100年企業を目指す 「継承の美学」


株式会社ジャパネットたかた
創業者
高田明

SOLOMON

テレビの画面から消えて1年半。こんどは地元、長崎の苦境に陥ったサッカーチームを任された。創業した通販会社を長男に継承し、自らは不振企業を受け継いだ。会社を存続させるための「継承の美学」を聞いた。

再建へ 早くも手ごたえ

未知の世界に踏み出した髙田氏だが、少しずつ手ごたえを感じ始めた。

「4月にサッカーチームの社長になり、チームの姿が少しずつ見えてきた。夏までには自分たちが置かれた現状をしっかり把握できると思う」

髙田氏はラジオショッピングを始めるまでは年商3億円足らずだった会社を、およそ30年で1500億円を超えるまでに育てた。いろいろな課題は横たわっていたが、会社を順調に伸ばしてきた成功体験がジャパネットの社員にもあった。

「今回のサッカーチームの経営は企業再生です。年間ずっと成長してきたジャパネットに対し、富士山を逆さまにしたような大きな赤字を抱えた会社の経営は、そもそも置かれた状況が異なります。現在の観客動員数5000人を1万人に、そして2万人へと増やしていきたいですが、社員が下を向いていてはできません」

ESあってこそのCSの向上

「ジャパネットの経営で重視していたのは社員を大切にすることでした。働く社員に満足感がなければ、顧客満足度も高まらないと考えていたからです。社員の満足度、ES(Employee
Satisfaction)を上げることが重要です。サッカーチームの社員も楽しく働いてもらわなくてはなりません。ここでもESが大事です。」

髙田氏は2015年、66歳でジャパネットの社長を退く際に「あと50年生きる」と宣言した。当時、ギネスブックに認定された男性の世界最高齢記録が116歳だったからだ。サッカーチームの再建は容易でもないが、髙田氏の手腕でいずれ果たせるに違いない。それが髙田氏の最後の仕事でもなさそうだ。

「現実は難しいかもしれませんが、ギネス更新にはあと49年は健康に生きていかなければなりません。これからも新しい挑戦をしていきたいと考えています。今の会社の名前はA and Liveです。明はまだ生きている、ですからね」

長年、カリスマ経営者として経営のかじ取りをしてきた髙田明氏は2015年、あっさりと長男旭人氏(当時35歳)に社長の座を譲った。その2年前、2013年には「過去最高益を達成できなければ社長を辞める」と宣言をしていた。エコポイントと地デジ化が終了し、液晶テレビ市場が大きく落ち込んでいたころだ。社内に緊張感を持たせる「背水の陣」だったが、業績は最高益を更新した。本来は社長を譲る必要はなくなった。

社員一丸 目指す100年企業

前倒しで辞める決断

「2013年月期は過去最高益の137億円を上回る154億円を達成しました。社員らの頑張りのおかげでした。私が経営目標を数字で示し、社員のチャレンジ精神を鼓舞したのはその時が初めてでした。それまでのジャパネットは私がリーダーシップを発揮し、経営を進めてきましたが、100年続く企業になるためには社員が一丸となって危機を乗り越える必要がありました。最高益を記録し、私は辞めなくてもよくなったのですが、実はその時、『会社はもう大丈夫』と思い、2年後、つまり2016年には辞めようと決めたのです」

最高益を達成できるめどがついた2013年の年末の「望年会」(ジャパネットの社内では忘年会をこう呼んでいる)で「2年以内に社長を退く」と突然、宣言した。

「旭人にも事前には伝えていませんでした。旭人は驚いたようです。でもそれもしばらくして気が変わりました。2014年4月になって、『2年も待たなくてもいいかなあ。1年早めよう。もう十分、任せられる』と思ったのです。私が75歳や80歳になるまで社長にとどまっているよりも、時代の変化に対応できる会社になれるのではないかと考えました」

髙田氏は淡々とそう話すが、カリスマ経営者と呼ばれた人ほど「自分がいなくなってしまえば会社は立ち行かなくなる」と思いがちではなかろうか。それが引き際を間違えさせる大きな理由の一つである。
「事業継承をする際に『将来の不安』を口にする人が多いですね。もちろん将来の環境は変化します。円高になることもある。景気が悪くなることもある。将来の不安ばかりを考えると、事業継承なんてできませんし、100年企業にもなれません」

「将来の不安」抱えては継承できぬ

今を生き、「自己更新」続ける

高田氏は「将来がどうなるのだろう」と不安にはならないのだろうか。

「現場に立って、目の前のボトルネック(本質的な原因)を見つけて、解決すれば、また新たなボトルネックが見えてくる。それをまた解決すれば全体の問題も解決できると考えています。結果的に全体最適につながります。どうなるか分からない将来や未来を考えて、翻弄され、不安になるのではなく、『今を生きる』ことを一生懸命やれば成功に導かれるのです。常に『自己更新』を続けよ、ということなのです」

