉強し、楽しんでいます」
ジャパネットの出演を辞めた後も髙田氏は「おさんぽジャパネット」の出演は1、2か月に1度ぐらいは続け、地方の活性化に力を注いでいる。
それに今度はサッカーチームの視察が加わりました。ファンとの交流の在り方、地元自治体との連携、スタジアムの運営方法など参考にさせていただくことはたくさんあります」
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