目の前の課題解決を疎かにして、「将来の不安」ばかりに気を取られていては、会社は進化もできず、生き続けることはできないということだろう。髙田さんはエリヤフ・ゴールドラットの『ザ・ゴール』を読み、今を一生懸命生きることの大切さを再確認したと近著『伝えることから始めよう』で書いている。
旭人氏に社長の座をゆずり、2年余りがたった。現状をどうみているのか。

「よくやっていると思います。旭人社長からは最初にこう言われました。『お父さんからアドバイスはしないでくれ。もしもアドバイスを求めて来た者がいればアドバイスしてほしい』。旭人からは相談はしてこないですが、テレビ番組の制作についてはアドバイスをしています。他の仕事にはなにも関わっていません。私が社長のころは会議では私がしゃべるばかりであまり発言もありませんでした。それでは会社がダメになったでしょうが、いまではみんなが発言し、議論をしているようです」

「私は他人に教えるのは難しい感性で経営をやってきたと思います。誰でも仕事ができるように仕組みを作ることは不得意でした。課題の解決方法を『仕組み化』することができていませんでした。ところが旭人は会社の仕組みをつくったり、教育制度や評価制度をつくったりすることに長けています」

カリスマ性のある創業者は会社が創業期だからこその役割がある。会社が次のステージに移れば、その環境変化に適した経営者の役割は自ずと変化する。髙田氏が驚くような変化が起きているという。
2015年7月、社員研修旅行のロサンゼルスから帰国したら、佐世保の本社内のオフィス家具がすべて新しくなっていた。パソコンもノートタイプとなり、席はどこに座ってもいいフリーアドレスになっていた。

新しい発想で仕組みづくりの新社長

「使えるものもたくさんありましたから、もったいないという思いがありました。社員の働きやすさを考えて断捨離し、設備を大胆に変えることは私たちのような団塊の世代にはできません。休暇制度も変わりました。最大9連休の取得を奨励し、長期休暇を取れるように変えています。そんなに休まれたら仕事が回らなくなると、私なら考えましたが、新社長は社員を生き生きと働きやすくするために決断したようです。いずれも相談はありません。すべて任せた、と言ってますからね」

事業会社を束ねるホールディングスの機能も様変わりした。髙田氏の社長のころは「名目だけという感じ」だったが、いまでは社員90人ほどがいる戦略部隊になった。

「驚いたのは、傘下にある『ジャパネットサービスパートナーズ』です。主婦のパートが多いので、託児所やタニタ食堂が入っている。そしてここで修理もしているのです。私が社長のころもお客様からの修理依頼に迅速に対応する仕組みは作りましたが、自分たちで修理までするという発想はありませんでした。アフターケアまで手掛けて、お客様の不安や不満を解消できるようにする仕組みづくりでした。私たちの世代ではできない新しい発想で経営を進めてくれています」

髙田氏は経営者にとって大事なことは、ミッション、パッション、アクションだと考えている。ミッションは変えてはいけない。パッションは失ってはいけない。しかしアクションは時代によって変えてもいいものだ。ジャパネットでは毎年、新年に心構えを決めて、書道家に書いてもらう。去最高益を目標にした2013年は「覚悟」、社長最後の年の2014年は「不易流行」。松尾芭蕉の言葉だった。「不易は絶対に変えてはいけないミッション。流行は時代に応じて変えていくものです。アクションはどんどん変えてもいい。そんな思いでした」2015年、社長を引き継いだ旭人氏は何を選んだのか。「不易流行」だった。

「『明社長と同じ気持ちを引き継ぐために、昨年と同じ言葉を選びました』と言ってくれました。『不易流行2』です。うれしかったです。2016年は『集団天才』。みんながプロフェッショナルとして働こうという意味です。旭人社長も毎年、考えてくれているようです」

ジャパネットの企業理念、精神は旭人氏や社員にきっちり受け継がれている。これからのシジャパネットたかたにも注目していきたい。

出演者情報

  • 高田明
  • 1948年
  • 長崎県
  • 大阪経済大学

企業情報

  • 株式会社ジャパネットたかた
  • 公開日 2017.07.15
  • 会社名:
  • 株式会社ジャパネットたかた
  • 業種:
  • 通販・ネット販売・放送・広告・商社
  • 本社:
  • 長崎県
  • 所在地住所:
  • 長崎県佐世保市日宇町
  • 資本金:
  • 3億円
  • 従業員:
  • 229人(パート・アルバイト含む)※2016年12月末日時点

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